フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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7話 運動不足のお姉さん

 オレが『木になっていた』話を聞いた天元に、「君は、人間なのか…?」と言われることになった。

 

「少し体を見せてくれ。確かめてみたい」

 

「まぁ、よいが…」

 

 着物を片脱ぎして、採血する時のような姿勢で天元に腕を差し出した。オレの腕を掴んだ天元は「フム…」と興味深そうに見る。割と遠慮なく、まるでパンをこねるように肌を触られた。

 

「君の体は呪力でできている呪霊と異なり、人の(つくり)をしている。しかし肉体を木に変化させることができるというのは……いささか信じられない」

 

「もういいか?」

 

「あぁ、失礼したね」

 

 オレの術式についても聞かれた。室内だとうっかり屋根を壊す可能性があるので、一度外に出た。

 

「おぉ……木が生えてきた」

 

 天元の側に木を生やして見せる。こうした物質を作り出す例として、『構築術式』というものがあるらしい。

 しかし、構築術式は燃費が非常に悪いそうだ。

 

「柱間の木を創る力は、構築術式の“無から有を生み出す”点を考えると、それなりの呪力を消費しているはずだ」

 

 ただ──と、天元は消えていった木を見て続ける。

 

「創り上げた物質は残らない。構築術式で構築した物質は、壊されでもしない限りは半永久的に残るからね」

 

「…いや、木に付与した性質次第で、残すことも可能だ。その場合は木に呪力を供給させ続ける必要がある。まぁ、基本的に何もしなければ消える。この性質の付与も、生やした後の木に追加することはできない」

 

「なるほどね……目安として、柱間の呪力量を確かめたいな」

 

「そうさなぁ…」

 

 オレも自分の限界を知らないんだよな。その、呪力が尽きてバッタリ倒れる……というような経験がない。

 自分の底を知っておくのは、自身のためにもなると思った。

 

「そうとなれば、もっと場所を移そう。人のいない場所の方がいい」

 

「……私が頼んでおいてなんだが、何をする気なんだい?」

 

「簡単だ。木を生やすだけだぞ」

 

 

 

 一人で森の中を進むのだったら、自分の術式を使ってスイスイと進める。しかし今回は天元がいた。安全性を考慮して徒歩で行くことにする。

 

「ゼェ、ハァ……」

 

「…大丈夫か、天元?」

 

 あまり外に出ないと言っていた天元は、陽に当たっていない影響で肌が雪のように白い。いやでも、まだ歩いて30分も経ってないんだよな…。

 

「日ごろ、運動して…ゲホッ、いないのが……裏目に出ているようだ…」

 

「おぶろうか?」

 

「甘く見ないでくれたまえ。これくらい、どうってこと──」

 

 その10分後、天元はオレの背中に乗った。

 背負っている状態だったら、木を伝って上から直線的に進める。しかし木にジャンプした直後、グロッキーになっている天元が口を押さえたのでやめた。もっと外に出て運動しような、天元。

 

 

 それからまたしばらく歩いて、完全に人気のない場所に来た。天元の顔色もだいぶ良くなっている。

 

「ところで柱間、君は自分の術式を何と呼んでいるんだ?」

 

「そう言えば、決めていなかったな…」

 

○○(ナントカ)術式』と命名するとして、オレの力は木を操るから、『木』の文字入れたいところだ。

 

「………『()術式』!」

 

「自分でその術式名にして、後々後悔しないか?」

 

「すると思う」

 

 呪霊を花粉で殲滅する『香取木』の名前を思いついた時は、我ながらよくやったと思った。今はその時のひらめきが舞い降りてこない。

 

「では、『木遁操術術式』はどうだ?」

 

「おお! 良い名だと思うぞ!木遁操術ずつs……」

 

「………「じゅつ」が二つ続くのはくどいか。なら、「術式」を除こう」

 

「天元、そこは指摘してくれた方がオレの傷が減る」

 

 結果として、術式名は『木遁操術』になった。オレの恥はともかく、ネーミングセンスのある天元の術式もまた、思わず唱えたくなるような語呂の良さに違いない。あとで聞いてみよう。

 

「加減が分からぬから、万が一のためにオレの側にいてくれ」

 

「あぁ、了解し……」

 

 天元の肩を引き寄せて、足元から地面に呪力を行き渡らせる。

 イメージするのはオレが自分の術式に目覚めた時の、あの樹海の姿。……「樹」々の中に「海」があるってのもどうなんだ? もっと……そうだな。樹々に覆われた世界。すなわちそれは、『樹界』。それをこの地に降臨させる。

 

「うわっ!」

 

 足場を押し上げる木にぐらついた天元。オレが抱えた方が早いと考え、片手で持ち上げた。

 視界がどんどん上がる。それにしたがって、あたり一面に生い茂っていく木々の姿も見えた。まだ自分の底が見えない。

 

「おい、柱間…」

 

 どこまで行けるんだ? 水の中を潜り続けているような感覚に陥る。いつ底が見える? 

 

「おいっ…!」

 

 呪力を著しく使っているものゆえか、それとも底が見えないことへの焦りなのか。額から汗が伝う。

 

 

「柱間!!」

 

 

 顔を叩かれた衝撃で、我に返った。気づけば小さな都の姿が見えるまでの高さになっている。オレの顔を叩いた張本人の顔を見ると、震えていた。

 

「高い……!!」

 

「す、すまん…」

 

 やらかしてしまった。天元に目を瞑るように言って、ゆっくりと木の高度を下げていく。地面に足がついた彼女は固く瞑っていた目を開け、ホッと安堵の息をついた。

 

「………本に、すまなかったぞ…」

 

「謝るな。私にとっては、自分に恐れるものがあったのだと知れて有意義だった」

 

 項垂れているオレの肩に、励ますように手をポンポンと叩く。身長差があるせいで、天元はつま先立ちをしていた。

 

「それで、自分の呪力の底は見えたのか?」

 

「見えなかった。ただ少し、疲労感はある」

 

「………アレで、()()なのか。規格外だな、お前の呪力量は…」

 

「照れるのう」

 

「落ち込んだり照れたり、忙しい男だな…」

 

 そう言いつつも笑う天元は、すっかり人間だ。普通の、どこにでもいそうな女子だ。

 

「そう言えば聞いてみたかったんだが、天元の術式は何なんだ?」

 

「……私の術式か?」

 

「あぁ」

 

「……そうだな、お前も教えてくれたのだ。私もお前に教えよう」

 

 天元は、自分の術式が『不死化術式』だと話した。

 不死。死なず、生き続けるということ。

 

「それは………」

 

「私は死なぬのだ。死ぬケガを負っても、死なない。しかし歳はとる。不老ではない。それでもまぁ、実際の歳の取り方よりは、若々しく見えているだろう」

 

「ということは、オレが木になっていた期間を含めても、歳上なのか…?」

 

「乙女に歳を聞くな。馬鹿者」

 

「す、すまん……」

 

「フゥー…そろそろ帰ろう。日が暮れぬうちに」

 

「…そうだな」

 

 天元よ。それは、死なぬのではなく、「死ねぬ」ということではないのか? おんぶを所望した彼女を抱えながら、オレはそんなことを考えた。

 

 天元が以前見せた諦観の色が、その不死の内容と結びつく。

 

 オレは何かを、彼女に言いたかった。ただ、すべての言葉が喉の奥で詰まる。それこそ、弟が嫌っていたような『偽善者』の中でも、口先だけの偽善者になる。

 

 オレが行動したところで、救ってはやれない。仮に救うならば、それは天元を殺すということだ。“救う”ために、“殺す”のは間違っている。

 

「健康的な肌が青白くなっているじゃないか」

 

「ぐえっ! 可動域以上に首を曲げようとするな……!!」

 

 人間の首は180度も曲がらない。勘弁してくれ。

 

「本当に、君は優しい人間なんだな」

 

「それで痛い目に遭ったことも、何度もあるがな…」

 

「美点と同時に、欠点というわけだ。私が悪い人間だったら、今ここで簡単に君の首の骨を折っていただろう。油断は大敵だぞ」

 

「しかし、お前はオレを傷つけようとはしないだろう?」

 

「……さて、どうだろうか」

 

「天元はオレを傷つけんよ。お前はオレの友人だからな」

 

 後ろからため息が聞こえた。天元の重心がオレの背中にぐっとかかる。そして首に細い腕が回った。

 

「君といると、私の無くしたものが増えてしまう」

 

「……嫌か? その感覚は、お前にとって」

 

「今は、嫌だと思うよ。無くしたものが増えると、私の心が参ってしまうんだ。だからこそ、無くしたというのに」

 

「………オレの、おせっかいだったか?」

 

「あぁ、おせっかいだ。迷惑を被った責任をとってもらいたいくらいだ」

 

「…お、オレにできることなら、引き受けるぞ」

 

()()()か?」

 

「──何でも、と公言はできん」

 

「チッ」

 

 天元は後ろからオレの首を絞めた。だって弟が言ってたんだ。「「何でも」って言うやつには気をつけろ」って。

 

「では私を抱っこしろ」

 

 天元の仰せのとおりに、おんぶから抱っこ──というか、姫抱きした。ついでに目を閉じるように言われる。

 

「………お前、チョロすぎるぞ」

 

「目を閉じろと言ったのは天元だろう」

 

 結局「もういい、開けろ」と言われ、目を開けた。

 帰り際、天元はずっとおとなしかった。

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