Schooldays in U.C.0079 作:碗古田わん
戦況は激戦を極めていた。
しかし、
「やはり早い!」
(もしかして、
そんな考えが頭をよぎる。
それぐらい、
しかも、避けながらも攻撃も忘れていない。
今の匠なら、例え弾速の早い90㎜
牽制として、充分役割を果たしていた。
だが、それも限界があった。
弾が切れたのだ。
すると
そのまま、
匠は、
飛び交うメガ粒子の矢が
しかし、それ以上はダメージを受けず、
「しまった!」
そこで初めて匠は、この体制ではビットが使えないことに気づいた。
慌てて、シールドを捨てて左手でビームサーベルを抜く。
それでヒートナギナタの一撃を受け流した。
だが、体制に無理があった。
バランスを崩した
けれども、それよりも早く
「くそっ!」
打つ手をなくした匠は、
それは相手も予想外だったようで、動揺しているのが感じられた。
そのまま、
2機はその状態のままグラナダへと落ちていく。
(このままだと・・・・・・)
グラナダに被害が及ぶ可能性がある。
”特にグラナダは、軍事基地化してるとはいえ、民間人も多く住んでいる。なので、絶対攻撃するな”
匠の頭にケインの言葉がよぎる。
だが、今戦っているのは憎き隊長の
「構うものか!」
匠はスロットルレバーを最大戦速に入れた。
抵抗するように
しかし、月の引力と
2機は、絡んだままグラナダの表面に激突した。
ちょうど天窓で、防空用のシャッターが閉まっていた。
落下の衝撃でシャッターごと天窓をぶち壊した2機は、そのままグラナダの最上部に墜落した。
そこは
グラナダ内では警報のサイレンが鳴り響き、その一体の隔壁が一斉にせり上がってきた。
大気が抜けるのを防ぐためだ。
そんな周りの喧騒さもお構いなしで匠は頭部の60㎜バルカン砲を放とうとした。
だが、それよりも早く
慌てて胸の
60㎜弾は宙を切って、グラナダの天井に命中した。
「逃がすものか!」
匠は
その時、
”パパ! ママ!”
頭の中に少女の叫び声が聞こえた。
「!?」
思わず、今、
(僕が飛び込んだせいか・・・・・・?)
匠はショックを受けた。
既に隔壁は完全に閉じていて、今からこのエリアを脱出することはできない。
穴の空いた天窓からは空気が漏れて、酸素も薄くなっている。
周りに人影も無い。
「助けなきゃ・・・・・・」
取りつかれたように
そのまま瓦礫の横で泣きじゃくる少女のところまで飛ぶ。
「逃げるんだ」
匠は少女に声を掛けた。
「でも・・・・・・パパとママ・・・・・・が・・・・・・」
泣きじゃくりながら、少女は拒絶した。
(この状態だと、もう助からない・・・・・・)
悲痛な顔で匠は心の中で呟いた。
「もう死んじゃった・・・・・・の・・・・・・?」
泣きながら少女は、聞いた。
(この
驚きながらも匠は、こくりと頷いた。
「パパ・・・・・・ァ! ママ・・・・・・ァ!」
少女は涙を振りまきながら絶叫した。
「とにかくここは危険だから、脱出しよう」
匠は少女を後ろから抱きかかえた。
少女は無抵抗で、大人しく抱かれた。
「パパ・・・・・・ァ・・・・・・ママ・・・・・・ァ・・・・・・」
だが、目からは涙が溢れているのはかわらなかった。
匠は少女をしっかり抱きかかえると、
コクピットにたどり着いた匠は、正面ハッチを閉めると、与圧する。
「しっかりつかまってて」
匠は、少女が怯えないようにできるだけ優しく言った。
そんな匠の気遣いが伝わったようで、少女はこくっと頷いた。
「いる・・・・・・」
だが、外には敵モビルスーツ部隊が控えていることを匠は感じた。
なので、グラナダに突入した時に、一緒に追尾してきたビットを先に出すことにした。
天窓からビットが飛び出す。
それを目標と勘違いした
ロケット弾を機敏な動きで回避しながら、ビットは
いきなりモビルスーツ以外のものが出てきて攻撃を受け、
その隙を突いて匠は
「数が、多い」
思ってたよりも多くの
ビットで攻撃しつつ、自らも
『ショウ!』
すると、聞き慣れたデレックの声がヘルメットのヘッドホンに響いた。
見ると、
『どこに行ってたんだよ!?』
『撤退命令が出てるぞ』
それから、ショウに告げる。
「・・・・・・了解」
命令を受けて匠は、
少女はまだ泣きじゃくっていた。
「馬鹿野郎が!!」
ケインの怒鳴り声とともに、匠の頬に拳がヒットした。
その勢いで匠は壁まで飛ばされると、へたり込んだ。
「オレは言ったよな!? グラナダは攻撃するなって!」
「
眉をつり上げたケインに、匠はふてくされ気味に言った。
「ミッキー隊長の敵を討つチャンスだったんです・・・・・・」
それでも命令違反をしたという自覚はあったので、睨みつけるケインから視線を外す。
「その結果がアレか!?」
ケインはキャットウォークの横で、フランソワーズ・ベイルが面倒を見る少女を指さした。
「お名前は?」
「ユメ・・・・・・ユメ・サク・・・・・・ヤ・・・・・・」
優しく語りかけるフランソワーズに、
「いいか? オレたちは戦争屋だ」
ケインは語尾を強めて言った。
「だから、必要とあれば人も殺す」
そんなやり取りをデレックとクワサは、じっと見守っていた。
「逆に言えば、必要も無く人は殺さない」
匠は何も言えなかった。
「オレたちは殺人鬼じゃないんだ」
ただ、自分のしたことが大事だったということを自覚した。
「戦争屋というのは、決められた命令系と規律に基づき、必要な時に必要な暴力を与えるものだ」
ケインはハッキリとした口調で断言した。
「そのことをよく覚えておけ!」
そして、言い放つ。
「
最後にもうひと睨みしてから、ケインは機微を返すと近くにいたメカマンに原隊復帰についての打ち合わせに入った。
「僕は・・・・・・」
へたり込んだままの匠は、蒼ざめた顔で呟いた。
「加害者になってしまったのか・・・・・・?」
瞳に涙が浮かぶ。
(違う・・・・・・)
涙は粒となって、目の周りに浮遊した。
(初めから加害者だったんだ・・・・・・)
俯いたまま匠は、さめざめと泣いた。
(なのに、そんな覚悟も無くって、ただ自分の憎しみのために・・・・・・)
「ショウ・・・・・・」
そんなショウの姿を見ていられなくなって、クワサは声を掛けようとした。
しかし、デレックに止められる。
クワサの肩に手を置いたデレックは、悲しげな顔で首を横に振った。
その横を小さな陰が通った。
「泣いてる・・・・・・の・・・・・・?」
結愛の問いに匠は力なく頷いた。
そんな匠の頭を結愛は全身で抱きしめた。
「お兄ちゃんは悪くない・・・・・・よ」
優しい声で結愛は言った。
「違う・・・・・・」
だが、匠は涙声で呟く。
「僕が君の両親を殺したんだ・・・・・・」
そんな匠の頭を結愛は撫でた。
”そうじゃないよ”
不意に頭の中に結愛の声が入ってきた。
”お兄ちゃんは憎かったんだね”
そして、優しい声で語りかける。
”戦争が”
「えっ?」
結愛の想いに、匠は意表を突かれた。
「違う・・・・・・僕が憎かったのはジオンで・・・・・・隊長を殺した
匠は力なく反論しようとした。
”パパが言ってた。一番悪いのは戦争だって”
結愛の言葉は、ハッキリ言語化されているわけでなかった。だが、匠には確かに結愛の言いたいことが伝わってきた。
”戦争が無ければ、大勢の人が死ぬことは無かったって”
「でも、君の両親を殺したのは僕だ!」
突然、大声を出した匠に、デレックとクワサはびくっとなった。
"お兄ちゃんもパパとママ・・・・・・それに大切な
それは結愛が匠の心の中を読んで得た情報だった。
”だから、おあいこ”
その言葉には、微笑みが加わっていた。
「君は僕が憎くないのか・・・・・・?」
匠は唖然とした。
”憎くないよ”
それに対して結愛は、断言した。
”戦争ってそういうものだって、パパが言ってた”
同時に、匠の中に結愛の両親のことが流れ込んできた。父は元軍人だが戦争前に退役して、パン職人になったらしい。
”結愛はお兄ちゃんが可哀想”
「僕が・・・・・・?」
意外な言葉に匠は戸惑った。
”戦う理由も無く戦って・・・・・・大事なものを失って・・・・・・無理矢理戦う理由を作って・・・・・・戦ってるお兄ちゃんが可哀想・・・・・・”
「・・・・・・・・・・・・」
匠は言うべきことを失った。
「見透かされてるんだな・・・・・・」
なので、力なく笑うことしかできなかった。
「もう僕はなにがなんだかわからないよ・・・・・・」
愚痴るように呟く。
「戦う意味もなくなった・・・・・・」
匠自身、完全に自分を見失っていた。
”なら、結愛のために戦って”
すると、結愛が意外なことを言った。
”戦って、戦争を終わらせて”
それは今までより明確なイメージだった。
「僕が・・・・・・?」
匠は戸惑った。
”お兄ちゃんには、その力があるんでしょ?”
「ガンダム・・・・・・」
匠には
”その力で戦争を終わらせて”
匠は迷った。
「ねぇ? お兄ちゃ・・・・・・ん」
そこで結愛は声を発した。
「わかった」
それで匠は腹をくくった。
「君のために・・・・・・君みたいな子をもう出さないために、僕は戦う」
「う・・・・・・ん」
匠の決心に結愛は優しく微笑んだ。
戦争は、まだ、続いている。