貞操逆転借金返済生活   作:しあっと

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12話

 携帯の着信を知らせるバイブレーションで目を覚ますと、馴染みのない景色に一瞬、面くらった後に弓弦の家に泊まっていたことを思い出す。

 直ぐに携帯をとって、誰からの着信かを確認する。

 表示された名前は、『トオル先輩』。

 滝沢ではなかったことに安堵しながら、通話をつないだ。

 

『悪いな、いきなり』

 

「いえ。何かありましたか?」

 

『聞きたいのはこっちの方だよ。逃げる算段は付いたのか?』

 

「...ええ。まあ」

 

 透の問いには曖昧に答えるしかなかった。

 

『私は何をすれば良いんだ』

 

 すぐには答えられなかった。

 透ならきっとやり遂げるだろう。しかしリスクも大きい。

 

『どうしたんだ、カエデ』

 

 実行すればヘイトは間違いなく、透に向く。

 カタギの人間にやられたままでは千屋のメンツに関わってくるだろう。

 報復は確実にある。

 

『話を聞いた時から腹は括ってる。土壇場で裏切るようなことは絶対にしないと誓える。だから、だから私を信頼してくれ』

 

「裏切られるなんて思ってないですよ。今誰よりも信頼しているのはトオル先輩です」

 

『なら』

 

「でも、なんでそこまでしてくれるんですか?初めて会ったのだってつい最近ですよね」

 

『...そんなの分かりきってるだろうが。お前に惚れてるんだよ!それだけだ!女ってのはそれだけで、体を張れる生き物なんだよ!』

 

 透に好意を持たれているのは悪い気はしない。

 だがそれ故に、危ない事はして欲しくない。

 

「そんな事言われると、余計に頼みづらくなるじゃないですか」

 

『カエデはそんな事を気にしなくて良いんだよ。このままだと私は建部組の事務所に殴り込みに行くぞ』

 

「分かりましたよ」

 

 知らない所で危険な事をされるより、まだマシだ。

 殴り込みよりは安全な筈だろうし、やって貰うしかないだろう。

 

『よし、私は何をやれば良い』

 

「事務所の玄関に、血糊でもペイントボールでも血に見えるようなモノを撒いてください」

 

『それだけか』

 

 拍子抜けといったような声だった。

 

「はい。撒いたらすぐに逃げてください。ほかの人間に通報させて組の動きを鈍らせます」

 

『私に気を使ってるんじゃないだろうな』

 

「違いますよ。リスクはかなり高いです。あそこはカメラがついてるんで、先輩のことを突き止めて報復するはずですから」

 

『なるほどな。なら顔は隠したほうが良いだろうな。それでいつ動くんだ』

 

「明日の夜の予定です。確定したらまた連絡します」

 

『いつでも動けるように準備しとくよ』

 

「勝手に危ないことしないでくださいね」

 

『分かってるって』

 

 そう言って通話は切られた。

 あとはあの3人の説得か。

 

「カエデ?ヤクザどもから連絡か?」

 

 少し離れたところで寝ていた弓弦が起きてきた。

 電話の声で起こしたのだろう。

 

「事務所に血痕を作ってくれそうな人と、話をつけてたんです」

 

「それで、うまくいきそうか」

 

「はい。血痕の方はうまくまとまりました。あとは通報要員を口説き落とすだけです」

 

「私から金を出しても良い。状況的に手渡しは無理だろうが、コインロッカーにでも入れておけば良いだろう」

 

 最悪、金をちらつかせるのもありだろうが余計怪しさが増す気がする。

 むやみに報酬を与えるのも善し悪しだ。

 

「ありがとうございます。ただ弱みを握ってるんで大丈夫だと思います」

 

「お前もなかなかやるな」

 

 弓弦は感心したように呟いた。

 件の3人のうちの1人に電話を掛ける。

 名前は染井。

 3回ほどコールを鳴らすと、電話がとられる。

 

『なんのようだよ』

 

 不機嫌なようなどこかおびえたような複雑な声色だった。

 

「あの2人を呼び出して下さい。あなた達3人に仕事をやってもらいます。場合によってはあの写真を消してあげますよ」

 

『...本当ね』

 

「仕事をちゃんと果たせばですけどね。内容は集まってから話します。じゃあまた。出来るだけ急いで下さい」

 

 そう言って電話を切る。

 後は、千屋だ。

 名刺を確認して、電話番号を入力する。

 2回コールがなり終わらない内に、電話が取られる。

 

「もしもし。結城です」

 

『ほぉ、早いじゃないか』

 

「明日の午後11時頃に事務所に連れて行きます」

 

『それで良い。お前は黙って私に従っておけば良いんだ。そしたら、悪いようにはしねぇよ』

 

「ええ。では、明日」

 

 会話を打ち切って電話を切る。

 

「どうだったカエデ」

 

「完全には信用してないでしょうね。もう一押し何か欲しいところですが今からは難しいでしょうし、後はツキ次第です」

 

「ツキか。俺たちからは一番遠いところにありそうだな」

 

「同感です」

 

 お互い苦笑交じりに言葉を交わした。

 出し抜くためには、いくつかのツキが必要だ。

 今まで散々な人生だったんだ。

 この数日間だけでも、報われても良い筈だ。

 

 それから1時間ほど経って、染井からチャットが入った。

 

『集まった。どうすれば良い』

 

 こちらから電話を掛ける。

 

「全員に聞こえるようにスピーカーにしてください。あなた達には明日、これから僕が指定する場所に行って、事件を目撃したと警察に通報してもらいます」

 

『はあ、ケーサツなんて聞いてないぞ』

 

「だからなんです。写真を消して欲しくないんですか」

 

 電話の向こうで3人は歯噛みした。

 

「じゃあ、詳しい内容について説明しましょうか。警察に通報する内容は、銃声のような音がしたので気になって近づいて行くと、建部電工の事務所の前に血まみれの女が倒れていた、この内容を各一回警察に通報してもらいます」

 

『おい、なんかヤバい事に巻き込むつもりじゃないだろうな』

 

「人のことレイプした人間がヤバい事とか抜かさないで下さいよ。それに例え、本当にヤバい事だったとして警察に通報するだけです。何かリスクがありますか?」

 

『嘘の通報をしたとかで捕まらないのかよ』

 

「事務所にペイントボールをぶつけて、血を演出するのでそこはご心配無く。時間帯も夜の予定ですし、悪意を証明できないでしょうから。不安でしたら携帯のGPSを切っておくなり、近くの公衆電話を使うなりしてください。もちろん3人ともが同じ公衆電話を使う事は許可できませんが」

 

 不承不承でも仕事をやり遂げて貰うしかない。

 リスクの少なさを念入りに説いていく。

 

「それに、通報したその後はさっさと逃げてもらって構いませんし、それ以上のことは要求するつもりはないです。悪くない取引だと思いませんか。一本電話を入れるだけで、僕にしたことはすべて洗い流され無罪放免。大手を振って街を歩けます」

 

「本当にそれだけなんだな。ヤバいことになったり、私たちが捕まるようなこともないんだな」

 

 声だけでは名前の判断はつかないが、3人のうちの1人が不安を打ち消すように何度も確認する。

 

「ええ。神にも仏にも、その他思いつく限りのあらゆるものに誓えます」

 

 こいつらがその後どうなろうが知ったこっちゃない。

 出来ればヤクザに捕まってボコボコにされて欲しいが。

 

「大体あなた達は拒否できるような立場にない。別に今からあなた達のことを警察に訴えても良いわけで、そのことをちゃんと考慮してもらいたいですね」

 

『しょ、証拠なんてのこってないだろう』

 

「性犯罪って被害者側の証言がかなり有利になるみたいですよ。ほかに証言をしてくれる第三者もいることですし、有罪は堅いでしょう」

 

 法による裁きなんて僕は望んでいないが、脅しにはなるだろう。

 

「さあ、やるのかやらないのかどっちです」

 

『分かった。やる、やるよ。それで良いんだろう』

 

「良い返事が聞けて良かったです。それじゃ、時間は追って連絡します」

 

 通話を切り、弓弦に向き直る。

 

「とりあえず、人は集めれました。やり遂げてくれるかはまだ分かりませんが」

 

「いいや。上出来だ。さっき電話をかけてたやつらに監視はいらないのか」

 

 どうするか。

 信用できないやつを監視においても、結局意味がないような気もするし、弓弦の知り合いと、あいつらはお互いに顔を知らないことだし、中々難しそうだ。

 となると、透になるが、そうすると今度は透の仕事に支障がでる。

 

「つけておきたいですが、できそうなやつに心当たりがないので、仕方がないですがやり遂げてくれるように祈りましょう」

 

 やれることはこれで全てだろうか。

 いくら考えても見落としがあるような気がする。よくない思考のループだ。

 

「俺も知り合いに声をかけて、当日はそれっぽい男の二人組を何組か駅にぶらつかせておくよ。顔を隠してたり、大きな荷物を持ってたりすれば多少かく乱にはなるだろ」

 

 気休め程度だが、何もやらないよりはマシか。

 あとは明日1日。

 それだけに懸かっている。

 

 

 

 

 

 

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