フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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30話 特級モン…ゲットだぜ!

「海だぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 絵に描いたような美しい海に、こゆびんこと柱間はテンションが爆上がりしていた。もう一人の自分がたどった軌跡を調べていたが、それに疲れて暫しの休息を挟んだのである。

 

 海と言えばやはり沖縄。白い砂浜とエメラルドグリーンの幻想を胸にかき抱いて、彼らの長旅は始まった。

 

 本体が木である柱間が実際に泳ぐには、その木ごと移動させなければならない。

 

 陸を移動し、作った(いかだ)で海を渡った。遭難して別の国に流れ着いてしまうハプニングもありつつ、何とか目的地にたどり着いた。到着するまでに、数年では話にならない時間が経過している。

 

(わざわざこの地にまで来た理由が、これだったのか…)

 

 花御は奥に向かうほど濃い群青色へと変化するあざやかな景色に、ついと魅入った。

 

 水は底がはっきりと見え、水面に浮かび上がる水光がこれまた美しい。呪霊の身ではあれど、触れようと思えば物質に干渉することはできる。

 

【綺麗、ですね】

 

「人生で一度は来てみたかったんだ。遭難して、塩づけになってた甲斐があったってもんだ」

 

 素人な腕前で作った筏の性能は言うまでもない。早々に波に呑まれ、柱間本人が漂流する巨木となった。船の知識や航海の方法、その他諸々の知識が足りていなかった。

 

 自分の計画性の無さに賢者モードとなり、オレも所詮阿呆の子なのだ──と、しばらくそのまま現実逃避をしていた。

 

 その間に別の国に流れ着き、船の材料として加工されそうになったところで、ようやく我に返った。このあとも一悶着あり、「精霊」だなんだと大騒ぎになったが、その詳細は省くとする。

 

 

「よっしゃあ! 早速泳ぐぜぇ!!」

 

 フルフルニィの姿ではなく、柱間本人の姿となった彼は、服を脱ぎ捨てて海に飛び込んだ。そのままひとしきり泳ぐ。そこで渾身の芸を思いつき、花御に披露した。

 

「花御、花御ィー」

 

【?】

 

 桃の形をした木が、花御の方に流れてくる。その中から割るようにと言われた花御は、手刀を落とした。

 

「桃から生まれたオレ、参上ッ!」

 

【それはアナタにとって楽しい遊戯なのですか?】

 

「……ウン」

 

 花御にはウケなかったようだ。柱間はそのまま手足の力を抜いて、水死体のようになり、海の中を漂って行った。

 

【自然とは、やはり美しい…】

 

 自然が織りなす目も眩むような光景。この海の景色はその自然がかもし出す尊さの一つに過ぎない。世界にはまだ花御が見たこともないような、素晴らしい景色があるのだろう。

 

 そう考えると、彼女の心は高揚感に包まれる。同時に、その自然を害す人間たちに憎悪を募らせていく。

 

 花御の耳に届く自然の悲鳴は、時間が経つほど少しずつ大きくなっていく。

 

【人間はこの星を蝕む病気だ……】

 

 花御自身が動く時では、()()()()。だがいつかは花御が動くべき時が来る。その時が訪れないことを、願わくば望みたかった。

 

 

【……ン?】

 

 花御の視界からその時、柱間の姿が消えた。柱間はそのまま数分ほど浮き上がってこず、浮上した際に手に何かを持っていた。「獲ったどー!!」と大声で叫んでいる。

 

「タコだよ、タコ! 焼いて食おうぜ!!」

 

 柱間は呪霊をおもなエネルギー源としているが、食べようと思えば人間の食べ物も食べられる。ただし、味はあまりわからないそうだ。

 

【……これは、呪霊では?】

 

「ん? あぁ、確かに呪力の気配が……じゃあタコのおどり食いに変更だ」

 

 懐かしきたこ焼きパーリィーは1000年後に持ち越すとしよう。柱間は暴れるたこを口に持っていった瞬間、タコの抵抗に遭った。顔面に触手がへばりつく。

 

『ぶぅー! ぶふぅー!!』

 

【食べられたくないようですね】

 

「……! ………!!」

 

「息が、息ができねぇ…!!」と焦る柱間。しかしすぐに、呼吸は生命維持に必要なかったと思い出した。ため息を吐いた花御がタコを引っ張り、ベリベリィと柱間の顔面の皮を巻き込みながら取ることに成功する。

 

「オレの樹皮がァァ──ッ!!」

 

【ああ、申し訳ありません】

 

『ぶぶぶ! ぶー…!!』

 

 タコは花御に助けを求めるように抱きつく。タコのような見た目に対し、顔の部分にある大きな黒い二つの目には愛嬌がある。それに相まって、「ぶー」というこれまた可愛らしい声だ。花御の中で擁護欲に似た感情がくすぐられた。

 

【……食べるのはよしませんか?】

 

「えー…まあ、花御がソー言うなら」

 

『ぶぶー!!』

 

 こうして花御に危ういところを助けられたタコのような呪霊は、二人の旅に同行することになった。名前については花御に『陀艮』と名づけられた。

 

 移動する場合はミニサイズの花御の上に、陀艮が「わたしはぼうしだよ」と言わんばかりに乗りかかる。触手に巻き込まれる花御を見た柱間は叫んだ。

 

 

「やめろ!! 特殊なプレイみたいだろッ!!!」

 

 

 結果として柱間の左右の肩にそれぞれ乗ることになった。陀艮が一度自分を食おうとしたこの男になつくまでには、かなりの時間を要することになる。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 柱間はもう一人の自分の方の『柱間』についてあらかた調べた。その後、自由を謳歌する旅の続きをすることになった。

 

 数十年と時間が経つにつれ、陀艮は成長していった。今では腕に抱えるほどのサイズになっている。まだ柱間へのなつき度合いは薄い。やはり嬉々として食おうとしたのがまずかったのだろう。

 

『ぶぶ、ぶふう』

 

【お腹が空いたのですか】

 

 陀艮は呪霊らしく人間を食べたがる。柱間は陀艮が人間を捕食することを、暗黙のうちに見逃している。

 

 人間とて他のいのちを食らって生きている。ならばその人間から生まれた呪霊もまた、いのちを食らう権利はある。食って、食われて。そうして世界は廻っている。

 

『ぶーぶう』

 

【フフ、陀艮は可愛らしいですね】

 

 口元が真っ赤になった陀艮をあやす花御は、母親のようだ。

「ってことは、オレがパパか…」などと妄想に耽る柱間である。

 

「そろそろ山に行ってみてぇな。火山遊泳(マグマダイブ)……憧れるね」

 

【死ぬ気ですか…?】

 

「流石に本体で飛び込むつもりはねぇよ。呪霊(仮)ボディーで飛び込むさ」

 

 

 

 マグマダイブに最適な山を吟味することまた暫し。

 

 柱間のイメージにあった、マグマ溜まりがボコボコと音を立てているような場所は中々見つからない。

 

 その代わりに雨水が溜まり、湯釜になっている火口は見つけた。水蒸気と有毒なガスが立ち込めるその場所で、柱間は人間の本能に従った。いい湯だなっ、である。

 

「やっぱ温泉は生身にかぎるな…」

 

『ぶぶぶー』

 

 海とは違うアッツアツの水を陀艮も気に入ったようだ。すいすいと泳いで、煙の中に消えていく。

 

 柱間は花御がいる方を見た。彼女もまた熱湯風呂の中に入っている。これはとどのつまり、混浴ということではなかろうか? なんだかセクシーなBGMも頭の中に流れてくる気がした。

 

 肝心のその花御の姿は、尋常ではない水蒸気のせいでまったく見えない。

 

「………」

 

 邪な気持ちがよぎった柱間は、内なる己と格闘した。時間にして数分だったかもしれない。最終的には邪な心が勝ってしまった。

 

 柱間はそろっと花御の方へ近づく。のぞき見である。そもそも彼女は、常日ごろ上半身は何も身にまとっていないスタイルだ。今のぞいたところで何の変化もない。彼はやはり阿呆者かもしれなかった。

 

「は〜なみ!」

 

 白煙の中で花御がいる場所に手を伸ばした柱間は、後ろから「だーれだ」をやろうとした。

 

 ただ、そこで彼は思い出した。花御の目から木の枝が生えていることを。

 

「だーれだ」をやったら、自分の両手が樹液まみれになる。まあ、それはそれでいいか、と続行することにした。その瞬間である。

 

 

『誰だァ!! 儂の湯釜に勝手に入っとる奴はァァ!!!」

 

 

 大きな爆発があたり一面の水蒸気を一気に吹き飛ばした。三人の視線が仁王立ちする者へ向けられる。一つ目の呪霊だった。しかもその気配から、花御に並ぶ力を持つと分かる。陀艮は思わず花御の後ろに隠れた。

 

「温泉はみんなの温泉なんだよ。勝手に所有物にするなら証拠の書類を見せろ」

 

『何を訳の分からんことを言っておる!! 人間風情がッ!!』

 

 実際に人間が入ったら即dead…となる事実に、まだ一つ目の呪霊は気づいていない。花御はとりあえず陀艮を守れる位置につく。

 

「オレはわずかに人間だが、ほぼ人間じゃねぇ!」

 

『どこからどう見ても人間だろうが!!』

 

 あわや戦いもやむなし、な緊張感が走る。花御と陀艮へ視線を向けた柱間は、ため息をつき湯釜から上がった。

 

「まずは名を名乗ろう。オレはこゆびんこと、柱間だ。名を呼ぶときはどちらでも構わない」

 

『………フンッ、最低限の礼儀はなっておるようだな。それに免じて、名くらいは名乗ってやろう。儂は『漏瑚』だ、こゆびん』

 

「お前もそっちを選ぶのか……」

 

 

 人の姿を成していたそれが、瞬く間に変化し巨大な樹木へと変わる。唐突にこの地に根を張った大樹に漏瑚の思考が止まった。さらにそこから、先ほどの人間が出てくる。いや──人間ではない。

 

『どっ…………どういうことだあああっ!!!!!』

 

『うわっ! 驚きながらキレんじゃねぇよ!!』

 

 漏瑚の頭から噴火したマグマが周囲に噴き散る。柱間は木を操り、花御と陀艮を降りかかる礫から守った。相手が炎系の呪霊なら、花御とはまず相性が悪い。見るところによると、人間の山の畏れから生まれた呪霊のようである。

 

『要素的にはお前らにかぎりなく近い、人間が植物に進化したのがこのオレだ』

 

『…………貴様、本気で何を言っている』

 

 柱間細胞ミステリーに、この日新たに迷い込んでしまった者がいた。

 

 

 その名は漏瑚。彼はただ、日課の湯釜に浸かりにきただけだったのに。




*話の展開上、前話では霊圧を消していた陀艮。
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