フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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32話 『柱』間だけに

 漏瑚がオレの新しい友だちになった。

 

 花御と続いて、二人目の友人である。陀艮はオレのご主人サマ…というのはまあ冗談として、子どもに近い感覚だ。すくすく育つ陀艮はオレの腰に迫る大きさになった。

 

 花御へのこの想いは、未だに本人に打ち明けられないままだった。漏瑚にはすぐに「貴様まさか…」と気づかれてしまった。オレってそんなに分かりやすく顔に出ていたんだろうか?

 

 しかし気づかれてしまったなら、仕方あるまい。オレは漏瑚に恋の相談をした。

 

『言っておいてなんだが、呪霊に想いを寄せるとは頭のネジが外れておるぞ』

 

 そもそも儂らに性別はあってないようなものだ、とも言われる。漏瑚は男じゃないんか?

 

『そもそもお前は花御が女に見えているのか?』

 

「『母なる大地』と書いて、「ハナミ」と読む」

 

『答えになっとらんわァ!』

 

「母ってことは、女ってことでしょーがッ!!」

 

 ──っま、人間と違って時間はたっぷりとあるんだ。焦らずにこの想いは煮詰めて行くさ。

 

 もしいきなり告白して、花御に「申し訳ありません」と断られてしまったら、枯れてしまう自信がある。

 

 下手したら、今の友人関係も崩壊する。そう考えると、余計にこの想いを告げるのが怖くなるな…。

 

 

 

 それから、漏瑚を巻き込んでの放浪が始まった。

 

 もちろん漏瑚クンにも花御のように小さくなってもらう。(陀艮も小さくなる術を会得している)

 

『儂に小さくなれだと?』

 

「できないなら漏瑚の首を切ってそれを持ち運ぶよ」

 

『儂を置いて行くという選択肢はないのか、貴様ァ…!!』

 

 いや、旅は道連れ世は情け…って言うじゃん。せっかくなら、友達と一緒に回った方が楽しいに決まっている。だからそのためにも、小さくなれないなら、首から下を道連れにしてもらうしかないということだ。

 

『見ていろ…。肉体を小さくすることくらい、朝飯前だ』

 

 漏瑚はそう言い、少し格闘してから本当に小さくなって見せた。比較的若い呪霊ではあるが、漏瑚は戦いのセンスと自分の力を伸ばす才能がある。領域展開の習得速度が、花御よりも格段に早い。

 

「若いっていいなぁ」

 

 思わずそう呟くと、漏瑚にツッコまれた。そうだね、オレは実際の姿だと永遠の12歳だからね。

 

 ……少年だから、花御(お姉さん)に想いを寄せちまうのかな…。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 気づけば鎌倉(鳩サブレー)の時代になっていた。

 

 世の中が物騒だろうが、平和だろうが、柱間と呪霊御一行の旅はあまり変わらない。争いが起こると、「呪いがまた強まっているな…」という印象を受ける。そして同時に、各々が人間に対しての憎悪を深めてもいる。

 

 花御は自然の叫びを聞く中で、人間の不要性の考えを強めている。

 

 漏瑚もまた人間を抹殺し、呪霊がこの世に君臨する世界を望んでいる。

 

 

『貴様は人間が嫌いだというにも関わらず、なぜ人間を殺そうとしないのだ?』

 

 漏瑚がそう、問うた。

 

「オレの──というか、大元であるオレの理念が、「人間を殺す」の思想からかけ離れているからだよ」

 

『そのようなもの、無視すればいいだけの話だろう』

 

「オレはね、漏瑚。ヤツと違って、自分をいの一番に愛すると決めているのさ。そしてオレを愛するということは、向こうのオレも愛するってことになるんだよ」

 

 柱間は向こうの己が自分を愛せないからこそ、「オレはオレを愛してやる」と誓った。

 それが切り離されてしまった魂である、自分の使命であり、存在意義だと思った。

 

「でも………もしかしたら、オレを切り離した向こうの自分に、見せつけてやりたい気持ちもあるのかもしれない。オレにも、オレ自身の考えがすべて分かっているわけじゃない」

 

 柱間はもしかしたら、自分を切り離したもう一人の自分に、復讐したいのかもしれなかった。

 自分だけ清廉であり続けようとする自分を、憎く思っているのかもしれない。

 

「自己を愛せたオレは、こんなにも幸せになりましたよ……ってさ。ヤツに、面と向かって言いたいのかもしれねぇ」

 

 実際に自分を愛せているかは、柱間にも分からなかった。

 

 

「まあ、もし次にヤツに会えたら、こう自慢してやるつもりさ。

 

 ────オレは友達が二人もできたんだぜ、ってな!」

 

 

 笑顔を浮かべた柱間に、漏瑚は目を細めてから顔を逸らし、フンと鼻を鳴らした。

 

 この中で一番年寄りなはずの男が、一番子どものようだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 柱間はまた、自分の魂が現れたのを感じとった。

 平安の時の出現から、また数百年単位で時間が経っていた。場所は日本のようである。

 

『タイミングがわりぃなぁ……』

 

 柱間は日本観光をあらかた終え、世界に進出していた。正確に言うと、進出したばかりだった。言語の壁と異邦人の見た目から、まあすぐに殺されそうになる。仕方なく彼は本体の木を移動させつつ、呪霊(仮)姿で観光に勤しんだ。

 

『もうちっとここらを巡りたかったけど、戻ろうか』

 

 しかして柱間の移動には、本体の移動が常に付きまとう。それもあり、移動のせいで思わぬハプニングに巻き込まれ、大幅なタイムロスを食らうことが多い。

 

「陀艮、頼んだぜ」

 

『ぶぶ!』

 

 流石に陀艮も、柱間に懐くようになっていた。漏瑚に先を越されたのはさておき。

 

 人が海を恐れる感情から生まれた陀艮は、水の中でこそその本領を発揮する。柱間たちの乗った船が陀艮の操る波により、瞬く間に沖を離れていく。

 

『ぶ、ぶぶっ!』

 

 陀艮は海に浸かりながら、船の周囲を楽しげに泳いでいた。

 

 ────キュウーウ

 

「ハハッ、陀艮のやつめ。楽しそうな声を出してるな」

 

【今聞こえたものは、陀艮の声ではありません】

 

『おい、水面が揺れておるぞ』

 

 ────キュウウウァァウウ

 

「………」

 

 柱間の笑顔が固まった。次の瞬間、大声で陀艮に戻ってこい(カムバック)と叫ぼうとした。

 

 

「陀艮、アイルビーバァァァクッッ!!!」

 

『ぶぶ?』

 

 

 その直後、陀艮は水中から現れたくじらの口の中に消えていった。呪霊であるため消化はされないはずだが、一行を混乱させるには十分な事件だった。

 

 柱間は飛び込もうとする花御を止め、「オレが行く」と準備運動を始める。

 そんな彼に「阿呆か! さっさと行けッ!!」と、漏瑚が蹴り出した。

 

 くじらの追跡&陀艮の救出と、そこからの遭難。一行の旅はまだまだ長引くことになる。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 魂の気配はとある村の近くにあった。柱間は自分の両腕を木にし、ダウジングセンサーのように動かす。

 

「……ここだ」

 

【ここは…】

 

「正確には、この下だ」

 

 柱間のいる下は地面だった。木が土の中に根を張っていき、その魂を残すものを拾い上げた。ボコボコと盛り上がった土の中に現れたのは、白骨化した子どもの遺体だった。

 

 陀艮の「ぶーぶ」という声を除き、辺りがしんと静まり返った。なぜこの場所に子どもの遺体が埋まっているのか。花御や漏瑚はすでに大よその検討がついている。それが正しいか否かは、柱間がその魂の破片と肉体を取り込めばわかる。

 

「肉体の情報は白骨化してるから、完全に読み取れるかはわかんねぇな…」

 

 柱間は「整理が付くまで待っててくれ」と言い残し、大樹に変化した。木の枝が遺体を掴み、幹まで運んで内部に取り込んでいく。

 

『木が人間を食っておる…』

 

 思わずそう呟いたのは漏瑚だった。

 

 

 

 それから時間が流れ、魂の融和が終わった柱間が木の中から出てきた。

 

 これまで12歳ほどだった年齢が、ちょうど少年と青年の狭間な姿へと変わった。声もまた変化している。

 

『…ゲッ、漏瑚を追い抜かせるかと思ったら、ほぼ同じ(タメ)かよ』

 

 相変わらず花御とは圧倒的な差があった。まあこの身長の差は、一生追いつけないものだと割り切っている。

 

【それで、肝心の記憶の方はどうだったのですか?】

 

『ご想像のとおり、人身御供だったっぽいわ』

 

 柱間だけに、人()ってことか────と、冗談を吐く柱間の目はしかし、一切笑っていない。周囲の空気が冷えるような錯覚を、漏瑚や花御は感じている。

 

『人身御供は古来からもある習慣だ。日本だけじゃなく、他の国にも史実として残されている』

 

 生贄が行われる理由は様々ある。建物が無事に完成するのを祈るためだったり、自然災害が神様のお叱りだとして、それを鎮めるために捧げたり──。

 

『このオレの場合、人柱に()()()()()みてぇだ』

 

 若い働き手を捧げるわけにもいかず、かといって、年寄りを捧げて果たして神は満足なさるのだろうか。

 その末に神が喜びそうなうんと若い者で、人柱に捧げても問題のない者が選ばれた。

 

(呪霊が視えるからと、お前はとうとう親のルーレットも外れるようになっちまったか)

 

 親に嬉々として差し出されてしまった神の供物。

 少年は手足を縛られ、生き埋めにされた。

 そうして、死に絶えた。

 

 

『お前、()()()()()()のか。こんな、何の意味もない殺され方をして、親も村人も、誰も呪わなかったのかよ……!!』

 

 

 柱間の激情に同調するように、その姿がボコボコと異質な音を立てて変化する。それに呪霊の二人は目を見開いた。彼らは明確に、“その気配”を感じ取った。

 

『無意識だったとしても、誰も呪い殺さないために、お優しいままでいるために、また……切り、離したのかよ……』

 

 膝をつき、地面に額をつけた柱間。そんな彼を慰めるように、陀艮がすり寄った。

 

『ぶ、ぶふー』

 

『……あンがと、陀艮』

 

 冷静さを取り戻した柱間は、「悪い、取り乱した」と言って花御と漏瑚に謝った。その姿は元の人間の姿へと戻っている。

 

『ああ、全く。さらに人間を嫌いになっちまったじゃねぇか…』

 

『憎悪し、憎み、嫌えばよかろう』

 

『これ以上嫌いになっても、オレが疲れるだけだろ。勝手に嫌って、勝手に感情の渦に呑まれて』

 

『さすればお前は、呪霊(こちら)に近づく』

 

『……そうかもな』

 

『────柱間よ』

 

 漏瑚は普段の様子と一変して、真剣な表情で柱間を見つめていた。

 

 

『儂らの先導者になってはくれまいか』

 

 

 人間を排除し、呪霊の世をこの世に創る。それが漏瑚だけでなく、花御の本懐にもつながる。

 

 この「先導者」の件を、柱間と旅をする傍らで漏瑚は考え続けていた。この強者である男が、自分たちを導いてくれたらどんなに良いだろうか──と。柱間本人にその自覚があるかは分からないが、他者を先導する素質も十分に持っている。さらに人に……いや、この場合、呪霊に好かれやすい性格をしている。

 

『貴様は上に立つべき存在だ』

 

『やめろよ。オレはそんな器じゃないし、遊び耽ってる方が性に合ってる』

 

『儂の──友の頼みでもか』

 

『ここで、その「友」ってワードを出すな。その使い方はずるいぞ』

 

『ハッ! 忘れたか? 呪霊とはそもそも、狡猾(そのよう)な存在よ』

 

『……それでも、オレは向こうの自分(オレ)が善人であり続けるかぎりは、勝手な都合で人を殺すことはしねぇよ』

 

『くだらん…それは、貴様の意思ではないだろう! もう一人の己に縛られておるだけではないかッ!!』

 

『…何度も言うが、オレは自己を愛するって決めたんだ』

 

 柱間は同時に、陀艮や漏瑚のことを大切に思っている。自己を愛するのと、近しいくらいには。

 

 そして花御のことは──自分を愛するように、彼女のことを愛している。

 

『だからこそもう一人のオレを、オレは大切にする。オレが自分勝手に人を殺すようになるのは、向こうが心の底から人間を「クソ」だと思った時だ。人間なんぞ消えて然るべき種だと、見放した時だ』

 

『その言葉を、貴様はいつまで吐き続けられるのだろうな』

 

 漏瑚が目にした、明確な柱間の変化。

 さらに柱間が魂のカケラを取り込めば、彼のうちに渦巻く人間への憎悪が、呪霊へとより近づける。

 

 そうして()()()呪霊へと至った時こそ、呪霊たち(儂ら)の先導者が生まれる──と、漏瑚は確信を持った。

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