フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
オレが『木になっていた』話を聞いた天元に、「君は、人間なのか…?」と言われることになった。
「少し体を見せてくれ。確かめてみたい」
「まぁ、よいが…」
着物を片脱ぎして、採血する時のような姿勢で天元に腕を差し出した。オレの腕を掴んだ天元は「フム…」と興味深そうに見る。割と遠慮なく、まるでパンをこねるように肌を触られた。
「君の体は呪力でできている呪霊と異なり、人の
「もういいか?」
「あぁ、失礼したね」
オレの術式についても聞かれた。室内だとうっかり屋根を壊す可能性があるので、一度外に出た。
「おぉ……木が生えてきた」
天元の側に木を生やして見せる。こうした物質を作り出す例として、『構築術式』というものがあるらしい。
しかし、構築術式は燃費が非常に悪いそうだ。
「柱間の木を創る力は、構築術式の“無から有を生み出す”点を考えると、それなりの呪力を消費しているはずだ」
ただ──と、天元は消えていった木を見て続ける。
「創り上げた物質は残らない。構築術式で構築した物質は、壊されでもしない限りは半永久的に残るからね」
「…いや、木に付与した性質次第で、残すことも可能だ。その場合は木に呪力を供給させ続ける必要がある。まぁ、基本的に何もしなければ消える。この性質の付与も、生やした後の木に追加することはできない」
「なるほどね……目安として、柱間の呪力量を確かめたいな」
「そうさなぁ…」
オレも自分の限界を知らないんだよな。その、呪力が尽きてバッタリ倒れる……というような経験がない。
自分の底を知っておくのは、自身のためにもなると思った。
「そうとなれば、もっと場所を移そう。人のいない場所の方がいい」
「……私が頼んでおいてなんだが、何をする気なんだい?」
「簡単だ。木を生やすだけだぞ」
一人で森の中を進むのだったら、自分の術式を使ってスイスイと進める。しかし今回は天元がいた。安全性を考慮して徒歩で行くことにする。
「ゼェ、ハァ……」
「…大丈夫か、天元?」
あまり外に出ないと言っていた天元は、陽に当たっていない影響で肌が雪のように白い。いやでも、まだ歩いて30分も経ってないんだよな…。
「日ごろ、運動して…ゲホッ、いないのが……裏目に出ているようだ…」
「おぶろうか?」
「甘く見ないでくれたまえ。これくらい、どうってこと──」
その10分後、天元はオレの背中に乗った。
背負っている状態だったら、木を伝って上から直線的に進める。しかし木にジャンプした直後、グロッキーになっている天元が口を押さえたのでやめた。もっと外に出て運動しような、天元。
それからまたしばらく歩いて、完全に人気のない場所に来た。天元の顔色もだいぶ良くなっている。
「ところで柱間、君は自分の術式を何と呼んでいるんだ?」
「そう言えば、決めていなかったな…」
『
「………『
「自分でその術式名にして、後々後悔しないか?」
「すると思う」
呪霊を花粉で殲滅する『香取木』の名前を思いついた時は、我ながらよくやったと思った。今はその時のひらめきが舞い降りてこない。
「では、『木遁操術術式』はどうだ?」
「おお! 良い名だと思うぞ!木遁操術ずつs……」
「………「じゅつ」が二つ続くのはくどいか。なら、「術式」を除こう」
「天元、そこは指摘してくれた方がオレの傷が減る」
結果として、術式名は『木遁操術』になった。オレの恥はともかく、ネーミングセンスのある天元の術式もまた、思わず唱えたくなるような語呂の良さに違いない。あとで聞いてみよう。
「加減が分からぬから、万が一のためにオレの側にいてくれ」
「あぁ、了解し……」
天元の肩を引き寄せて、足元から地面に呪力を行き渡らせる。
イメージするのはオレが自分の術式に目覚めた時の、あの樹海の姿。……「樹」々の中に「海」があるってのもどうなんだ? もっと……そうだな。樹々に覆われた世界。すなわちそれは、『樹界』。それをこの地に降臨させる。
「うわっ!」
足場を押し上げる木にぐらついた天元。オレが抱えた方が早いと考え、片手で持ち上げた。
視界がどんどん上がる。それにしたがって、あたり一面に生い茂っていく木々の姿も見えた。まだ自分の底が見えない。
「おい、柱間…」
どこまで行けるんだ? 水の中を潜り続けているような感覚に陥る。いつ底が見える?
「おいっ…!」
呪力を著しく使っているものゆえか、それとも底が見えないことへの焦りなのか。額から汗が伝う。
「柱間!!」
顔を叩かれた衝撃で、我に返った。気づけば小さな都の姿が見えるまでの高さになっている。オレの顔を叩いた張本人の顔を見ると、震えていた。
「高い……!!」
「す、すまん…」
やらかしてしまった。天元に目を瞑るように言って、ゆっくりと木の高度を下げていく。地面に足がついた彼女は固く瞑っていた目を開け、ホッと安堵の息をついた。
「………本に、すまなかったぞ…」
「謝るな。私にとっては、自分に恐れるものがあったのだと知れて有意義だった」
項垂れているオレの肩に、励ますように手をポンポンと叩く。身長差があるせいで、天元はつま先立ちをしていた。
「それで、自分の呪力の底は見えたのか?」
「見えなかった。ただ少し、疲労感はある」
「………アレで、
「照れるのう」
「落ち込んだり照れたり、忙しい男だな…」
そう言いつつも笑う天元は、すっかり人間だ。普通の、どこにでもいそうな女子だ。
「そう言えば聞いてみたかったんだが、天元の術式は何なんだ?」
「……私の術式か?」
「あぁ」
「……そうだな、お前も教えてくれたのだ。私もお前に教えよう」
天元は、自分の術式が『不死化術式』だと話した。
不死。死なず、生き続けるということ。
「それは………」
「私は死なぬのだ。死ぬケガを負っても、死なない。しかし歳はとる。不老ではない。それでもまぁ、実際の歳の取り方よりは、若々しく見えているだろう」
「ということは、オレが木になっていた期間を含めても、歳上なのか…?」
「乙女に歳を聞くな。馬鹿者」
「す、すまん……」
「フゥー…そろそろ帰ろう。日が暮れぬうちに」
「…そうだな」
天元よ。それは、死なぬのではなく、「死ねぬ」ということではないのか? おんぶを所望した彼女を抱えながら、オレはそんなことを考えた。
天元が以前見せた諦観の色が、その不死の内容と結びつく。
オレは何かを、彼女に言いたかった。ただ、すべての言葉が喉の奥で詰まる。それこそ、弟が嫌っていたような『偽善者』の中でも、口先だけの偽善者になる。
オレが行動したところで、救ってはやれない。仮に救うならば、それは天元を殺すということだ。“救う”ために、“殺す”のは間違っている。
「健康的な肌が青白くなっているじゃないか」
「ぐえっ! 可動域以上に首を曲げようとするな……!!」
人間の首は180度も曲がらない。勘弁してくれ。
「本当に、君は優しい人間なんだな」
「それで痛い目に遭ったことも、何度もあるがな…」
「美点と同時に、欠点というわけだ。私が悪い人間だったら、今ここで簡単に君の首の骨を折っていただろう。油断は大敵だぞ」
「しかし、お前はオレを傷つけようとはしないだろう?」
「……さて、どうだろうか」
「天元はオレを傷つけんよ。お前はオレの友人だからな」
後ろからため息が聞こえた。天元の重心がオレの背中にぐっとかかる。そして首に細い腕が回った。
「君といると、私の無くしたものが増えてしまう」
「……嫌か? その感覚は、お前にとって」
「今は、嫌だと思うよ。無くしたものが増えると、私の心が参ってしまうんだ。だからこそ、無くしたというのに」
「………オレの、おせっかいだったか?」
「あぁ、おせっかいだ。迷惑を被った責任をとってもらいたいくらいだ」
「…お、オレにできることなら、引き受けるぞ」
「
「──何でも、と公言はできん」
「チッ」
天元は後ろからオレの首を絞めた。だって弟が言ってたんだ。「「何でも」って言うやつには気をつけろ」って。
「では私を抱っこしろ」
天元の仰せのとおりに、おんぶから抱っこ──というか、姫抱きした。ついでに目を閉じるように言われる。
「………お前、チョロすぎるぞ」
「目を閉じろと言ったのは天元だろう」
結局「もういい、開けろ」と言われ、目を開けた。
帰り際、天元はずっとおとなしかった。