フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
漏瑚がオレの新しい友だちになった。
花御と続いて、二人目の友人である。陀艮はオレのご主人サマ…というのはまあ冗談として、子どもに近い感覚だ。すくすく育つ陀艮はオレの腰に迫る大きさになった。
花御へのこの想いは、未だに本人に打ち明けられないままだった。漏瑚にはすぐに「貴様まさか…」と気づかれてしまった。オレってそんなに分かりやすく顔に出ていたんだろうか?
しかし気づかれてしまったなら、仕方あるまい。オレは漏瑚に恋の相談をした。
『言っておいてなんだが、呪霊に想いを寄せるとは頭のネジが外れておるぞ』
そもそも儂らに性別はあってないようなものだ、とも言われる。漏瑚は男じゃないんか?
『そもそもお前は花御が女に見えているのか?』
「『母なる大地』と書いて、「ハナミ」と読む」
『答えになっとらんわァ!』
「母ってことは、女ってことでしょーがッ!!」
──っま、人間と違って時間はたっぷりとあるんだ。焦らずにこの想いは煮詰めて行くさ。
もしいきなり告白して、花御に「申し訳ありません」と断られてしまったら、枯れてしまう自信がある。
下手したら、今の友人関係も崩壊する。そう考えると、余計にこの想いを告げるのが怖くなるな…。
それから、漏瑚を巻き込んでの放浪が始まった。
もちろん漏瑚クンにも花御のように小さくなってもらう。(陀艮も小さくなる術を会得している)
『儂に小さくなれだと?』
「できないなら漏瑚の首を切ってそれを持ち運ぶよ」
『儂を置いて行くという選択肢はないのか、貴様ァ…!!』
いや、旅は道連れ世は情け…って言うじゃん。せっかくなら、友達と一緒に回った方が楽しいに決まっている。だからそのためにも、小さくなれないなら、首から下を道連れにしてもらうしかないということだ。
『見ていろ…。肉体を小さくすることくらい、朝飯前だ』
漏瑚はそう言い、少し格闘してから本当に小さくなって見せた。比較的若い呪霊ではあるが、漏瑚は戦いのセンスと自分の力を伸ばす才能がある。領域展開の習得速度が、花御よりも格段に早い。
「若いっていいなぁ」
思わずそう呟くと、漏瑚にツッコまれた。そうだね、オレは実際の姿だと永遠の12歳だからね。
……少年だから、
◆◆◆
気づけば
世の中が物騒だろうが、平和だろうが、柱間と呪霊御一行の旅はあまり変わらない。争いが起こると、「呪いがまた強まっているな…」という印象を受ける。そして同時に、各々が人間に対しての憎悪を深めてもいる。
花御は自然の叫びを聞く中で、人間の不要性の考えを強めている。
漏瑚もまた人間を抹殺し、呪霊がこの世に君臨する世界を望んでいる。
『貴様は人間が嫌いだというにも関わらず、なぜ人間を殺そうとしないのだ?』
漏瑚がそう、問うた。
「オレの──というか、大元であるオレの理念が、「人間を殺す」の思想からかけ離れているからだよ」
『そのようなもの、無視すればいいだけの話だろう』
「オレはね、漏瑚。ヤツと違って、自分をいの一番に愛すると決めているのさ。そしてオレを愛するということは、向こうのオレも愛するってことになるんだよ」
柱間は向こうの己が自分を愛せないからこそ、「オレはオレを愛してやる」と誓った。
それが切り離されてしまった魂である、自分の使命であり、存在意義だと思った。
「でも………もしかしたら、オレを切り離した向こうの自分に、見せつけてやりたい気持ちもあるのかもしれない。オレにも、オレ自身の考えがすべて分かっているわけじゃない」
柱間はもしかしたら、自分を切り離したもう一人の自分に、復讐したいのかもしれなかった。
自分だけ清廉であり続けようとする自分を、憎く思っているのかもしれない。
「自己を愛せたオレは、こんなにも幸せになりましたよ……ってさ。ヤツに、面と向かって言いたいのかもしれねぇ」
実際に自分を愛せているかは、柱間にも分からなかった。
「まあ、もし次にヤツに会えたら、こう自慢してやるつもりさ。
────オレは友達が二人もできたんだぜ、ってな!」
笑顔を浮かべた柱間に、漏瑚は目を細めてから顔を逸らし、フンと鼻を鳴らした。
この中で一番年寄りなはずの男が、一番子どものようだった。
◆◆◆
柱間はまた、自分の魂が現れたのを感じとった。
平安の時の出現から、また数百年単位で時間が経っていた。場所は日本のようである。
『タイミングがわりぃなぁ……』
柱間は日本観光をあらかた終え、世界に進出していた。正確に言うと、進出したばかりだった。言語の壁と異邦人の見た目から、まあすぐに殺されそうになる。仕方なく彼は本体の木を移動させつつ、呪霊(仮)姿で観光に勤しんだ。
『もうちっとここらを巡りたかったけど、戻ろうか』
しかして柱間の移動には、本体の移動が常に付きまとう。それもあり、移動のせいで思わぬハプニングに巻き込まれ、大幅なタイムロスを食らうことが多い。
「陀艮、頼んだぜ」
『ぶぶ!』
流石に陀艮も、柱間に懐くようになっていた。漏瑚に先を越されたのはさておき。
人が海を恐れる感情から生まれた陀艮は、水の中でこそその本領を発揮する。柱間たちの乗った船が陀艮の操る波により、瞬く間に沖を離れていく。
『ぶ、ぶぶっ!』
陀艮は海に浸かりながら、船の周囲を楽しげに泳いでいた。
────キュウーウ
「ハハッ、陀艮のやつめ。楽しそうな声を出してるな」
【今聞こえたものは、陀艮の声ではありません】
『おい、水面が揺れておるぞ』
────キュウウウァァウウ
「………」
柱間の笑顔が固まった。次の瞬間、大声で陀艮に
「陀艮、アイルビーバァァァクッッ!!!」
『ぶぶ?』
その直後、陀艮は水中から現れたくじらの口の中に消えていった。呪霊であるため消化はされないはずだが、一行を混乱させるには十分な事件だった。
柱間は飛び込もうとする花御を止め、「オレが行く」と準備運動を始める。
そんな彼に「阿呆か! さっさと行けッ!!」と、漏瑚が蹴り出した。
くじらの追跡&陀艮の救出と、そこからの遭難。一行の旅はまだまだ長引くことになる。
◆◆◆
魂の気配はとある村の近くにあった。柱間は自分の両腕を木にし、ダウジングセンサーのように動かす。
「……ここだ」
【ここは…】
「正確には、この下だ」
柱間のいる下は地面だった。木が土の中に根を張っていき、その魂を残すものを拾い上げた。ボコボコと盛り上がった土の中に現れたのは、白骨化した子どもの遺体だった。
陀艮の「ぶーぶ」という声を除き、辺りがしんと静まり返った。なぜこの場所に子どもの遺体が埋まっているのか。花御や漏瑚はすでに大よその検討がついている。それが正しいか否かは、柱間がその魂の破片と肉体を取り込めばわかる。
「肉体の情報は白骨化してるから、完全に読み取れるかはわかんねぇな…」
柱間は「整理が付くまで待っててくれ」と言い残し、大樹に変化した。木の枝が遺体を掴み、幹まで運んで内部に取り込んでいく。
『木が人間を食っておる…』
思わずそう呟いたのは漏瑚だった。
それから時間が流れ、魂の融和が終わった柱間が木の中から出てきた。
これまで12歳ほどだった年齢が、ちょうど少年と青年の狭間な姿へと変わった。声もまた変化している。
『…ゲッ、漏瑚を追い抜かせるかと思ったら、ほぼ
相変わらず花御とは圧倒的な差があった。まあこの身長の差は、一生追いつけないものだと割り切っている。
【それで、肝心の記憶の方はどうだったのですか?】
『ご想像のとおり、人身御供だったっぽいわ』
柱間だけに、人
『人身御供は古来からもある習慣だ。日本だけじゃなく、他の国にも史実として残されている』
生贄が行われる理由は様々ある。建物が無事に完成するのを祈るためだったり、自然災害が神様のお叱りだとして、それを鎮めるために捧げたり──。
『このオレの場合、人柱に
若い働き手を捧げるわけにもいかず、かといって、年寄りを捧げて果たして神は満足なさるのだろうか。
その末に神が喜びそうなうんと若い者で、人柱に捧げても問題のない者が選ばれた。
(呪霊が視えるからと、お前はとうとう親のルーレットも外れるようになっちまったか)
親に嬉々として差し出されてしまった神の供物。
少年は手足を縛られ、生き埋めにされた。
そうして、死に絶えた。
『お前、
柱間の激情に同調するように、その姿がボコボコと異質な音を立てて変化する。それに呪霊の二人は目を見開いた。彼らは明確に、“その気配”を感じ取った。
『無意識だったとしても、誰も呪い殺さないために、お優しいままでいるために、また……切り、離したのかよ……』
膝をつき、地面に額をつけた柱間。そんな彼を慰めるように、陀艮がすり寄った。
『ぶ、ぶふー』
『……あンがと、陀艮』
冷静さを取り戻した柱間は、「悪い、取り乱した」と言って花御と漏瑚に謝った。その姿は元の人間の姿へと戻っている。
『ああ、全く。さらに人間を嫌いになっちまったじゃねぇか…』
『憎悪し、憎み、嫌えばよかろう』
『これ以上嫌いになっても、オレが疲れるだけだろ。勝手に嫌って、勝手に感情の渦に呑まれて』
『さすればお前は、
『……そうかもな』
『────柱間よ』
漏瑚は普段の様子と一変して、真剣な表情で柱間を見つめていた。
『儂らの先導者になってはくれまいか』
人間を排除し、呪霊の世をこの世に創る。それが漏瑚だけでなく、花御の本懐にもつながる。
この「先導者」の件を、柱間と旅をする傍らで漏瑚は考え続けていた。この強者である男が、自分たちを導いてくれたらどんなに良いだろうか──と。柱間本人にその自覚があるかは分からないが、他者を先導する素質も十分に持っている。さらに人に……いや、この場合、呪霊に好かれやすい性格をしている。
『貴様は上に立つべき存在だ』
『やめろよ。オレはそんな器じゃないし、遊び耽ってる方が性に合ってる』
『儂の──友の頼みでもか』
『ここで、その「友」ってワードを出すな。その使い方はずるいぞ』
『ハッ! 忘れたか? 呪霊とはそもそも、
『……それでも、オレは向こうの
『くだらん…それは、貴様の意思ではないだろう! もう一人の己に縛られておるだけではないかッ!!』
『…何度も言うが、オレは自己を愛するって決めたんだ』
柱間は同時に、陀艮や漏瑚のことを大切に思っている。自己を愛するのと、近しいくらいには。
そして花御のことは──自分を愛するように、彼女のことを愛している。
『だからこそもう一人のオレを、オレは大切にする。オレが自分勝手に人を殺すようになるのは、向こうが心の底から人間を「クソ」だと思った時だ。人間なんぞ消えて然るべき種だと、見放した時だ』
『その言葉を、貴様はいつまで吐き続けられるのだろうな』
漏瑚が目にした、明確な柱間の変化。
さらに柱間が魂のカケラを取り込めば、彼のうちに渦巻く人間への憎悪が、呪霊へとより近づける。
そうして