フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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4話 旅立ち

「あれ?」

 

 気づけばオレは、川の中を泳いでいた。溺れそうになりながら岸を目指すと、なんとオレが小学生の頃に死んじまったじいちゃんがいた。その手には平べったい石がある。

 

 じいちゃんはフンと鼻を鳴らすと、その石を川に投げ──いや、正確にはオレに向かって投げ出した。

 

「いだぁ!? 何すんだよ、じいちゃん!!」

 

 じいちゃんは孫の悲鳴を無視して、さらにどんどん石を投げる。そのどれもが直撃する。

 

「やめろよ! この鬼畜ジジイ!!」

 

 じいちゃんがいる岸へ向かうのは諦め、急いで別の岸に向かう。途中でオレとは反対方向へ泳ぐ人間の姿が見えた。あの白い着物、どっかで見たことがあるような……。いや、考えてる場合ではない。死球が今も的確に投げられているのだから。

 

「ハァ、ハァ……!!」

 

 何とか岸についた瞬間、自分の意識が遠くなった。世界がぐにゃりと曲がる。

 倒れゆく中で、じいちゃんの声が聞こえた。「まだ早えーぞ、このクソ孫が」と言っていた。

 

 こんのクソジジイ……。石を人に向けて投けたら殺す(ダメだ)って、あんたが教えたんだぞ!! 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そうだ。オレは前世で死んだ後、あのジジイに石を投げられて、それで……。

 

 死んだショックで三途の川の記憶が抜けていたのか、今になって思い出した。あのジジイ、石を投げるんじゃなくて、言葉で「まだ死ぬな」って言えばいいじゃねぇか。

 思い出したら涙が溢れてきた。つーかよく考えたらオレ、爺ちゃんのせいで『異世界転生』しちまったんじゃん。

 

(というか、何で体が動かないんだ…?)

 

 目は動かせる。だがそれ以外が動かせない。声を出そうとしても、「………!」と音のないものになる。

 

 オレの体はいつも見ている視界の高さより、随分と低い。辺りは木々が生い茂っている。黒目を限界まで下に動かすと、かろうじて木のようなものが見えた。

 

(えっ、木?)

 

 え、オレの体じゃなくて何で木があるんだ? えっ………木??? 

 

 何回見ても木だ。オレの体の下に木がある。というかオレの体が無くないか? えっ? 何? これがフルフルニィマジック? 

 

 

 とりあえず、こういう時こそ状況を整理しよう。

 

 オレは村長に食事に誘われて、内心舞い上がった。その裏で、「もしかしたら、この間話し合った村の食料問題について、何か話があるのかもしれない」とも考えていた。

 

 そこで酒を飲んだんだ。人生初の酒である。飲んだ直後に全身に血がカァッと上った感覚があった。そして思考がままならなくなった。オレは下戸だったのかもしれない。

 

 それで、気を失って今に至るわけだ。本当に何があったんだ? 

 

(動けない状況で、どうすればいいんだ…)

 

 一応『気』を操ってみた。すると知覚しているオレの体の感覚と違うイメージがよぎり、驚いた。

 

 まさしく、見たまんまの木の形をしている。それを元に今の自分の姿を想像すると、木からオレの顔が浮かび上がっている状況になっている。

 

「………!!?」

 

 オレ、木になったのか? 人面木? 酔っぱらって人面木になる人間がいるのか? いや、そもそもオレは今人間なのか…!? 

 

 考えているうちに辺りが暗くなっていく。思考を続けたかったが強制的に意識が落ちていった。

 

 

 

 気づけば翌朝である。スズメが鳴いていた。

 

 そして、自分が呼吸をしていない事実に気付いたあと、夜になると強制スリープする理由を考えた。

 

 オレの体はおそらく呼吸などの生命活動を、『木』の部分が担っている。つまり、光合成で生きている。それを踏まえると、強制スリープするのは、オレが起きているエネルギーを賄えなくなるからだろう。

 

 つまりだから、今のオレは木だ。

 

 だからどうして、酒を飲んで木になったんだよ……!! 

 

 

 それから数日格闘し、あることに気づいた。

 

『気』を操る中で、これまでなかった別の感覚。例えるなら、その『気』を自分の体に直接注入するような感覚。そうすると、オレの木がザワザワと揺れて葉っぱを落とした。

 

 木の自分に慣れてきたおかげが、意識すると枝の先まで自分の体のように自覚できるようになった。そうして少し遊んでいたら、自分の後方(オレからすると死角)に、オレが寝巻きで着ていた着物を発見した。随分とボロボロになっているそれは、木から飛び出るようにして覗いている。

 

 オレの木とは別の木だ。何でそこにオレの着ていた着物がめり込んでるんだ…? 

 

(一番考えられるのは、酒に酔ったオレの力が暴走して、自分ごと木にした……かな)

 

 村の人間は巻き込んでいないだろう。木の力がはじめて覚醒した時も、無意識に敵と味方を分けていたからだ。

 

 そもそも、周囲でオレの『気』を感じるのは、オレの木とあの着物がめり込んでいる木………。

 

 

(あの木、何でオレの『気』をまとって……!?)

 

 

 驚きと、以前とあきらかに変質した自分の肉体の操作に苦戦すること一週間。

 

 オレは自分の木の枝を伸ばし、向こうの木と合体することに成功した。合体したのは、本能的に「そうしなければならない」と思った…としか言えない。生存本能によるものだろうか。

 

「戻ったぞ…」

 

 あの木はオレの体だったらしい。かく言うオレだった木は、首から上の木だった。

 

 つまり、酔ったオレは何らかの原因で首から上と下に分かれ、木になってしまったということだ。

 

「だから、なぜ、木に………」

 

 あるいはそれこそ、生存本能によるものだったのか。このままだと死ぬと考え、オレの体が自分の体を植物にし、生命活動を維持していたのかもしれない。

 

 とりあえず着物はすっかりボロボロで、とても着れる状態じゃない。全裸だ。

 

「………」

 

 何だかこのまま村に戻ると自分の貞操が危うい気がしたので、先に腰巻を作ることにした。

 

 動物を狩って、その皮を剥いで川で洗う。それと蔦を合わせて、簡易的な腰巻を作った。狩った命には感謝して、その肉まで焼いて食らう。便利だった前世とは一転して、この世界は大変だ。だからこそ、動物であろうと人間だろうと──それこそ植物にも命を感じる。

 

 尊く、それでいて終わる時は儚い。

 

「……行くか」

 

 木になってしまった影響か、村の周りに張らせていた香取木(「蚊取り」とかけている)の反応がない。おそらく枯れてしまったのだろう。

 

 そうしてオレは、現実を目の当たりにした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ある村に、旅中に賊に襲われたのであろうか、腰巻だけまとった青年がやって来た。訝しむ者もいたが、その端正な顔立ちに頬を染める女も多かった。

 

「もしや、賊の者に身ぐるみを剥がされてしまったのですかな?」

 

 杖をついた一人の老人が、青年にそう尋ねる。

 

「……まぁ、そんなところだ」

 

「それはそれは…大変でしたな」

 

「それより、一つ聞きたいのだが…」

 

 男は昔、噂でこの村の話を聞いたらしい。前は活気のある村だったと。しかし実際に訪れると、想像とはまったく違ったと言う。

 

「人ももっと多く、村人の笑顔が絶えないような場所であったと聞いた。しかし……」

 

「…よければ、少し話をしませぬか? この老いぼれと」

 

 老人は荒屋のごとき家に青年を招いた。そこで野草を煎じた茶を出す前に、自分が昔着ていた着物を差し出す。随分と高い位置から聞こえる青年の声からして、丈がまったく足りないだろうとは思った。

 

「感謝する。本当に助かった…」

 

「ホホッ。では茶を出しましょう」

 

 老人は茶を差し出し、自分も飲みながらポツポツと語り出した。

 曰く、彼がまだ幼い子供だった頃は、活気にあふれた村だったらしい。

 

「ですが、あることをきっかけに村同士で争いが起きた。多くの者が死んでいきましたよ…」

 

 老人の父もこの争いで死んだ。互いが互いを憎しみ合い、血で血を流す。醜いものだったと、彼は続ける。

 

「そして、ある捕虜にした男が言った言葉により、争いは村の内部同士にまで及びました」

 

 その男は、村のとある男の死は、すべて族長の男が仕込んだものだ──と話たそうだ。

 

 一人がそう言うと、村人の中で数人が「実は…」と、己の罪を告白した。彼らは欲に目がくらんだり、こっそりと行っていた悪事をバラすぞ──と脅され、仕方なく族長の命令に従ったのだと明かした。

 

「詰め寄った者たちに、アイツは最初こそ弁明していた。しかし真実が明るみになるにつれ、「アイツがすべて悪いんだ!!」と、あのお方を貶した」

 

「……そう、か」

 

「終いには、「酔ったあのバカな男を己が首を斬って殺したんだ」と、自白した」

 

「………」

 

「儂は今でも、あの男が憎くて憎くて、仕方ない……」

 

 族長は村人に処刑される前に、妻の手によって殺された。そしてその妻はさらに、生まれたばかりの子どもまでも殺して、最後は自害した。

 

「憎い男との子が、許せなかったのでしょう。それでも死ぬ間際、殺した我が子に謝っていたそうです」

 

 そのあと争いに疲れた人々は、武器を捨てた。これ以上血も、争いも見たくなかった。

 そうして、切られた後に残った切り株のように、死と生の狭間にいるような生活を過ごした。

 

「すみませんね。暗い話をしてしまって。ホホッ…どうも自分の死期が近いと感じるせいか、昔話をしたくなってしまう」

 

「…いや、もっと長生きすると良いぞ」

 

「そう言ってもらえると、有り難い。孫の声も聞けたので、儂としちゃあ満足なんですがねぇ」

 

「孫ができたのか! いや、そうなると子もおるのか…」

 

「……? えぇ、まぁ。子は孫ともども、遠い村で暮らしておりますよ。一緒に暮らさないかとも言われましたが、目も見えなくなった老いぼれがいちゃあ邪魔でしょう。だから儂はこの村で……あのお方がいたここで死に、自然に還っていくつもりです」

 

「………そうか」

 

 老人は青年が立ち上がった気配を感じた。それに見送ってやろうと、杖を持って扉に向かおうとする。

 しかし青年の気配は扉へ向かわず、老人に近づく。そして、ふわりと嗅いだことのある匂いが老人を包んだ。

 

 

「大きくなったな。よくオレに突っ込んできた、あの子供が」

 

 

 老人を抱きしめた青年がそう言った。思考が止まった老人は、目から涙が溢れてくるのを感じた。この匂いは………この、やさしい緑を感じさせる、匂いは……。

 

「あ、あぁ……あぁぁ……!!」

 

「本当に……本当にすまなかった」

 

「そんな、まさか……いや、どこか聞き覚えのある声だとは思いましたが………あなた、様は……ッ!!」

 

「言ったであろう、オレに「様」をつけるのはやめろと」

 

「ッ………!!!」

 

 盲目の老人は、皺の刻まれた手で青年の顔に触れた。流れた時を感じさせないその顔は、まさしく老人の古い記憶にあるお方のものと同じだった。

 

「オレは今度こそ、お前たちを…」

 

「………いえ、なりません。これ以上貴方様を、人間の醜さで穢しとうございませぬ」

 

「オレは一応人間ぞ? ………それに、オレは亡き父や、お前たちに誓った」

 

「なればこそです。貴方様が誓われたという村の者はもはや、私しか生きておりません」

 

「………」

 

「貴方様はどうか、このような辺鄙な村ではなく、もっと広く自由なところで生きてくださいませ」

 

「それでも、オレは……」

 

「どうか、この生い先短い老人の、最期の頼みだと思い、聞いてはくださいませぬか?」

 

「………ッ」

 

 こういう頼みに弱いのも、やはり変わっていなかった。老人は渋る青年にあれやこれやと持たせ、その背を強く押す。

 何度も立ち止まっては、少し歩く。そんな音が老人の耳に聞こえる。

 

 行ってらっしゃいは言えない。言えば、ここが青年の帰るべき場所になってしまう。

 だからこそ、老人はひと言だけ告げる。

 

 

「──────柱間」

 

 

 息を呑む音が聞こえた。その後、足音は立ち止まることなく遠ざかっていく。

 老人は萎れた自分の水分をすべてひねり出すように、その日泣き続けた。

 

 そしてその数日後、安らかに息を引き取った。




10話近くまでストックができてきました(寝不足) ストック5話分までは、順次出していきます。

ストーリーが進むにつれ、独自設定や原作キャラの過去捏造が入ってくると思います。そこら辺は二次創作ということで、読んでいただけたら幸いです。
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