魔剣少女のトンチキ話   作:不破

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『魔剣少女の星探し』のトンチキ空間ssです。

なぜかどこかもわからない野球場で野球を三人一組でやることになった魔剣使い達。
ミオンはマウンドで一人、陰鬱な気持ちを隠して立っていた。


魔剣少女の3イニング

 ふわりと宙に浮いた「十七」が使い手の意思のままに鮮やかに弧を描いて静止する。

 

「なるほど、ルールは把握しました」

 

 ──いつでもどうぞ。

 まるで魔剣使いとして名乗りをあげた決闘に挑むかのような眼差しをしているのは「十七」の主であるリット・グラントだ。その紅の瞳に勝負に燃える炎を宿し、目の前の相手を射抜いている。

 彼女は今、チーム『夜明けの星』の一番バッターとして打席に立っていた。

 

「遠慮することはないよ。かましてやれ」

「好球必打ですわ。リットさん」

 

 ──それもエイシアの言葉?

 ──ええ、好機を逃すな、という意味ですわ。

 三塁側ベンチ前ではソフィアとクララがそれぞれの魔剣を素振りしながら声援をおくっている。

 バッターは両手で魔剣を振るわねばならない。

 という野球のルール説明を聞いていた三人は各々の魔剣を効率よく振るう形を確かめ終わり、万全の面持ちであった。

 

(……あの三人をぉ)

 

 どう抑えればいいと?

 やる気と自信、眩いばかりの勝負事への情熱に満ちた三人をとうとう直視するしかなくなり、ミオンはベースボールユニフォーム姿でマウンドに立ちつくしていた。

 ミオンの背後では臨時雇いの男が二人、心配そうにミオンの背中を見つめている。

 本来のルールでは九人が必要だったようだが今回はお遊びということで三人一組でワンチームである。

 その視線に振り返り力なく頷きながら、ミオンはマウンドを軽くならした。

 まっさらな土を掘り返しながら、現実逃避し続けていた三人への対策を考えて、そんなものはないと即座に諦める。

 

「いやぁ。無理ですにゃん」

 

 三イニング遊んでみましょう、と言ったクララをミオンは恨めしく思う。

 一イニングだって投げ終われる気がしない。

 目の前ではぶるんと大剣の「十七」を振るうリットの姿がある。

 どうやっても空振りが望めないのは試合前の練習での豪打を見ていればわかった。

 ……あの大剣を潜り抜けてボールが後ろに抜けるのは絶対にむりですしぃ。

 無理ですにゃん、と口にしたくせに何かないかと可能性を探してしまうのはいい癖なのかどうか。

 リットの次の打者はクララである。その魔剣「山嶺」のか細い刀身は、大剣であるリットの「十七」よりも空振りを奪えそうな気を起こさせる。しかし、そんなわけはない。

 ……クララ様に読みあいで勝てる気がしませんしぃ。

 どこに投げても捉えられ、「山嶺」によるビックフライがあっという間にスタンドを超え、さながら流星のような打球が飛んでいくだろう。

 最後の打者であるソフィアは練習では目隠しをしながらクリーンヒットを量産していた。その楽しげな様子を思い浮かべてミオンは打つ手はなし、とやはり可能性はないと諦めようとし、 

 ……ん? ソフィア様の「全知」は……あれ?

 何かに気がついたようにミオンはじっと猫目を細めてソフィアの魔剣をしばらく眺めていた。

 

 

 ストライク バッター アウト。

 

 

「なんでだ──!」

 

 ランナーを二人おいて三打席連続三球三振に終わり、ソフィアはかすりもしなかった打席内容に不満を爆発させる。

 

「ずるい! そこがストライク!? 届かないじゃないか!」

 

 目の前で立て続けに敬遠されたリットとクララをみて、ぽかーんとしたあとに、不敵な笑みを浮かべて勝負に燃えたのもつかの間、ソフィアは打席からでは腕を伸ばしても届かない外角低めのコースに対して苛立ちを爆発させる。

 ミオンが発見した抜け道はソフィアの魔剣「全知」の短さだった。

 

「ルールはルールですにゃん!」

 

 ミオンがえっへんと胸をはって一仕事終えた様子を見せるのをみてソフィアはくっと歯噛みする。

 手の中にある魔剣「全知」がこれほど頼りないことが今まであっただろうか。

 

「くそぅ。短い……」

 

 気を落とさないことです。

 と、リットが背中を撫でてくれる。

 ミオンが投げた九球は全て外角低めのストライクゾーンぎりぎりをかすめる投球であり、「全知」のリーチでは届かなかったのである。

 

「く──、せめて片手で振れれば……」

「ルールですにゃん!」

「わかってるよ! もう!」

 

 詳しいルールを誰も知らないので打席では両手で獲物を振るうルールだと思っている中ではどうやってもソフィアのスイングはボールを捉えることができなかった。

 

「リット、クララ。せめてボクに投げさせてね」

 

 打席では役立てなかった分、投げるほうで貢献をと意気込んだソフィアは、その気合のままに臨時雇いの2人から見逃し三振を奪った。

 柔かくも力強い投球フォームが、ソフィアの美しい四肢を見せつけるようにしならせ、空気を切り裂く衝撃波を伴った尋常ではない怪速球をうみだす。

 臨時雇いの男たちが一瞬目のやり場に困ったのもつかの間のこと、いくら何でも少女が投げ込むにはありえないその怪速球に手も足も出ない。黒髪の男と赤髪の男がそれぞれに目を見開き、バットをふることもできずに客席にむかって無理無理と手を振りながらベンチに引き上げていく。

 

「どんなもんだ!」

 

 後ろを守る二人にウィンクで応えてみせたソフィアは最後のバッターであるミオンが箒を構えるのをみて、にやりと笑った。

 ……みてろよー。やり返してあげる!

 柄の長い箒では外は届いても内は苦手なはずだ。

 ソフィアは足を思いっきりあげて、豪快にミオンの内側、インコースの膝元ギリギリへと正確に投げ込んだ。

 そして投げた瞬間にミオンが小さく笑ったのを視界に捉えた。

 

 カキン ホームラン ホームラン。

 

「え?」

「読んでましたにゃん!」

 

 ベースを一周してニコリとほほ笑むミオンを呆然と見つめながら、ソフィアはスコアボードに1がくるりと入った音を聞いた。

 

 

 そしてあっという間に三イニング目を迎えた。

 

 

 ストライク バッターアウト。

 

「くそ──!」

 

 これでツーアウト。

 スコアボードの左隅に刻まれた1点がソフィアに重くのしかかる。

 塁上では、結局一度も魔剣を振るうことがなかったリットとクララが声援を送っている。

 その声援に応えるべく限界まで腕を伸ばしてソフィアは「全知」を振るう。

 

 ストライク ツー。

 

「むき──!!」

 

 しかし、当たらない。マウンド上でミオンがにやりと笑った。そのコースであれば当たらないという絶対的な事実を告げる笑みだ。

 

「く、くそぅ……」

 

 打つ手なし。

 ミオンの絶対的な笑みの前に屈しそうなソフィアがそれでもと前を向くと、セカンドランナーのリットと目があった。

 

「リット……?」

「……わかりました。ソフィア」

「?」

 

 なにを? と思った時にはミオンがボールを投げ込んでくる。

 ぽい と投げこまれたボールはこれまで投じられたのとおなじく、弧を描くスローボールだ。

 ちょうどストライクゾーンの下のラインをボールの上が掠めるように計算された投球がソフィアにトドメをさすべくゆっくりと向かってくる。  

 そしてそんなハエの止まりそうな投球が届く前に、分割された「十七」の刃の一つがソフィアの前にやってきた。

 

「にゃ!?」

「流石リットさん!」

「なるほど!」

 

 その意味を瞬時に理解した三者の声が響き

 

「──理解しろ、全知」

 

 逆転勝利を確信したソフィアの声が決着を告げる。

 刃一つ分伸びたリーチがアッパースイングでバレルを生み、悔しさを晴らすように打球を遠くへ飛ばす。守備につく男たちは、予想していても取ることのできないその大きな放物線に一歩も動けずにそれを見送った。

 文句のつけようのない完璧なホームランだった。

 

「にゃぁぁ……」

「やったー! みたか──!」

 

 がっくりとマウンド上で膝をつくミオンを背景に、逆転勝利に沸くリットとクララとソフィアの三人ががっちりと抱き合う。

 そんな四人を守備位置から眺めていた臨時雇いの男──天樹錬は首を傾げて、隣にいる同じ臨時雇いの男であるヘイズに確認する。

 

「ねぇヘイズ。僕詳しいルール知らないんだけどさ」

「おう」

「一周する前に抱きあってベンチに引き上げていくのって……得点になるの?」

「さぁな、俺も知らねぇよ。けどよ……」

 

 ヘイズはグラブを外した手で確かめるように指を一度ならし、客席で応援していた妻に手を挙げて応えた。

 

「少なくてもまだ裏の攻撃があるんだ。勝ったわけじゃないのは確かだ」

 

 ゲームセットが告げられたのはその直後だった。

 試合が終わる前に『夜明けの星』のメンバーが皆帰ってしまったので勝利したのはミオン達であった。

 

 おわり。




『魔剣少女の星探し』は本当に面白いので皆さん買いましょう。読みましょう。
【十七】とありますけど1巻ですので、今から追いかけていけます。
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