Schooldays in U.C.0079   作:碗古田わん

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#1 偵察部隊迎撃指令

 太陽の光に照らされたルナツーは、そのレモンのような外観の輪郭のみを微かに輝かせて、宇宙の闇の中に浮いていた。

 まわりには、10数隻のサラミス級巡洋艦が停泊していた。

 みな、来るべく作戦に備えて集結しつつある、連邦軍、宇宙軍艦隊の先行部隊の鑑達である。

 ルウム戦役から、11ケ月余り、12月の頭の事だ。

 それぞれのサラミス級巡洋艦はすべて、胴体部分にモビルスーツを搭載できるよう改装されたタイプだった。

 ハンガーには、数機のモビルスーツ、ガンダーRGM-79A、ジム、またはRB-76、ボールが置いてあった。

 そのまわりでは、メカマンたちやパイロットたちが、最終調整のために動き回っている。

 第27独立部隊(クリムゾン)、3番艦、サラミス級のエイプリールスターでもそれは例外ではなかった。

 けっして広くはないハンガー内には、4機分のベットが備え付けてあり、その内3機分のベットには、RGM-79A(ジム)が直立不動の姿勢で寝かされていた。そしてコクピットの中では、パイロットたちが調整作業をしていた。

 その中の1機、第72独立機動兵中隊、7番機の方へゆっくりと流れていったデレック・イーシスは、開けっ放しのコクピットハッチに取付くと中を覗きこんだ。

 そこでは、白いパイロットスーツに身を包んだ鮒子田(ふしだ)(しょう)が、チェックシートを見ながらなにやらチェックしていた。

「よう、終わったかい?」

「もう、ちょい」

 そう聞いたデレックを気にする素振りも見せず、匠は作業を続けながら答える。

 デッキ内は与圧されているので、ふたりともヘルメットは被らずに、背中のバック・パックのフックに引っかけてあった。

「さすが、技術コースから引張られた事だけはあるな」

 レモンイエローのパイロットスーツを着たデレックは、そう言って笑みを作った。

「別に・・・・・・・・・・・・、それは関係ないよ・・・・・・」

 が、匠は心外そうな顔でデレックを見る。

「ん? そうかい・・・・・・。まっ、いいや・・・・・・終わったんだったらよ、俺の方、ちょっと、見てくれねぇか? 自己学習型(LLM)のリンクが、今イチなんだ」

「OK」

 匠はデレックに親指を立てると、シートからモソッと浮上った。

「しかし、隊長もきついよなぁ、たった5日で完熟、終わらせろって言うんだから」

 デレックの機体、第72独立機動兵中隊(MFC-72)、6番機へと流れて行きながら、デレックはそんなことを言った。

「確かにね…、第2連合艦隊の奴らは、10日ぐらい、余裕があるらしいけど…」

「へぇ、そうなんだ」

 知らなかった、という顔をしながら、デレックは自機のコクピットに取付いた。匠がそれに続く。

 デレックに避けてもらい、シートに座った匠は、コンソールに接続されていた計測機を手に取った。

「奴ら、いつ頃、上がってくるって?」

 それを興味深そうに覗き込みながら、デレックは匠に聞く。

「明日の午後とか、テルが言ってたけど・・・・・・」

 匠は言いながら、計測機のコンソールに指を走らせた。

「なら、俺達と入れ違いか・・・・・・」

 計測機のパネルは、直ぐに反応を示した。それに合せて、コンソールのモニター類も点滅を始める。

「うーん、誤差、0.03±かぁ…」

 パネルに出力された数字を読取った匠は、難しい顔をした。

「この程度なら、自己学習型(LLM)コンピューターの修正範囲内だから、実戦じゃあ、それ程問題にならんよ」

「あっ、そっ。なら、いいや」

 匠の言葉に、デレックはいともあけっけらかんと言う。

「ふーん・・・・・・」

 鼻を鳴らして、匠は少し呆れたような顔をした。そしてデレックに退いてもらって、RGM-79A(ジム)から出る。

 デレックが計測機類を片付けるのを待ってから、ふたりはハンガーへと下りた。

「作戦目標は、やっぱ、ソロモンかね? ショウ」

 その途中で、デレックはさっきの続きを始める。

「さぁ? 月かもしれんぜ」

 それに対して匠は、悪戯ぽく笑って見せた。

「まさか・・・・・・。まっ、作戦が行われるのは確実なんだからいいけど。始まっちまえば、場所なんて、さほど関係なくなる。ただ、視界に入る相手を叩きゃいいんだからな」

「嫌だけど、ね・・・・・・」

 デレックのシビアな言葉に、匠は肩をすくめる。

「そりゃあ、そうさ。俺だって、出来ればそんなことはしたくないよ。でも・・・・・・、連邦には、ルウム戦役で親兄弟、住む場所を無くした俺たち戦災孤児を拾ってくれた恩がある」

 そう言ったデレックの顔は、真剣そのものだった。

「押付けがましい恩だけど」

 匠は苦笑した。

「まあね。でも、おまえさんだって、そう思ってるからこそ、軍人やってるんだろ?」

 つられるように、口元を緩めながらデレックは聞いた。

「僕は・・・・・・」

 そう言いかけて、匠は言葉に詰まってしまう。

(僕は・・・・・・?)

「?」

 匠が、まるで固まってしまったコンピューターのように、黙ってしまったのでデレックは首を傾げる。

 どうしたのかと口を開こうとしたとき、ふたりは、甲板へと着地した。

「サムソン准尉殿、ジム6番機(ジム06)ジム7番機(ジム07)。共に、チェック完了しました」

 そこでは、自分達の直接の上官である、第72独立機動兵中隊(MFC-72)第272機動兵小隊(M-272)々長、ミッキー・サムソン准尉が、メカマンとなにやら打ち合わせをしていた。

 匠はすぐにいつもの様子に戻って、はきはきとした口調で報告する。

「おう! なら、休んでいいよ」

 ミッキーは軽い口調で、指示を与えた。

「はいっ!」

 それに敬礼で答えた匠は甲板をポンと蹴る。キャットウォークの方へとゆっくり流れて行った。

 デレックはすこしだけ匠の様子を気にしたが、すぐにまっいいか、という顔をすると、後を追ってキャットウォークの方へとゆっくり流れて行った。

 

「ルナツーが、そう、言ってるのか?」

 エイプリールスターのブリッジのキャプテンシートに着いていたロッド・ジョーンズは、顔をしかめながら、通信席にいる良美(よしみ)・イェンスキーに聞いた。

「はい」

 それに対して良美は、コンソールを操作りながら簡潔に答える。

「ジプシークインは?」

「一応、従えと。でも、非道くおかんむりです。第27独立部隊(クリムゾン)は、便利屋じゃないって・・・・・・」

 そう言う良美の言葉も、多少うんざりとしたような口調だった。

「これで、3度目だからなぁ・・・・・・。よし、第1戦闘配置だ!」

 ややすっきりとしない表情をしながらも、ロッドは命令した。

「はい!」

 それを受けて良美は、コンソールを手早く操作、通信を艦内オールにする。

『総員、第1戦闘配置。敵、偵察部隊と思われるモビルスーツ、数機がルナツーに接近中、モビルスーツ隊は、ただちに迎撃に出て下さい』

「ちっ、これだよ!」

 もうすこしでキャットウォークへと届こうというところでその命令を聞いたデレックは、不機嫌そうにそう吐き捨てた。

「文句は、後!」

「へい、へい」

 匠の言葉に投げ槍気味に答えながら、デレックは先に行ってしまった匠を追うように反転した。

 RGM-79A(ジム)のコクピット・シートに飛込んだ匠は、ハーネスを手早く締めるとメインスイッチを入れた。

”ウィィィン”

 低いマシン音と共に、正面コンソールに火が灯り、モニターにデーターが出力させる。

 匠はデーターに異常がないか目を走らせながら、通信機のスイッチを入れた。

『ジプシークインとリフレインは出ないのか?』

 と、ヘメルットのヘッドホンからミッキーの声が聞こえてくる。

『はい、まだ、メインテナスが終わってないそうです』

 一通りのチェックを済ませてから、匠は顔を上げて正面モニターの上に配置されている補助(サブ)モニターを見た。

 そこには、左にミッキー、右に良美が写っていた。良美はノーマルスーツを着ていない。

『だろうなぁ・・・・・・、まっ、順当か・・・・・・、各機、スタンバったか!?』

 すでにハンガーの床、つまり艦の底のハッチが開かれ始めているので、ハンガー内でもミノフスキー粒子の影響で、モニターに写るミッキーの顔はノイズに歪んでいた。声も聞き取り難い。

「ショウ・フシダ軍曹、ジム7番機(ジム07)、スタンバイOK!」

 だから匠は、ヘルメットの耳の部分に手を当てながら、大声で怒鳴った。

「デレック・イーシス軍曹、ジム6番機(ジム06)、右に同じ!」

 それにつられるように、デレックも同じように、大声で怒鳴る。

「よし」

 それを了承したミッキーは、少し慎重な面持ちになって口を開いた。

「いいか、おまえら! 一応、実戦は、既にアフリカ戦線で経験済みだが」

宇宙(そら)での実戦は初めてだからな、心していけ!!』

宇宙(そら)か・・・・・・」

 ミッキーの声を聞きながら、匠は改めて正面モニターを見た。

ジム7番機(ジム07)、出ます!」

 そして、自機をゆっくりと前進させ、ぴよんと小ジャンプさせると、上部補助推進器(サブスラスター)を吹かして、まるで降下兵が飛び降りるように、機体をエイプリールスターの底部ハッチの穴から発進させた。

 

 途中、第27独立部隊(クリムゾン)、2番艦、サラミス級、トワイライトから発進した第72独立機動兵中隊(MFC-72)第534機動兵小隊(M-534)と合流して、6機のRGM-79A(ジム)は、変則フィンガー・フォーメーションを組みながら、第27独立部隊(クリムゾン)の旗艦である、サラミス級巡洋艦、ジプシークインをパスして、偵察部隊が進入してきた宙域へと向かった。

「あれか…」

 ルナツーの回りに無数に浮かんでいる小惑星のひとつに、いくつかの人影が取付いているのを匠は発見した。

 直ぐに映像を、補助(サブ)モニターに拡大させる。

「MS-06E、強行偵察型ザクが3機に、MS-06Fが3機か・・・・・・」

 匠は同時に出力されたデーターを読取りながら、回りに知らせるため、機体にそれを指差さすジェスチャーをやらせた。

 が、そのことは、敵にも、自分たちが発見されたことを知らせることにもなった。

 途端にザクⅡ達は、岩場を離れて四方へ散開する。

「ちっ!」

 それをモニターしていたミッキーも、部下達に命令をする。

「こっちも散開だ!」

『各自、攻撃開始!』

「了解!」

 すかさず、推進器(スラスター)出力を最大戦速に叩き込んだ匠は、散開したMS-06F(ザクⅡ)のうち、一番動きの鈍そうなMS-06F(ザクⅡ)を追尾し始める。

 自分が狙われてることを察知したMS-06F(ザクⅡ)は、狂ったように機関銃(マシンガン)を乱射した。

 それに対してRGM-79A(ジム)はシールドを立てて、堂々と正面から突っ込む。

”ダッ! ダ! ダ! ダ! ダ! ダ! ダ!”

 シールドに数発、120mm砲が被弾する。

「やられるかよ!」

 それでも匠は、ヘッドレストの右横からターゲット・スコープを引張り出しながら、RGM-79A(ジム)を突撃させた。

 顔の前に、ターゲットスコープをセットする。

 ターゲットスコープに、MS-06F(ザクⅡ)が写し出された。

 赤いロックオンシーカーが、ジグザグ後退しながら、120mm機関銃(マシンガン)をさらに乱射するMS-06F(ザクⅡ)を追う。

 ロックオン、した。

「いけぇー!」

 瞬間、既に安全装置が外された右トリッガーに掛かった親指が反応する。

”ビィキュウゥゥゥン!”

 凄まじいソニックとともにRGM-79A(ジム)の標準火器であるメガ粒子銃(ビームスプレーガン)から、メガ粒子が射ち出された。

 ショッキングピンクの光の矢が、MS-06F(ザクⅡ)の装甲をブチ抜く。

”ズッ、グッウアーン!”

「やったか!?」

 ターゲットスコープを右手で弾き飛ばしながら、匠は身を乗出してモニターに写る爆発の煙に目を凝らした。

”ビィー!”

 その時、警告モニターが、警告音とともに赤く光った。

「左!?」

 左を向く匠の目に、凄まじい勢いでこっちに突っ込んでくるもう1機のMS-06F(ザクⅡ)の姿が飛込んだ。

「くっ!」

 慌てて、匠は左右のレバーを操作した。

 回避運動をとろうとするRGM-79A(ジム)

(間に合わない!)

 匠が心の中でそう叫んだ時、

”ズッ、ドーン!”

 突然、MS-06F(ザクⅡ)が大爆発を起こした。

「…?」

 爆発の光りに顔を照らされながら、匠はわからない顔をする。

『油断大敵だぜ、ショウ』

 デレックだ。

「すまん、デレック」

 補助(サブ)モニターの中でウインクするデレックに、匠は本当に済まなそうな顔をした。

 

 一方、第534機動兵小隊(M-534)のテル・ヘンドリックは、速い動きで接近してくるMS-06E(強行偵察型ザク)に苦戦していた。

「わぁー!」

 いとも簡単にテルのRGM-79A(ジム)をパスしたMS-06E(強行偵察型ザク)は、そのままルナツーの方向へと逃げる。

『抜かれちまった!』

「なに!?」

 やはりMS-06E(強行偵察型ザク)と交戦していたミッキーは、ノイズの中から聞こえてきたテルの声に、思わず後ろを振り返った。

 そのスキをついて、こちらのMS-06E(強行偵察型ザク)も、RGM-79A(ジム)を抜こうとする。

「ちっ!」

 舌打ちしながら、ミッキーは左トリガーの安全装置を解除した。

 左手に持っていたシールドを捨て、素早く背中に手を回すRGM-79A(ジム)

”ビィーン!”

 ビームサーベルの安全弁が解除される。

 ピンク色の光が孤を描いて、MS-06E(強行偵察型ザク)の脇腹を捕えた。

 一瞬にして、MS-06E(強行偵察型ザク)はまっぷたつになる。

”ズッ、ドーン!”

『もう1機は、どうした!?』

 素早く離脱して爆発を回避したミッキーの耳に、今さっき、最後のMS-06F(ザクⅡ)を葬った第534機動兵小隊(M-534)々長、ルーベンス・カナイの怒鳴り声が聞こえた。

『すいません! 抜かれました』

 補助モニターの歪んだ画面に、第72独立機動兵中隊(MFC-72)3番機、第534機動兵小隊(M-534)のクワサ・アラーの顔が写る。

『馬鹿野郎が! 全機、ただちに追撃しろ! 今のルナツーを奴らに見せる訳にはいかん!』

「了解!」

 匠は左右のレバーを素早く操作して、機体を方向転換させた。

 推進機出力も最大速まであげる。

 それでも、前を行くMS-06E(強行偵察型ザク)との差は全然縮まらない。

 まるでそれをあざ笑うように、MS-06E(強行偵察型ザク)はジグサグ運動を繰り返しながら、ルナツーへと接近していく。

 が・・・・・・、

 突然、2機のMS-06E(強行偵察型ザク)は正面から、ロケット弾の集中砲火を受けた。

 すぐに1機が直撃を受けて、大破した。

 間髪を入れず、もう1機のMS-06E(強行偵察型ザク)にも13発のハイパーバズーカーが一斉に火を吹く。

”ズッ、ドォォォーン!”

 直撃をうけたMS-06E(強行偵察型ザク)は上半身を粉々にされ、残った下半身は反動で後ろに吹飛ばされる。

 流れてきた下半身をパスしながら、RGM-79A(ジム)の編隊は補助推進器(サブスラスター)を吹かしてスローダウンした。

「ボール?」

 モニターに写るモビルポットの集団を見て、匠はそう呟いた。

『こちら第16独立部隊所属、第12独立機動兵中隊(MFC-12)、アダム中尉です。ルナツーの要請により、貴隊を支援に参りました』

「第16独立部隊所属、第12独立機動兵中隊(MFC-12)……?」

 匠はコクピット内が機密状態であることを確認してから、ヘメルットのバイザーを開けた。

「カツのいる部隊か…」

 匠の視線が、正面モニターに写るボール達に注がれた。

「あれか…」

 直ぐに、機体に”KATSU”とマーキングしてあるRB-76A(ボール)を発見する。

 RGM-79A(ジム)は軽く補助推進器(サブスラスター)を吹かすと、RB-76A(ボール)に、手で頭を押えるように取付いた。

「なっ、なんだ?」

 コクピット内が震動したのに驚いた阿部(あべ)(かつ)は、思わず叫んだ。

『よう、カツ』

 と、補助(サブ)モニターに、顔をニヤつかせた匠が写る。

「なんでぇ、おめえか…」

 勝は、つまらなそうな顔をした。

『ふ、ふ、ふ、ひさしぶりだね』

「ジャブローの訓練校以来だろ?」

『うん』

「この野郎、ジムなんかに乗りやがってよぉ」

『ボールは、いい機体だよ』

「目が笑ってんだよ!」

 RB-76A(ボール)を持ったままで、RGM-79A(ジム)はゆっくりとルナツーの方へと流れていった。

 戦争は、まだ、続いている。

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