フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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40話 いないいない(バア)

 徐々に肉体の摂取量を増やしていったオレは、右腕一本を完全に取り込んだ。

 

 もちろん丸ごと一本を捕食する前に、羂索に本当にいいのか尋ねた。

 すると。「十分に遊べたし、もういいよ」との返事をもらった。

 

「また誕プレでもらえばいいしね」

 

「未来永劫やらんわ」

 

 右腕に刻まれていた記憶の情報に、羂索やヤツの病気に関するものがあった。耳環の件を知り羂索の耳を見ると、ちゃっかり今でも付けている。

 

(ヤツの友人……か)

 

 また『天元』という友のことや、彼女との複雑な関係性を知った。

 

 友ではあるが、向こうからすると純粋な「友」ではない。

 なんだか花御に一方通行の想いを抱えていた己のようで、少し共感を覚えてしまう。片思いって、辛いよな…。

 

「義理の娘もイかれてるが、友人もイかれてんじゃねぇか……」

 

 しかし、それ以外の天元に関する感想が、「何だこのクレイジーモンスターは…!?」だった。

 美女は美女なんだが、残念な美女だった。

 

 

「最愛の娘を思い出してもその程度の反応なんだ…殺そ」

 

「人格の土台がヤツじゃなくて、オレだから……って、毎度オレに殺害予告をしてくるな、お前」

 

 

 羂索はオレに天元の記憶を思い出して欲しくなかったらしい。彼女が以前に言っていた「あの女」こそが天元だったわけだ。ヤツの大部分の肉体を持っているのもこの人間である。

 

「君があの女を嫌いになる情報を先出ししておくよ」

 

「ん?」

 

「あの女、君の肉体を利用して子孫を作っているぞ」

 

「……あ、裏松にもそんなこと言ってた────ハ?」

 

 

 子孫? いや待て。記憶によれば、あの女は子が為せないとか何とか言っていたはずだが……?

 

「おそらく君の肉体の一部を自分に移植(うつ)したんだ。柱間の細胞が適合した実験体の内臓の一部を切り取り、それが再生するかも試したことがあるし。実現は可能だ」

 

「お前もいったい何をやってくれてんの?」

 

「つまり、子を詰める胎が機能するようにイジったわけだ。奴なら拒絶反応を起こしても死なずに、無理やり適合させることもできるだろう」

 

「どっちも……どっちもイかれてやがるよぉ……!!」

 

「君の細胞が一番イかれてんだよ」

 

 それはまぁ、そうなんだが…。

 

 

「さらにその子孫は、()()()()()()()いる。私の言いたいことが分かるね?」

 

「…………あぁ、そういうコト」

 

「くくっ……やっぱり、この件は君にとっての地雷なんだ」

 

「そりゃあ、まぁ」

 

「子孫は今も残ってはいる。しかしあの女は子孫が私の実験に利用されようと、どうでもよいのだろうね。ずっと引きこもったままだ。君のカラの肉体(うつわ)と一緒にね」

 

「………」

 

 まだ自分の目で見たこともないその「友」への好感度が、地の底にへばりつく。

 

 その子孫(児ら)まで愛してやれないなら、はじめからガキなんて作るなよ。

 

 ヤツの肉体まで、利用したっていうならば。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 天元様、と声がかかる。

 

 夢の中にいた彼女は揺り起こされ、体を起こした。

 

 寝台から移動した天元は世話役の女たちに介抱されながら、朝餉を食した。食べたといっても、その食べる行為さえ幼児のように人の手を借りている。

 

 彼女の目は、ずっと虚空を捉えていた。

 

 

「では天元様、いつもの儀式のお時間でございます」

 

 

 羽織り一枚を肩に引っかけ、天元はその肉体に触れた。胸元に頬をすり寄せ、耳を澄ませる。血が脈打つ音も、心臓の音も聞こえない。体温も死人のソレである。

 

 しかしもっと小さな“何か”が、この肉体が生きていることを彼女に知らしめる。

 

「はしらま……」

 

 はるか昔に死んでしまった、天元の愛する男。

 いや────死んでいない。何せ、この肉体は生きている。

 生きて、天元を『愛』してくれる。

 

「はしらま、はしらまっ……」

 

 天元の愛に、彼はようやく応えてくれた。抱きしめ返してくれることはなく、「天元」と、あの低くも穏やかな声が彼女の名を呼んでくれることもない。

 

 しかし、間違いなく自分と柱間の間には『愛』があった。

 

 その愛から生まれた赤子は、とっくの昔に死んでしまった。

 その赤子から生まれた子孫から、天元と同じ術式を持つ人間が現れたことはない。

 

 

 ────私だけが、呪われている。

 

 

 彼女はそう思った。そんな呪われた彼女の側に、柱間は寄り添いつづけてくれる。

 

「はしら、あっ………!」

 

 天元は『愛』を感じた。その愛にうっとりと目を細め、汗ばんだ顔のまま胸元に頬を寄せる。

 荒い呼吸の合間に、ふふ、と笑う天元の声が響く。

 

 そんな彼女の様子を、彼女の子孫でもある女たちは微笑んで見つめていた。

 

 

 この儀式は『天元()』を神たらしめる、崇高なものであった。

 少なくとも、彼女を信奉する人間たちにとっては。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ここに来るのも、久しぶりか」

 

 柱間は羂索ともう半分の「柱間」の魂を持つ子どもを連れ、故郷に戻ってきていた。

 花御と旅立つ前に残した木は、今でもきちんと残っている。

 

「ここが、柱間が大昔にいた場所か…」

 

 両親の墓の前に来た柱間は、一面に花の海を作った。

 

 彼らがここに来たのは、柱間が「計画を実行する前に来たい」と言ったからだ。

 いよいよボディーの元に向かう。

 

 

 この工程としてはまず、小指の彼がもう半分の己の魂を肉体ごと取り込む。

 

 その状態で、次は肉体と融合する。これらの過程はいっぺんに行う。時間を空けて行わないのは、一応理由がある。

 

 魂を先に取り込んで融和させると、その「柱間」が小指の彼のように肉体を融合させられるかわからないからだ。

 

 これは感覚の違い──とでも言えばいいのか。

 植物(または呪霊)として生きてきた小指の彼と、人間の柱間ではそこが大きく異なる。

 

 一方で肉体から先に融合させると、もし「新植人類」になってしまった場合、魂を取り込めなくなる──なんてことがあり得るかもしれない。

 

 要は一纏めに行った方が、かえってリスクが少ないだろう、という考えである。

 どのみち、小指の彼の負担は大きい。

 

 

「この墓の人間は、一応私の祖父母ということになるのか」

 

「叔母もいる」

 

「……そう」

 

 柱間はここの門番をやっている木に触れた。花御と過ごした懐かしい記憶が蘇ってくる。

 

 当時はこの場所から離れることで頭がいっぱいだった。しかし今になると、あのまま花御と二人で過ごせていたら──とも、思う。

 

「……ねぇ、柱間」

 

「なんだ?」

 

「君も…同じ『柱間』だよ」

 

「どうだろうな。それに…もう自分が誰かなんて、オレにはどうでもいいんだ」

 

 己が「柱間」ではない偽物でも、本物でも──。

 かけがえのない花御の友であるのが、「自分(オレ)」なのだと。彼はそう思っている。

 

「ここが……柱間の小指から生まれた、『オレ』の墓だ」

 

 木の中に、柱間の小指が飲まれていく。柱間が手を取り出すと、そこには先ほどあったはずの小指が無くなっていた。

 

「……何をしたんだい?」

 

「骨を埋めただけだよ。この墓に」

 

 そう言い残し、柱間は歩き出した。羂索は幼子を抱えなおし、その後に続く。

 

 一面の花吹雪が彼らの姿を覆い隠す。

 じゃあな、と呟いた柱間の声は、風の音とその吹雪に飲み込まれた。

 

 

 ──────お前には、『花御への愛(この想い)』はやらねぇよ。

 

 

 小指にその愛ごと埋めて、彼は散る。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 柱間の肉体は『千手一族』が取り締まる場所に、天元と共に隠されている。

 

 そこは当然結界で守られている。千手の人間にとって天元とは、()()不死であり、神である。

 

「天元って不死なだけじゃなかったっけ?」

 

「奴の姿は最後に会ってからもう何百年も見ていないが……「不老」という噂は本当なんじゃないかな」

 

 不老の理由は間違いなく、柱間の細胞にある。

 細胞を肉体に移植した影響のひとつだろう──というのが、羂索の見解だ。

 

「結界の解析と解体は私が行う。ただ、これで終わりではない」

 

 その結界とは別に、天元のいる場所は天元自身の結界で守られている。これを破る場合は、さすがの羂索でもかなりの時間を要する。ただし、この結界は破る必要がないと彼女は踏んでいる。

 

「一応、破れる見積もりはあるわけね」

 

「私を誰だと思っているんだ。羂索さんだぞ?」

 

 当然というか、侵入者に対し千手一族の者が攻撃を仕掛けてくるだろう。

 天元を嫌っている割には協力的な羂索に、柱間は眉を寄せる。

 

「いいのか? お前は柱間を独占したいんだろ? だったら、それこそ天元の存在は邪魔なはずだ」

 

「じゃあ何がなんでも殺してくれる? あの女のこと」

 

「……オレは嫌悪感を持ってるが、ヤツの友人だしなぁ…」

 

「それに君がすべての記憶をもう一人の自分に渡すと言ったんだろ? 天元のみの記憶を消すなんて都合のいいこと、してくれるわけないだろ?」

 

「あぁ。……まぁ、()()渡すとは言ってねぇが」

 

「ハ?」

 

「その記憶を渡さない方が、お前にとって利になる」

 

「……なら、いい」

 

 

 

 それから、いよいよ侵入することになった。

 

 柱間はすぐ側で結界を解析する羂索にさとりでも開いた心境で、術師たちを相手取る。

 

「………」

 

 ちなみに、その羂索と幼子は柱間の中にいた。イメージとしては、木の穴を想像してもらいたい。その中に羂索たちが入っているイメージだ。この二人を入れるため、柱間は樹木ボディーである。つまり、動く大樹だった。羂索と意思疎通する場合は、うろの中にある口が会話する。

 

 なぜこのようなトリッキーな陣形を組んでいるかと言えば──ひとえにそれは、天元の存在が理由にある。

 

 これが、羂索が「天元の結界を破る必要はなくなる」と判断した理由でもある。

 

 天元が柱間の存在に気づいた場合、羂索が離れている間に隔離・拉致される可能性が高い。そのため、このような愉快痛快な姿を取っている。

 

「フ、フフフッ………ますます化け物じみてるね、君」

 

「結界を解くのに集中しろや…」

 

 間もなくして、屋敷を覆っていた結界が解けた。

 術師たちは四肢を木に絡め取られ、呪力を吸われた挙句にダウンしている。

 

「つか、本当にこの姿で天元が気づくのか?」

 

「見知った術式だ。否が応でも反応するさ。心配だったら私が提案した人面木になればいい」

 

「オレの美的センスがそれを許さないのですわ…」

 

「では仕方がない。私が付けよう」

 

 羂索は持参したお面を装着する。これは型のお面に人皮を張り付けた、意匠の凝った一品である。

 

 それを目にした──木の状態なこの男の目とは、そもそもどこにあるのか──柱間は、悲鳴を上げた。うろの中でその声がこだまする。

 

 

「オレのデスマスクやんけ!!!」

 

「これで天元も気づくだろう」

 

「その人面の入手経路を教えろ! 阿呆ッ!!」

 

「ナ・イ・ショ♡」

 

 羂索は至極愉悦そうに、ケラケラと笑った。

 

 

 サイズを小さくして屋敷に侵入する木と、そのうろの中に潜んでいる人面を付けた男&四肢のない幼子の組み合わせ。彼らはアンダーグラウンドからの使者に違いない。

 

 内部もまた千手が張った結界が複雑に仕掛けられており、これを一つ一つ羂索が解いていく。この結界は千手の者であれば、通り抜けることができるらしい。

 

 千手の者たちが混沌に陥る中、柱間たちは天元の元へ向かった。

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