シルヴァ家の忌み子は王になりたい   作:G.S.C

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前回のあらすじ:秒で窓際配属女



ピーコ村の泥棒退治

 

「おおっ! ものすごい勢いでカボチャの苗が植えられていく!」

「いやぁ、ありがとうねぇ。この年になるとしゃがむのすら大変だったから助かったよ」

「どういたしまして。……次っ!」

 

「あんなに山積みになっていた瓦礫が一瞬で塵に……市外まで運搬するのも一苦労だったのに」

「さすがは魔法騎士様だ。たまげたなぁ」

「次!!」

 

「うお……さっきまでゴミだらけだった海岸が目を離した隙に美しい砂浜に! 絶景かな」

「ありがとよ! これで安心して海開きを迎えられる!」

「次ィー!!」

 

 ヴァンジャンスから任務を言い渡された数時間後。

 私、ジゼル・シルヴァは王族とは思えないほどの過重労働を強いられていた。

 すでに畑仕事、採集任務、土木作業、ゴミ収拾をはじめとした雑用仕事を計100件は処理しつつ、その激務に溜め息を吐いた。

 まだ200件残っている……と。

 

「なぜ王族たる私がこんな雑務をすることに……」

 

 私は数時間前、『金色の夜明け』の団長執務室でのやり取りを思い返した。

 

———

 

「ちょ、ちょっと団長! なんですか苗植えとかゴミ拾いって!? ユノはなんかめっちゃ美味しそうな任務もらってるのにズルいですよ!

 私は実力を評価されてこの『金色の夜明け』に入団を認められたのでは!?」

「おいキサマっ! ヴァンジャンス団長に向かってなんたる口の利き方かっ!」

 

 あんまりにもあんまりなヴァンジャンスからの任務に食ってかかる私に、クラウスが青筋を立てて怒鳴り声を上げる。

 ……確かに少し冷静さを欠いてしまった。

 新入団員の団長に対する発言ではなかったかもしれない。

 だが、到底納得できないので私としても引き下がることはできない。

 なにせ私の進退がかかっているのだから!

 

「いいんだ、クラウス。彼女が怒るのも無理はない。

 ジゼル。誤解がないように言っておくけれど、私はちゃんと君の実力と人柄を高く評価しているし、一刻も早くその力を奮えるような任務を任せたいとも思っている」

「ではなぜ!?」

「あー、それはだね……」

 

 私の抗議の言葉にヴァンジャンスは困ったように頭を抑え、私を閑職に追いやった理由を告げる。

 

「実は入団試験の数日前にノゼルの実家から圧力がかかってね……。もし君が団に入ったならこういった雑用染みた任務を送りつけるぞ、と。

 多分だけど、彼のことだから『金色の夜明け(うちの)』団だけじゃなくて他の全ての団にも同じような圧力をかけていたんじゃないかな」

「あ、あの野郎〜っ……!」

 

 原因はあの捻くれシスコン兄貴かっ……!

 どうせ私の身を案じて命の危険が限りなく少ない適当な任務を見繕って押し付けてきたのだろう。

 わざとらしく圧力をかけておけばどの団からも採用されないかもしれないし、シルヴァ家や彼らが遇する他家からもいつもの冷遇としか思われないとの判断だろう。

 まったく相変わらず余計なお節介しかしない奴だなアイツは!

 というかこの雑用任務ノゼル兄様がわざわざ集めてきたのか。暇人なのか。あの人は。

 

「そういうことでとても心苦しいのだけど、この山積みになった依頼の方をどうにか先に片付けてもらえないだろうか?」

「むむむ。お断りします、と言いたいところですが……」

 

 発端が兄であると言うのなら、その責任の一端は私にもある。

 いやまぁ8割ぐらいノゼル兄様のせいだけど。

 ……それにヴァンジャンスはそのような圧力を受けておきながら私を『金色の夜明け』に入団させてくれたわけだ。

 それは暗に『この程度の障害なぞ軽く乗り越えてみせろ』との発破でもあるのだろう。

 であればその期待、裏切るのは王族としての沽券に関わる。

 

「良いでしょう。その程度の雑務、3日……いえ! 1日あれば十分です!

 この私、ジゼル・シルヴァに全てお任せあれ!」

「うん、君ならそう言ってくれると思っていたよ。

 ……ただ依頼は王国の端から端まであるのだし、1日で終わらせるのはさすがに無理があると思うな」

 

———

 

 回想終了。

 こうして私は王族でありながら下々の民達のために馬車馬の如く()き使われているというわけだ。

 改めて考えれば私のような王族には無辜の国民が絶対的な奉仕を誓うのが当然だというのに、現状はまったくの逆である。

 腹が立つな。これも全部シルヴァ家って奴らが悪い。

 こんな奉仕活動のような行為なんぞ私の領分ではないというのに。納得できない。

 

 けれど。

 全く納得できないのだけれども。まぁ——

 

「うちのにゃんこ見つけてくれてありがとう! 魔法騎士のお姉ちゃん!」

「本当にありがとうございました……! この子、猫が迷子になった後ずっと泣いてたんですよ。

 まさか『金色の夜明け』の方がこんな依頼を引き受けてくれるなんて……感謝しかありません!」

「……」

 

 ……こういうのも、たまには悪くないのかも。

 目下の民から惜しみない称賛と感謝を述べられるというのもまた王族としてあるべき姿と言えるだろうし。

 何より、ちやほやと褒めそやされるというのは存外気持ちの良いものだ。

 

「ふ、ふん! 別に魔法騎士として当然の仕事をしたまでです。勘違いしないでくださいね? 王族の私がアナタ達のような平民に手を貸すなんて団長直々の命令でもなければ、わざわざ引き受けないんですからねっ!」

「……えっ!? こ、これは大変ご無礼を申し上げました! その銀髪でもしやとは思ったのですが……」

「分かれば(よろ)しい。本当に嫌々やってあげているのですから、アナタ達下々の者はこの私ジゼル・シルヴァに最大の敬意と称賛を奉じて感謝なさい!」

「お姉ちゃんめっちゃ顔にやけてるー」

「だまらっしゃい」

 

 この生意気なちびすけめ。

 不敬罪としてキサマは髪わしゃわしゃの刑に処す。

 

「……まぁ、アナタ達のような平民がいなければ王を崇め奉るものがいなくなってしまいますから。これからも困ったことがあれば魔法騎士団に相談なさい。

 それでは、私はこれで。これからもよくこの国に奉仕するように。アナタ達がそれを全うする以上、我々もアナタ達を護りますので。自分達の利益のためにね」

「本当にありがとうございました!」

「ありがとう! お姉ちゃん!」

「……ふんっ」

 

 ぶんぶんと手を振るちびっ子を尻目に軽く手を振りながら別れた。

 まだまだ仕事は残っているのだ。

 時間は有限。キビキビ行こう。

 

「さて、次の依頼はこれにしますか……『ピーコ村の野菜泥棒対策』。確か最初に言い渡された任務がこれでしたっけ」

 

 クローバー王国の農業を始めとする一次産業は基本的に恵外界、または平界の一部を利用して行われている。

 魔法騎士団は貴族中心の組織であるため中央や国境の警備に出張っていることが多く、恵外界の農地に人を割くことは稀だ。

 それゆえに治安が悪く、野盗などの賊も多い。

 そのような連中が出荷前の品物を強奪する事件というのはクローバー王国が昔から抱える大きな課題と言ってもよかった。

 

 ヴァンジャンスはこうした現状に対して魔法騎士団も目を光らせていることをアピールするために私にこの任務を振った可能性がある。

 穏やかそうな雰囲気をしているくせに、抜け目のない男だ。

 

 まぁ適当に農場一体を覆う見えない鉄線の網を張り巡らせて、そこにワイヤー一本一本に(トラップ)魔法でも仕込んでおけばバリケードとしては十分だろう。

 私の訓練にもなるし一石二鳥だ。

 

 フッ……この一瞬で施策を思い付く頭脳、やはり私こそが次代の王に相応しいのでは?

 そのように自己肯定感を高めながらやってきましたピーコ村。

 さぁ王族の来訪を村人全員の全力のもてなしで迎え入れるが良い!

 

「……などと、思っている場合ではないようですね」

 

 

 ——まだ村の近くの林の中だが、やけに()の匂いが漂ってきていた。

 

 

 ダンッ!と地を蹴って村へと急行する。

 

『こちらジゼル・シルヴァ。任務先のピーコ村が賊に襲われた可能性あり』

 

 通信魔法で『金色の夜明け』本部に事を知らせる。

 だがここは恵外界。

 貴族主義の『金色の夜明け』ではまともに取り合ってくれる可能性は低いだろう。

 つまり、私一人でこの事態を解決する他ない。

 

 走りながら考える。

 

 野菜泥棒をするような賊が地域住民に危害を加えることは稀だ。

 彼らは魔法騎士団の腰が重いのを良いことに、農地を餌場として定期的に狙う。

 餌場を潰してしまえば次に路頭に迷うのは彼ら自身だ。

 だから村そのものを壊滅させることは、なくはないが珍しい。

 

 しかし、これだけの血の匂いの濃さ。

 おそらく既に大半の村人が何かしらの傷を負っているはず。

 敵は相当に切羽詰まっているか、血の気の多い連中だと推測できた。

 

 そうして村に到着した私を出迎えたのは——

 

「……(むご)いことをするものですね」

 

 

 一面が村民の鮮血で染まった、凄惨な現場であった。

 

 

———

 

「ふぁ〜あ。メンドくせーな……ほんとに」

 

 ピーコ村の端にある寂れた教会に、一人の男が足を踏み入れた。

 ボサボサに乱れた黒い短髪に生気を感じさせない眠たげな眼が特徴的な男だった。

 

「ひっ!?」

「終わりだ……村の男達が総出で手も足も出なかった……」

「死にたくない……!」

 

 教会で蹲るように身を小さくしているのは、いずれも女子供と老人のみ。

 誰もが両手を合わせ、せめて子供達だけでもと祈りを捧げている。

 

 ほんの数分前、白を基調としたローブを身に纏って村へと侵入したその男は、不審者を取り押さえようと向かった男衆を瞬く間に鏖殺した。

 残りの男達は子供や妻をここへと避難させるために捨て身の特攻をかけてわずかな時間を稼ぎ、その隙に先導した村長が村の外れにあるこの教会に皆を匿っていたのだ。

 

 しかし、こうしてあっさりと侵入者に見つかってしまった。

 コツ、コツと迫り来る靴音が、生き残った彼ら彼女らには死神の足音にしか聞こえなかった。

 

「あ〜、ウチちょっとした探し物をしに来てんだけどさー。

 この村の村長っている? 自分でわざわざ探すとかメンドーなことしたくねーし……このぐらいの——手の平に収まるぐらいのサイズのきれーな石なんだけど、知らない?」

 

 男の話し方は軽薄で、やる気がなく、だらしない印象を受ける。

 が、同時にその生気の欠けた瞳で見下ろされた村人達は震え上がった。

 あまりにもその目には温度というものが感じられなかったからだ。

 男は自分達を同じ人間だと認識していない。

 野を這いずり回る獣を見下すような無気力と無関心が故の気怠さであるということが、肌を刺すように伝わってくるのだ。

 

「わ、(わし)がこの村の村長じゃ……。

 その、お主が探しているという石とは……もしやこの代々受け継がれておるこのお守り石のことかのう」

「おー! それそれ! いやぁやっぱ聞いてみるもんだわ」

「では、この石はお主に渡す! だからここにいる者達には手を出すな! 早く立ち去ってくれぃ!」

「お、さんきゅー」

 

 男は村長である老爺から押し付けるように渡された石を受け取り、懐に仕舞い込む。

 

「さあ、用は済んだのじゃろう!? 早くここから……!」

「あーあー、わかってるわかってる。いちいち急かすなよメンドくせーな。

 まぁウチもこう見えてヒマじゃねーし? こんな人間臭ぇ村からはさっさと退散させてもらうよ」

「おお……!」

 

 残された人々は男の言葉に歓喜する。

 絶望的な状況から一転、勇敢な村長の奮闘により危機を逃れることができたのだと。

 そのように喜色を浮かべる村人達をニヤついた顔で見回した下手人の男は——

 

「ま、ぜーんぶウソなんだけどね」

 

 片手に巨大な魔力の塊を顕現させ、振り上げた。

 

 男は最初から村人を生かすつもりなどなかった。

 老若男女問わず、彼にとって人間とは等しく地に蔓延(はびこ)る害虫に過ぎない。

 己から全てを奪った人間が腐るほど湧いて我が物顔でのさばる現状に我慢が効こうはずもない。

 男の目に映るヒトの全ては、生きているだけで罪なのだ。

 

 救われたと希望を抱いた一瞬の後の絶望。

 村人は言葉もなく、振り(かざ)された死を見上げるのみ。

 

 約束を簡単に反故にする不誠実。

 虚言を弄して人を嘲笑う狡猾。

 情愛の欠落した悪徳。

 

 その男は、紛うことなき〝不実〟であった。

 

「じゃ、無駄な抵抗ごくろーさん」

 

 嘲弄と共に、人の上半身を易々と呑み込むほどの魔力弾が発射される。

 狙いは最も近くにいた村長である老人。

 

 絶望に叩き落とされ、放心する老爺に迫り来る破壊の砲弾。

 それが鼻先三寸に迫ったその瞬間。

 

 

 ——不可視の斬撃が、魔力塊を真っ二つに切り裂いた。

 

 

「なにっ」

 

 老人の半身が弾け飛ぶ光景を信じて疑わなかった男は、そうならなかった現実に一瞬思考が空白になる。

 だが、これでも男は類い稀なる魔導士である。

 思考に空白が生じたところで、そこに明白な隙は生じない。

 

 ほとんど反射の領域で男は背後を振り返りざまに今度は手抜きの魔力弾ではなく、魔導書(グリモワール)の魔法を放つ。

 視界の正面、上方、左右に敵影が認められなかったがゆえの消去法的な位置特定。

 即ち、背後からの急襲であると身体が即座に判断したのだ。

 

 放たれたのは氷の魔法。

 放射状に散布される人間大の氷柱群。

 視界に映らない範囲をカバーする魔法の弾幕であり、咄嗟の迎撃として申し分ない威力と範囲と精度であった。

 

 放った魔法に一瞬遅れて男は振り返る。

 敵影の確認は最優先に行うべきこと。

 敵の位置にあたりが付いているのであれば、それは自然な行為である。

 

 しかし、だからこそ——

 

「何一つ、無駄ではありません。なぜなら……私が間に合った」

 

 振り返った先ではなく、その背後。

 男と老人の間から聞こえた少女の声と、刺すように鋭い殺気により、今度こそ明白な隙が生じた。

 

「は……!?」

 

 それもそのはず。

 男が背後に顔を向ける直前まで老人との間には人影など存在しなかった。

 つまり、彼が振り返る1秒にも満たない瞬間に回り込まれたことになる。

 空間魔法でも使わなければ説明できないほどの高速移動。

 男は反射的に距離を取るべく地を蹴って飛び退(しさ)る。

 

 しかしその程度では、乱入してきたこの少女——ジゼル・シルヴァからは逃れられない。

 すでに男は彼女の射程距離の中にある。

 

(くろがね)魔法〝(ラーミナ)〟」

 

 銀閃が瞬き、不可視の鉄線が男を袈裟に深々と切り裂いた。

 

「ぐ……いっってぇ〜〜!」

「そのまま(なます)切りにしてあげます!」

 

 男の白いローブが鮮血で紅く染まる。

 ジゼルは男が怯んでいる隙にさらに〝(ラーミナ)〟の刃を複数展開。

 男の手足の健を狙い、無数の斬撃で包囲する。

 

 ——否、包囲しようとしたのだ。

 

「そう簡単にやられるわけにはいかねーな」

「っ!?」

 

 その台詞と共に男の魔導書(グリモワール)もまた展開する。

 次の瞬間、強烈な閃光がジゼルの視界を眩ませた。

 思わず目を顰めて隙を作ってしまった彼女を尻目に、男は更に光速で大きく距離を取る。

 しかもジゼルの魔法の射程外に出たと同時、男は傷口を眩い光で覆って切創を癒してしまった。

 

「ふぃ〜、さて。これで仕切り直しってとこかねぇ」

「ちっ……」

 

 入団試験の戦闘テストでユノが行ったエスケープと似たような展開に思わず舌打ちがこぼれるジゼル。

 しかし彼女のミスを失態と罵れるほどの魔導士がどれほどいようか。

 

 なぜなら、男はすでに氷属性の魔法を放っているのだ。

 先ほどの閃光はその応用としては不自然な、光そのものを操ることによって生み出された裂光であった。

 ユノのように元属性の応用によって生み出された光とは考えづらい。

 

 然るに、男は氷と光——もしくはそれ以上の複数属性を用いることのできる極めて厄介な魔導士であることが推測できるのだ。

 

「面倒くさいですね……」

 

 魔法戦は使用する魔法属性の相性で大きく有利不利が変動する。

 例えば火属性と水属性の魔導士が戦った場合、火属性側がより強力な魔法であっても水属性側に軍配が上がることが多い。

 だからこそ魔法騎士団では基本的に三人一組(スリーマンセル)で互いに属性の相性を補完し合うチームで任務に準じるのがセオリーだ。

 

 それを一人で自己完結できる目の前の男は、それだけで『魔導士殺し』と言っても良いアドバンテージを持っている、ともすれば大魔法騎士に匹敵する強敵であるとジゼルは判断した。

 

「いやいや、それはこっちのセリフだっての。視認不可能かつ必中の斬撃魔法……メンドくせーの極地みたいな魔法使うんだから参っちまうね。

 報告では魔法騎士団は来ないって聞いてたのに、こんなメンドくせーヤツを相手しなきゃならないなんてウチも相変わらずツイてないよ」

「……へぇ。それは残念なことで」

 

 男の口振りに目を細めるジゼル。

 報告で魔法騎士団が来ないことを予め知っていたということは、少なくとも単独犯ではないのだろう。

 しかも騎士団内部……それも多くの魔法騎士の動向を把握できる上役の人間が絡んでいる可能性が高い。

 組織的な思惑を感じ、ジゼルは面倒なことに首を突っ込んでしまったことを確信した。

 

「あ、あのローブ……『金色の夜明け』だ!」

「魔法騎士団が助けに来てくれた!」

「私達の祈りが通じたんだ……!」

 

 ポーカーフェイスの裏で思考を巡らせる彼女の後ろで、間一髪の危機を救われた村人達は歓声を上げる。

 それもそのはず。

 彼ら下民はほとんどの場合、どれ程の危機に陥ろうとも魔法騎士団の庇護を受けられるかどうかは稀だ。

 しかもそれが魔法騎士団の中で最強と名高い『金色の夜明け』であるというのだから、彼らの喜びも一入(ひとしお)というもの。

 

 だが、それに面白くない顔をする男が一人。

 

「へーぇ。はぐれの騎士団員がたった一人助けに来たってだけでよくそんなに喜べるもんだ……。まだオマエが勝つなんて決まったわけじゃないのにねぇ。

 メンドくさがりのウチでも、あんまし舐められるのは気分が悪いよ……!」

 

 さも助かったと言わんばかりの興奮を露わにする民衆に対し、男はその全身から強大な魔力を(ほとばし)らせて威圧する。

 その圧力はさながら魔法騎士団団長と同格……否、それ以上であった。

 

「おや、随分と不遜な賊ですね。あくまでも私に負けることはあり得ない、と。

 ……次代の王に対して、あまりにも不敬」

 

 男のプレッシャーに先程までの歓喜も引っ込み、再び恐怖に支配される村人達。

 しかし、彼らとは裏腹にジゼルは余裕な態度を崩さない。

 まるで既に勝負は決しているかのような素振りであった。

 

 

(こうべ)を垂れろ。痴れ者が」

 

 

 瞬間、小柄な少女に似つかわしくない苛烈な怒気が吹き(すさ)ぶ。

 

「ちッ!!」

 

 それが開戦の狼煙(のろし)となった。

 男は先程の斬撃を警戒し、瞬時に魔導書(グリモワール)のページを(めく)る。

 

 並の魔法騎士を凌駕する瞬発力。

 即座に未知の魔法への対応魔法を膨大なレパートリーから導き出す判断。

 その全てが、男が大魔法騎士に勝るとも劣らぬ実力者であることを(うかが)わせる。

 本来であれば例えエリートの上級魔法騎士でさえ手も足も出ずに追い詰められ、嬲り殺しにされるであろう。

 

 ——だがしかし。彼に相対するジゼルもまた、類い稀なるイレギュラー。

 

 呪いに蝕まれ、その身に宿す魔力の量は下民以下。

 魔法騎士において最重要となる才能を持ち合わせなかった彼女は考えた。

 どうすれば己よりも格上の獲物を引きずり落とせるのかを。

 下剋上を成す、字義通りの必殺技を。

 

 その結果、編み出した。

 

「……なんだ、これは。目眩(めまい)——!?」

 

 男の視界が急激に(かし)ぐ。

 足元がふらつき、その場に膝から崩れ落ちる。

 唐突に身体の自由が効かなくなり、先刻の威圧感など見る影もなく不様に地面に這い(つくば)る。

 

「クッソ、それらしい魔法を食らった覚えは……」

「あるでしょう? 最初の一撃。アレをその身に受けた時点で、アナタの敗北は既に確定していたのです」

 

 そう。既に布石は打たれていたのだ。

 ジゼルが最初に繰り出した(くろがね)魔法〝(ラーミナ)〟。

 鉄線(ワイヤー)を用いたこの斬撃は不可視であり、対象の座標上に瞬時に発生する。

 その一番の強みは()()()()()()()()()だ。

 範囲内の敵への不可視の必中斬撃。

 つまり、ほとんどの戦闘において高確率で一発は直撃することが保証されている点が最大のポイントである。

 

 ジゼルはこの〝(ラーミナ)〟の強みを極限まで活かす戦術として、一つの魔法を編み出した。

 それは〝(ラーミナ)〟で敵に『傷を作る』ことを前提とした魔法。

 

(くろがね)魔法〝(パルス)〟——〝(ラーミナ)〟で作り出した傷口に、使用した鉄線(ワイヤー)をそのまま霧散させずに侵入させ、()()()()()()()()()()()()()です」

 

 以前、ユノの応急処置をした際に行使された〝(パルス)〟。

 その真価が今、存分に発揮されていた。

 

 〝(パルス)〟は斬撃に特化した〝(ラーミナ)〟のみでは不便を感じたジゼルが応用性を重視し、『鉄線の自在な操作』を目的に生み出した魔法である。

 人の目に映らないほど細い〝(ラーミナ)〟の鉄線は傷口から侵入したところで、痛みという異物侵入の合図に引っかかることはない。

 そうして体内に巣食ったワイヤーは宿主の神経と癒着し、対象をジゼルの木偶人形として自在に操るマリオネットの糸となる。

 

 一度この魔法に囚われたが最後、生半可な魔導士では決して逃れることはできない。

 文字通りジゼルの『必殺』を期した魔法が(くろがね)魔法〝(パルス)〟なのだ。

 

「奇襲性に優れた『必ず当たる』〝(ラーミナ)〟と、それを媒介とした『当たれば必殺』の〝(パルス)〟——この2つの魔法が私の基本にして必勝の奥義です」

 

 2種の魔法による()()()()()()()()()()()()

 まさに不可視の必中即死斬撃。

 これこそが魔力で劣るジゼルが、如何に魔力で自分を上回る敵を狩り取るかという課題に対する解答(必殺コンボ)だ。

 

「さて。それでは大人しくなったところで……アナタ達が何者か。洗いざらい吐いてもらうとしましょうか」

 

 (うずくま)る男の後頭部を踏みつけ、ジゼルは不敵に微笑む。

 ここに彼女の下剋上、その一歩がついに成し遂げられたのであった。

 





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