フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
旅に出たオレは、ひとまず都に行くことにした。道中で人助けをしたら、身ぐるみを奪われる……を何度も繰り返しつつ、どうにかたどり着いた。
(というか何でオレって、歳をとってないんだ…?)
旅の途中で疑問に思っていたことだ。おそらくは植物になっていた影響かとは思う。老化が止まる、あるいは千年以上も生きられる植物のように、老化が遅くなっていたのかもしれない。
(まぁ、浦島太郎になっていたのも大問題だったが……)
これまで背負っていた使命を、老人の頼みで下ろしてしまった。あの時のオレの選択は間違っていたんだろうか?
ーー分からない。分からないからこそ、自問自答を繰り返している。
(オレの意識が戻るまでに、長い時間が必要だったのかもしれないな。ただでさえ、体が植物になってたんだ)
この木の変化は、新たな力をもたらした。自分の体を木に変化できるようになったのだ。例えば木にした手で、飛んでいる鳥を射抜くこともできる。
ちなみにこの変化は、自分の体に『気』を流し込んで操作する。変化した部位に傷を負った場合、痛みはない。仮に途中で切断された場合でも、戻した腕が途中で切れている…ということもない。
「……まずは働かんとな」
今のオレの手持ちは着物以外に何もない。旅中で何度全裸になったことか…。卑しき心を持つ人間がいる一方で、慈悲に満ちた人間もいる。後者の寛大さに幾度も救われ、都で全裸……という事態は免れた。
しかし現実は甘くなかった。オレが浮浪人だという現実だ。
浮浪人の身で職が見つかったとしても明らかに違法だろ、というものが多い。結局森で狩りをして肉をいただく日々が続いた。オレはサバイバルをしに来たんじゃないんだよ。
そんな折、追っかけられていた悪党を捕まえたことで、その腕っぷしを認められた。そこから話が転がって、貴族の用心棒にならないか、という話になった。
「オレは浮浪人の身なのだが……」
「ならば、お前にとって都合がいいではないか! 衣食住は保証してやるぞ?」
「本当か!?」
話はトントンと進んだ。用心棒の仕事は屋敷を守ったり、主人が出かける時の警護などが主な内容だった。
それから用心棒の仕事は順調に進んだ。屋敷の娘も浮浪人であるオレに優しく接してくれる。まだ幼いにも関わらず、寛大な娘だった。娘はよく、木の影からオレを見つめていることが多い。
(きっと遊びたいのだろうな…)
構ってやりたかったが、仕事中だ。しかも身分の違いがある。ゆえに、手を振ってやるくらいしかできなかった。
「柱間様が、手を振ってくださったわ……!!」
娘は元気に走り出した。その拍子に転びそうになったので、こっそりと木で助ける。向こうは何が起こったのか分からないようで、辺りをキョロキョロ見回していた。
(力はなるべく隠さんとな……)
オレや父のような特殊な『力』を持つ人間は、とんと少ない。旅中でもしかしたら出会うこともあるかもしれんと思ったが、ついぞ出会さなかった。
特殊な力は、使うだけで目立つ。色々と悩んだ末に、なるべく人前では使わない判断を下した。それでも先ほどのような場合は使う。ケガをして、娘が泣く姿を見るのは嫌だからだ。
子どもの涙は不幸で、微笑みは幸福だ。
だから子どもは、笑っているべきなんだ。
◇◇◇
貴族に悪感情を持つ人間はいる。オレは、争いばかりが人間の本質だと思いたくない。
娘が出かけたいと申すので、その日は護衛として付いて行った。主人殿からは、「お父さんの目が黒いうちは、絶対に許しませんよ!!」」と言われている。それに娘は「そんなこと言うお父様なんて嫌い!!」とプリプリ怒っていた。
「今日は着物を買いに行くわよ!」
「楽しそうだな」
「うん! 張り切って柱間様の着物を選ぶわ!!」
「そうか! ………うん?」
なぜ娘君がオレの着物を? 父親と言い争っていたのは、それが原因だったのか?
いや、その前に、なぜ娘君がオレに「様」をつけてるんだ? 前にやめて欲しいと伝えたはずだ。
(……あぁ、なるほど。オレの普段の服装を気遣ってくれたのか)
やはり優しい娘だ。「ちゃんと私を守らないといけないんだから、手を繋がなくちゃ!」とも言ってくる。思わず握られる前に手を引っ込めたオレを見て、娘君は瞳を潤ませた。
「私のこと、嫌い…?」
「いや、そう言うわけではなく……」
「じゃあ握りましょ!」
「……わかったぞ」
オレにとっては娘ほどの子どもの手は、何とも小さく温かい。その体温が何だが目頭を熱くする。自分の死んだ妹のことを考えてしまったからだろうか? 同時に、オレを慕ってくれていた村の子供たちの顔も思い出す。
「…そ、そんなに嫌だった?」
「……いや。昔のことを、色々と思い出してしまってな」
木になり意識がなかった間も、オレの魂は歳をとっていたのかもしれない。年寄りのように、感慨深くなってしまう。
「すまんな。よし、行こうか!」
オレは涙を拭って、娘君に笑いかけた。
それから待っていたのは、着せ替え人形にされる時間だった。選んでいる側は楽しそうだったが、待っている側は時の流れが遅い。
「私が選んでいるの! さぁ、さぁさぁ、目の前で早く着替えてちょうだい!!」
「………!!?」
娘君がオレの前合わせをつかんだ。何だ? 何が起こっている? 一瞬固まったが、手をつかんで下ろさせた。女が服を選ぶ情熱はこんなにもすごいものだったのか…。驚いた。
「少し待っていてくれ」
娘君の頭を撫でて──驚きのあまり、思わず触れてしまった──から、仕切りの裏に入る。そして着替えて出てくると、娘はさっきと同じ体勢で固まっていた。
「着替えたが……娘君殿? どうなされた?」
「………頭、撫でてもらっちゃった」
「あぁ、いや、これは少々驚いてしまってな」
「頭……もっと、撫で撫で…」
「えっ?」
「して………いや、しなさい。命令よ!」
何だかお気に召したらしく、娘君の気が済むまで頭を撫でた。オレにも娘がいたら、こんな感じなのだろうか?
「じゃあ、帰りましょう!」
ご機嫌な娘君は、元気よく走っていく。その後ろを慌てて着いていった。両手は買った着物を包んだ風呂敷で塞がっている。
「走ったら転ぶぞ!」
「大丈夫よ! 私は子どもじゃないもの!!」
「いや、子どもだぞ!?」
不意にその時、手前にある建物の裏から複数の男が出てきた。ソイツと目が合った瞬間、悪意を感じた。
連中の一人が懐に手を伸ばす。もう一人は、娘君の退路を塞ぐように出る。
娘君が気づいた時には、すでにぶつかる直前だった。
「────『縛れ』」
地中から這い出た細い木が、蔓のように動き男たちを拘束する。カランと落ちた刃物を目にした娘君の顔から、たちまち血の気が失せた。
「大丈夫だ。オレが守る」
安心させるように、娘君の頭を撫でてやる。それから男たちの顔を一発ずつ殴り気絶させた。コイツらは主人殿の元に連れて行って、処遇を決めてもらう。こういうのは、貴族間のいざこざが原因の場合もあるからな。
「は、柱間っ…!」
「よしよし、怖かったな。用心棒なのに、オレがこれではな…」
「ううん。ありがとう……」
娘君は震えて歩けぬ様子だったので、許可を取ってから腕に乗せるように抱えた。風呂敷は空いた手で器用に持つ。気絶している奴らは、ほかの用心棒に任せた。
「…柱間様のお顔、近いわ」
「ム? まぁ、そうだな」
小さな手がギュッとオレの頭を抱くように握る。娘………娘か。養子とか、取れないかな。父親が生まれた娘を見て、号泣していた気持ちが今さらになってわかってくる。
(……なんか、ガン見されてるな)
帰る間、娘君はずっとオレの顔を凝視していた。なぜかそこには張り詰めた緊張感があった。
【補足と色々】
・樹木化について
首を切られた直後に、柱間細胞が本人の危機を察知して覚醒し、主人公の魂が肉体から離れる前に植物化して生存しました。そして頭を基盤に時間をかけて木が成長していった流れ。肉体の方も同様の力が働き、樹木化しました。アニマルたちは
ただ死にかけた影響で魂と肉体に誤差が生じて、主人公が目覚めるのに時間がかかりました。
魂が肉体に残留できたので生存判定。なので呪霊化はしておりません。人間から、覚醒した全身柱間細胞の人になっただけです。
(意図としては柱間細胞の覚醒→新しい力の獲得の流れの描写。あと今後主人公を苦しめの布石の目的。置いた布石が上手く発動してくれるかはまだ分からんけれども。
植物化はNARUTOの方でも柱間細胞が暴走→木になる描写があったので個人的に大丈夫かなと)
・主人公
※あくまで柱間本人ではなく、柱間として転生した中身は一般人(多分)の青年です。もし読まれる場合は、その点に留意してください。
私のモチベ的に、執筆の楽しさと、作品が読まれる中で発生する自己否定感で右往左往しがちなので、温かい目で見ていただけたら助かります。