シルヴァ家の忌み子は王になりたい   作:G.S.C

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魔法帝への道

 

 受験者とは思えない高レベルの激戦の末、勝利したのは当然この私ジゼル・シルヴァだ。

 まぁそんなことは勝負が始まる前から決まっていた確定事項ではあるのだが、しかし戦いの中でユノが見せた魔力の量、操作技術、魔法のセンス、そして何よりどんな状況でも貪欲に勝利を欲する気迫には目を見張るものがあった。

 

「立てますか?」

「斬った張本人のセリフじゃねー……」

 

 全身を私の魔法で切り刻まれたユノは出血多量で満身創痍の有り様だった。

 地に這いつくばるべき下民としては似合いの姿だが、手加減していたとはいえこの私に迫った実力者をボロ雑巾のままにしておくのは王族としての沽券に関わる。

 彼には私が飛躍するための踏み台として、いついかなる時でも泰然としていてもらわなくては困るのだから。

 

(くろがね)魔法〝(パルス)〟」

「っ!」

 

 私の突然の魔法行使に身構えるユノ。

 なんだコイツ私が死体蹴りするような傍若無人な輩とでも思っていたのか? 甚だ心外である。こんなに心優しい王族様だというのに。

 

 私の魔導書(グリモワール)が瞬くと同時、空気に浮かぶように無数の鉄の糸がふわりと宙を舞う。

 糸はスルスルと傷ついたユノの患部に到達した後、その裂傷を縫うように塞いでいった。

 

「これは……」

「とりあえず応急処置として傷は全て縫合してあげました。この鉄線は〝(ラーミナ)〟と同じく自然の(マナ)を吸収する性質がありますので、今のアナタのみそっかす程しかない魔力もすぐに元通りになるでしょう。

 あぁ、でも失った血液の補充まではする義理がないので大人しくさっさと控えの回復魔導士に頭下げて治癒してもらうのを薦めますよ」

「…………」

 

 ユノは驚いた表情をした後、ジトっとした目で訝しげに私を見てくる。

 なんだこの野郎、何か言いたいことでもあるなら言えよ。

 

「…………」

「あの、鬱陶しいんで黙って睨んでくるのやめてくれます? 言いたいことはハッキリと口に出して言うべきですよ」

「……じゃあ遠慮なく」

「はい、どうぞ」

「なんか急に優しくなってキモい」

「OK ブッ殺す」

「すみませんでした」

 

 重症患者の分際で生意気なヤツだ。

 今すぐ魔法解除してやってもいいんだぞ。

 ふん、だがいいだろう。これぐらい気丈でなければとても魔法帝になるなんぞ言っていられなくなるというものだ。

 

「別に優しさで傷を縫ってやったわけではありません。これもまた繊細な私の魔力コントロールと優秀な魔法をアピールするためのものなのですから」

「……そうか」

「なんですかその慈愛に満ちた目は。別にアナタのために使った魔法じゃないんですからね。勘違いしないでくださいねっ」

 

 ますますユノの目が優しくなった気がする。

 なんだってんだ一体……。

 まぁいい。アピールのために魔法を使ったのとは別に、もう一つ理由はある。

 さっさとそれを済ませてしまおう。

 

「こほんっ! それより、もう起き上がれるでしょう。〝(パルス)〟は断裂した筋繊維や神経も繋げますので、魔力を少量でも流せばどれだけボロカスになっても普段通りに身体を動かせますから」

「へぇ、便利だな」

「フッ……そうでしょうとも」

「ドヤ顔すごい腹立つな」

 

 本来は〝(ラーミナ)〟で傷口を作ってそのまま体内に侵入し内側から臓器を引き裂いたり神経を乗っ取って操作したりする魔法なのだが、状況次第ではこのように応急処置にも活用できる。

 応用性の高い魔法であるため気に入っている術の一つだ。

 

「と、そんなことより。いつまで寝っ転がってるつもりですか。早くしないとそのお高くとまった顔面を踏み抜いてしまいますので、さっさと身を起こして周りを見なさい」

「はいはい。わかっ……」

 

 ふらふらと力なく上半身を起こしたユノは、そこで初めて周囲の受験者達の反応に気付き、息を呑んだ。

 

「す、すげぇぇぇ!!!」

 

「なんて魔法の応酬だよ! ほんとに同じ受験生か!?」

 

「下民もやるもんなんだな……!」

 

「オレちょっと見直しちゃったよ!」

 

「良い勝負だったぞー!!」

 

 出血と傷の痛みで今まで認識できていなかったのだろう。

 私が〝(パルス)〟で痛覚を緩和してやったおかげでようやく観客(ギャラリー)に意識を向ける余裕ができたわけだ。

 彼らは皆、口を揃えて感心と称賛の言葉を掛けながら大きな拍手で喝采していた。

 

「これ、は……」

 

 ユノは驚きで絶句している。

 まぁ今まで下民と罵られ、その才能に多くの嫉妬の感情を向けられていただろう彼にとっては惜しみない称賛は慣れないものだろう。

 

 しかし、そんな空気の中でも不満を持つ者はいるものだ。

 具体的には自分以上の実力を示したことに、たいそうご不満な家族連中とか。

 

「こんなことはあり得ない! 下民のくせにあれ程の……何か不正をしていたに決まっている!」

「……へぇ。不正と言いましたか」

 

 水を差したのは身なりの良い貴族のお坊ちゃん。

 ローブの家紋の刺繍からおそらくハプシャス家の出の者だろう。

 しかし不正。言うに事欠いて不正ときたか。

 

「それはこの私に対する侮辱と捉えましたよ」

「なっ、なぜ……」

「決まっています。ユノ(この者)は私に負けたとはいえ、魔法騎士として己の力と意思を示した。

 その戦いを不正と断じるならば、それは王族の戦いにケチをつけるのと同然です」

「ぐっ……!」

「どうしても不満があるのなら、貴様もまた自身の力で証明しなさい。

 王の決闘に口を挟むつもりなら、いくらでも私が相手になりますが? 試験に一度しか戦ってはならないというルールはありませんから」

「そ、それは」

「ふん……そこで口籠るようでは到底この下民の足下にも及ばぬ腰抜けと自己紹介しているようなものです。

 わかったならもう下がりなさい。邪魔だから」

「くそ……シルヴァ家の落ちこぼれの分際で……」

 

 ハプシャスは小声で悪態を呟いた後、すごすごと引き下がっていった。

 私がたとえシルヴァ家の爪弾きものだとしても、やはり事を構える事を嫌ったようだ。

 力もなく意気地もないクズの雑音など耳にも入らない。

 

 さて。ではユノに対しての最低限の義理は果たしたことだし、さっさと医務室まで連れて行ってこのボロ雑巾を引き取ってもらうとしよう。

 

「ほら、手ぐらい貸しますので。早く立って回復魔導士のところまで行きますよ」

「助かる。あと、もう一つ言いたいことがある」

「何ですか。ふざけたこと抜かしたら今度こそ(なます)切りですよ」

 

 じとっとした目で睨む私に対して、ユノは困ったように苦笑しながら私の差し出した手を握って言った。

 

「ありがとう」

 

 別にユノの治療をしたのは、良い働きをした下民には褒賞の一つでもやるべきだと思っただけのことだ。

 信賞必罰は王族の勤めとして当然のこと。

 捨て身の覚悟を見せた騎士にはせめてぽっくりと気絶する前に周囲の賞賛を直に見るぐらいの褒美はあって然るべきだ。

 これは王族としての義務であり、断じて優しさなどではない。

 

「ッ……! ふ、ふんっ! だからアナタのためなんかじゃないとあれほど……あぁもう調子の狂う下民ですよ、本当に!」

「あんまり強く引っ張らないでくれ……頭ぐわんぐわんする」

「わがままかっ!」

 

 そうして素直になれない子供を見るような、なんか生暖かい視線を向けてくるユノへの憤慨から顔を赤くしながら、私は強引に彼の手を引いて医務室まで連れて行くのだった。

 

———

 

「以上で試験は終わりだ。それでは番号を呼ばれた受験生は前に出てきてくれ。その受験生の入団を望む騎士団長は挙手をお願いする」

 

 最後の戦闘試験が終了し、いよいよ入団の結果発表の時間が来た。

 入団は各騎士団長によるドラフト形式だが、挙手した団に入団するか否か。そして挙手した団が複数の場合にどこの団を選ぶかは受験生の自由となる。

 

「ただ、先に言った通り挙手した団がない場合は魔法騎士団へは入れない。では番号001の受験生、前へ——」

「はい」

 

 ちなみに受験番号001は私である。

 王とは何事も1番であらねばならない。

 受験の受付窓口に1週間前から寝泊まりしていた甲斐があったというもの。

 

 私は堂々と前に進み、コロセウムの上階に座する九人の魔法騎士団長達を見上げる。

 この私が誰かを見上げなければならないなどこの上ない屈辱だが、まぁ良いだろう。

 私が入団すればすぐにその席を奪い去ってやるのだから!

 

 そして私の結果だが——

 

「うおおすげぇ! 団長八人挙手!」

「さすが王族シルヴァ家……」

「あれ? でも『銀翼の大鷲』団長は挙げてないぞ?」

 

 ふむ、八人か。予想通りの結果だ。

 最初からノゼル兄様が手を挙げないことぐらいわかっていた。

 『銀翼の大鷲』に入団してもあそこの団には私を呪い子として毛嫌いするような貴族連中しかいない。

 兄はそんな針の(むしろ)に私を放り込むことを嫌ったのだろう。

 ノエルもおそらく同じ理由から先んじて『黒の暴牛』に預けられている。

 回りくどくて分かりにくい、兄らしい不器用な気遣いに私は鼻を鳴らして呆れ果てた。

 

 というわけで私の選択肢は八つ。

 『金色の夜明け』『紅蓮の獅子王』『紫苑の鯱』『碧の野薔薇』『珊瑚の孔雀』『翠緑の蟷螂』『水色の幻鹿』『黒の暴牛』である。

 一つ一つ、消去法で選択していくとしよう。

 

 私の魔法騎士団における最終目標は魔法帝になること。

 であれば昨年の戦功叙勲式にて星マイナス50とかいう惨憺たる結果を叩き出した『黒の暴牛』は論外。

 『水色の幻鹿』は悪くないが、論外である『黒の暴牛』の一つ上でしかないのであまり食指は動かない。

 『翠緑の蟷螂』は団長のジャック・ザ・リッパーの使用する裂断魔法に興味をそそられるものの、団自体の成績は並程度である。

 『珊瑚の孔雀』団長のドロシー・アンズワース様と『碧の野薔薇』団長シャーロット・ローズレイ様には、その昔私の呪いについてこっそりとアポイントを取って解呪に関してのアドバイスをしていただいた縁があるが、私自身の実力を伸ばせる環境かどうかと考える場合、他により有力な選択肢がありそうだ。

 『紫苑の鯱』は私とは合わないタイプの貴族連中が多い。だが商会へのコネクションを作りやすい点はメリットか。

 

 そうして消去法で残った団は『金色の夜明け』と『紅蓮の獅子王』の二つ。

 これらの団は星取得数も王侯貴族とのコネクション作りとしても魅力的だ。

 特に王族ヴァーミリオン家の当主が団長を務める『紅蓮の獅子王』には、ほぼ名前だけの幽霊団員とはいえ()()()()()()()()()()()()()()し、いくらか顔も利くだろう。

 

 だが、しかし。

 真に頂点を目指すならば——

 

「『金色の夜明け』団でお願いします」

 

 魔法帝への最速最短の道を行く。

 最強の団である『金色の夜明け』であれば戦場の最前線を張れるだろう。

 そこでひたすらに実績を積み、私は必ず魔法帝という椅子を手に入れてみせる。

 

 それに『金色の夜明け』は貴族のエリート集団だ。

 まぁ『紫苑の鯱』と同じく私とは反りの合わない奴も多いだろうが、あの団には確か前もって従姉妹(いとこ)のミモザ・ヴァーミリオンが在籍していたはずだ。

 あれを緩衝材にして社交界へのコネを作りつつ国王としてのポジションも狙っていくことにしよう。

 それに面倒くさそうなことになったらミモザにブン投げればなんとかなるだろうし。

 

 そのように思惑を巡らせつつ、私は最強の魔法騎士団『金色の夜明け』に入団することとなった。

 

———

 

 『金色の夜明け』団の本拠地は王貴界に位置している。

 大理石で形作られた荘厳な石造りの基地だ。

 至る所に腕の良い職人が施した装飾が施されているが決して華美なだけではなく、どこか包み込むような穏やかさを感じさせる。

 

「ほう……アナタも『金色の夜明け』に入団するとは。まぁ魔法帝になるというのなら一番の近道ですし、予想はしていましたけど。よほど私に負けたのが悔しいと見えますね?」

「まぁな。オレは死ぬほど負けず嫌いなんだ。

 だから——魔法帝になる前にまずはジゼル。オマエを超えることにした」

「ハッ! 大きく出るものです。良いでしょう王族と下民の格の違いというものを何度でも教えて差し上げますよ、ユノ」

 

 春の陽光差し込むそんな基地内の麗らかな中庭が望める廊下を歩きながら、私とユノはどちゃくそにお互いを煽り合っていた。

 平界の試験会場からこの王貴界までは、『金色の夜明け』副団長のランギルス・ヴァードの空間魔法によって連れて来られたのだが、その際——

 

『ふーん? 君達が今年の入団試験合格者ってわけ?

 シルヴァ家の忌み子と……見ない顔だね。え? 下民?

 ハハッ! あーあ、団長は何を考えてるのかな。こんな奴らを入団させるなんて。宴会芸用にでも雇ったとしか思えないね。道化として』

 

 と。このように開口一番どちゃくそに煽られて二人とも相当頭に来ていたゆえ、昂る熱を少しでも発散するために舌戦を繰り広げていたところだ。

 しかし語気は強くとも試験で魔法をぶつけ合った仲である。

 不思議と私とユノの間にギスギスとした空気は流れていなかった。

 

「あらまぁ! ジゼルさんが会ったばかりの人にこんなにも心を開いているなんて……つい数ヶ月前まで王族一のぼっちだった人とは思えませんわ! 私、感激です!」

「ミモザ……相変わらず一言多い悪癖は治っていないようで何よりですよ……! いっぺんわからせてやった方がいいですかね? えぇ?」

「ジゼル、ぼっちだったのか。かわいそう」

「ええぃ、下民ふぜいが哀れむな! この私を誰だと思っているんです! それが王族に対する口の利き方ですか! やり直せ!」

「王族なのにぼっちでかわいそう」

「むきーーーっ!!!」

 

 『金色の夜明け』に着いた私達は基地の案内がてら、我々より一歩先んじて王族特権により入団していた同期の金髪長髪の美人、ミモザ・ヴァーミリオンによって団長の執務室まで連れられていた。

 どうやら部隊の配属先と共に最初の任務を言い渡されるようである。

 

 しかしミモザめ……。こいつ明らかに私のことを舐めくさっていやがるな。

 彼女は王族としては珍しく他者への偏見というものがそれ程なく、私としても接しやすい部類の人間ではあるのだが、いかんせん天然ゆえの無意識に人の心をえぐる発言がよく飛び出す悪癖が玉に(きず)だ。

 2年ほど前にハート王国への留学の際に知り合った縁だが、合うたびに私のことを子供扱いしてくるナチュラル失礼娘である。

 

「大体ですね……友達なんてただの嗜好品でしょう。私にはそんなもの必要ないんですよ」

「へぇ、なんでだ?」

「人間強度が下がるから」

「うわぁ」

「うわぁ」

「その『アイタタタ』みたいな目を今すぐやめろぉ! 今の発言にドン引きする箇所なんてないでしょう!?」

「気付いてないあたり末期だな」

「あまり指摘しないであげてください、ユノさん。彼女は今年まだ15歳……()()()()()()を抜け出せていないだけのです」

「そうか……()()()()()()なら仕方がないか」

「はい! なのでジゼルさんのことは孫を見守るように暖かな目線で接してあげましょう」

「わかった」

「ふ、ふ、不敬罪〜〜〜っ!!!」

 

 こいつらはなぜ私に対してこうも遠慮というものがないんだ!?

 私の方が強いんだぞ!?

 魔法至上主義のクローバー王国、どこへ!

 

「あっ、到着しましたわ。こちらのお部屋がヴァンジャンス団長の執務室となります」

「おい逃げるな。私のクレームを受け付けろ」

「ヴァンジャンス団長ー! ミモザですわ! ユノさんとジゼルさんをお連れしました」

「うん。ご苦労様。入っていいよ」

「失礼いたしますわ」

「失礼します」

「うぐぐ……無視するな……。もうっ、失礼します!」

 

 これ以上ない屈辱を一旦噛み殺して執務室に入る。

 部屋には一目見て高級品とわかる趣味の良いシックな調度品で飾られており、その中央には高級木材(ウォールナット)でできた趣味の良い執務机に腰掛けているヴァンジャンスが優雅な笑みを浮かべていた。

 彼の(かたわら)には角縁の眼鏡をかけた堅物そうな青年が控えている。

 

「やあ。待っていたよ。『金色の夜明け(うち)』の雰囲気はどうだったかな?」

「そうですね……オレは恵外界の教会の出ですから。少し落ち着かないという感じです」

「私も似たようなものですね」

「……オマエ、王族なんだからこういうの慣れてるんじゃないのか?」

「5歳ぐらいまでは屋敷の一室に半分軟禁状態みたいなものだったので。8つからは森や豪魔地帯で師匠に連れられてサバイバル漬けでしたし、こんなに神聖チックな場所には実はあまり慣れていません」

「うふふ、ジゼルさんは王族とは思えないほどに貧乏性……もとい庶民派ですものね」

「ミモザ、マジで後で覚えときなさいよマジで」

 

 私とユノは本拠地の内装に関しては共に落ち着かないという意見を正直に口にした。

 ヴァンジャンスは私達の気を衒わない言動にくすくすと上品に笑っていたが、その(そば)に立っている変な横髪をした眼鏡は青筋をピキピキと立ててこちらを睨んでいる。

 おそらく先輩なのだろうが、喧嘩は売られたら買うのがマナー。

 よって私も眉根を寄せてガン付けておいた。

 

「今回君達を呼んだのは配属と初任務を任せるためだ。急に環境が変わって慣れないかもしれないけれど、『金色の夜明け』として相応しい成果を挙げてくれると期待しているよ」

「「はい!」」

「うん、良い返事だ。それでは、ユノにはこちらのクラウスの班に入って任務をこなしてもらいたい。彼の班には君と同期のミモザもいるから頼りにするといい」

「わかりました。……よろしくお願いします、クラウス先輩」

「…………ああ」

 

 ユノが下民の出であることはすでに団内全体に知れ渡っているようだ。

 貴族のエリートであるクラウスにとっては受け入れ難い存在のはずだ。

 その証拠に今もユノとクラウスの間には少々険悪なムードが漂っている。

 

「君達には最近一部の貴族の間で取引されている違法魔道具の摘発を行ってほしい。根本から断ち切りたいから、魔道具の輸出業者を取り抑えてくれ。資料は(あらかじ)めクラウスに渡してある。追って君達も確認するといい」

「はい!」

「……あの、ヴァンジャンス団長。私は?」

 

 今の話はクラウス班への任務だ。先ほどのヴァンジャンスの口振りからは私の配属先は伝えられていない。

 おそらく私はユノとは別の班になるのだろうが、この場に先輩はクラウスしかいない。

 これは一体どういうことなのだろうか。

 

「うん。君にはまず単独で任務を与えたいと思っていてね。君の実力と人柄を判断した上で頼みたい特別な任務なんだ」

「ほう! それはそれは……適切な評価、痛み入ります」

 

 フッ……団長直々の単独任務とは。

 やはり入団試験で可能な限り実力をアッピールしたのが良い方向に働いたようだ。

 さあ、敵国への侵略任務でも諜報任務でも特殊作戦でもドンと来い!

 私の魔法帝への輝かしい道のり——その門出となる特別な任務は、これだ!

 

「ピーコ村で泥棒退治だ」

huh?

 

 いかんいかん。予想外すぎて思わずネイティブになってしまった。

 ハハハ、泥棒退治って。ヴァンジャンス団長も冗談がうまい。いやむしろ下手か。マジだったら全然笑えないんですけど。

 

「正確には野菜泥棒だね。最近は特に被害が頻発しているようだから、バリケードを張って対策してほしいっていう依頼だよ」

「……」

 

 えっ? 嘘でしょ? マジなんですか?

 

「あっ、もし他の任務がやりたければこちらで色々と見繕っておいたよ?

 えーと、『ラヤカ村でオバケカボチャの苗植え作業』『ヘカイロの町で廃墟の撤去作業』『ラクエの海岸でゴミ掃除』『平界のネアンで迷子の猫探し』とか。

 他にも似たような任務が300件ほど溜まっているから、完了次第じゃんじゃん片付けていってほしいな」

「………………………スゥ〜〜〜〜〜っ」

 

 私は盛大に息を吸い込んで——吐き出した。

 

「はぁ゛あああぁぁぁァァァーーー〜〜〜!!!???」

 

 こうして私の魔法帝への道は、劇的ズッコケスタートダッシュで幕を開けたのだった。

 





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