フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
徐々に肉体の摂取量を増やしていったオレは、右腕一本を完全に取り込んだ。
もちろん丸ごと一本を捕食する前に、羂索に本当にいいのか尋ねた。
すると。「十分に遊べたし、もういいよ」との返事をもらった。
「また誕プレでもらえばいいしね」
「未来永劫やらんわ」
右腕に刻まれていた記憶の情報に、羂索やヤツの病気に関するものがあった。耳環の件を知り羂索の耳を見ると、ちゃっかり今でも付けている。
(ヤツの友人……か)
また『天元』という友のことや、彼女との複雑な関係性を知った。
友ではあるが、向こうからすると純粋な「友」ではない。
なんだか花御に一方通行の想いを抱えていた己のようで、少し共感を覚えてしまう。片思いって、辛いよな…。
「義理の娘もイかれてるが、友人もイかれてんじゃねぇか……」
しかし、それ以外の天元に関する感想が、「何だこのクレイジーモンスターは…!?」だった。
美女は美女なんだが、残念な美女だった。
「最愛の娘を思い出してもその程度の反応なんだ…殺そ」
「人格の土台がヤツじゃなくて、オレだから……って、毎度オレに殺害予告をしてくるな、お前」
羂索はオレに天元の記憶を思い出して欲しくなかったらしい。彼女が以前に言っていた「あの女」こそが天元だったわけだ。ヤツの大部分の肉体を持っているのもこの人間である。
「君があの女を嫌いになる情報を先出ししておくよ」
「ん?」
「あの女、君の肉体を利用して子孫を作っているぞ」
「……あ、裏松にもそんなこと言ってた────ハ?」
子孫? いや待て。記憶によれば、あの女は子が為せないとか何とか言っていたはずだが……?
「おそらく君の肉体の一部を自分に
「お前もいったい何をやってくれてんの?」
「つまり、子を詰める胎が機能するようにイジったわけだ。奴なら拒絶反応を起こしても死なずに、無理やり適合させることもできるだろう」
「どっちも……どっちもイかれてやがるよぉ……!!」
「君の細胞が一番イかれてんだよ」
それはまぁ、そうなんだが…。
「さらにその子孫は、
「…………あぁ、そういうコト」
「くくっ……やっぱり、この件は君にとっての地雷なんだ」
「そりゃあ、まぁ」
「子孫は今も残ってはいる。しかしあの女は子孫が私の実験に利用されようと、どうでもよいのだろうね。ずっと引きこもったままだ。君のカラの
「………」
まだ自分の目で見たこともないその「友」への好感度が、地の底にへばりつく。
その
ヤツの肉体まで、利用したっていうならば。
◆◆◆
天元様、と声がかかる。
夢の中にいた彼女は揺り起こされ、体を起こした。
寝台から移動した天元は世話役の女たちに介抱されながら、朝餉を食した。食べたといっても、その食べる行為さえ幼児のように人の手を借りている。
彼女の目は、ずっと虚空を捉えていた。
「では天元様、いつもの儀式のお時間でございます」
羽織り一枚を肩に引っかけ、天元はその肉体に触れた。胸元に頬をすり寄せ、耳を澄ませる。血が脈打つ音も、心臓の音も聞こえない。体温も死人のソレである。
しかしもっと小さな“何か”が、この肉体が生きていることを彼女に知らしめる。
「はしらま……」
はるか昔に死んでしまった、天元の愛する男。
いや────死んでいない。何せ、この肉体は生きている。
生きて、天元を『愛』してくれる。
「はしらま、はしらまっ……」
天元の愛に、彼はようやく応えてくれた。抱きしめ返してくれることはなく、「天元」と、あの低くも穏やかな声が彼女の名を呼んでくれることもない。
しかし、間違いなく自分と柱間の間には『愛』があった。
その愛から生まれた赤子は、とっくの昔に死んでしまった。
その赤子から生まれた子孫から、天元と同じ術式を持つ人間が現れたことはない。
────私だけが、呪われている。
彼女はそう思った。そんな呪われた彼女の側に、柱間は寄り添いつづけてくれる。
「はしら、あっ………!」
天元は『愛』を感じた。その愛にうっとりと目を細め、汗ばんだ顔のまま胸元に頬を寄せる。
荒い呼吸の合間に、ふふ、と笑う天元の声が響く。
そんな彼女の様子を、彼女の子孫でもある女たちは微笑んで見つめていた。
この儀式は『
少なくとも、彼女を信奉する人間たちにとっては。
◆◆◆
「ここに来るのも、久しぶりか」
柱間は羂索ともう半分の「柱間」の魂を持つ子どもを連れ、故郷に戻ってきていた。
花御と旅立つ前に残した木は、今でもきちんと残っている。
「ここが、柱間が大昔にいた場所か…」
両親の墓の前に来た柱間は、一面に花の海を作った。
彼らがここに来たのは、柱間が「計画を実行する前に来たい」と言ったからだ。
いよいよボディーの元に向かう。
この工程としてはまず、小指の彼がもう半分の己の魂を肉体ごと取り込む。
その状態で、次は肉体と融合する。これらの過程はいっぺんに行う。時間を空けて行わないのは、一応理由がある。
魂を先に取り込んで融和させると、その「柱間」が小指の彼のように肉体を融合させられるかわからないからだ。
これは感覚の違い──とでも言えばいいのか。
植物(または呪霊)として生きてきた小指の彼と、人間の柱間ではそこが大きく異なる。
一方で肉体から先に融合させると、もし「新植人類」になってしまった場合、魂を取り込めなくなる──なんてことがあり得るかもしれない。
要は一纏めに行った方が、かえってリスクが少ないだろう、という考えである。
どのみち、小指の彼の負担は大きい。
「この墓の人間は、一応私の祖父母ということになるのか」
「叔母もいる」
「……そう」
柱間はここの門番をやっている木に触れた。花御と過ごした懐かしい記憶が蘇ってくる。
当時はこの場所から離れることで頭がいっぱいだった。しかし今になると、あのまま花御と二人で過ごせていたら──とも、思う。
「……ねぇ、柱間」
「なんだ?」
「君も…同じ『柱間』だよ」
「どうだろうな。それに…もう自分が誰かなんて、オレにはどうでもいいんだ」
己が「柱間」ではない偽物でも、本物でも──。
かけがえのない花御の友であるのが、「
「ここが……柱間の小指から生まれた、『オレ』の墓だ」
木の中に、柱間の小指が飲まれていく。柱間が手を取り出すと、そこには先ほどあったはずの小指が無くなっていた。
「……何をしたんだい?」
「骨を埋めただけだよ。この墓に」
そう言い残し、柱間は歩き出した。羂索は幼子を抱えなおし、その後に続く。
一面の花吹雪が彼らの姿を覆い隠す。
じゃあな、と呟いた柱間の声は、風の音とその吹雪に飲み込まれた。
──────お前には、『
小指にその愛ごと埋めて、彼は散る。
◆◆◆
柱間の肉体は『千手一族』が取り締まる場所に、天元と共に隠されている。
そこは当然結界で守られている。千手の人間にとって天元とは、
「天元って不死なだけじゃなかったっけ?」
「奴の姿は最後に会ってからもう何百年も見ていないが……「不老」という噂は本当なんじゃないかな」
不老の理由は間違いなく、柱間の細胞にある。
細胞を肉体に移植した影響のひとつだろう──というのが、羂索の見解だ。
「結界の解析と解体は私が行う。ただ、これで終わりではない」
その結界とは別に、天元のいる場所は天元自身の結界で守られている。これを破る場合は、さすがの羂索でもかなりの時間を要する。ただし、この結界は破る必要がないと彼女は踏んでいる。
「一応、破れる見積もりはあるわけね」
「私を誰だと思っているんだ。羂索さんだぞ?」
当然というか、侵入者に対し千手一族の者が攻撃を仕掛けてくるだろう。
天元を嫌っている割には協力的な羂索に、柱間は眉を寄せる。
「いいのか? お前は柱間を独占したいんだろ? だったら、それこそ天元の存在は邪魔なはずだ」
「じゃあ何がなんでも殺してくれる? あの女のこと」
「……オレは嫌悪感を持ってるが、ヤツの友人だしなぁ…」
「それに君がすべての記憶をもう一人の自分に渡すと言ったんだろ? 天元のみの記憶を消すなんて都合のいいこと、してくれるわけないだろ?」
「あぁ。……まぁ、
「ハ?」
「その記憶を渡さない方が、お前にとって利になる」
「……なら、いい」
それから、いよいよ侵入することになった。
柱間はすぐ側で結界を解析する羂索にさとりでも開いた心境で、術師たちを相手取る。
「………」
ちなみに、その羂索と幼子は柱間の中にいた。イメージとしては、木の穴を想像してもらいたい。その中に羂索たちが入っているイメージだ。この二人を入れるため、柱間は樹木ボディーである。つまり、動く大樹だった。羂索と意思疎通する場合は、うろの中にある口が会話する。
なぜこのようなトリッキーな陣形を組んでいるかと言えば──ひとえにそれは、天元の存在が理由にある。
これが、羂索が「天元の結界を破る必要はなくなる」と判断した理由でもある。
天元が柱間の存在に気づいた場合、羂索が離れている間に隔離・拉致される可能性が高い。そのため、このような愉快痛快な姿を取っている。
「フ、フフフッ………ますます化け物じみてるね、君」
「結界を解くのに集中しろや…」
間もなくして、屋敷を覆っていた結界が解けた。
術師たちは四肢を木に絡め取られ、呪力を吸われた挙句にダウンしている。
「つか、本当にこの姿で天元が気づくのか?」
「見知った術式だ。否が応でも反応するさ。心配だったら私が提案した人面木になればいい」
「オレの美的センスがそれを許さないのですわ…」
「では仕方がない。私が付けよう」
羂索は持参したお面を装着する。これは型のお面に人皮を張り付けた、意匠の凝った一品である。
それを目にした──木の状態なこの男の目とは、そもそもどこにあるのか──柱間は、悲鳴を上げた。うろの中でその声がこだまする。
「オレのデスマスクやんけ!!!」
「これで天元も気づくだろう」
「その人面の入手経路を教えろ! 阿呆ッ!!」
「ナ・イ・ショ♡」
羂索は至極愉悦そうに、ケラケラと笑った。
サイズを小さくして屋敷に侵入する木と、そのうろの中に潜んでいる人面を付けた男&四肢のない幼子の組み合わせ。彼らはアンダーグラウンドからの使者に違いない。
内部もまた千手が張った結界が複雑に仕掛けられており、これを一つ一つ羂索が解いていく。この結界は千手の者であれば、通り抜けることができるらしい。
千手の者たちが混沌に陥る中、柱間たちは天元の元へ向かった。