憧れたんだ
私は……街頭テレビに太陽を見つけました。
その太陽の名は「風鳴翼」
皆から愛される歌姫……その劇しい光によって、私という影が初めて生まれた。
「ンンンンンーッ!!!!!また変なMADが投稿されているッ!!!ガイドラインで禁止しとるでしょうがっ!」
「凛音ちゃん……こんな教訓がありますわ、一度生まれたものは……そう簡単に死なないと」
「でもすごいと思うよおりん……ネットの玩具になりにいく勇気は私にはないわ!っていうか中学の時から配信者って親御さん反対しなかったの?」
「言ってませんでしたっけ、私の両親は去年蒸発しましたよ」
「待って待って重い重い!今サラって言ったけどそれ軽く流す事じゃないよねぇ…?!」
私の名は加賀美凛音、活動名「おりん」
チャンネル登録者20万を超えるそこそこ人気の女子高生配信者!特技は萌え声!収入は投げ銭と支援サイト!
生まれも育ちもこの世の終わりみたいなネグレクト!社会の病みであり闇!
この凛音には私立リディアン音楽院高等科で成すべき事がある!
それは……!!
「あ、翼さんだ」
「なにっ」
「ほらおりんの目が変わった、強火ファンの目だ」
私の憧れである翼さんを間近でウォッチする為!ライブ会場よりも近くで見れる!それだけの為に私はありとあらゆる手を取ってこの学院へと辿り着いた!いやぁ中学生の時の担任は強敵でしたね。
「凛音さん……すげぇですわ……翼さんが関わると完全にキャラが変わるし恋する乙女みたいになりますし」
「気配が完全に消えるのも意味わかんないよ、しかもこの状態だと何言っても聞こえなくなるし」
撮影だとか記録だとかそんな野暮な事はしません!目で見る事、耳で聞く事こそが全て!
今日も……そう翳りと憂いを持ちながらも輝いている。
……翼さんにはかつて隣に立つ者が居た、2年前の惨劇で失った片翼……『天羽奏』。
私は彼女に対して……実のところそれほど興味がない、というのも彼女の死後も活動し続けた翼さんにこそ憧れたのだ。
そういう意味ではまだファンとしては新参者だ、だが時間の長さが愛の強さではない……!
ああ、美しい……。
決して届かないと分かっているから、わかっていても!美しいものは正義なのだ!
そんな充実した学校生活も夕方まで、20時からは人気配信者になるのです。
『おい!蛆虫ども!私の妙なMADをバズらせるんじゃあないッ!SNSでも!動画サイトでもだ!内輪ノリを……持ち出すな!』
・うおっ……それは無理
・登録者数はお前に向いてる銃口や
・定型文や語録で喋る貴様が言えた口かーっ!
・普通に削除依頼通るのに消さないのは何故……
『消しても無駄だから消さんのです!忘れたとは言わせんぞ!私のカットした嘔吐音声をミーム化したの!元ネタを知らん外人のフリー素材にされて流行ったのに登録者数増えなかったの覚えてるからな』
・二十万あっても世界レベルじゃ木っ端よ…
・まあ中堅より上ぐらい…
・お顔見せて
『無理に決まっとろがい!さすがに身バレしたら誰かしら凸ってくるだろ!近隣に迷惑かかるわ!人間の悪意と欲望に関しては嫌と言うほど信じてるからな!』
・希望も信じて
・俺も信じて
・もっと自分を信じて
『いうて、私を見に来てるのも面白というか性欲ですよね?騙されませんぞ』
・半分は当たっている、耳が痛い
・まあ…萌え声シチュボはたまらんかったから金を返せとはいわんがブヘヘ
・なめるなっメスガキ!
『まあそんなことはどうでもいいんですよ!私も翼さんに関しては邪な目で見てますから!欲望がないと人間は生きられないんですよ!死んだように生きるのは醜い!』
・翼さんをそういう目で見るな
・心が醜い!
・他人を肯定しながら己の邪悪さを肯定するな
『アッそういえば高校生活ですが順調です、何とは言いませんがまあ……今の所は』
・おりんは頭はいいよね、頭は
・中学生にして金の管理が出来る女にそれなりに輝かしき未来……
・俺も手続き変わって欲しいけどなー
・中学の成績アレでよく進学できましたね……
『一番の敵は新しい保護者だったんですけれどね、まあ問題片付いてなんとかなりましたよ……法律は私達を守ってくれてるんです。守らない者は守られないんです、手を伸ばさない者に救いの手は伸びないのが世の中ですからね、皆さんも迷ったら自治体に相談ですよ』
・これが出てくる女子高生
・世の中が悪いよ世の中が
・2年前のアレもマスコミクソだったけど国の対応もクソだったから……
・おりんの闇は深い
私の配信活動は主に歌、ゲーム、大喜利、そしてこういった闇深雑談……弱者には弱者の戦い方があるというものです、共感や哀れみこそが人間を動かすのです……!打算ありきと言われようと構いません。
結果さえ出せれば、です。
しかし何故こんな配信者なんてしているのか。
生きる為……NO、それならば息をひそめて多くを望まず……石の裏の虫の様に静かにしますよ。
金を得る為……まあ多少はそういう目論見もあるけれど違いますね。
答えはあんまり責任を負わない程度に「ちやほやされてえ」なのです。
翼さんの様な皆から愛されるような存在は……私には無理!愛される事には責任が伴うのです、失望させない様に、反転して憎悪に変えない様に、適切な距離で愛される。
それこそが私の望みなのです。
いずれ消えても「ああ、そんな奴もいたな」「活動をやめちゃうのか残念だな」程度の存在で私はありたい。
そんな私が……翼さんに手を引かれて、夕暮れのリディアンを歩いているのは……何故?
なんで?
「急に呼び止めた側だけれど……その大丈夫?もしかして体調が悪かったり……」
「イエソンナコトハナイデス。ソノ……翼さんのファンなので、びっくりしてしまいまして」
「……それは嬉しいけど、あまり良い用件じゃないから……」
いい用件じゃないのに手をとって……まさか常日頃ウォッチしてる事がバレて……いやまさか配信であらぬことを言ってるのがバレ……
「すみません、割腹しますので……」
「いやそういう訳ではなく……」
そうこうしているうちに連れ込まれたのはエレベーター……まさか翼さんに限ってそんなことは……
もしかして私乱暴される!?!?!?
「……ここまで来たならいいでしょう、あなたに一つお願いがあるのです。ここから先の事は国家機密にあたるので公言しない事」
「こんなところで!?その……もっと人の来ない教室とか……!?」
やぶさかではありませんよ!まさか翼さんに限っていや……誰しも生きてる限りは欲がある!……って国家機密??
下るエレベーターがやけに長いと外を見れば、あまりにも現実離れした不思議な光景が広がっていた。まさかの地下施設!?
「セキュリティの都合で、どうしても上ではやりにくいの。それに……本部はここだから」
ええ……何が始まるんです……!?
到着した先はいかにもな基地……そこに待ち受けていたのは。
「ようこそ、加賀美凛音くん。特異災害対策機動部二課へ」
なんですかこの赤シャツのムキムキのおっさん!?なんですかいかにも博士って女の人は!
それに確か特対って……ノイズが出た時の避難誘導とか処理のやってるアレ!?それがなんでこのリディアンに!?
脳裏に浮かぶのは様々な陰謀論共……やれノイズは人間が作った兵器やら、宇宙人が古代文明を作ったやら、錬金術師やら……。
「突然の事で驚いたかもしれない。俺はここの司令である風鳴弦十郎……翼の叔父にあたる」
「ご親族で!?」
「ああ、そうだ。まあそれはおいおい話すとして用件を伝えなければな、君の学院での様々な成績、活動、そして何より才能を考慮してだ」
「特異災害対策機動部の広報活動ですか!?」
「はっはっは!それも出来ればいいんだがな。翼からも聞いただろうがこれは国家機密だ、安易に外に持ち出す事はできない」
え!?違うんですか!?私の活動や才能ってそっちでしょ!?
「君が想像している特異災害対策機動部というのは一課だ、世に出せる情報の方だ。こっちは二課……ノイズに対抗する為の研究や開発を行っている方だ。そして君にやってもらいたい事、それはその秘密兵器を開発する為のデータを取る、いわゆるテストをしてもらいたいんだ」
それはエライことだ、ノイズはそれこそクソデカ爆弾とか山を更地にするぐらいの砲撃でもない限りはまともに倒す事のできない厄介な「災害」だ。それに対抗できる……となるとまあ秘密の研究ってなりますよね。
「も……モルモットですか!?」
「そうね、でもあなた程の『適性』ならば体に害はないでしょうね。直接体に薬を入れたりだったりはしないわ、せいぜいたまに健康診断で色々な検査と採血があるぐらいかしら」
今度はいかにも博士な女性の方!怪しげすぎる!
「しかし私の適性……リディアンの地下……もしかしてリディアンはその秘密兵器の適性を持った人を集める為に作られた学校でしょうか」
「……驚いたわね、でもあなたの理解力も考慮していたけれど少し上方修正するべきかもしれないわね……その通りよ。二年前のあの惨劇、それだけでなく近年増え続ける災害の増加、あなたにはわかるわね」
そりゃそうですよ、人の命が掛かってるんですから必死になるというものです。日本だけじゃなくて世界各国、それこそ白から黒までやってるでしょうねえ……。
国が何も動かないだなんてありはしない、私がこの学園に受かったのもお眼鏡にかかったから、なのでしょう。
「そうですね、他には。私の様にその研究に従事している人はいるんですか」
「そこにいる翼ちゃん、彼女には実際にノイズと戦って貰ってるわ。もちろん秘密裏にね……それからかつては天羽奏、彼女もノイズと戦っていたわ」
……なるほど、色々な情報が見えてきました。あの惨劇で妙に生存者が多かった事、国の対応が何とも言えなかった事
言っちゃ悪いんですが、あのライブ会場の構造やらはマスコミが散々流してましたからね記憶に残っています、あの施設なら正直な所、避難とか間に合わないのですよ……生き残った人々もですが特に翼さんが。
それこそ奏さんが身代わりになって死んだ、とか勝手に考察していた人々も居ました。
ですが他の生存者はさておき翼さんの生存した理由に関しては不自然なまでに情報規制、それに言及する風説などの削除。
「ああ……あの日も、私達は戦った」
翼さんは戦った、戦えたから生き残れたという事ですか。
そして今日まで世間に知られる事なく、ノイズと戦い続けて来た。
歌手で学生で戦士で……なんてすごい。
「……それで博士」
「私は櫻井了子よ」
「それでは櫻井先生……私も誰かを守る為に戦える、そういう存在に見えますか」
「ええ、それはもう。あなたは戦場に立つにはこれ以上ない程……向いてないわね!」
「向いてないんかーい!まあノイズ怖いですしね」
「だからテスターなのよ、悲しいけれどこの天才的頭脳をもってしてもまだ解けない謎が山程あるわ。それを解明する為にあなたに協力して欲しいの」
「NOといえば」
「拉致して転校した扱いに」
「ならんならん、冗談でもそれはダメだぞ了子くん。あくまで俺達は人を守る組織だ」
「ごめんなさい弦十郎くん。さておき機密は守って貰うわよ、破れば監視付きで軟禁される事になるのはマジよ」
今、割とマジにこの先生はやろうと思ってたな。まあいいですが、
私が思うのは……そう、ここにいれば翼さんをウォッチングする時間が増える事、配信する時間が削れる事、勉強する時間も減るでしょう。
「給料は出ますか」
「それはもう山ほどね」
「単位と出席日数ちょっと誤魔化せますか?」
「ある程度はね」
「これまで通り配信活動やっていいですか?」
「機密漏洩さえしなければね」
「実戦には出なくてもいいですか?」
「ええ、あなたが出る事になったら世界の危機よ」
「翼さんウォッチングしていいですか?」
「何!?」
「いいわよ」
「!?」
「やります!!!!!!」
私にとって翼さんは全てに優先される!!それにてそこまで危険性がないならやってやりましょう、まあ多少の責任は負う事になりますが私には失うものなどそう無いので!
「本当にいいのか、加賀美くん。思惑の上で集められ、回避する権利もある……その上でだ」
「まどろっこしい事はいいんですよ!私の情報は全て知っている筈でしょう!私は翼さんのファンだぞ!それがこの機会を逃すとでも思うか!」
「…………君なら言うと思っていた。ならば今日から君はこの二課の一員だ、実戦には出ないがそれ相応には鍛えて貰う事になる!それだけは覚悟してもらう!」
「え、鍛えるんですか」
「データが必要だからね、はいコレ。このペンダントがその秘密兵器よ」
櫻井先生から手渡されたソレを手にした瞬間、脳裏に歌が浮かんだ。
いや強いていうならば脳裏というのは間違いかもしれない、心でしょうね。
「その……加賀美さん。一ついいだろうか」
「ハイ!なんでしょう翼さん」
「まあその……人に見られるのは慣れているけれど、熱視線は控えて欲しい」
アッ一瞬で心の歌が失われた。
「凛音ちゃん……ドンマイよ!」
なんか櫻井先生にすごい同情の目で見られた、終わりだ。