Schooldays in U.C.0079   作:碗古田わん

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#6 その名はガンダムNT5

 鮒子田(ふしだ)(しょう)が明るさで瞳を開くと、白い天井が飛び込んできた。

「・・・・・・知らない天井だ」

 どうやらベッドに寝かされているらしい。

 周りを見ると、同じようなベッドがいくつも並び、その上には負傷した兵たちが寝かされていた。

「野戦病院・・・・・・?」

 でも、どこの?

 布団の重みを感じるところから、重力はあるらしい。

 身体を起こそうとする。

「いてっ・・・・・・!」

 そこで匠は初めて、全身がヒリヒリ痛むことこに気づいた。

「お目覚めですか?」

 すると、どこからともなく現れた看護兵が声を掛けてきた。

「ここはどこですか?」

 階級は下っぽいが歳は上そうなので、匠は敬語で聞いた。

「コンペイトウの医療室ですよ」

 その女性兵(ウェーブ)は優しく微笑んで答えた。

「コンペイトウ・・・・・・?」

 だが、聞き慣れない単語に匠はますます混乱した。

「旧ソロモンのことです」

 看護兵のお姉さんは、そっと教えてくれた。

 それで匠は、はっとなった。

「戦況は!?」

「作戦は成功しました。ソロモンは今、連邦の支配下にあります」

 その言葉に匠は安堵の溜息を漏らした。

「今、先生を呼んできますのでしばらくお待ちください」

 そう断って看護兵はベッドを離れた。

(僕はどれぐらい寝てたんだ・・・・・・?)

 それで周りを見回すと、壁に時計が掛けられるのに気が付いた。

 時間は、12月26日の朝の6時を示していた。

(丸一日以上、眠ってたのか・・・・・・)

 そうしているうちに軍医がやって来た。

「痛いところはあります?」

「身体中がヒリヒリしまう」

 軍医の質問に匠は真面目に答えた。

「まぁ、全身火傷してるが、重めの日焼け程度だから、ほっといても平気だろう」

 それが軍医の下した診察結果だった。

「今直ぐ退院できますが? どうします?」

 軍医は一応尋ねる素振りを見せていたが、言葉尻には元気なら早く退院してくれというのが透けて見えた。

「じゃあ、退院します」

 なので、匠はそう言った。

「点滴外しますね」

 看護兵は、左腕に刺されていた針を外した。

「今、迎えのものをよこしますから、このままお待ちください」

「迎え?」

 誰だろうと思いつつ、匠は衣服を整えた。パイロットスーツはいつの間にか脱がされていて、今は軍服を着ている。

 しかも、これは匠の持ち物だ。

(そう言えば、部隊のみんなはどうなったんだろう・・・・・・?)

 そんな心配をしていると、

「ショウ!」

 聞き慣れた声で呼ばれた。

 デレック・イージスだ。

「生きてたのか!」

 匠は安堵した。

「そっちこそ」

 ニヤリと笑ったデレックは、匠の背中を叩いた。

「いてててて」

「そう言えば、全身火傷してたんだっけな。スマン」

 痛がる匠に、デレックは特に悪びれた様子も無く謝る。

 そして、二人は医務室を出た。

「他のみんなは?」

 歩きながら、匠は一番気になることを聞いた。

「オレとクワサは無事。それに第308機動兵小隊(M-308)の連中も生還した」

「そっか」

 逆に言えば、他のパイロットは生還できなかったという事になる。

 匠は胸を締め詰められるような気持ちになった。

「あと、エイプリルスターは中破したけど、クルーはほぼ全員無事」

 だが、デレックの言葉に、少し気持ちが和らいだ。

 そのまま二人は重力ブロックから宇宙港(スペースポート)に上がるエレベーターに乗った。

「エイプリルスターはもう使えないんで、新しく(ふね)をもらったんだけどさ」

 その途中でデレックは意味深な笑みを浮かべる。

「見たら、びっくりするぜ」

 そうしているうちにエレベーターは第5宇宙港(スペースポート)についた。

 エレベーターのドアが開く。

「これって・・・・・・!」

 目の前に現れた(ふね)に、匠は驚嘆した。

 そこにはペガサス級が停泊していたからだ。

 ペガサス級3番艦、サラブレッドだ。

「なっ?」

 期待通りの匠の反応に、デレックは嬉しそうに笑った。

 サラブレッドは今、外観を塗装していて、ボディの2/3が深紅(クリムゾン)に塗られていた。

 まだ塗装されていないセンター部の甲板に降り立った匠とデレックは、()()()()()から艦内に入った。

 エレベーターでブリッジへと上がる。

「デレック・イージス曹長、ショウ・フシダ殿を連れてきました」

 デレックは、キャプテンシートに座ったロッド・ジョーンズに報告する。

「ご苦労」

 それから匠に向かって、

「よく生きててくれた」

 と、しみじみに述べた。

「はい!」

 それに匠は敬礼で返す。

「広いな・・・・・・」

 サラミス型よりも数倍も広いブリッジに、匠は物珍しそうに当たりをくるくると見回した。

 そこで匠は、見慣れない女性兵(ウェーブ)に気が付いた。

 その女性兵(ウェーブ)はレーザーセンサー管制席につくマリー・ソネットの横に浮かんで、なにやら操作方法を教えている。

「ああっ・・・・・・」

 その視線に気づいたロッドは、女性兵(ウェーブ)に声を掛けた。

「フラン! こちらまで」

 フランと呼ばれた女性兵(ウェーブ)は席を離れると、床へと着地した。

「こちらは、フラソワーズ・ベイル中尉だ」

 ロッドの紹介に、匠は敬礼した。

「ショウ・フシダ軍曹です」

「よろしくね」

 敬礼を返しながら、フランソワーズはにっこり微笑む。

 相手が美人だったこともあって、匠は頬を微かに赤らめた。

 照れているのだ。

「あっ、そっか」

 今のやり取りを見ていたロッドが思い出したように声を出した。

「あと、ショウ。おまえ、昇進したから」

 それから軍服のポケットから二枚の階級章を取り出すと、匠に投げた。

「はぁ・・・・・・」

 それを受け取った匠は階級を確認した。階級章は赤字に金の一本線が引かれていた。

「えっ!?」

 匠は驚いた。

「僕が士官!?」

第272機動兵小隊(M-272)は、おまえが引き継ぐことになった」

「えーっ!!」

 匠はまたしてもすっときょんな声を上げてしまった。

第272機動兵小隊(M-272)は、おまえとデレック、それにクワサを加えて3人になる」

「よろしく頼むぜ、小隊長」

 デレックがからかい混じりで、笑う。

「・・・・・・はい」

 とりあえず敬礼した匠だったが、内心は穏やかで無かった。

(僕に小隊長が務まるのか・・・・・・?)

 そんな不安が心をよぎる。

 だが、それ以前に気にしなければならないことがあることに気が付いた。

「僕のモビルスーツは?」

「それなら左舷モビルスーツデッキに係留してある」

 ロッドは答えた。

「直ぐに受理してくれ」

「了解です」

 匠は敬礼した。

 

「こっちも見たら、びっくりするぜ」

 と言ったデレックに順路を聞いて、匠は左舷モビルスーツデッキへ降りた。

 そこでは、RGM-79A4番機(ジム04)RGM-79A6番機(ジム06)が修理を受けていた。

 そして、もう1機、見慣れない深紅(クリムゾン)に全身を包んだモビルスーツがベッドに寝かされていた。

「・・・・・・ガンダム?」

 匠は仰天した。

 他に係留されているモビルスーツは存在しない。

 と、言う事は・・・・・・、

「そうだよ」

 言葉を無くしている匠は、背中から声を掛けられた。

 振り返ると、背広姿の青年と、白衣を着た女性が立っていた。

「ボクの名前はジェフ・ロバーツ。ガンダー社の人間さ」

「ガンダー社の・・・・・・?」

 握手を求めたジェフに握手で返しながら、匠は呟いた。

「そう、RX-77やRX-78、それにRGM-79を作った会社だよ」

 ジェフは笑顔で言ってから、女性を紹介した。

「こちらは、イリア・フィリップ。オーガスタ研究所の研究員さ」

「よろしく」

 イリアは握手を求めず、ただ頭を下げただけだった。

 そこまで聞いて、匠は自分が名乗ってないことに気が付いた。

「僕は・・・・・・」

「知ってるよ。ショウ・フシダ准尉だね」

 ジェフは当然のことのように言った。

「そうです」

 とは答えたものの、匠は疑問に思った。

「大破したあなたの機体から自己学習型(LLM)を回収して、分析させてもらいました」

 その空気を敏感に感じ取ったイリアは、説明をした。

「その結果、君にはニュータイプの素質があることが判明しました」

「ニュータイプ・・・・・・?」

 匠は信じられないといった顔をした。

「言葉ぐらい聞いたことがあるだろう?」

「普通の人間よりちょっと勘が良い奴ら、ぐらいしか・・・・・・」

 ジェフの問いに匠は曖昧に答えた。

「そっか。なら最初から説明した方が良さそうだね」

 そう言ったジェフは、イリアを見た。

 こほん、と咳をしてからイリアは説明を始めた。

「ニュータイプとは、ずばり超能力者(エスパー)のことです」

「はぁ?」

 あまりに突拍子もない話に匠は口を開けてしまった。

「あなたは、戦闘中、相手が次にどういう行動をとろうとしているか感じたことはありませんでしたか?」

 思い当たる節は沢山ある。

「は、はい・・・・・・」

 匠は、動揺しながら頷いた。

「それは念波(テレパシー)で相手の意識を読んでいるからです」

 イリアの言葉に熱が帯びてきた。

「注目して欲しいのは、この念波(テレパシー)はミノフスキー粒子の影響を受けないというところです」

 技術者(エンジニア)特有の迫るようにしゃべるイリアに、匠は圧倒されていた。

「なので、これを応用すれば、ミノフスキー粒子散布下でも無線誘導が可能になります」

「はい・・・・・・」

 イリアはドヤ顔で説明を終えたが、匠は今イチ実感が無くて生返事しかできない。

「そのための装備を積んだのが、このRX-78NT5さ」

 ジェフは誇らしげに、RX-78NT5(ガンダムNT5)を紹介した。

「そのための装備・・・・・・?」

「サイコミュとビットです」

 匠の疑問にイリアが答えた。

「機体に装備されたサイコミュが、パロットの念波(テレパシー)を増幅してビッドに伝えます」

 言いながらイリアは、RX-78NT5(ガンダムNT5)の両肩を見た。

「ビットはパイロットの意識に従って、相手に攻撃をします」

 そこには、球状の物体にメガ粒子砲と推進器(スラスター)を付けたものが左右に1個づつ装備されていた。

「と、説明しましたが、これはあくまで理論上のものです」

 イリアは肩をすくめた。

「これは、元々ジオンの技術でね。我々はそれを拝借させてもらったんだ」

 それを受けて、ジェフが補足する。

「えっ? どうやって?」

 その言葉に匠は思わず口を挟んだ。

「連邦にも優秀な諜報員(スパイ)がいるってことさ」

 だが、ジェフもさも当然というようにさらっ流した。

「だから、なんとか模写できたけど、実際に動くかどうかはやってみないとわからないんだ」

 そして、匠に言った。

「なので、是非、試してみて欲しいんだ」

「はぁ・・・・・・」

 今イチ納得してないような顔で、匠は生返事した。

 

 新調した深紅(クリムゾン)のパイロットスーツに身を包んだ匠は、RX-78NT5(ガンダムNT5)のコクピットについていた。

 いつものように初期チェックを済ませる。

『基本的な操作はRGM-79A(ジム)と変わらないから大丈夫だよ』

 ヘルメットのヘッドホンからジェフの声が聞こえる。

 ジェフとイリアはヘッドレスト付けて、デッキのキャットウォークに退避している。

 そこにはモニターも置いてあって、宇宙(そら)の様子がわかるようになっていた。

 匠はコントロールレバーとペダルを操作すると、ベッドからRX-78NT5(ガンダムNT5)を起こした。

 そして、解放されたままハッチまで前進させる。

 ペガサス級にはカタパルトがついているが、狭い宇宙港(スペースポート)内では使わない。

「ショウ・フシダ、RX-78NT5(ガンダムNT5)、出ます」

 そう宣言してから、匠は推進器(スラスター)を吹かしてエアロックへと飛んだ。

 そこで与圧を解除して、宇宙(そら)へと出る。

 コンペイトウの周りにはまだ多数の連邦艦艇が哨戒のために出ていた。

 識別信号が動作していることを確認してから匠は、機体を止めた。

『じゃあ、サイコミュを起動して』

 ジェフの指示通り、匠は事前に説明を受けていたサイコミュ起動スイッチをオンにした。

 ”カシャッ”

 小さな振動があって、両肩とビットを固定していたジョイントが外れたのがわかった。

『それでは、ビットを動かしてみたください』

 今度はイリアが指示を出す。

(動け・・・・・・)

 こんな感じで良いのか? と思いつつ、匠はビットに指示した。

 すると、宙に漂っていたビットが推進器(スラスター)を吹かして、動き出した。

「本当に動いた!」

 匠は驚愕した。

「おおっ・・・・・・」

 それをサラブレッドのモビルスーツデッキで見ていたジェフとイリアは、感嘆の声を上げてから、握手した。

 その間にもガンダムNT5はビットを自機の周りにくるくると球を描くように旋回させていた。

『じゃあ、次はそこら辺に浮いている岩を攻撃してみてくれ』

「了解」

 匠は狙いを定めようとした。

(あれ・・・・・・?)

 と、そこで匠は戸惑った。

(照準って、どうやって合わせればいいんだ・・・・・・?)

 とりあえず、ヘッドレスト右側からターゲットスコープを取り出してみる。

 そのまま岩を狙ってみるが、ビットが岩を狙う気配はない。

『どうしたの?』

 RX-78NT5(ガンダムNT5)が固まってしまったのをモニター越しに確認したジェフが聞いてくる。

「照準が定まりません」

 困惑しながら匠は返した。

『どういうこと?』

 ジェフの声も、意味が理解できず困惑している。

「照準をどう定めたらいいか、わからないんです」

RGM-79A(ジム)の時はどうしてたんですか?』

 そこへイリアが割って入った。

「・・・・・・・・・・・・」

 しばらく考えてから、匠は恐る恐る言った。

「・・・・・・敵を感じたんです」

「なるほど・・・・・・」

 その答えにジェフは考え込んだ。

「もしかして・・・・・・」

 と、イリアが何かを思いついた。

「多分、そうだと思う」

 ジェフも同じ事を考えていたようで同意する。

「今日のところはこれで終了しよう」

『了解』

 ジェフの言葉に、匠は同意した。

 

 RX-78NT5(ガンダムNT5)宇宙港(スペースポート)に帰投すると、エアロックを抜けて、サラブレッドまで戻ってきた。

 ベッドに固定してから、匠はコクピットを降りた。

「お疲れ様」

 それをジェフとイリアが出迎えた。

「どうも」

 匠はそう答えたが、腑に落ちない顔をしている。

「とりあえず、サイコミュとビットが稼働することがわかっただけでも、上出来だよ」

 それを知ってか知らずかジェフは明るい声で言った。

「あれ、使い物になるんですか?」

 それが癇にさわった匠は、少し強めに聞いた。

「照準の件だね?」

「はい」

 ジェフはチラッとイリアを見た。

「恐らくですけど、あなたが敵と感じないと照準が合わないんだと思います」

 イリアは推論を語った。

「なるほど・・・・・・」

 その説明に匠は納得した。

「だから、これ以上は実戦投入してみないと結果はわかりません」

「ぶっつけ本番ですか・・・・・・」

 匠は考え込んだ。

「まぁ、最悪ビットが使えなくても、RX-78NT5(ガンダムNT5)の性能なら、ジオンのモビルスーツ相手でも引きをとらないから安心して」

 ジェフは笑ったが、匠は懸念を払えず、頷くことができなかった。

 戦争は、まだ、続いている。

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