フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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*お色気(難聴)展開があります!!


34話 明日の天気は何だろう

 時代は流れ、国の中心が移った。人の世を織りなす新たな動きに、羂索は「なるほどねぇ」と思いながら暗躍を続けていた。

 

 呪術界では呪術全盛期から時が流れ、最強を誇った両面宿儺も過去の人間となった。(その名は現代でも語り継がれている)

 

 術師も他人同士でひとつの組織を作るのではなく、一族で集団を形成するようになった。例えば当時の菅原家から、『五条家』が生まれている。

 

 術式の相伝を考えれば、情報漏洩などを恐れて一族でまとまった方が利ではある。

 

 しかし、デメリットも存在する。

 

 一族経営と同じだ。外部の意見が入りにくくなることで、内部に偏りが生じたまま、是正されない恐れがある。また後継者争いが起きたり、逆に後継者に恵まれないまま衰退していく危険性もある。

 

 まあ、他所のお家事情は羂索にとってどうでもよい問題だ。利用価値があれば、またその話は変わってくるが。

 

(どこにいるんだ、柱間……)

 

 裏松の死からまた数百年あまりの歳月が経った。羂索は肝心の柱間の魂を宿す人間に会えないままでいた。

 

 この間にも、天元を祖とする千手一族が呪術界で権力を増している。結界術を行使した都の守護や、技術面での貢献がその地位を押し上げている。

 

(そもそもあの一族全体が天元を「神」としてまつり上げ、奴を守っている)

 

 一度羂索が完全に潰した、天元を崇拝する邪教。

 しかしてこの邪教は千手一族がまた興し、広めたことで復活した。

 

 千手の者がなぜこのような行動をするのか。ひとえにそれは、選民思想からくる。

 

 我々は神である()()不死の天元から生まれた、選ばれた人間であるのだ──と、そういった具合だろう。

 

 もちろん一族の全員がこの選民思想を持っているわけではない。中にはこの思想を嫌い、一族から距離を置く者もいる。そういった人間の中から居なくなっても問題のない素材を、羂索は実験に使っていた。

 

「本当に、あの迷子はどこにいるのだか」

 

 そんな迷子の人物は、まさかの柱間(そのまま)の姿で現れたのだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 膠着状態に陥った二者。

 

 柱間は性別は違ったものの、その額にある特徴的な縫い目を見て、その人物が己の──といっても、もう一人の自分に執着しているあの人間だと気づいた。

 

 一方で羂索は明らかに呪霊の二匹を従えて、ついでにその本人も呪霊の如き状態で活動している柱間を見て、「………ハ?」となった。

 

 裏松の次は、呪霊に転生していたということだろうか? いやそれよりも、感じる柱間の魂に違和感を覚える。

 

(何だ? 魂の形が少し……違う?)

 

 正確には欠けているのだが、羂索はそこまでハッキリと魂の形を認識できるわけではなかった。

 

『この人間は貴様の知り合いか?』

 

『知り合いというか、向こうが一方的に知ってるっつーか…』

 

『ぶぶぶ!』

 

『そうだよな。腹が減ってるよな、陀艮。だがちょいと待ってくれ』

 

 柱間は陀艮を後ろに下げ、万が一の場合に守れる位置につく。向こうは裏松の足を平然と奪ってにっこりと微笑めるような、激ヤバサイコパスだ。何をしてくるか分かったもんじゃない。

 

 漏瑚はというと、状況を見守る方針にしたようだ。腕を組み、羂索の方へ視線を向ける。

 

 

「ヘェー………()()、忘れたんだ」

 

『またっつーか、オレの方はお前と会うのが初めてだよ』

 

「……オレの方? 妙な言い方をするね」

 

『ああ、つまり…説明すると長くなるんだが』

 

『ぶうぶ!!』

 

『…ひとまず後ででいいか? オレの方は今から用事があるんだ』

 

「ヘェ、私はすでに500年近く待たされているんだがそれ以上待てと言う気か?」

 

『……いや、すぐに終わらせてくるからさ。そっ、そんな早口になるなよ…』

 

「では私もついて行くよ」

 

 肩をくっつけるようにピッタリと、柱間にとっては名前も知らぬ人間が側につく。彼は純粋に恐怖を感じていた。力を使えば殺せる相手であるはずなのに、身が竦む。この静かな圧が恐怖心を煽っているのかもしれないし、裏松が体験した両足斬り(サイコパス)の記憶が原因かもしれない。

 

 とにかく、有無を言わさぬ圧がこの男にはある。いや、そもそも男なのだろうか? 前回は女だったが。

 

『とりあえず名前を聞いてもいいか?』

 

「………」

 

『オレは本当に知らねぇんだよ。そんなアルカイックスマイルを向けられても困る』

 

 ハァー、とため息をついた男は、「羂索だ」と名乗った。

 羂索、羂索────。柱間はその名前を脳内で反芻してみたが、やはり記憶にない。

 

「ところで今から呪霊を連れて、どこへ行く気なんだい?」

 

『餌を取りに行くんだよ。こいつの…陀艮の』

 

『実態はこやつの私情も過分に含んだ、人間狩りであるがな』

 

「ふうん……その“私情”ってのは、どんな私情なのか伺っても?」

 

『それも引っくるめて、オレは後で話してェんだけど…』

 

 陀艮も地面に転がり、手足をばたつかせて「腹が減った(ぶふー!!)」と駄々をこねている。

 

 その姿を見ていた羂索が口角を上げた。懐に手を忍ばせたその動きに、柱間が警戒を見せる。

 

 その懐から出てきたのは、札で何重にも覆われた物体だった。大きさは手のひらに乗せてもかなり小ぶりである。

 

「これ、食べてみるかい? 多分美味しいよ」

 

『ぶぶ?』

 

『ダメだろ、陀艮! 不審者から変なものをもらう……な………?』

 

 ()()()()に注意を向けたそこでようやく、柱間は気づいた。札の中から出てきたのは、何かの肉片だ。彼は口を開けようとする陀艮の胴を掴み、漏瑚へキラーパスをする。

 

『オイッ! 突然陀艮を投げるなァ!!』

 

『漏瑚クン、ナイスキャッチィ! ゴールキーパーに向いてるぜ。……で、そこのお前』

 

「ああ、何かな?」

 

『──敵意や悪意こそ感じねぇが、どういうつもりだ? ソレ、オレの肉だろ』

 

「さあ? はたしてこの肉が『君の』肉なのか、私には判断がつかなくてね。何せ私の知っているあの男は、私情で人間を殺す男ではなかった。むしろ世情に振り回された挙句に、自分が死んでしまうような愚かな男だった」

 

 姿は同じである。しかし、今羂索の目の前にいる男は、彼女の知る柱間ではない。それは、「オレの方」といった妙な話し方をする点からも読み取れる。

 

 柱間の魂に違和感を覚えるのも、これが原因かもしれない。

 

『……漏瑚、陀艮のメシは頼むわ』

 

『人間を狩ると意気込んでいた割に、その体たらくかッ!』

 

『意気込んではねぇよ。殺意で頭が茹だってただけだわ。こりゃあれだね、()()()()クに、()()()()タイムにさせられちまっ────()ッッ!!!』

 

 呪力を纏った羂索の足が、すり潰すように柱間の足を踏みにじった。半目になった漏瑚は、付き合ってられんわ、と陀艮を連れて去って行く。

 

『……じゃ、お話し合い、するか』

 

 その言葉に、羂索は満足そうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 この羂索という人間は、オレの養子だったらしい。()()女だったため、一応「彼女」という認識でいいようだ。肉体をいったいどうやって変えているんだ、という疑問が当然だが生じる。

 

 そこを言及すると、羂索は恥じらい気味に「どうしよっかな」と呟いた。

 

「見せても構わないが、結構恥ずかしいな」

 

『……何? 急にお色気(エロ)方面の展開になるの?』

 

「フフッ…体液がそこそこね。漏れ出てしまうかもしれない」

 

 男の体液を見せつけられてもな──と白けた直後、確かに体液が飛び散った。体液というか、「脳髄」という名の体液だった。そんなトリッキーな問題を出されても正解できねぇよ。

 

『スゲェな。脳みそに口があるじゃん』

 

「……思ったよりも驚かないんだね。つまらないな」

 

 そりゃあまぁ、オレの細胞と比べたら、脳みそに口があるくらいで……な感想にもなる。

 

 この口でも喋れるのか突いてみたところ、「アッ」と変な声を出されたので、とっさに手を引っ込めた。

 

「“でりけぇと”ってやつなんだよ、ここは」

 

 羂索は慣れた手つきで額を縫合した。

 

「この脳が私の本体だ。死体を乗っ取りながら、何百年もの時を生きている」

 

『…術式による力ってわけか』

 

「ご名答。その何百年という中で探していたのが柱間の魂だ。あの男と約束しているのだよ。“次の彼”を、必ず見つけ出すとね。だというのに、ようやく見つけ出せたと思ったら、死なせてしまってね。その遺体も植物を操る呪霊に盗まれた」

 

『あっ、それはオレの指示で──』

 

「本当に参ったものだよ。向こうは微塵も娘である私のことを覚えていない上に、弟にご執着だったのだから。「覚えていれば探す」と柱間は言っていたがね? 探す側の身にもなってもらいたいものだと思わないかい?」

 

『……オレにキレられても困るんだわ』

 

 ひとまず向こうを宥めてから、オレの大ざっぱな人生……いや、植生について話した。

 

 羂索はもう一人のオレから、かつて村の守護を務めていた話は聞いていたらしい。

 

 ヤツの首を切られた話(阿呆エピソード)なども知っていた。それを知っているなら、その首を切られた時にオレの方も連動して木になった件を説明しやすくなる。

 

「ヘェー………で、その木の本体はどこに?」

 

『別の場所にあるけど……なあ、さっきの鳥肌が立つような微笑みは何?』

 

 教えたら、ろくなことしかされない気がする。話し合いが終わったら、さっさとここから退散した方がよさそうだ。

 

 

『で、話の続きだな』

 

 オレが向こうのオレの欠けた魂から出来上がっていること。そして、そのオレがヤツの遺棄した小指から生まれたこと。さらに【この地を守る】という縛りを解くために、裏松の肉体に残された欠けた魂が必要だったこと────などを話す。

 

 そこから呪霊を仲間にしながら旅をして、オレの魂が再度現れる度にその様子を見に行っていた──ことも話した。

 

「……なるほど。そういう理由で、私から肉体を盗んでいったのか」

 

『オレがお前のことを覚えていたのも、裏松の肉体に残されていた記憶の情報を、オレが食って読み取ったからだ。他にも二回肉体の捕食を行っている。欠けた魂を集めた結果、オレは現在半分より上の魂を保有している』

 

「………半分間」

 

『だいぶ脳死をされているようで』

 

 スマホだったらすでにHOT HOT(アッツアツ)になっているに違いない。羂索の脳の処理が追いつくのを少し待つ。

 

「…まあ、とりあえず君の事情というのは概ね理解できた。呪霊に近しい存在になっているのは、これまで取り込んだ肉体の記憶によって、負の感情が煽られていることも原因にあるのだね?」

 

『そうだ。呪力を栄養源としているせいか、オレは植物とは言いつつ、そもそもが呪霊(向こう)側に近い。負の感情を煽られれば、さらに呪霊側に寄るのは必然ってことだ』

 

 どこまでも向こうが甘いままでいるせいで、オレという存在の呪霊化は進む。同時に人間の穢らわしさが、この身を黒く染める。

 

 目には目を、歯には歯を、な精神論で考えるならば、「呪いには呪いを」────。

 

 それを、人間たちにお返ししなければならない。

 

 

「これも確認しておきたかったが、故郷にいた頃の柱間の記憶があるんだろう? ならばあの男が、前世の記憶を持っていた──という私の推測は合っているかい? それも恐らく、過去から未来へ戻る形で」

 

『合ってんよ。次元が同じかどうかは分からんけどな』

 

 もう一人のオレが『異世界転生』だと判断したものが、何らかの超常的現象により、別の次元へ迷い込んだ可能性もある。マルチバースとか、並行世界系の話だ。

 

 オレはその手の専門家ではないため、詳しい説明はできない。まあ、名前だけでも何となくはその概念が分かるだろう。

 

 あるいは、死ぬ間際のオレが無自覚だった術式を発動して、過去に舞い戻り別人として生まれ変わった可能性もある。

 

「やはりそうか…。だがなぜその記憶は引き継がれたにも関わらず、その次は記憶を失っていたんだ?」

 

『世界の(ことわり)とか、そういうオレたちの常識(ものさし)では測れないものが関係してるんじゃねぇの? そこについてはオレも知らん』

 

「…考えたところで、この問題は仕方ないってことか」

 

 羂索は「ハァ…」とため息をついた。眉間の皺を引き伸ばすように指で揉んでいる。

 

「本当に…まったく、私を飽きさせない男だ」

 

『オレは飽きてもらった方がいいけどな。お前ヤベェし』

 

「君のその、肉体を形作る「細胞」だったっけ? それよりヤバいものはないんじゃないかな」

 

 いや、両足を切ってくるお前も相当にヤバいのは、事実だと思う。

 

「その一番最初の『彼』は、どんな人間だったんだい? その時からあそこまでの愚かな人間だったのか?」

 

『……ああ、まぁ、愚かだっただろうな』

 

 異世界転生をする前についての人生は、オレは一切語らなかったようだ。

 

 そこの部分について、お前は触れられたくなかったんだろうか? 

 そこにはお前の、弱さ──あるいは、脆さと呼ぶべき過去(もの)があるから。

 

(……待てよ? 単純に聞かれなかったから話さなかっただけかもしれん)

 

 聞かれたら、「オレは異世界転生人というやつでな」と話していたかもしれない。ただ、それでも自分の触れられたくない部分があると、話さないだろう。

 

 そうやって頑丈に封をしておかないと、お前が呆気なく壊れてしまうから。

 

 

『────いや、すでにボロボロか』

 

 

 ハハッ、と笑ったオレに、羂索は片眉を上げた。「笑い方は似てるんだな」と言われる。もしかしたらその言葉には、皮肉が交じっているかもしれない。

 

『オレの話はしたんだ。次はお前の話を聞かせてくれ、羂索』

 

 そう言うと、羂索はポツポツと自分のことについて語り始めた。

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