Schooldays in U.C.0079   作:碗古田わん

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#10 結愛の決意

 サラブレッドのブリッジに鮒子田(ふしだ)(しょう)が上がると、小宮(こみや)正一朗(まさいちろう)が待ち構えていた。

「もう大丈夫なのか?」

「うん」

 心配そうに聞く正一朗に、匠はなにか聞いたんだろうなぁ、と思いながら頷いた。

「なら、私は原隊に復帰するから」

 そう言った正一朗は、腕を出した。

「また戦場で」

「うん。また戦場で」

 答えように腕を出した匠は、軽くぶつける。

 正一朗が部下とともにエレベーターへ流れていくのを見送ると、今度はデレック・イージスが寄ってきた。

「補給が来るってよ」

「このタイミングで?」

 デレックの言葉に匠は首を傾げた。

「ガンダムの装備を持ってくるらしいぜ」

 匠はますます首を傾げる。

「ガンダムの・・・・・・?」

 それを聞いたジェフ・ロバーツが口を挟んだ。

「追加のビットだよ」

「これ以上、ビットを追加するんですか?」

「あと4つね」

 ジェフは気楽な口調で言ったが、匠は神妙な顔になった。

「制御できるかな・・・・・・」

「理論上は可能なはずです」

 そんな心配にイリア・フィリップが答えた。

「理論上・・・・・・ねぇ」

 匠はうさんくさそうな顔をして、ぼそっと呟く。

「その時、ボクらも下艦する予定だ」

 そんな態度も気にならないようで、ジェフは告げた。

「本当は最後まで見届けたかったんだけどね」

 この後は恐らくア・バオア・クー戦が控えている。

(生死がどうなるかわからない大きな作戦に民間人は置いとけないよなぁ)

 匠がそんなことを思っていると、

「あと、お嬢ちゃんも引き取ってもらうから」

 ロッドが会話に加わる。

 すると、それまで匠の腰にかじりついて黙って話を聞いていた咲耶(さくや)結愛(ゆめ)が、首をふるふると横に振った。

「結愛、ここは危ないから安全な場所に連れてってもらおう」

 できるだけ優しい口調で匠は言い聞かせた。

 それでも結愛は、首を横に振り続ける。

「お兄ちゃんと一緒がい・・・・・・い」

「ボクもモビルスーツで出撃したら、艦にはいなくなるよ?」

「結愛も一緒についてい・・・・・・く」

 結愛の言葉に、匠は困ったような顔をした。

「それは興味深いですね」

 ふたりのやり取りを聞いていたイリアが、口を挟んだ。

「その少女はニュータイプなのでしょ?」

「多分・・・・・・」

 イリアの問いに、匠は曖昧に答えた。

 念波(テレパシー)を使って心の中まで読んでいるからほぼ間違いないと思うが、ここで断言するのはなにか危険な気がした。

「ニュータイプふたりでビットの制御を分担すれば、より効率的な運用が可能になるのでは?」

 研究者特有の冷たい物言いに、匠はかっとなった。

「結愛は民間人だ!」

 そして、眉をつり上げ怒鳴る。

「それを戦場に投入するなんて!」

「ですが、貴重なサンプルです」

 匠はきつい口調で反論したが、そんな態度も意に返さず、イリアは事務的に言った。

「それにまだ子供ですよ!?」

 その言い方が気に入らず、匠はイリアに強く当たった。

”結愛は大丈夫だよ”

 すると、突然、結愛の意識が流れ込んでくる。

”結愛はお兄ちゃんの力になりたい”

 心の中で懇願する結愛に、匠はなにも言えなくなってしまった。

「艦長・・・・・・」

 なので、匠はロッドに助けを求めた。

「彼女を乗せれば、ガンダムはより強固になるのか?」

 しかし、ロッドは予想外の反応を示す。

「断言はできませんが、恐らくは」

 聞かれたイリアは、推論を述べた。

「艦長!」

 ロッドなら当然反対するだろうと思っていた匠は慌てた。

「上層部から、可能な限りオーガスタ研究所に協力するように言われているのだ」

 不満そうな匠に、ロッドは事情を説明した。

「けど・・・・・・!」

 それでも匠は噛みついた。

「ユメさんは、それでいいんですね?」

 そんな匠を無視して、イリアは結愛に尋ねる。

 結愛はこくっと頷いた。

「結愛・・・・・・」

 匠は、本当に心配そうに結愛を見た。

”心配しないで”

 それを読んだ結愛の意識が流れ込んでくる。

”これは結愛が決めたことだから”

 それはハッキリとした意思表示だった。

「結愛がそう言うなら・・・・・・」

 これ以上の説得は無理だと判断した匠は、渋々頷いた。

「なら、我々も残らざるを得ないな」

 ジェフはイリアを見た。

「そうですね」

 それに対して、イリアも頷く。

「ガンダムのコクピットもなんとかしないと」

「二人乗りに改造しないといけませんね」

 話が自分の意思とは反対に動き始めて、匠は複雑な気持ちになった。

 

 それから6時間後、補給部隊がサラブレッドにやってきた。

 早速、RX-78NT5(ガンダムNT5)用の追加ビットが運び込まれる。

 RX-78NT5(ガンダムNT5)のコクピットでは、匠と結愛がシートに着いていた。

 シートは二重になっていて、匠がハーネスを締めたら後に結愛用のシートを取り付ける構造をしていた。

 結果として、結愛は匠の膝の上に乗っかる姿勢になった。

「よくサイズがあったなぁ」

 レモンイエローのパイロットスーツに身を包んだ結愛を見て、匠は感心した。

「子供用らしいよ」

「子供用ねぇ・・・・・・」

 ジェフの言葉に匠は、なぜパイロットスーツに子供用があるのか気になったが、それ以上は怖くて聞けなかった。

「シートの調子はどうだい?」

 モビルスーツデッキは正面ゲートが開いているので、与圧されていない。なのでジェフやイリアもノーマルスーツを着ていた。

「急ごしらえにしては、いい感じです・・・・・・結愛は?」

「いい感じで・・・・・・す」

 匠の問いに結愛ははにかみながら答える。

「メカマンたちが頑張ってくれたんだ。あとでお礼を言うといい」

 それを聞いた匠は、結愛のために頭を悩ますメカマンたちを想像して、少しほっこりとした。

「くす・・・・・・っ」

 その意識を読んだんだろう。結愛も小さく微笑んだ。

「それでは試験を始めましょうか」

 イリアが言ったので、匠は気持ちを引き締めた。

「まず、フシダ准尉がビットを制御してください」

「了解」

 匠はサイコミュを起動させた。

 RX-78NT5(ガンダムNT5)はベッドに寝たままで、両肩のジョイントが外れ、2個のビットが自由になる。同時に、カタパルトに置かれてい4つのビットが補助推進器(サブスラスター)を軽く吹かして、ふわっと宙に浮く。

(動け・・・・・・)

 匠は念じた。

 すると、ビットは正面ゲートから宇宙(そら)に出ようとする。

 しかし、我先にと出ようとして、ビット同士が接触する。

 ビットの数が増えた分、制御が散漫になってしまったのだ。

(もっと集中しないと)

 匠は意識をビットに集中させた。

 すると、6機のビットの動きがわかるようになった。

 周りが見えなくなり、ビットの制御だけに意識が持って行かれる。

「よし、そこまで」

「!?」

 ジェフの声に匠は我に返った。

「次はユメ君の番だ」

「できそう?」

 匠の問いに結愛はこくっ頷いた。

「では、お願いします」

 イリアの声に、結愛は意識を集中させた。

 宇宙(そら)を漂っていたビットが、再び動き出す。

「とりあえず、ここまでは順調か・・・・・・」

 キャットウォーク脇のモニターを見ながら、ジェフは呟いた。

「それじゃ、次はふたりで制御できるか試してみよう」

「・・・・・・」

 ジェフは言ったが、結愛の耳には届いていないようで、ビットの制御に集中している。

「結愛?」

 それは匠が聞いても同じだった。

”結愛!”

 なので、匠は心の中で念じた。

”!?”

 それで初めて反応があった。

「お兄ちゃ・・・・・・ん」

 まるで夢から覚めた直後みたいに結愛はぼーっとしていた。

「大丈夫?」

 匠は心配そうに聞いたが、結愛はこくっと頷いた。

「次はふたりでビットを動かすけど、できそう?」

 その問いにもこくっと頷く。

「じゃあ、始めるよ」

 匠と結愛はビットの制御に集中した。

 しかし・・・・・・、

(上手く制御できない・・・・・・)

 直進を命令しても、()()()旋回の命令を受けて、動きがちぐはぐになってしまう。

「駄目か・・・・・・」

 その様子をモニター越しに見ていたジェフが、溜息をつく。

「もういいよ」

 ジェフの声で匠は制御を解除した。

 途端、ちぐはぐだったビットの動きが正常になる。

”もうやめていいよ”

 匠が心に話しかけて、結愛も制御をやめる。

 ビットは宇宙(そら)に漂う存在になった。

「やはり混線しましたか・・・・・・」

「混線?」

 イリアの呟きに、匠は首を傾げた。

「ビットは無線に例えるならオープンチャネルで、念波(テレパシー)を受信してるんです」

 その問いに、イリアは無念さが語尾に感じる言葉で返した。

「なので、異なるふたつの意思が同時に命令すると、混線してしまうんです」

 匠は詳しい理屈はわからなかったが、言いたいことはなんとなく理解できた。

念波(テレパシー)の周波数帯がわかれば、それぞれをビットに紐づけて混線を防ぐこともできるのですが・・・・・・」

「そんなことが可能なんですか?」

「いや・・・・・・今の段階では無理だね」

 匠の疑問には、考え込んでしまったイリアに変わりジェフが答える。

「まだ、そこまでサイコミュとビット、それにニュータイプの解析が進んでない」

 そして、思案してしまう。

 しかし、これは匠にしてみればチャンスだった。

「なら、結愛を乗せる必要はありませんよね?」

 元々、ビットをふたりで制御することが前提の結愛の搭乗だ。それができないのなら、わざわざ結愛を危険な戦場に連れて行くことはない。

「そうとも言えない」

 だが、ジェフは匠の言葉を否定した。

「君はさっき、6機のビットを制御する時、もの凄く集中していたよね?」

「はい・・・・・・」

 ジェフの問いに匠はぎこちなく頷く。

 嫌な予感がした。

「その状態で、モビルスーツの操縦できる?」

 その予感は的中した。

「いえ・・・・・・無理だと思います・・・・・・」

 だからといって、できもしないことをできると言うのは、さすがに違うと思った。

「なら、ビットの制御とモビルスーツの操縦は分けた方がいいと思わない?」

「それは・・・・・・そうですけど・・・・・・」

 それでも匠は言い淀んだ。

「操縦はフシダ准尉が、ビットの制御はユメさんがやる、ということでよろしいですか?」

「それは・・・・・・」

 匠は迷った。

 最悪はビットの数を元に戻すこともできるが、なにが起こるかわからないのが戦場である。戦力はあるに越したことはない。

 すると先に結愛がこくっと頷いた。

「それで、本当にいいの?」

”いいよ”

 匠が聞くと結愛は念波(テレパシー)で返した。同時に、匠の役に立ちたいという強い意志が流れ込んでくる。

「結愛がいいなら・・・・・・」

 そうなると匠は、頷くしかなかった。

「なら、その方向で最終調整していこう」

「はい・・・・・・」

 ジェフは笑顔で言ったが、匠は心のもやもやが消えなかった。

 

 補給を終えて、サラブレッドはランデブーポイントに向けて発進した。

 ビットは既に回収され、RX-78NT5(ガンダムNT5)の両肩にそれぞれ3個ずつ装着されている。

 そのコクピットで匠は自己学習型(LLM)コンピューターの調整を行っていた。

 モビルスーツデッキのハッチは既に閉じられ、デッキ内は与圧されているので、ヘルメットは脱いでいた。

 コクピットの入り口では結愛が、その様子を興味深そうに見ていた。

 結愛自身の調整は既に終えており、ジェフとイリアはブリッジへと戻っていた。

「退屈じゃない?」

 特に相手もするわけでもなく、ただ黙々と調整端末を操作しているだけなので、匠は気を遣った。

 それに対して結愛はくびをぷるぷると横に振った。

「なら、いい・・・・・・」

 と言いかけて、匠ははっとなった。

 同時に、結愛も身体をびくっとさせる。

「結愛!」

”お兄ちゃん!”

 ふたりは同時に顔を合わせて、見つめ合った。

「ブリッジ!」

 匠は直ぐにブリッジとの回線を開いた。

『どうしましたか?』

 補助(サブ)モニターにノーマルスーツ姿の良美(よしみ)・イェンスキーが映る。

「艦長につないで! 大至急!」

 いつもなら階級が下でも年上だという理由で敬語を使う匠が、ため口で話しかけたのを聞いて、良美はただ事じゃないと思った。

『わかりました』

 急いで回線をキャプテンシートに切り替える。

「どうした?」

『直ぐに艦を止めてください』

 ロッドの問いに、匠は緊張感のある声で答えた。

「なにがあったんだ?」

 その尋常ではない慌てぶりに、ロッドも緊張した。

『光が迫ってきます。飲み込まれたら一巻の終わりです』

「ん?」

 だが、その言い様は今イチ的を得ず、ロッドは首を捻った。

「フシダ准尉の言うことを聞いてあげてください」

 そこへジェフが割り込んだ。

「ニュータイプには予知能力もあるんです」

 イリアが大真面目な口調で補足する。

「このまま進むと、何か危険な目に遭うのでしょう」

 それでもロッドは、うさんくさそうな目でイリアを見た。

『早く! お願いします、艦長!』

「わかった」

 匠の必死さに、ロッドは信じてみようと思った。

「全艦停止」

「了解」

 その司令に、操舵士のルネ・ジャブイユが逆噴射をかける。

 サラブレッドはゆっくりと速度を落として停止した。

「艦隊本部との回線を開いて、到着が遅れることを・・・・・・」

 そこまで言って、ロッドは言葉を失った。

 直ぐ目の前を巨大な光の筒が放たれ、通り過ぎていったからだ。

「レーザー砲・・・・・・?」

 唖然としながらも、ジェフはそんな単語を口にする。

 光はそのまま一直線に進み、ランデブーポイント――――第1艦隊が集結している場所を突っ切った。

 光の中に、細かい光が輝く。

 それは多数の艦艇が放った爆発の光だった。

「・・・・・・・・・・・・」

 ブリッジにいた誰もがその光景に放心状態になった。

「艦隊司令部に緊急回線を開け!」

 だが、はっとなったロッドは、良美に命令を発する。

「艦隊司令部、応答願います。こちら第27独立部隊。応答願います」

 焦りながら良美は問い続けた。

「艦長!」

 そこへ匠と結愛が慌てて上がってきた。

「ショウの言うとおりだった・・・・・・」

 ロッドは匠に感謝した。

「それより、状況は?」

「第1艦隊が光に飲み込まれた・・・・・・」

 匠の問いにロッドは悲壮そうな顔で答える。

「艦隊司令部、応答ありません・・・・・・」

 良美も半分泣きそうな声で告げた。

「沢山、人が死ん・・・・・・だ」

 蒼ざめた顔で結愛は呟いた。

「結愛?」

”連邦の偉い人も死んだ。ジオンの偉い人も死んだ。みんなみんな死んだ”

 結愛は自分で自分の身体を抱きしめて震えた。

「大丈夫だよ、結愛」

 そんな結愛を匠は抱きしめて、優しく語りかけた。

「僕はそばにいるから」

「う・・・・・・ん」

 結愛は頷いたが、それでも涙が溢れるのは止められなかった。

「どうやら、ジオンは新兵器を使ったみたいだね」

 ようやくショックから抜け出したジェフが、状況を冷静に分析した。

「ソーラーシステムですか?」

 結愛の髪を撫でながら、匠は聞いた。

「いや・・・・・・それよりもずっと強力な・・・・・・多分、コロニーレーザーだと思う」

「コロニーレーザー?」

 聞き慣れない単語に匠は首を傾げた。

「なにかの論文で読んだことがある。密閉型コロニー全体をレーザー発信官にして照射する大型レーザー兵器さ」

 ジェフの説明に匠は信じられないような顔をした。

「そんなものが・・・・・・実現可能なんですか?」

「ボクも理論上だけのものだと思ってたんだけど、どうやら実現してしまったみたいだね」

 そうは言ったが、ジェフの顔もまた信じられないという表情をしていた。

(第1艦隊を失って、作戦はどうなっちゃうんだろう・・・・・・?)

 既に暗黒の闇を取り戻した宇宙(そら)を見ながら、匠はそんなことを思った。

 戦争は、まだ、続いている。

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