「やはり、ハデスじゃったのぅ」
「何よ、ジジイは最初から分かってたっていうの?」
「長い付き合いじゃからな。手口で良く分かるわ」
ほほほほほと顎の髭を触りながらジジイが笑う。
捕らえた女神の口から今回の黒幕の神の名前を聞く事が出来たけど、予想外の神物だったわ。
───ハデス。神事部の最高責任者ね。けど、私の記憶違いでなければハデスは最高神の後継者に名乗り出ていなかったわ。
だからこそ解せない。何故、ハデスがわざわざ私なんかにちょっといをかけるのか。それが分からない。
「アレはな、ワシ以上にこの世界のことを危惧しておるのよ」
「この世界を危惧?わざわざ私を探って?」
余計に意味が分からないわね。この世界の事を危惧するなら私じゃなくて後継者候補の方に目を向けるべきよ。
私は最高神の跡を継ぐつもりはないもの。
「それはワシのせいじゃな。ここ最近はお主とクロノスを呼び出す事が多い。ハデスからすれば気になって仕方ないんじゃろ」
「私とクロノスのどちらかが最高神になる、そう考えているのか?」
「いや、そうではない。お主とクロノスのどちらかではこの世界は纏まらん、ハデスはそう考えておる筈じゃ」
「なら何故?」
ジジイの言う通り、私とクロノスが最高神になっても待っているのは反発よ。歴も他の後継者候補に比べれば浅いし、役職も遥か下。
後継者候補のお偉いさんからすれば誰だお前って思う神も多いわ。私もクロノスも最高神の後釜にだけは就く気はない。確実に心労で倒れるもの。
「ハデスは、こう考えた筈じゃ。お主かクロノス、そのどちらかに後継者を選ばそうとしていると」
「それこそ的外れじゃない? そんな権限は私は持っていないわ」
「いや、ハデスの考えは正解じゃよ。現に私にその事をお願いしに此処に来たのじゃからな」
ホホホと楽しそうに笑うジジイの顔を見て、苛立ちを覚えたけど仕方ないと思うの。このジジイ、今なんて言ったからしら?
私に後継者を選ばそうとしている?そんな世迷言を言うほど耄碌してたのかしら。
「お主、今ものすごく失礼な事を考えたじゃろ?」
「そう思うなら今の発言を自分で見直したら?私だけじゃなくてクロノスだってそう思うわ」
一つ断言出来るわ。このジジイが今から私にしようとしているお願いが、
ジジイの顔を見たら分かる。私に断らせるつもりはない。本気なのね⋯⋯。
「ほほほ、これが見えるかのミラベル」
「なによそれ」
ジジイが掌を上に向けると2メートル程の球体が浮かび上がる。形は私たちが管理する世界に似ていると思うけど、この球体から感じる力はその非ではない。
「お主たちが管理する世界⋯⋯あれは『
「当然でしょ。神となる際の必須事項よ」
「そうじゃな。では、これが何か分かるか」
わざわざ『
───まさか!
「そうじゃ、これはのぅ⋯⋯
「これがあればこの世界を操作する事が出来る⋯⋯そういう事ね」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべたジジイが球体に手を触れて操作している。何をしているの?疑問を口に出す前に変化が起きる。
私の部屋が拡張していく?目の錯覚なんかではない。徐々にだけど部屋が広がっていっている。私たちが作業する部屋は元々与えられているモノで、内装を変える事は出来ても部屋の大きさを変える事は出来ない。
こんな事が出来るのはジジイしかいないと思っていたけど、これがその力の源⋯⋯。
「見ての通りじゃ。『
「もしかして、ジジイが神や天使を創れていたのはその力のお陰?」
「そうじゃよ」
ほほほと髭を触りながらジジイが笑う。つまりジジイがしていた事は私たちがしていた事と全く同じ。スケールが少し違っただけって事?
「ただ、一つ難点があっての」
「なによ?」
「この力は使い過ぎると⋯⋯神としての力を失ってしまうのじゃ」
ジジイの力は昔と比べれば比較出来ないほど、落ちていた。その原因が
「昔は色々と不足が多くての。この力を使わざる得なかった。今であればこの力を使うのは最小限で済むがな」
最初期の事ね。神も少なければ天使もいない。管理する世界も殆どなかった。今に至るまで発展したのはジジイが力を使ったから。
ジジイの神の力を犠牲に⋯⋯この世界は発展した。
「それで、なんでソレを私に見せたの?私に渡すなんて言わないわよね」
「その通りじゃ、これをお主に託す」
ほほほと笑うジジイを殴り飛ばしたくなった。そんな軽いノリで渡すような代物ではない。私が使うのは荷が重すぎる⋯⋯。
「安心せい。これを使ってお主にどうこうしろとは言わん。言ったじゃろ、お主に後継者を選んで貰うと」
「つまり、私にこう言いたいのね⋯⋯最高神に相応しい者を私が選び、判断し
「そういう事じゃ」
胃が痛くなる話ね。あーいやいや、私じゃなくてクロノスにさせたいわ。
「安心せい。お主だけに責任を押し付ける気はないわ。この役目はクロノスにも任せるつもりじゃ」
「そう、なら良かったわ」
「じゃが、最終的な判断をするのはお主よ。
責任は何一つ変わってないじゃない。クロノスと相談して決める事が出来るのなら心労は少し減るけど、私たちの世界の行く末を私が決める? 頭が痛くなるわね。
「ジジイが後継者を選ぶ事は出来ないの?」
「無理じゃな。
「何故かしら?」
「ワシが決めればこの世界に変革は起きん。ワシは変わらぬ未来を選んでしまうじゃろう」
そういう神選をしてしまう。未来を憂うようにジジイがため息をつく。
「変わらないといけないの?私たちの世界は」
「変わらぬモノはないのじゃよミラベル。ワシらの世界は変わらなければならない。色々と起きておるじゃろ、問題も⋯⋯そして変革も」
ジジイの言う変革は管理の仕方が変わった事かしら?神PCが普及され、世界の管理方法はより効率的なモノに変わろうとしている。
ジジイの言う問題⋯⋯私の口から表立っては言えない。けど、目を逸らしてもいけない
───上層部の腐敗。私たちがどれだけ世界を管理して『マナ』をかき集めても、年々⋯⋯必要な『マナ』は増えていく。今のペースで増えていけば供給量より消費量が上回ってしまう。
世界が⋯⋯滅んでしまう。
「何故、私なの?クロノスもそうだけど⋯⋯他に神はいるでしょ?」
「ほほほ、そうじゃのう。あえて言うのであればお主たちは他の神と違い、ワシの血を引いておるからかのぅ」
「ジジイの血を?」
どういう事か追求したいけど、ジジイの目が話す気はないと拒絶している。私達には話せない事なの? ⋯⋯思わずため息が出た。
「最初はクロノスに任そうと思った。お主はこの世界がどうなろうと興味がなかったじゃろ?自分の仕事が増えなければそれでいいと」
「そうね。その考えは今も変わらないわ」
「違うのぅ。⋯⋯今、お主の心には中心となる者がおるじゃろう?その者の事を考えた時⋯⋯どうなってもいいと本気思うのかの?」
心の中に中心となる者⋯⋯?
───ケント、ね。
「新たに最高神になった神の指針によってはお主はその者が英雄となる瞬間を見れなくなる。それは嫌じゃろ?」
「嫌ね。それは断言出来るわ」
即答しちゃうくらいには私もケイトに執着しちゃっているのね。⋯⋯私の心情をジジイに見透かされているのが腹立つし、それ以上に恥ずかしい。
「今のお主ならこの世界の行く末をしっかりと考えて、後継者を選んでくれる。そう確信したからコレをお主に託しにきた」
「断れないわよね、ジジイに面と向かって言われたら⋯⋯」
ケイトの事を考えれば尚更。問題を解決しつつ、世界の変革を起こさないといけない。それが出来る神を選ばないといけない。責任は重大ね。
「お主に
「コレを奪おうとする者がいるかも知れないわよ?」
「無理じゃな。
だから安心しろと、ジジイと嬉しそうに笑う。───
ジジイはもう、絶対の存在ではない。もしかしたら⋯⋯いえ、最悪の未来は考えないでおきましょう。
そうならないように私とクロノスの二人で世界の行く末を決める。
「ケイトには謝らないといけないわね。この問題を片付けないと見に行けないもの」
「ほほほ、大丈夫じゃよ。お主が選ぶ後継者ならばその心配はいらん」
次に起こす為のイベントは既にライアーと同期してある。私はしばらく動けそうにないから、代わりにケイトを導いて貰いましょう。その間に私はこの世界の問題を終結させる。
「
「お主なら出来ると信じておる。愛する者を見つけたお主ならな」
ジジイに言われたら腹が立つけど、反論も出来ない。ケイトの為にこの世界の事を考えている時点でね⋯⋯。
「さてと、クロノスと合流してこの厄介事の相談をしようかしら」
この世界の未来は