Schooldays in U.C.0079   作:碗古田わん

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プロローグ 勃発!ルウム戦役

『人類が、増え過ぎた人口を宇宙へと移民させるようになって、既に半世紀。人々は、地球の回りに浮かぶ円筒状のスペース・コロニーの内壁を人工の大地とし、そこで子を生み、育て、そして死んでいった・・・・・・。

 しかし、スペースノイドと呼ばれるようになった彼らは、あくまで地球から管理させる立場にあった。

 ジオン・ズム・ダイクンが提唱したコントリズムは、スペースノイドの地球連邦からの独立気運を高めさせ、遂に、地球からもっとも遠いサイド3をジオン共和国として独立宣言させるまでにいたった・・・・・・』

 

 宇宙世紀0079、1月のサイド5(ルウム)14バンチ(ハマシティ)の気候は、真冬である。このコロニーの人口の大半を占める、日本人の祖国に合せてあるのだ。

 森の木達も、今は丸裸で小枯しの冷たさに耐えている。

「・・・・・・これで今日の授業は終わりだが、非常時だからな、全員、ちゃんと真直ぐ家に帰れよ」

 その丸裸の森に囲まれた中学校(ジュニア・ハイ・スクール)、3年G組の担任、小沢は、シーンとした教室できちんと席について帰りの学活を受けている生徒達にそれだけ言うと、挨拶を済ませて教室を出ていった。

 それを合図に残された生徒達も思い思いの行動を始め、教室の中がいきなり騒がしくなる。

「非常時ねぇ」

 騒然とした教室の隅の席で鮒子田(ふしだ)(しょう)は、帰り支度をしながら、うんざりそうに呟いた。

「それもこれも、ジオンが悪い」

 と、間を置かずにそんな声が後ろから聞こえてくる。振返ると、そこには今の発言の主、小宮(こみや)正一朗(まさいちろう)と、阿部(あべ)(かつ)が立っていた。

「だな・・・・・・」

 匠は机の横に回るふたりを見ながら、納得顔をする。

「しっかし、本当に始めちゃうとはねぇ」

 机の上に腰掛けながら勝は、あきれたように言った。

「私はやると思ってたけど」

 それに対して正一朗は、いつもの淡々とした口調で答えた。

「僕も」

 すぐに匠も同意する。

「そぉーかぁ?」

 ひとり取り残された勝は、疑心の目でふたりを見た。

「まぁ、もっとも、ジオンがあれだけ圧勝するとは、さすがに思ってなかったけど」

 ちょっとマズイと思ったのか、匠はあわてて、そう付け加える。

サイド1(ザーン)は、ほとんど壊滅なんだって?」

 勝はそのフォローに満促したらしく、匠の振ったネタにのってきた。

「らしいな。サイド2(ハッチ)サイド4(ムーア)の被害も相当らしい…」

「それと地球」

 匠の説明に、正一朗は付け加える。

「オーストラリア大陸は、半分が海に沈んだそうだ」

 それは今朝のニュースで聞いた情報だった。

「そりゃ、あんなもんが落ちてくれば、ねぇ・・・・・・」

 匠は、あきらめ顔で肩をすくめる。

 それを聞いて、勝の表情が暗くなった。

「ここも戦場になるのかなぁ・・・・・・?」

 その一言で、一瞬、その場の空気が凍りつく。

 が、すぐに匠は気を取り直すと、自分を落ち着けるようにわざと冷静な口調で言った。

「州議会が一転して、連邦支持を表明しちゃったからなぁ・・・・・・」

 しかし、その先を続けるのを躊躇した。顔には、それ以上は考えたくない、というような表情が浮かんでいる。

「?」

 ちょうどその時、匠は、教室の入口に立つ人影に気づいた。

「よう、帰ろうか」

 その人影、久嶋(くとう)繁幸(しげゆき)は、匠が自分のほうに視線を止めたのを見て、そう言って右手を軽く上げる。

「OK」

 匠はすこしほっとしたような顔をしてから、親指を立てた。それから正一朗たちに、

「じゃあな」

 と、別れの挨拶を交して、濃緑のショルダー・バックを肩にしょうと繁幸と共に教室を後にした。

「戦争のこと、話してたのか?」

 3年G組のある校舎の2階から下へと降りる階段の途中で、繁幸はそう聞いてきた。

「まぁね・・・・・・」

 匠は、その話題には触れたくないような素振りで、ややナーバス気に答える。

「でっ、おまえはどう思う?」

 けれども繁幸はおかまいなしで、いきなり確信を突いてくる。

 匠はやはりしばらく躊躇したが、やがて覚悟を決めたように重い口を開いた。

「連邦の第1艦隊が4バンチ(エルエー)辺りに集結してるらしいから、ほぼ確実だろうね・・・・・・」

「そっか・・・・・・」

 繁幸もその答えはあらかじめ予想していたようだったが、さすがにすこしショックを受ける。

 そのまま無言で1階まで降りたふたりは、昇降口へと向かった。そこで外履に履き換えて、校門を出ようとした時・・・・・・、

「おーい! 久嶋ぉ!」

 突然、背中で誰かが繁幸を呼んだ。女子の声だ。

 ハッとなったふたりは、ほとんど同時に後ろを振返える。

「フーコ・・・・・・」

 匠は、げげっとなった。

 そこには、顔いっぱいに微笑みを浮べた朝倉(あさくら)風子(ふーこ)が立っていた。

「帰るの?」

「うん、君は?」

 近ずいて来た風子に、繁幸は親し気に対応する。しかし匠は、直ぐに風子を避けるように体を横にして、あらぬ方を向いてしまった。

「部活。これから練習なんだぁ」

「あっ、そうか」

 繁幸はさっきまでの沈んだ様子が嘘のように、笑みを浮かべている。

「来週、対抗戦とか言ってたもんね」

「うん! 今回は、試合に出させてもらえそうだから、ちょっと気合い入ってるだぁ」。

 そんなふたりの会話を、匠はドギマギしながら聞いていた。頬は紅潮し、顔は完全引きつっている。

「そう・・・・・・」

 風子の言葉に頷きながら繁幸は、そんな匠を気にした。

 結局、繁幸が風子と別れるまで、匠はずっとそんな調子で、高鳴る心臓の鼓動を聞いていた。

「へっ、へへへ」

 風子が体育館の方へ消えて、ふたりはゆっくりと歩き出した。と、そく、繁幸はそんな意味心な笑いを匠にして見せる。

「なんだよ・・・・・・」

 それを聞いた匠は、脅すような口調で繁幸を睨んだ。

「なんたって、初恋の()だからなぁ、仕方無いよなぁ」

 嬉しそうな顔をした繁幸は、空々しく言う。

「てめぇーなぁ!」

 繁幸は、思わず首をすくめた。間を置かず、匠が耳元で怒鳴ったからだ。

 だが匠は、直ぐにフッと肩を落すと暗く俯いてしまう。

「まぁ・・・・・・もう、終わったことだからいいけど・・・・・・・・・・・・」

「終わったって・・・・・・」

 いきなり冷静になった匠に、今度は繁幸が慌てた。

「あれは、柴田達が勝手に言ってることだろ? 朝倉は、おまえのことを嫌いだなんて、一言も言ってないぜ」

 繁幸は励ますように、そんな台詞(ことば)を口にする。

「そりゃあ、そうさ」

 匠は吐き捨てながら、お手上げのジェスチャーをした。

「本人にそんなこと言われてたら、僕はあの場を逃げ出している」

 その言葉には、誰の意見も受入れないという強い意思が感じられた。

「でも・・・・・・、まだ、確めてはいないんだろ?」

 それでも繁幸は、なんとかフォローしようとする。

「それも、冗談じゃないね」

 匠は、完全に投げ槍になっていた。

「カツみたいに、面と向かって断われたりでもしたら、目も当てられんし」

「そうだけど・・・・・・」

 きっぱりとした言い方に、さすがの繁幸も弱気になった。

”ウィィィーン!”

 と、突然、非常サイレンがコロニー全体に鳴響いた。

「また、天窓でも割れた・・・・・・?」

 繁幸は、言いながら辺りをキョロキョロと見回した。そこは住宅街の外れで、右手は、森に面している。

「いや・・・・・・」

 空を見上げていた匠は、繁幸の台詞(ことば)を否定した。

「?」

 それにつられるように繁幸も、わからないような顔をしながらも空を見上げる。

 薄い雲のかかったコロニーの空。

 その雲の中で、きらっと何かが光った。

 と、それは直ぐに人の姿に変り、ぐんぐんと大きくなっていく。

 そしてそいつは、脚部を屈伸させて森の向こうへ着地した。

”ズーン!”

「わぁー!」

 もの凄い音とともに地面が揺れ、匠たちは、その場に尻もちを着いた。

「ろ・・・・・・ロボット・・・・・・?」

 そいつを見た繁幸は、蒼ざめた顔で声を震わせながら呟くように言った。

「モビルスーツだ・・・・・・」

「モビルスーツ?」

 同じように顔を蒼くしながらも、匠はいくらか冷静な口調で、

「ジオンが開発を進めていた汎用人型機動兵器。一週間戦争での主力兵器さ」

 と説明する。

「そんなもんが、ここにいるってことは・・・・・・」

 繁幸の台詞に、ふたりは顔を見合わせた。

「始まったんだ!!」

 同時に叫んだふたりは、慌てて立上がると、退避カプセルのある方へ走り出した。

 

”ボッ!”

 鈍い発射音とともに武装エレカから、数発の有線ミサイルがジオニックMS-06C、ザクⅡへと放たれた。

 それをMS-06C(ザクⅡ)は体を屈めて、いとも簡単にかわす。

”ドーン!”

 頭の上を掠めたミサイルは、コロニーの地面を直撃した。

 素早く、MS-06C(ザクⅡ)は自分を狙ったエレカに機関銃(マシンガン)を構える。

”ダッ! ダ! ダ! ダ! ダ! ダ! ダ!”

”ズドーン!”

 120mm砲が火を吹き、エレカは一瞬にして粉々になった。

「形無しだな・・・・・・」

 その様子を退避カプセルへと走りながら見ていた繁幸は、少し驚いたように匠に話掛けた。

「モビルスーツの機動力は並じゃないからね。コロニー守備隊の戦力じゃ、あんなもんさ」

 平然とそう言いながら、匠は正面に見えてきた退避カプセルへ目をやった。入口では、連邦兵が、手を大きく振回しながら、

「早くしろー!」

 と、怒鳴っている。

 ふたりは息を切らせながらも足を早めて、退避カプセルの中へと滑込んだ。

 カプセルの中には既に大勢の人が逃げ込んでいた。その大半は学生で、みんな恐怖に震えながら隅の方で小さくなっている。

「飯島…」

 回りをグルッと見回した繁幸は、知ってる顔を発見してそう呟いた。

「久嶋…」

 飯島(いいじま)貴子(たかこ)も、自分の方に近づいてくる繁幸に気づいて隣を空けた。

「君もいっしょなんだぁ」

 貴子は、繁幸に続いて腰を下ろした匠に明るく言った。

「うん・・・・・・・・・・・・」

 生返事で答えながら、匠は、

(邪魔だったか…?)

 と、思っていた。

”ズーン!”

 その時、凄まじい地鳴りがしてカプセル内が大きく揺れた。

「キャー!」

 とっさに、貴子は繁幸の腕にしがみつく。繁幸も、そんな貴子の肩を抱いて自分の胸に抱込んだ。

(こりゃあ、近いぞ・・・・・・!)

 体をすくめて震動に耐えた匠は、神妙な顔付きになると、心の中でそう呟いた。

 

 コロニー内へと進入したMS-06C(ザクⅡ)は、その絶大なる機動力を生かして、10分もたたない内にコロニー守備隊を全滅させてしまった。

 コロニー内にはもう、MS-06C(ザクⅡ)に対抗出来るだけの戦力は無いハズだった。

”シュッ!”

 だが、そのMS-06C(ザクⅡ)を、突然、ミサイルが襲った。

 MS-06C(ザクⅡ)を追ってやはりコロニー内へと進入した、連邦軍の宇宙戦闘機、ハービックFF-S3、セイバーフィッシュが放ったのだ。

”ドゥ!”

 とっさに、MS-06C(ザクⅡ)はランドセルの推進器(スラスター)を吹かした。

 真紅の機体が宙を舞う。

”ズッドーン!”

 MS-06C(ザクⅡ)が今さっきまでいた所は、爆発で地面が抉られコロニーの内壁が剥き出しになった。

”ズーン!”

 10数メートル後ろに着地したMS-06C(ザクⅡ)は、そのまま、退避カプセルの入口を背にをジリジリと後退りする。

 FF-S3(セーバーフィシュ)は、強大なバックパックから補助推進(サブスラスター)を放ちながら、狭いコロニー内を旋回するとMS-06C(ザクⅡ)へと機体を向けた。

”シュッ!”

 残っていた3発のミサイルが、一斉に放たれる。

”ドーン!”

 しかし、ミノフスキー粒子下のため、ほとんど誘導が効かないミサイルは、全てMS-06C(ザクⅡ)の足もとで爆発した。

”ギーン!”

 MS-06C(ザクⅡ)のモノアイが不気味に赤く光り、FF-S3(セーバーフィシュ)を睨みつけた。

 120mm機関銃(マシンガン)を構える。

 ターゲットスコープが、FF-S3(セーバーフィシュ)を捕らえた。

”ダッ! ダ! ダ! ダ! ダ! ダ! ダ!”

 銃口から閃光が走る。

”ズガーン!”

 直撃だった。

 FF-S3(セーバーフィシュ)は、炎に包まれながら墜落していく。その先には、退避カプセルの入口があった。

”ドッ! カーン!!”

 再び、カプセル内が大きく揺れた。

「わぁー!」

「きゃあー!」

「!?」

 さっきよりも激しい揺れに、3人はその場に投げ出される。

”ビー!”

 と、同時に、壁のグレードランプがイエローからレッドに変わった。

 みたたび、カプセルが揺れる。だが今度は、前の2回程ではない。

「今度は、なんだよぉ!」

 繁幸がうろたえたように叫んだ。

 コロニーの外壁の一部が、吹き飛び、カプセルは宇宙空間へと投出された。

「心配ない・・・・・・カプセルが、射出されたんだ・・・・・・」

 匠が静かに口を開いた。それを聞いた繁幸は、ちょっとホッとしたような顔をする。

「射出って・・・・・・あたし達、これからどうなっちゃうの・・・・・・・・・・・・?」

 が、貴子は不安そうに聞いた。

「さぁ?」

 首を横に振る匠。

「連邦でも、ジオンでも、拾ってくれりゃあいいけど・・・・・・流れ弾に当る可能性だってあるし・・・・・・・・・・・・」

「そんなぁ・・・・・・」

 貴子は、顔面蒼白になった。

 繁幸も、さっきホッとさせたハズの顔をまた強張らせていた。

 今や宇宙(そら)は、戦艦やら、モビルスーツやら、コロニーやらの爆発の輝きに彩られていた。

 カプセルはその中を、輝きの届かない闇へゆっくりと流れていく。

(親父や母さん・・・・・・フーコは、無事なんだろうか?)

 匠は、カプセルに予め備え付けられていた慣用ボンベを口に充てながら、そんなことを考えていた。

 やがてカプセルは、深い闇の中へと吸込まれて、見えなくなった。

 

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