フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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43話 もぅマヂ無理・・・人類滅ぼそ

 細胞同士が混ざり合った後、柱間の肉体は頭が再生した以外に大きな変化はなかった。

 羂索は柱間が起きるのを待った。その間に天元の世話をする羽目になった。

 

「なぜ私が貴様の介護をしなければならないんだ……」

 

 文句を垂れつつも、柱間と約束した手前、ほったらかしにするわけにはいかない。

 羂索の怒りと献身の甲斐もあり、天元は少しずつ精神が回復していった。

 

 

「貴様……まさか、小娘か…ッ!!?」

 

「今更か。ボケ老人め」

 

 

 天元の介護が始まり早数年。ようやく天元は羂索のことを思い出した。

 

「……ん? 「小娘」ということは……なぜお前は男になっているんだ?」

 

「ハァー……」

 

 少し考えれば、術式によるものだと分かるだろう──と、羂索は頭を押さえる。

 

 まだ天元のボケは完全に抜け切っていない。それでも、目を離した隙に柱間に乗っかっていることは無くなったので、まだマシになった。

 

 そんなに()()()ならと、羂索は乗っ取っている肉体で躾けてやろうかとも考えた。

 

 しかしそれはやめた。やると間違いなく、『天元を害する』方面に歯止めが利かなくなりそうだったからだ。

 

 

 

「本当に、この男はまだ目覚めないのか…」

 

 それから、また時が流れた。

 

 天元の方は以前の──羂索がよく知るものに戻った。同時に、天元の老化もまた急速に進んでいった。

 

「またこの私に介護をさせる気か、貴様……」

 

「この変化は至極真っ当なものだよ」

 

 これは天元が「()()不死」と呼ばれるようになった理由でもある。

 

 本来の彼女は不死なだけで、不老ではない。老化をし続けた末にどうなるかは、すでに天元も……そして羂索も理解している。

 それを防ぐために、因果によって天元の器と六眼が現れるのだ。

 

 数百年ぶりに六眼の赤子が生まれたという話は、羂索も耳にしている。器の人間を千手一族の人間が保護した、という話も聞いていた。

 

「私の老化は止まっていたのではなく、()()()()()()()だけだ。それが無くなってしまえば、これまで堰き止められていた老化(もの)が一気に進んでも致し方ない」

 

「すっかり人外の見た目になって、良かったじゃあないか」

 

「……フンッ」

 

 

 この解決方法は簡単だった。千手の者たちが『儀式』として天元に行わせていたことをすればいい。

 ただ、正気を取り戻した天元にはそれができなくなっていた。もう後の祭りな話ではあるのだが。

 

「………は、柱間は互いに同意が必要だと言っておった」

 

「今更過ぎるな」

 

「そうだ、今更の話だ……!! だが、だからこそ私にはできぬのだ!!」

 

 それに、と天元は語る。

 

「ババアどころか、異形になってしまった私など、気味が悪いだけだろう…」

 

「それこそ柱間への侮辱だな」

 

「………」

 

「やつは私が私でなくとも、必ず娘の私を愛してくれる。まぁ、勝手に子を作った貴様を、また『友』と呼んでくれるかは分からないけどねぇ…」

 

「……ッ」

 

「フフフ…」

 

 天元の曇り顔は、羂索にとって至上のスパイスになる。そもそも彼女はただ厳然たる事実を述べたのみである。意図して天元の傷をえぐってやろうとしたわけではない。ただ、本当に偶々述べた事実が、天元にクリティカルダメージを与えてしまっただけだ。

 

(どの道、近い将来天元が器と同化する必要性が出てくるわけだが……)

 

 これは羂索にとって一つの好機だった。理想郷を追い求める心とは違う、好奇心が織りなす探究心の野望。

 

 その野望の果てで、柱間との安穏を望みたい。世界が綺麗さっぱりとした中で、二人だけの時を。

 

 

 この理想郷と、大いなる野望。

 

 そして人間への嫌悪と、人間への探究心(これは「お前らもっと頑張れるだろォ!」な心情である)。

 

 それぞれ二つが押し合いへしあって、今の羂索を動かす。

 

 

(同化さえしなければ、天元が消える上に、私の野望に大きく役立つ…)

 

 ただ、一応『縛った』手前、柱間が目覚めるまでは天元に明確な害を為せない。

 天元が同化に対し積極的ならば、それを止める行為は「害」となる。

 つまり害認定を避けるには、天元が同化に否定的であればいい。

 

 

「……羂索」

 

「何だい、ババア」

 

「…こやつの肉体は、私を食えると思うか?」

 

「ハ?」

 

 天元の手が、眠り続けている柱間の体に触れた。

 

「己のことだ。やがて自分がどうなるのか、お前よりも理解している」

 

 老化し続けた天元に待ち構えるのは、肉体の進化である。すると、やがて天元という人格は消える。

 進化したその存在がはたして人類の味方となるのか、敵となるのか、それは彼女にも分からない。

 

「私が気づいていないとでも思ったか? これでも歳はお前や柱間よりも上だ」

 

「さあ? 何のことかな」

 

「お前の好奇心は度が過ぎている。私の子孫にもちょっかいをかけていただろう」

 

 ボケていようとも、言伝に情報は入ってくる。行方不明になったその子孫たちと、この、知的好奇心が細胞の基となっていそうな羂索。

 二つの点と点を合わせ、さらにそこに柱間(バケモン)細胞を足せば、自ずと真相は見えてくる。

 

 

「いいじゃないか、()()()()()。貴様も内心では見限っているんだろう? 真の太平の世など、訪れることはないのだろうと」

 

「……そうかもしれないな」

 

「ならばよいだろう。私はね、遊ぶなら本気で遊びたいんだ」

 

「…だからこそ、禍根の種はその根本から取り除いた方がよかろう」

 

 羂索という人間は知的好奇心で、何人だろうが、何十人だろうが犠牲にできる。天元が知らないだけで、これまで色々と裏で行ってきたのだろう。

 

「お前の度は、私の不干渉の域を越えている。──否、越えようとしている」

 

 羂索が天元を使い、何を目論んでいるかまでは分からない。しかし、絶対にろくでもない計画なのは確かだ。

 

 

 それに、すでに生き疲れた天元が、心の底から死を望んでいるのは本当だ。

 

 死んでも死なないこの柱間の細胞なら、天元を食らい殺すこともできよう。

 愛する男に殺されて一つになれたら、それは幸福なことだろう。そう、天元は思う。

 

 

「………きっしょ」

 

 

 羂索は吐き捨てるようにそう言った。その表情はしかし、純粋な嫌悪とは違うものもあった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 その日は曇天だった。

 

「ハァ…!?」

 

 唐突に眠り男が消えた。羂索は慌てて中を探った。外へはまず、絶対に逃げられない。結界術のレジェンドとプロフェッショナルが携わっている空間だからだ。

 

 天元の方はといえば、本体が動けない状態になり、最近は思念体でウロチョロしている。その天元を見つけたかと思えば、彼女の視線の先に着物を肩に引っかけた男が窓のヘリに腰かけていた。

 

 天元はどう声をかければいいか迷っているようで、立ちすくんでいる。

 柱間は連子(れんじ)窓から外の景色を眺めていた。

 

「今日は、曇りか」

 

「………っ」

 

 小指の彼とは違う、その柔らかい口調。

 

 羂索もまた、石化したように動けなくなった。隙間から差し込む光を受けた柱間の姿は、黒いシルエットとして浮かび上がっている。

 

 

「おいで」

 

 

 その言葉に、羂索の体が動いた。衝動的にその体に飛び込む。

 それなりの勢いで突っ込んだはずだが、木でも押しているかのように微動だにしない。

 正気の天元がいる場で、子どものように泣きたくはなかった。それでも、涙は止まらなかった。

 

「天元も来いよ」

 

『………』

 

「なんだ、オレのことは嫌いになってしまったか?」

 

『違ッ──!!』

 

 柱間は怒るでもなく、口元に微笑を浮かべて天元に手を差し伸べている。

 拒絶されて然るべきことをしたはずだった。それを彼女が口にすれば、柱間は頰をかく。

 

「お前のやったことも、ついでにこのサイコパス娘が仕出かしただろう諸々のことも……元を辿れば、オレがあんな死に方をしたからで…」

 

『己が全部悪いと、申すのか?』

 

「………」

 

 柱間の眉が困ったように下がった。その表情が、少しずつ消えていく。瞳の中はがらんどうになり、その顔が羂索の頭の上にしなだれがかった。

 

 天元に差し出していた手が、ゆっくりと落ちていく。天元は咄嗟にその手を握った。

 

 

『柱間…?』

 

「オレの、浴びてきた地獄は、おまえの地獄の一端だろうか」

 

『………柱間』

 

「お前の理解者のように振る舞い、『友』になろうとオレから言っておきながら、お前のことも羂索のことも残して死んじまって、死んだ先にも、その先にもその先にも、ずっと地獄があって……」

 

 泣いていた羂索が養父の異変に気づき、体を離した。するとそのまま彼女の方に体が傾く。

 柱間の瞳は涙すら流れず、ただ虚空だった。

 

 

 

「オレは人の心の上部をなぞるだけの偽善者で」

 

 優しくした後の彼らはすっかり疲れ切っていて。

 

「ろくに約束も守れないクソ野郎で」

 

 裏松だった頃の裏梅(家族)や、恩人である菅原の君の姿を思い出す。

 

「誰かをいつも傷つけて」

 

 呪霊でありながら友だった、花御の姿が浮かぶ。

 

「自分を愛することさえできない」

 

 もう一人の自分は、最後に彼に強烈なビンタを食らわせて柱間の魂に混ざっていった。

 

 

 

「死にたい」

 

 

 

 柱間の根底にある希死念慮(ヘドロ)

 

 ずっと死にたかった彼は、死んでもなお、死ねていない。

 心がバラバラになってしまいそうになるが、それもできない。そのせいで自分自身が苦しめられていたのだから。

 

 ならば、生きるしかなかった。

 

 この地獄で?

 

 

 

「……お前が死んだら、私はこの世界を滅ぼすからな」

 

 羂索は動かなくなったその肢体を抱きしめて。

 

『………』

 

 天元は愛する男の壊れ具合を見て、胸が張り裂けそうになった。そして、この世の地獄を生み出す人間というものに、仏が見放すような──そんな心境に至った。

 

 地獄の先も、地獄があり続けるというならば────。

 

 

 

『……撤回だ、小娘。私もお前の船に乗ってやろう』

 

「ハッ?」

 

『…なに、愛ほど歪んだ呪いは無いということだよ』

 

 

 

 この世が終わってしまうのか否か。

 すべてはまさかの、この鬱男にかかっていた。

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