Schooldays in U.C.0079 作:碗古田わん
青い地球を背景に、
密集陣形を取った艦隊は、よく見ると、それぞれが太いワイヤーのような通信用ケーブルで繋がれているのがわかった。
エイプリールスターのブリーフィング室には、ブリッチ要員をはじめ、主要クルーが席につき、正面スクリーンに注目していた。
『・・・・・・幸いなことに、このカルフォルニア基地奪還作戦は今のところ順調に進んでいる』
そこには、
『すでにジオン側は、こちらの予想どうり、残存兵力をHLVへ積み込み、撤退の準備を進めているとの連絡が入った』
ミッキー・サムソンやデレック・イージスと一番後ろの席に陣取った
『そこで、我々の出番ということになる』
ラリーは、旗艦ジプシークインのブリーフィング室で、これから行われようとしている作戦の概要を説明していた。その画像は通信ケーブルを通して、全ての艦へと配信されている。
「我々は現時の位置で待機し、HLVが上がってきた時点でそれを待ち伏せ、一気に殲滅する!」
力強くそう言ってから、ラリーはひと呼吸おいた。
その間にスクリーンに窓が切られ、そこに作戦図が写し出された。
『HLV護衛のため、現在、グラナダより2個戦隊がこちらへと急行しているが、そちらのほうは、第7独立部隊と第16独立部隊が足止めしてくれるはずだ』
作戦宙域と各艦隊の位置を示した作戦図に、矢印がリアルタイムで書き込まれる。
『HLVに武装はなく、護衛につくはずのコムサイもそれほど強力な火器は有していない』
さらに別の窓が切られ、今度はHLVの3面図が表示された。
集まったクルーたちは、みな真剣な表情でスクリーンに映し出された情報に見入っていた。
「さらには、敗争してくる地球制圧軍は陸戦型のモビルスーツしか保有しておらず、恐らくはほとんど抵抗を受けずに、作戦を遂行できるはずだ」
ラリーはそこまで言って、白い歯を見せた。
「なので、モビルスーツ部隊の諸君は、気楽にやってもらっていい」
それを聞いたミッキーとデレックもおもわず口元に笑みを浮かべる。
『作戦の詳しい内容については、追って各艦の作戦担当士官に・・・・・・』
しかし、匠だけは、その言葉には笑えず、ひとり神妙な顔をした。
ブリーフィングが終わり、各員は部屋を出るとそれぞれの持ち場へと散っていった。
「今回は、楽勝そうだなぁ、ショウ」
自分たちの普段の待機場所であるガンルームに帰る途中で、デレックは大きく延びをしながら、上機嫌で言った。
「うん・・・・・・」
しかし匠は、うつむいたまま、生返事で答える。
「ん? どうした?」
それに気づいてデレックは、
「なにか、気になるところでもあるのか?」
と浮かぬ顔をしている匠の表情をうかがった。
「いや・・・・・・そういうわけじゃないんだけど・・・・・・・・・・・・」
匠は顔をあげて、デレックを見た。その瞳には、明らかに戸惑いが見られた。
「相手は非武装のシャトルだろ? ・・・・・・だから、なんていうか・・・・・・無抵抗の相手に・・・・・・その・・・・・・」
口ごもる匠に、デレックは納得したような顔をする。
「なんとなく、言いたいことはわかるけどさ・・・・・・」
デレックは、諭すように言った。
「でも、まぁ、戦争だからしゃあないさ」
そして、シビアさを隠すようにわざを明るく振る舞う。こういう話題が出るときには必ずするポーズだ。
それでも、匠は憂鬱そうな顔を崩さなかった。
「それは、そうなんだろうけど・・・・・・なんか、ちょっと気が引けてね・・・・・・」
そう言ったとき、
「オレは、そんな風には思わない」
その声に匠とデレックは振り返った。
そこには、ミッキーが立っていた。険しい顔をしたミッキーは、ジーッと鋭い視線で匠をみつめる。
「隊長・・・・・・」
それに圧倒された匠は、とりあえずそれだけ言うのが、精一杯だった。
「1週間戦争の時・・・・・・」
しかし、そのつぶやきはミッキーには届いてないようだった。遠い目をしたミッキーは、まるで独り言のように静かに言った。
「オレは、
ミッキーの脳裏に、あの時の光景が蘇る。
「奴らは、コロニーに毒ガスを注入して、一瞬にして、コロニーに住んでいた人達の命をうばいやがった・・・・・・」
それはミッキーと同じ任務に就いていた兵にとっては、忘れようにも忘れられない光景だった。
「1500万だ・・・・・・」
ミッキーの口調は、穏やかなものだったが、その語尾には静かな怒りが感じられた。
「1500万の人達が、訳もわからにまま、あの忌々しいG3ガスを吸って、もがき苦しみ死んでいったんだ・・・・・・」
そこまで言ったからミッキーは、呆然と話を聞く匠を再びみつめる。
「それに比べれば、オレたちがこれからしようとしていることなど、屁でもない」
そしてシビアな口調で言い放った。
「だからオレは、遠慮なんかは絶対にしない」
その顔から強い決意が読みとれた。
「奴らのHLVはすべてたたき落とす」
言いたいことを言い終えたミッキーは、たたずむ匠を足早に追い越すと、リフトグリップを掴み、廊下の奥へと流れていった。
匠はなにも言えないまま、その姿を見送る。
「隊長の言うとおりだぜ」
そんな様子を察して、デレックはなだめるように言った。
「奴らに情けは不要さ。おまえだって、ルウム戦役で
「うん・・・・・・」
匠はとりあえずうなずいては見せたが、その表情にはまだ戸惑いがあった。
それから6時間後、カルフォルニア基地陥落を受けて、
「もう一度、作戦内容を確認しておく」
中隊はそれぞれの艦から発艦すると、小隊ごとに矢尻編隊を組んで目標地点へと向かっていた。
『今回の作戦は、モビルスーツ隊のみで行う。艦艇は参加しない』
『我々は、二手に分かれて、一方が敵の護衛を殲滅し』
同じく、
既にミノフスキー粒子は戦闘濃度に散布されているので、通信はノイズ混じりだ。
『もう片方が、HLVを沈める』
だが、
(・・・・・・・・・・・・僕は・・・・・・)
その表情には困惑が浮かんでいた。
(少なくとも、親父や母さんのために、戦ってるわけじゃない・・・・・・)
その時、警告音とともにコクピットの光学式センサーが敵影を捉えた。
(・・・・・・かと言って・・・・・・)
それでも匠は思考を止めなかった。
『目標捕捉。方位11-1』
(お国のため、っていうのも。多分、嘘だな・・・・・・)
『よし、アラン、ニック、あとは頼んだぞ』
なので、通信も耳に入ってこない。
『
そのため、各
(・・・・・・じゃあ、僕は・・・・・・なぜ、戦ってるんだ・・・・・・?)
『なにやってるんだ! ショウ!!」
「!?」
ミッキーの怒鳴り声で匠は我に返った。
『作戦は、始まってるんだぞ!』
「はいっ! すみません!」
匠はレバーを握り直すとスロットを吹かした。
(とりあえず、今は集中しなきゃ・・・・・・)
「誰だよ。あちらさんはモビルスーツを持ってないなんて言ったのは」
それを
「雑魚には構うな!」
120㎜
慌てた
「おーっと! 貴様らの相手はこっちだぜ!」
その背後からアラン・スミスの指揮する
メガ粒子と
匠はヘッドレストの右側からターゲットスコープを引っ張り出した。
(・・・・・・これも・・・・・・)
ターゲットスコープにHLVが映る。
(・・・任務・・・)
ロックオンシーカーがHLVと重なった。
(・・・・・・なんだ・・・・・・・・・・・・)
トリガーボタンに指を掛ける。
その時、
『わぁー!』
テル・ヘンドリックの悲鳴が聞こえた。
「ちっ! アランのやつ、ミスりやがったな!」
『仕方ない。ミッキー、やつを頼む』
「了解」
ハリソンの命を受けて、ミッキーは檄を飛ばした。
「聞いたとおりだ!」
『オレたちはコムサイを墜とすぞ!』
(よかった・・・・・・)
それを聞いた匠は、内心、ほっとした。
しかし、コムサイは
「なに!? これがコムサイの機動か!」
ミッキーは脅威した。
ターゲットスコープのロックオンシーカーがコムサイを捉えようとするが、ついていけないのだ。
「くそっ!」
デレックが
「本当かよぉ!」
ディレックは焦った。
『あれじゃ、まるでモビルスーツだぜ』
(・・・・・・それなら!)
それを聞いた匠は閃いた。コンソールを手早く操作する。
とたんに、ロックオンシーカーが、コムサイを正確に捉えた。
「いけるっ!」
してやったりの顔で匠は、トリガーボタンを押した。
メガ粒子の矢がコムサイの垂直尾翼をかすめて、破片を散らしながらボロボロになる。
衝撃でコムサイがバランスを崩す。
「もらった!」
匠がトドメの一撃を放とうとした時、
”ビィー!”
側面警告モニターが、赤く点灯した。
「えっ!?」
あわてて回避運動しながら、側面を見る。
そこには、
「新手です!」
レーダー管制席についていたマリー・ソネットが、慌てて顔を上げ、キャプテンシートを見た。
「敵、1個モビルスーツ中隊、急速に味方部隊に接近しています」
「なんだと!?」
キャプテンシートにつくロッド・ジョーンは、驚きながらマリーを見返す。
「増援か? 早すぎるぞ!」
「いえ・・・・・・グラナダ方面からではありません」
再びレーダードームを覗き込んだマリーは、データーを読む。
「敵艦隊確認・・・・・・ムサイ級3隻と・・・・・・・・・・・・」
そして、驚愕した。
「ザンジバル級!?」
「ジプシークインより緊急入電!」
すると今度は、通信席の
「全艦、直ちに発進せよとのことです!」
ロッドは手で空を払った。
「エイプリルスター、直ちに発進せよ!」
「了解」
それを受けて操舵席のルネ・ジャブイユはスロットルを開けた。
戦場は乱戦になっていた。
既に
戦力的にはメガ粒子砲を持つ
しかし、
そのため、被弾率は
「さっきのコムサイは?」
そんな中で匠は、先ほどのコムサイを探していた。
「いた!」
見るとコムサイは、ザンジバルへと向かっていた。
「逃がすか!」
だが、それを阻もうとするように
「ちぃぃっ!」
舌打ちしながら、匠はコントロールレバーを操作して回避運動に入る。
そうしながら匠は
しかし、
「早い!」
匠は驚嘆した。
「こいつら、相当の手慣れだぞ!」
『止まるな!』
それが聞こえていたのか、ミッキーから檄が飛ぶ。
「動いてないと、いい的になるぞ!」
「そんなこと言われても・・・・・・」
デレックは額に汗を浮かべながら愚痴った。
そうしている間にも
90㎜
デレックはそれをシールドで受けつつ、
既にシールドは直撃を受けすぎてボロボロになっていた。
そうしている間にもHLV艦隊は戦線を離脱しようとしていた。
「このままだと・・・・・・」
焦りの色を見せながらも匠は、なんとかHLV艦隊を追撃できないか考えていた。
その時、メガ粒子の矢が一斉に放たれた。
そのうち一発がHLVを直撃した。
「エイプリルスターか!?」
メガ粒子の放たれた方をみると、4隻のサラミス級が接近していた。
「命中! 敵HLV1隻大破!」
レーダードームを覗きながら、マリーが戦果を報告した。
「このまま、押し切るぞ!」
それを受けてロットが叫んだ。
「ムサイ級、まもなく射程圏に入ります」
緊張した声でマリーが続ける。
「回避運動しつつ、射撃は継続」
「了解。回避運動に入ります」
ルネが操縦桿を操作する。
射程圏に入ったムサイ3隻が一斉にメガ粒子砲を放った。
エイプリルスターは、回避運動を取りつつ、反撃する。
それはジプシークイン。トワイライト、リフレインでも同じで、いまや
「艦の射撃の邪魔になる! 全機後退!」
ハリソンの命令で
それはジオンも同様で、
「ふーっ・・・・・・」
戦闘はまだ続いていたが、それでも匠は一息入れた。
すると、
”ビィー!”
慌てて正面モニターを見ると、後退する
背筋をただした匠は、コンソールを操作した。
素早く
「MS-17B・・・・・・ガルバルディ・・・・・・?」
その機体は、MS-17の専用機仕様、
「あれは・・・・・・メガ粒子砲!?」
匠は慌てた。
「避けてっ!」
”ビキュュュューーーーン!”
ソニックとともに
だが、メガ粒子の矢はモビルスーツ編隊の上を通り過ぎる。
外れたわけではなかった。その先にはサラミス級2番艦、トワイライトがいたのだ。
”ドッカーーン!”
機関部に直撃を受けたトワイライトはそのまま轟沈した。
「ああっ・・・・・・」
匠はそれを呆然と見てるしかできなかった。
そうしている間にも、
「やつを止めろ!」
怒りの表情で、ハリソンは命じた。
「了解!」
匠も眉をつり上げて
それでも機体をこまめに揺らして照準を合わせづらくことは忘れていなかった。
突進しながら
自分でも会心の出来だと思った。
だが、
『わぁー!』
ノイズ混じりの通信機からエディ・ハウンドの悲鳴が飛び込んできた。
「最初から、エディが標的だったのか!?」
匠はかーっとなった。
そうしている間にも
「やったな!」
吠えた匠は、ターゲットスコープを覗いて
しかし、相手の動きが速すぎてロックオンシーカーがついていかないのだ。
「ん・・・・・・?」
その時になって匠は、
「あれって確か・・・・・・」
軍報に乗っていた。
「
ジオン地球制圧軍のスーパーエースだ。
「くそーーーーーーっ!」
匠が躊躇していると、その横をミッキーの
「駄目です! 隊長! やつは!」
警告する匠を無視して、
それは
「隊長ぉぉぉぉっ!」
絶叫する匠の目の前で
それを見届けずに、
そして、急加速すると戦線を離脱しようとする。
「逃がすか!」
怒り心頭の匠は、スロットルを最大戦速へ叩き込もうとした。
『ショウ!』
だが、それをハリソンの声が止めた。
『追撃は不要だ』
『作戦は、失敗だ・・・・・・』
正面モニターを見るとHLV艦隊はムサイに後衛を守られて遠ざかっていた。
「畜生め!!」
激怒した匠は、怒りのままにコンソールに力一杯拳を叩きつけた。
戦争は、まだ、続いている。