シルヴァ家の忌み子は王になりたい   作:G.S.C

3 / 6
ジゼル vs ユノ

 

 今まで見下していたアスタの突然の活躍に観戦していた受験生達は呆気に取られた後、信じられないものを見たといった風体でざわざわと騒ぎ出す。

 

「何が起こった……!? あの剣は魔法か!?」

「最果ての落ちこぼれじゃなかったのかよ……何なんだコイツはーー!」

「それにアイツ今、魔法帝って……」

「いやいや、夢見すぎだろ。イタイね〜、現実が見えてないアホは」

「早く引っ込め愚か小僧」

 

 動揺が広がる試験会場。

 ある者は異質な最果て出身の下民として不気味がり、ある者はどうせまぐれだと高を(くく)る。

 そしてある者は口にした『魔法帝になる』という少年の宣誓を嘲笑う。

 

「ごちゃごちゃうるせぇぇーー!! 

 オレは魔法帝になるっつってんだ文句あるかクラァァァ!!!」

 

 だがそんな安い罵倒はアスタには何の痛痒(つうよう)も与えなかった

 まぁ本気で魔法帝になるなどと言うような者がこの程度の罵声で怯んでいては話にならない。

 それでこそ——潰し甲斐があるというもの。

 

「何度も言っているでしょう。魔法帝になるのはこの私ジゼル・シルヴァだと!」

「いいや魔法帝になるのはオレだ、アスタ」

「ユノ! それとあと……銀髪チンチクリン王族!」

 

 は? キサマもしかして私が自分より身長低いからってイジってんのかこの野郎ぶっ殺してやる!!

 

「あ゛ァ??? 寛大な心で不敬の数々を許してやっているというのにつけ上がりやがって……今すぐ(なます)にしてやってもいいんですよこの不届き者がァ……!!」

「思ってた100倍ブチギレとるー!!? す、すまん! 身長の話題はデリケートだった……ってオレ初対面でオマエからチビって言われた気がすんだけどそれはいいのかよォォ!!」

「当たり前です。私は全てが許される——そう、なぜなら王族だ(偉い)から!」

独裁者(ドミネーター)ァァァ!!!」

 

 というかさっさと退()けよド貧民が。

 いつまで経っても試合できないじゃないか。

 

「チビスタ……今からオレはそこのチンチクリンと()るから。勝負ついたならそこで伸びてるヤツ(フッハ)退かしといてくれ」

「おっそうだな悪い悪い、って誰がチビスタじゃあああ!」

「誰がチンチクリンですかこの不敬者ぉぉぉ!」

「うるさいのが増えた……」

 

 許さない……二度までも私をチンチクリン呼ばわりするなんて……!

 潰してやる……絶対に潰してやるぞアスタ……!

 

「では次の対戦者の諸君。準備をしてくれたまえ」

「応援してっから絶対勝てよ、ユノ!」

「当たり前だ。こんなところで負けてられない」

 

 幼馴染に激励の言葉をかけたアスタが()けていき、残った私とユノは一定の距離を空けて臨戦体勢を取る。

 

「おや。私に勝つつもりなんですか? 最果ての下民ごときが。

 四つ葉に選ばれた程度で調子付いているのでありません?」

「そっちこそ、そんなに余裕ぶってていいのか?

 馬鹿にしてた下民に負けるのは——恥ずかしいだろ」

「……不届き者が」

 

 相手が王族と知ってのこの暴言。許すまじ。

 私はまだユノを認めてはいない。

 威勢だけは一丁前だが、私は持って生まれた魔力量に驕っているだけの怠け者が反吐を吐くほど嫌いなのだ。

 

 大言を(のたま)うだけの強さと意地があるのかどうか。

 この私が手ずから検証してやろう。

 

「では——始め」

 

———

 

 最果ての村『ハージ』出身のユノという少年は、クールな外見とは裏腹に誰よりも負けず嫌いな一面を持っている。

 

「では最果て出身の下民よ。私は寛大です。

 ——全力で手加減してあげますから、死ぬ気で挑んできなさいな」

 

 それゆえ自分だけに限らずライバルのアスタまでも執拗に莫迦にするジゼルに対して、ユノは最初から手加減するつもりなどなかった。

 

「風魔法〝暴嵐の塔〟」

 

 初手から全力の魔法で蹂躙する。

 座標はジゼルの足元。

 人間一人を余裕で吹き飛ばす竜巻が彼女を襲う。

 いきなり勝負が決したか、と観客(ギャラリー)が驚愕した瞬間。

 

「……次は?」

 

 渦を巻く暴風が真っ二つに()()()()()()

 嵐に巻き込まれたはずのジゼルは無傷。

 かすり傷一つなく、余裕の表情でユノに次の魔法を促す。

 どうやらユノに全ての魔法を出し切らせ、それら全てを完膚なきまでに打ち破ることで実力をアピールする算段のようだ。

 そのどこまでも傲慢な態度を前に、ユノの魔法のボルテージはさらに上昇する。

 

「風魔法〝カマイタチの三日月〟」

「次」

 

 続く風圧による三日月型の切断攻撃はジゼルの目前で不意に現れた()()に相殺された。

 恐らく〝暴嵐の塔〟を切り裂いたのと同じ魔法だとユノは推測する。

 

 ——そしてユノは、このジゼルの魔法が極めて厄介な代物であることに気がついた。

 ()()()()()()()()()()のだ。

 先ほどは魔法で発生した暴風の余波でわからなかったが、今回は繰り出したカマイタチに対し、どこからともなく突然その場に発生した『不可視の斬撃』によって風魔法が切り裂かれてしまったのが確認できた。

 

「風創生魔法〝疾風の白弓〟!」

「次」

 

 風圧を一点に集中させた弓矢を放つも、同様に見えない斬撃によって両断され、ジゼルに届く前に束ねた魔力が霧散する。

 ジゼルは開始時から指一本も動いていない。

 あの斬撃は全くのノーモーションで発生している。

 

「風創生魔法〝風刃の叢雨〟!」

「次」

 

 無数の風の刃を生み出し、それぞれ射出角度と位置にばらつきを持たせて撃ち出すも、その全てが発射と同時に粉々に砕かれる。

 またしても斬撃。その上、全部同じタイミングで複数の斬撃が発生して風の刃を迎撃した。

 

「風創生魔法〝疾風の白鷹〟!!」

「次」

 

 今度は風で形作られた鷹を複雑な軌道で飛翔させ、上空から突進させる。

 ……が、これもジゼルの頭上で切り裂かれ、無惨にその風でできた羽毛を散らす。

 

「くっ……!」

「終わりですか? であれば今度はこちらから。

 ふふっ、ちゃあんと防いでくださいね?」

 

 妖艶に(わら)うジゼルに対し、ユノは咄嗟に魔力を身に纏って防御体勢を取る。

 

 刹那。

 

 ユノは自身の()()()発生した斬撃に切り裂かれた。

 

「なっ……!」

「ほう、思ったより硬いですね。さすがは四つ葉に選ばれただけある魔力量です」

 

 幸い、裂傷はそれほど深くはない。

 しかし問題は別のところにある。

 斬撃はユノの真後ろから発生した。

 つまりあの斬撃は——

 

「では、次は少し多めにいきますよ」

「ぐ、ぉおおお……!!」

 

 発生する場所を選ばない!

 ユノは四方八方より襲いくる斬撃から魔力防御で必死に身を守る。

 だが、防ぎきれない。

 みるみるうちに身体に切り傷が増えていく。

 このままでは出血多量で早々にダウンしてしまう。

 

 ユノは斬撃の包囲網から逃れるべく、自身の前方に風の魔力を集め爆発させる。

 その衝撃で試合を見物していた人だかりの中に強引に逃げ込んだ。

 

「うおおお!? こっち来たぞぉ!!」

「やめろ近寄んなオレ達まで切られる!」

 

 試合に場外のルールはない。人波に紛れても失格扱いはされないだろう。

 蜘蛛の子を散らすように逃げる観客たちを利用し、ユノは風魔法を身に纏って加速。

 ジゼルとさらに距離を取る。

 

「逃しませんよ……!」

 

 対するジゼルは魔力で脚力を強化。

 この試合で始めて地面を蹴ってユノを追跡する。

 まるで豹のように姿勢を低くして猛スピードでぐんぐんと彼我の距離を詰めていく。

 

「ちっ……あの女(アイツ)、意外と足が速い……!」

「捕らえましたよ」

 

 ユノとジゼルの距離が20メートル程にまで縮まった瞬間、再びの斬撃がユノの足首に傷をつける。

 

「ぐっ……! この人混みの中で正確に……」

 

 まるで他の受験者(障害物)をすり抜けるように次々と斬撃がユノだけを攻撃する。

 いくら風魔法で半自動的に移動しているとはいえ、アキレス健を絶たれ、さらに斬撃も防御しながらでは移動速度は格段に落ちる。

 

「くそっ! 風魔法〝カマイタチの三日月・四刃〟+風魔法〝暴嵐の塔〟!!」

「へぇ、2つの魔法の同時使用……! まだ奥の手あったんじゃないですか」

 

 ユノは風の刃をアリーナの地面に向かって射出し複数の大きな瓦礫を成形。

 それを同時に発動した竜巻で巻き上げて即席のバリケードとする。

 しかし、ジゼルはそれを物ともしない。

 迫り来る岩石塊をギリギリのところで()()し、一切スピードを落とさず追跡を続行。

 

 ユノ渾身の一手はいとも簡単に突破されてしまった。

 そして気づいた時には周囲の受験者は全員ユノを置いて十分な距離を取っており、ジゼルとの間合いは振り出しに戻る。

 

「ふん。所詮はこの程度ですか。手応え無くて残念です。

 まぁ咄嗟の判断としてあの逃げの選択肢は悪くないですが——」

 

 ユノの体は既にあちこちが切り刻まれてボロボロの状態。

 勝ちを確信したジゼルは笑いながら、あるいは落胆しながらユノを罵倒する。

 

 しかし、そこでジゼルは気が付いた。

 ユノが不敵な笑みを浮かべていることに。

 まだ彼が欠片も勝利を諦めていないことに!

 

「……もう勝ったつもりか? 気が早いぞ」

「——なに?」

 

 瞬間。

 強烈な()()が会場全体に降り注ぐ。

 

「うっ!?」

「隙ありだ! 風創生魔法〝風刃の叢雨〟!」

 

 突然の眩むような光にジゼルは反射的に目を瞑る。

 これがユノの秘策。

 彼は無様に逃げ回っているように見せかけてジゼルの注意を引き付け、その間に会場上空に魔力を集め、風魔法で大気の密度を操作していた。

 

 そしてジゼルが油断したタイミングを見計らい、一気に太陽光を収束。

 即席の閃光爆弾(目眩し)で見事に彼女を怯ませることに成功した。

 

 その絶好の(チャンス)を逃すはずもなく、ユノはお返しとばかりに風の刃で四方を取り囲んで反撃を行う。

 

「舐めるな——!」

 

 だが、またしてもその全てが不可視の斬撃によって叩き落とされる。

 ユノが作り出した千載一遇の好奇は無に帰した。

 

 危機を脱したジゼルは網膜に魔力を集中させ、視力を強化。

 人間は急激な明暗の変化によって一時的に視界を奪われるが、ある程度の時間が経てば光量に慣れて普段通りにモノを見れるようになる。

 彼女はその()()を網膜の魔力強化によって強引に時短して視界を回復したのだ。

 

 これでもう目眩しは通用しない。

 所詮はただの一発ネタであり、優れた魔導士にはタネが割れれば一瞬で対処されてしまう程度のものであった。

 

 しかし、ユノはそれでも構わなかった。

 なにせ彼の狙いはそもそもここでジゼルを倒すことではない。

 先程の攻撃はあくまでジゼルの牽制が目的だ。

 

「……上空、ですか」

「ああ。これでもうオマエの魔法は届かない」

 

 そう。ジゼルの隙を作った理由は、風魔法で会場の上空まで移動して彼女と十分な距離を取るためだった。

 

「おや。なぜ届かないと言いきれるのです?」

「オマエのその不可視の斬撃はもう見切った。

 ある程度の魔法属性も、見えない斬撃の絡繰(からくり)もな」

「……ほう」

 

 ジゼルは目を細めて先を促す。

 ユノは自分の考察を確かめるように言葉を紡いだ。

 

「魔法は基本的に地水火風の4属性から派生している。

 どんな魔法でもこの四つがベースになっているから、オマエの見えない斬撃もこのどれかが元になっているというのは間違いない」

「……」

「だから考えられるのは基本的に4パターン。

 火属性であれば熱線による切断。

 水属性であれば高圧水流による刃。

 風属性であれば風圧による斬撃……」

 

 ユノの言葉をジゼルはただ沈黙して聴いている。

 その口にはうっすらと笑みが浮かんでいた。なぜならば……。

 

「そして、地属性であれば何らかの物質を創生しての裂断!

 さっきオレが閃光による目眩しを行ったのは何も上空に逃げるためだけじゃない……不可視の斬撃の仕組みを暴くためでもある。

 オレの〝風刃の叢雨〟とオマエの斬撃の衝突の際、光に照らされて一瞬だけ金属光沢による細いラインが見えた。

 つまり、オマエの魔法の正体は……」

 

 この短い戦闘で未知の魔法の仕掛けを見抜く洞察力。

 深い魔法への造詣と冷静な思考。

 己の見込みは間違いではなかったとわかったからだ。

 

「地系統の魔法で創生した目に見えないほど細い金属のワイヤー!

 それを魔力で強化し、一定範囲内の指定した魔力を持つモノ全てに対して全自動(フルオート)で迎撃するのがオマエの魔法だ!!」

「ふふふっ! ええ、その通り。見事な洞察力です。感服しました」

 

 ジゼルは己の自慢の魔法を見破ったユノに対し、彼女にしては珍しく素直な感心の言葉をかける。

 

(くろがね)魔法〝(ラーミナ)〟。それが私の魔法です。

 低燃費かつ速射性、連射性、奇襲性、隠密性……何より高い殺傷力と迎撃能力に優れたお気に入りなんですよ」

 

 (くろがね)魔法〝(ラーミナ)〟。

 それは使用者を中心とした半径20メートル以内に侵入した指定した魔力を内包する生物、無機物、そして魔法を鉄で作られた極細かつ強靭なワイヤーで切り裂く魔法である。

 ジゼルの並外れた魔力感知技術を魔言術式(マナメソッド)によって自動化し、範囲内に侵入したモノの魔力量・強度を瞬時に判定して切断に必要な魔力を自然に満ちた(マナ)から補充。

 それによって適切な威力の斬撃を己の魔力をほとんど使用することなく繰り出している。

 

 ワイヤーの創生に必要な魔力も鉄線自体が目に見えないほど超極細であるためかなり燃費が控えめになっており、更には一度斬撃として使用したワイヤーを瞬時に魔力に分解して取り込むことで実質魔力の消費を限りなくゼロに抑え込んでいる。

 

 これは一般の下民にも劣るレベルの魔力量しかないジゼルが編み出した、正に弱者が強者を刈り取るための魔法であった。

 

「ふふふ……しかし斬撃の正体を見破ったところで、結局は防ぎきれなければアナタに勝機はありませんよ?」

「さっき逃げてる時に斬撃が一瞬止まるタイミングがあった。

 約20メートルだ。上空でこの間合いを保っている限りオマエの攻撃はオレには届かない。

 対して……オレの魔法はオマエに届く! 風魔法〝疾風の白弓〟!!」

 

 ユノが撃ち出す風を束ねた弓矢。

 ジゼルは〝(ラーミナ)〟によって当然のように放たれた矢を切り裂く。

 

 次の瞬間、ジゼルの眼前に切り裂いたはずの風の矢が迫っていた。

 

「むっ……!?」

「オマエの斬撃は確かに迎撃においては無類の強さだ。だが決して無敵なわけじゃない。

 斬撃に使用したワイヤーを魔力に分解する一瞬、次にワイヤーを生成するまでにごく僅かなタイムラグがある。

 つまり、同じ座標を高速で2回以上攻撃することによって斬撃の防御を掻い潜ることができる……!」

「! ふふ、そこまで見抜くとは思っていませんでした。評価をもう一段階上げておきましょう」

「これで終わりだ!! 風創生魔法〝風刃の叢雨〟!!」

 

 斬撃の範囲外に出た以上、ユノにはもう恐れるものは何もない。

 攻撃の届かない上空から一方的に魔法を放ち続ければジゼルは成す術もなく倒れるのみとなる。

 

 ただし。

 

「それは私が20メートル以内しか攻撃できない場合に限る、でしょう?」

「何っ!?」

 

 ユノが創生した無数の風の刃。

 それが生成したそばから切り裂かれる。

 ジゼルの領域内(テリトリー)には入っていないにもかかわらず、だ。

 

「形勢逆転……なんて思いましたか? 確かにワイヤーは指定範囲内でしか創生できませんが、範囲内から範囲外に向けて斬撃を伸ばすことくらいできます。

 そしてその場合、攻撃に魔力をほとんど浪費しない私と、常に飛行魔法と魔力ロスの多い攻撃魔法を使う必要のある傷だらけのアナタ。

 ……果たしてどちらが先に倒れると思いますか?」

 

 〝(ラーミナ)〟を警戒し距離を取れば、必然的に遠距離魔法の撃ち合いになる。

 その場合、相手がどれほど魔力量に優れる者であっても、魔力量が少ないが消費ゼロで魔法を繰り出せるジゼルの方が持久戦で有利になるという不可思議な逆転現象が起こる。

 

 つまり〝(ラーミナ)〟の真髄は範囲内の敵を切り刻むことではなく、敵に遠距離戦を強いて削り倒すことにあるのだ。

 

「——さて、次はどんな手を見せてくれるのですか? 四つ葉の天才魔導士見習いさん?」

「……仕方ない。あまりやりたくなかったが、奥の手を使う。

 これが正真正銘、最後最後のぶつかり合いだ、王族ジゼル・シルヴァ!!」

「あはっ! その意気ですよ! 私も本気で相手をしましょう、最果てのユノ!」

 

 お互い、歯を剥き出しにして凶暴な笑みを浮かべる。

 ことここに至って既に両者共に相手を舐めることはない。

 

 下民と王族。

 天才と非才。

 

 次の一合でどちらの魔法(強さ)がより優れているかが決着する!!

 

「全力だ! 風魔法〝暴嵐の塔〟+風創生魔法〝風刃の叢雨〟!!」

 

 それは先程までとは比べ物にならない規模の暴風。

 魔力でできた嵐がフィールドの砂埃を一斉に巻き上げ、ジゼルの視界を奪う。

 そしてその渦巻く風に乗り、最大限の加速を得て飛来する無数の刃!

 

「洒落くさい!!」

 

 しかし先刻を大きく上回る速さを得た刃は次々と叩き落とされる。

 〝(ラーミナ)〟の感知・迎撃システムはジゼルの魔力感知精度に比例して上昇する。

 ユノの(マナ)とその流れに十分慣れたため、斬撃の迎撃速度と精度が飛躍的に上昇したのだ。

 領域内を満たす暴風の魔力にも惑わされず、的確に風刃のみを切り落としていく。

 

 ジゼルはユノの狙いを読んでいた。

 風の魔力で〝(ラーミナ)〟の領域内を満たすことで視界と魔力感知の両方を封じる。

 そしてジゼルが風刃の迎撃に注意を向けている隙に渾身の加速と魔力を込めた一撃で〝(ラーミナ)〟の斬撃結界を強引に突破して勝負を決める!

 

 斬撃と暴風吹き荒れる地獄絵図の中、最後となる風刃が鉄の斬撃によって弾き飛ばされた——その刹那。

 

 ジゼルは上空で一際大きく魔力が脈動するのを感知した。

 

 巨大な魔力は暴風の中を高速で移動し、急接近。

 おそらく魔法で風の通り道を作っての風圧を用いた高速機動だ。

 〝(ラーミナ)〟での自動(オート)迎撃は間に合わない。

 

 ならば手動(マニュアル)で操作するまでのこと!

 

 ジゼルは本来斬撃を放った後は霧散するはずのワイヤーをそのまま維持。

 手動で鉄線の軌道を操作してユノを迎撃する!

 

「捕らえた!」

 

 斬撃は寸分違わず死角から迫った巨大な魔力を撃墜する。

 勝利を確信したジゼルは、散り散りになっていく魔力塊の方を振り返り——

 

「……いない?」

 

 そこに、倒れ伏しているはずのユノがいないことに気づいた。

 

 瞬間、背後に悪寒。

 

 気配を感じた。

 揺るがぬ闘気を宿したユノの気配を。

 

 しかし、そこに魔力は一切感じない。

 ゆえに一瞬の思考の空白が生まれ、迎撃が一手遅れる。

 

 まさか。

 

「まさか自分の全魔力を放出し、囮に——」

 

 誰よりも恵まれた魔力の全てを、ただの囮として敵の目を欺くためだけに使う。

 己の魔力を誇りに思う王侯貴族では思いつかない虚を突く作戦。

 全身の魔力を放出してなお気合いだけで身体を動かす、下民ならではの雑草根性。

 

 つまり、ユノの奥の手とは。

 

「真っ直ぐ行ってブン殴る!!」

「そんなバカな!?」

 

 〝(ラーミナ)〟は範囲内の指定した魔力に対して迎撃を行う。

 裏を返せば、そもそも魔力を持たない物体は迎撃対象外だ。

 ユノはそれを、逃走中の妨害で瓦礫を飛ばした際にジゼルが物理的に土塊(つちくれ)を回避したことで確信した。

 それゆえにこんな自分の魔力全てを囮に使うなどという一見すれば自殺行為にしか見えない賭けに出ることができたのだ。

 

 ユノは既にジゼルの目と鼻の先。

 回避も迎撃も間に合わない。

 

「オマエに勝って——」

 

 振りかぶった拳が、ジゼルの無防備な横顔に突き刺さる!!

 

「オレは魔法帝になる!!!」

 

 鈍い音。

 肉が弾ける確かな感触。

 

 ジゼルの頬を捉えたユノの右拳は——血を吹き出して砕けていた。

 

「回避も迎撃も間に合わないなら、防御すればいいだけのこと」

 

 拳が炸裂したジゼルの右頬が、ピンポイントに鉄で覆われている。

 一点集中の魔力防御。

 ジゼルは勝ちを確信しつつも、決して油断はしていなかった。

 

 なぜなら相手は王族たる自分が認めた真に強い下民(魔導士)だから。

 己の想像の限界ぐらい容易く超えてくるだろうと信頼していたから。

 

(くろがね)魔法〝(ラーミナ)〟」

「……くそ。あと少し、だったのにな」

 

 斬撃、一閃。

 

 ユノの胸部を横一文字に薙いだその一撃により、勝敗は決した。

 

「天晴れです。最果ての村のユノ。

 この戦いを私は生涯忘れることはないでしょう」

 

 魔法騎士団入団試験史上、最高の戦いだったと讃えられることとなるこの試合。

 勝者は、王族ジゼル・シルヴァであった。

 





☆主人公プロフィール
・名前:ジゼル・シルヴァ
・年齢:15歳
・身長:151cm
・魔法属性:鉄
・出身地:王貴界
・誕生日:11月15日
・星座:蠍座
・血液型:A型
・好きなモノ:人を見下すこと、根性があるヤツ、ジビエ料理
・嫌いなモノ:人に見下されること、血縁者、骨の多い魚のフライ

お気に入り、感想、評価が励みになりますのでどうぞよろしくお願い致します。

お気に入り
感想
評価
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。