Schooldays in U.C.0079 作:碗古田わん
サラブレッドのブリッジはジオンの新兵器で大混乱していた。
「どこか応答するところはないのか?」
ロッド・ジョーンズは、通信席に座る
本来、ランデブーするはずだった第1艦隊旗艦フェーベとは、通信が途絶している。
「ただ今、コンペイトウ司令部に問い合わせ中です」
艦隊が駄目だと判断した良美は、一番確実そうなところに通信回線を開いた。
それでも、ジオンの新兵器の標的になってないとも限らない。
良美は、サラブレッドが
「あっ、返信ありました」
喜びの声で良美は、報告した。
しかし、コンペイトウも混乱してるようで、通信は短く簡潔なものだった。
「艦隊を再編するので、指定の場所に移動してください、とのことです」
それを聞いたロッドは、ほっと胸を撫で下ろした。
「ホワイトベースが目印だそうです」
そうつけ加えてから、良美は指定されたポイントを報告した。
(第13独立部隊のペガサス級か・・・・・・)
”ペガサス級?”
すると、匠の腰にひっついていた
「この
そんな仕草を可愛く思いながら、匠は優しく教えた。
「サラブレッド、微速前進」
「了解」
ロッドの命令にルネ・ジャブイユはスロットルレバーを少しだけ動かした。
サラブレッドがゆっくりと発進する。
「その後、嫌な予感はしないのか?」
ロッドは匠に聞いた。
「今のところは」
匠は慎重に言葉を選んで答えた。
「となると、第2波は来ないということか・・・・・・」
「もしくは別の場所を狙っているのかもしれないね」
独りごちったロッドに、ジェフ・ロバーツが推測を述べる。
「感じる?」
その言葉に匠は結愛に聞いてみた。
結愛はぷるぷると首を横に振った。
「今のところはそれもなさそうですね」
自分と感覚が同じだったので、匠は言い切った。
「そうなると、インターバルが必要なのかも知れない」
すると、ジェフがあらたな推論を語った。
「今はその可能性に賭けるしかあるまい」
ロッドも同じ事を考えていたようで、それしか言葉が出なかった。
「なにか、酷いことになってるんだって?」
ガンルームからブリッジに上がってきたデレック・イージスが聞いた。
クワサ・アラーも一緒だ。
「そうなんだよ・・・・・・」
心配そうなふたりに、匠はだいたいの状況を説明した。
「
クワサは、思わず呻いた。
デレックもショックで言葉が出ない。
そうしているうちに、サラブレッドは指定されたポイントに近づいた。
「レーザーセンサーに反応。友軍です」
管制士のフランソワーズ・ベイルが、報告した。
「ホワイトベース、位置、確認しました」
もうひとりの管制士であるマリー・ソネットが、続けて報告する。
「生き残ったのはこれだけか・・・・・・」
目に見える限り十数隻しか集まっていないことにロッドは感歎した。
「コロンブス級があまり見えないな」
ブリッジの窓ガラスにに張り付いたデレックが悲壮そうな顔で呟いた。
「モビルスーツ部隊はほぼ壊滅か・・・・・・」
その隣でクワサも蒼ざめている。
「あとは独立部隊がどれだけ生き残ってるか、だね」
匠は言ったが、自分でも気休めでしかないのはわかっていた。
「期待できそうにないけどね」
ここから見る限り、サラミス級巡洋艦は数えるぐらいしか残っていない。デレックは肩をすくめた。
「作戦はどうなるんだろう?」
クワサがぼそっと呟く
この後にはア・バオア・クー戦が控えている、と言うのがサラブレッドクルーの共通の認識だった。
しかし、この艦艇数ではとてもではないが要塞責めなどできない。
「中止・・・・・・かな?」
それでも強行される可能性もあったので、匠は自信なさげに言った。
「コンペイトウ司令部よりレーザー通信です」
その時、良美が報告した。
「繋いでくれ」
ロッドの命で、正面の大型モニターに独立部隊総司令のロベルト・ジンが映った。
『第27独立部隊の諸君』
間に障害物があるのか、画像はノイズ混じりだ。
『よく生き残ってくれた』
「はい!」
ロベルトの謝辞に、ロッドは敬礼で応えた。
『今後の予定を伝える』
それを聞いたロッドの背筋に嫌な汗が流れた。
『12月31日午前11時に星一号作戦を実行する』
予感が的中して、ロッドだけでなくブリッジにいた全員が驚きで目を見開いた。
『目標はア・バオア・クーだ』
「この数で、でありますか?」
不安を隠しきれず、動揺で言葉を震わせながらロッドは聞いた。
『いや、第2艦隊と第3艦隊は無傷で残っている』
ロッドは安堵した。それは他のクルーも同様だった。
『艦隊全体としては、30%の損失といったところだ』
単純に考えれば、1/3を失ったことになる。これはかなり大きい。
『作戦内容の詳細は、データーを送るので確認してほしい』
「了解しました」
『厳しい戦いになるが、尽力してほしい』
済まなそうな顔で、ロベルトは言った。
「微力を尽くします」
それに、ロッドは再度敬礼で応えた。
「データー受信開始します」
通信が切れると直ぐにデーターが送られてきた。
「・・・・・・完了」
「よし、全艦に通達。1時間後にブリーフィングを行う」
良美の報告にロッドは宣言した。
「了解です」
それを受けて、良美は艦内放送をオールにすると放送を開始した。
そして、1時間後。
ブリッジには主要クルーとパイロット全員が集まっていた。
「それでは、星一号作戦の詳細を説明する」
ロッドの声でブリーフィングは始まった。
「目標はア・バオア・クーだ」
床の大型モニターに、ア・バオア・クーの全景が映し出される。
「作戦開始時刻は、艦隊の再編が終わる12月31日午前11時だ」
モニターに、開始時間までのカウントダウンが追加された。
「我々は再編されたルザル旗下の第1艦隊に編入される」
ロッドは手元の資料を見ながら、説明していた。
「まず、第2艦隊と第3艦隊がNフィールドより攻撃を仕掛ける」
大型モニターに第2艦隊と第3艦隊の位置が書き込まれる。
「我々は第1艦隊として、ア・バオア・クーを回り込み、反対のSフィールドより侵入する」
今度は第1艦隊が、ア・バオア・クーを迂回する図が書き込まれた。
「第2艦隊と第3艦隊は囮か・・・・・・」
匠は口の中で呟いた。
「そして、艦隊を割って、1方がSフィールドに配備されていると思われる空母に攻撃し、もう1方がア・バオア・クーに直接攻撃を仕掛ける」
大型モニターに、艦隊を2つに割って、空母とア・バオア・クーに進軍する矢印が書き込まれる。
「我々は空母を担当する」
空母に進む矢印に目印が加わった。
「空母はオレたちだけでやるんですか?」
デレックが小さく手を上げて質問する。
「いや・・・・・・第7独立部隊と第31独立部隊も加わる予定だ」
「2個半中隊か・・・・・・」
それをモビルスーツ数に当てはめ、クワサは独りごちった。
(実際には1個中隊かな・・・・・・)
”どうして?”
匠が思うと、結愛が
”独立部隊は、部隊規模が決まってないからさ”
匠もブリーフィングの邪魔にならないように
”
”そうなんだ”
匠の説明に結愛は、へぇーと言う顔をする。
「戦力的には厳しいが、そこはガンダムに補ってもらうことになると思う」
言いながらロッドは匠を見た。
「いける?」
そして、匠は結愛に聞いた。
結愛はこくっと頷いた。
「それで、作戦の詳細だが・・・・・・」
と、ロッドは詳しい作戦内容の説明に入った。
クルーもパイロットもそれを真剣な目で聞いていた。
ブリーフィングが終わり、パイロットはガンルームに降りるためエレベーターに乗った。
「第7独立部隊って、
「
デレックの問いに、匠は肩をびくっとさせた。
「違う違う。あっちは魔女だけど、こっちは女神だよ」
あっ、と思ったデレックは慌ててフォローする。
「確か蒼い(E)型に乗ってる女パイロットだよな?」
クワサもあっ、と思ったのか、誤魔化すように聞く。
「母艦も蒼いペガサス級だったはず」
「彼女ひとりで1個中隊の戦力があるって噂の?」
気を遣わせてしまった、と思いながら匠はデレックとクワサの会話に乗ることにした。
「ああぁ・・・・・・聞いたことあるな」
”ニュータイプなの?”
すると結愛がそんなことを聞いてきた。
「そうかもしれないね」
結愛を見た匠は、肯定した。
匠が結愛に向かって突然、独り言を話すのは、もう慣れっこになってるので誰も気にしなかった。
そうしているうちにエレベータはガンルームに着いた。
「まだ、出撃まで時間があるから少し寝ようか」
匠は結愛に優しく語りかけた。
現在は午後11時。子供はとっくに寝る時間だ。
こくっと、結愛は頷いた。
「じゃあ、お休み結愛」
匠の囁きに、結愛は目を閉じた。
「結愛・・・・・・結愛・・・・・・」
自分を呼ぶ声が聞こえて、結愛は意識を覚醒させた。
「そろそろ起きようか」
匠の優しい声に、目を開ける。
「う・・・・・・ん」
眠い目を擦りながら、結愛は起きた。
「作戦前に、なにかお腹に入れておいた方がいい」
そう言ってから、匠はガンルームの壁に置いてある自動販売機を指さした。
販売機といってもお金が必要なわけではない。パイロットなら無料で買えるようになっている。
「なに食べる?」
自販機まで流れた匠は、一緒に流れた結愛に聞いた。
まだ少し眠そうな結愛は、無言でチーズバーガーを指さす。
匠は、自販機のボタンを押して、出てきたチーズバーガーを結愛に渡した。
「飲み物は?」
それから今度は隣の自販機を指さして聞いた。
「ん・・・・・・っ」
結愛はオレンジジュースを選んだ。
「飲み物はコクピットにも持ち込むから、2つ買おうか」
匠の提案に結愛はこくっと頷いた。
自分の飲み物も1つ買ってから、匠は結愛とともにガンルームの端に流れていった。
見ると、周りのパイロットもみんな食事をしている。
しかし、匠は食事を持っていない。
「お兄ちゃん・・・・・・は?」
「僕はさっき食べたから大丈夫」
実際にはよく眠れず、早く目が覚めてしまったので先に食事を済ませたのだが、それは黙っていた。
「だから、遠慮なくお食べ」
こくっと頷いた結愛は、チーズバーガーを頬張り始めた。
(なんか、小動物みたいで可愛いな・・・・・・)
その姿を見て、匠はそんなことを思った。
すると、結愛は恥ずかしそうに頬を染めて、身体を背けてあっちの方を向いた。
(あっ、そうか。思ったこと丸聞こえなんだっけ)
その態度に匠は、思い出した。
「ごめん、ごめん」
”知らない・・・・・・!”
謝る匠に、結愛は
そんな和やかな雰囲気で食事を終えた結愛は、ゴミ箱までひとりで流れてゴミを捨てると匠のところまで戻ってきた。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
匠の言葉にこくっと頷く。
通路を通り、モビルスーツハンガーまで流れ着く。
匠は開けっぱなしだったハッチを潜り、
直ぐにメカマンが結愛用のシートを取り付けた。
そこに結愛が座る。
「準備はいい?」
匠の問いに結愛はこくっと頷いた。
正面ハッチが閉められ、モニター画面に変わる。
『作戦開始10分前です』
「緊張してる?」
匠は結愛に聞いた。
ふるふると首を横に振って、結愛は答える。
「僕のほうが緊張してるかな」
心の中に留めておくいても見透かされてしまうので、匠は素直に言った。
”大丈夫?”
結愛は心配そうに聞いた。
「なんとかね」
強がっても無駄なので、匠は本音で答えた。
”結愛がついてるよ”
結愛はまだ10歳だが、10歳なりに考えて、匠を安心させようとした。
「ありがとう」
そのイメージが伝わってくるから、匠は素直にお礼を言えた。
『作戦開始1分前です』
ヘルメットのヘッドホンを通じて、良美の声が聞こえてきた。
『59・・・・・・58・・・・・・57・・・・・・』
作戦開始までのカウントダウンが始まった。
「3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・0。作戦開始です」
「サラブレッド、発進」
キャプテンシートを立ち上がったロッドが、宙を手の平で切った。
「了解」
操舵士のルネが、スロットルを最大戦速まで入れる。
「先行する第2艦隊と第3艦隊、まもなくア・バオア・クー防衛線と接触します」
管制士のフランソワーズが、戦況を伝える。
「進路クリア。敵影見当たりません」
同じく管制士のマリーが作戦は順調にいっていることを報告する。
そのまま第1艦隊は、ア・バオア・クーを迂回して、Sフィールドを目指した。
すでにNフィールドでは、連邦軍とジオン軍の間で激しい戦闘が起こっていた。
ジオン軍は予想以上の戦力で臨む連邦軍に、Sフィールドの戦力をNフィールドに向かわせた。
作戦通りの動きだった。
防衛ラインが手薄になったところへ第1艦隊が到着した。
「敵影補足」
フランソワーズが、手元のコンソールパネルと頭上の大型モニターを見ながら、報告する。
「よし、モビルスーツ隊発進せよ」
ロッドの命を受けて良美が、パイロットに伝える。
『モビルスーツ隊、全機発艦してください』
「行くよ、結愛」
結愛はこくっと頷く。
「
そして、
戦争は、まだ、続いている。