残念ながらこんな閉所ではまともに戦うなんてとてもとても、ですので場所を切り替えましょう。
「外で待ってますよ、心配しなくても破壊工作なんてしませんから」
杖を向けられるよりも早く飛び退き離脱。同時に地揺れと共にカディンギルの砲身が競り上がり、リディアンを崩しながら地上へと姿を見せた。
外に出れば既に日は沈み、呑気に月が顔を出している。これから撃たれるかもしれないというのに。
本当ならば上がって来る最中にでもフルバーストでボロボロにしてやりたかったんですが、一息つく。
一度ギアを解除、とてもじゃないですがダイレクトフィードバック無しでの飛行は私の体と脳に負担が掛かる。
得意戦術が見事にぶっ壊されてしまい、頭が痛い。
こうやって逃げて来たのもどうやって戦うか考える為の時間稼ぎです。
「リディアンが!」
「加賀美!大丈夫!?」
「おいおいありゃなんだ」
タイミングのいいものです、立花さん達が到着。
「あれがカディンギル、荷電粒子砲です。どうやら二課のシャフトに偽装して作ってたみたいで、先史文明の呪いを解くためにアレで月を吹っ飛ばすそうですよ」
「馬鹿な、そんな事をしたら地球は……」
「ええ、滅茶苦茶になります。フィーネはそうしてでも叶えたい願いがあるそうで」
「……まさかお前フィーネから直接聞いたのか!?」
「その通りです、とにかく……結局のところ、二者択一、明日の為に戦うしかないんですよ」
「そんな……」
案の定立花さんは困った顔をするけれど、翼さんとクリスは覚悟は出来ているようです。
「役者は揃った様だな」
「櫻井女史!」
「フィーネ!」
案外すぐ追って来た様で、フィーネはネフシュタンの鎧を既に纏っていた。
「すみません、ちょっと私は連戦なのと……飛ぶのを封じられたのでサポートに徹する事になります。よろしくお願いします」
「そいつから聞いていると思うが、今宵……バラルの呪詛を解くべくあの月を撃ち抜く。もしもそれを許せないというなら死ぬ覚悟で掛かって来るがいい!」
「そんな!了子さん!」
「櫻井了子というのは仮初の名だ!我が名はフィーネ!転生を繰り返し、永遠の刹那に生きる先史文明の巫女である!」
「転生だと!?バカなそんなことができるものなのか!」
「お前達の尺度ではとても現実的ではないだろう、だが事実私は何度も繰り返して来た!」
なるほど、さっきは聞きそびれましたが先史文明からどうやって現代まで存在してきたかの謎も解けましたね、そうなると歴史上の偉人も案外フィーネだったのかもしれません。
「フィーネ!どうして私を捨てた!私は……お前を!」
「ああ、クリス。愚かなクリス、お前が望む争いの無い世界は私が作るさ。結局お前も戦いに囚われた者の一人でしかなかったという訳だ」
「畜生!!騙していたのか!!」
「騙してはいないさ、お前が弱かっただけだ。争いを押さえつけれる程の圧倒的な力を持っていなかったお前がな……さて始めるとしよう!」
カディンギルに光が灯る、どうやら起動したらしい。
「フィーネ、あなたの願いは……私達が打ち砕く!」
それぞれが聖詠を奏でて、ギアを纏う。
立花さんと翼さんが前衛で私とクリスが後衛、ギアを仮設サーバーにリンク。
『繋がりました、凛音ちゃん!今の揺れは!」
「友里さん、本部のシャフトの正体はカディンギルでした。月を標的に現在エネルギーチャージ中。阻止する為に装者4人でフィーネと交戦中です。司令は……」
『ああ、すまない……しくじったな』
「まったくですよ、ですが目が覚めたならなによりで、外部への通信は?」
『どうだ?藤尭』
『ダメそうです、完全にネットワークが切断されてます。仕込んでたんでしょうね』
やっぱりですか、異常に気付いた政府が援軍を寄こしてくれるなんて甘い考えはナシで行きましょう。
戦況を見ればあの二人相手に近接戦闘でまるで引けを取らないフィーネ、何よりも司令相手にしていた油断がない……ちょっと困りましたね。カディンギルのチャージ速度は速い、光り出してからもう50%を超えている。
雪音は4機ミサイルをチャージしてフィーネをロックしている。うち2発ぐらい当てればカディンギルは折れるかもしれませんが……!
「おい、加賀美。付き合え」
「何をする気ですか」
「もしこいつが不発だった時、アタシは絶唱を使って正面からカディンギルを止める」
「死ぬ気ですか」
「そんなつもりはねえ、ただお前のジェネレーターを借りりゃちょっとはマシになる可能性がある」
「仕方のない人です。良いでしょう、あなたに賭けましょう」
「悪いな」
攻撃ドローンを射出してフィーネへ牽制、そして。
「食らいな!フィーネ!!」
2発のミサイルをフィーネ目掛けて発射、さすがの巨大ミサイルですからフィーネも回避からの迎撃に入ろうとする。
「本命はコッチだああ!」
「くっ!小癪な真似を!!」
さらに1発、カディンギル目掛けて発射。最後の一発、それは足だ。
カディンギルへ接近する為の片道切符、そこにクリスは立っていた。
「フライトユニット射出!」
そしてそれを追いかける様にイカロスのアームドギアを分離してクリスの背中にドッキング、遠隔操作でもやはり負荷はかかりますか!
「何をする気だ!」
どうにか3発のミサイルを撃破するもフィーネは目的が分からず困惑、立花さんも翼さんも天を見上げた。
もうカディンギルのエネルギー充填は完了している。悪いですねクリスさん、そんな役目を背負って貰って。
ならば私も背負わなければならない!
「翼さん!立花さん!呆けてないでフィーネを!」
「……ああ!」
「でもクリスちゃんが!!」
「あれがクリスの覚悟なんです!!無駄にする気ですか!戦え!立花響!」
檄を飛ばし、私も駆けだす。同時だった、クリスの絶唱が聞こえたのは。
私は振り返らない、前へ進む。
衝撃、熱波、轟音、まぶしい光の中で私は左腕のプロテクターをブレードにしてブーストだけで直進。
「カディンギルを押しとどめただと!!!」
「フィーネ!覚悟!!」
確実に殺す、いくら完全聖遺物でもプロテクターの無い部分なら多少は通る筈だ。
その首にブレードを突き立て血飛沫が上がった。
「がぁっ……」
嫌な感触だ、肉に突き立てたブレードが沈んでいく。
でもこれは私が背負わなきゃいけない覚悟なんだ。
同時に腹部に熱を感じる、どうやらカウンターを食らったらしく私の腹部にも刃が刺さっていた。
だがまだです、首を落とせば私の……!
ベキと音を立ててブレードが折れる、同時にフィーネの蹴りを食らって弾き飛ばされた。
プロテクターで腹部に応急処置、止血完了……ですが!
「お前が、まさかここ……まで背負うとはな……」
残ったブレードの刃が落ち、フィーネの傷が再生するのが見える。
空を見上げれば月はほんの少し欠けただけで済んだ、クリスが時間を稼いでくれた。
「だが……私は人である事を捨てた、完全聖遺物との融合体……そこで呆けている立花響と同じ融合症例となる事でネフシュタンの再生能力を手に入れた……ある種の賭けであったがそれに勝った。その差だ」
なるほど、それは随分と……運のいい奴です。
しかし私も出血と負荷でこれ以上は立てない。
「立花さ……翼さ……」
意識が薄れていく、まずいこのままでは……負ける。
どれぐらい経ったのだろうか、目を開けばまだ月はそこにあった。
勝ったのか、首を動かすとそこには倒壊したカディンギルが見えた。
けどおかしい、どうして私の隣には誰もいない……。
……わかっていた……わかってはいた、でも認めたくはなかった。
「う……ぐ……」
イカロスで強引に傷口を縫い留めておいてよかった。本格的に失血死する事は防げた、遠くには倒れた立花さんと、計画を打ち砕かれてよろよろと歩くフィーネの姿が見えた。
翼さんは、翼さんはいない。
あの歌声は聞こえない。
もう聞こえない。
私の心が暗く染まっていく、なるほどフィーネはこんな想いをしていたのですね。
「生きていたか……」
「私達の勝ちです」
「愛する者を失って、そのボロクズの体でか?」
「……痛み分けです」
「あの月の破片はこの地球に降り注ぎ、いや月本体も軌道が逸れている、いずれ落ちて来るな」
「……クソですね」
思い違いをしていました、一発目が掠っていた時点で……既に私達は負けていた。
「哀れなものだ、だが……この極大災厄から逃れる為の手立てはある。そもそもの月の破壊を達した時の手でもあったがな……どうだ加賀美凛音、お前も来ないか」
「どの口が、どの口が言うんですか」
「だろうなと思った……風鳴翼を失った今のお前は……とても見てられん」
立花さんの息はある、ですが気力は完全に失われている。
最後に残ったのは私ですか……。
「フィーネ、あなたを倒してももう意味はないかもしれません……ですがケジメはつけないとなりません」
「お前のそういうところは、やはり嫌いになれんな」
相手は万全、とまでは行きませんがそれなりに消耗……一方こちらはほぼ瀕死。
駆けだす、不完全形成のフライトユニットで鞭を回避。
「立花響!あなたにはまだ帰れる場所がある!逃げなさい!小日向さんの所へ!私はそれを決して責めはしない!」
例え月が落ちてくるのだとしても、目の前のフィーネがその難局を乗り越える手立てを持っているとして、チャンスがあればそれを手に入れられるかもしれない!だから諦める事はない。
片腕だけの機銃、発射レートの最悪ですが鞭の軌道を変えるぐらいはできる!
「明日、世界が終わるとしても!なればこそ最後は愛する人の隣がいい!もしも戦う理由が一つでも残っているならば生き延びろ!!あなたにはその権利と義務がある!!」
二本目の鞭が直角に曲がり襲い来るがそれをドローンを盾に防御、思考が透き通っていく。
「最後まで諦めるな!!」
ザリと土を擦る音がする、同時に脚部のプロテクターが爆ぜる。
まだだ、まだ飛べる。
「生きるのを諦めるな!!」
光が舞い上がる、歌が聞こえる。
立花さんの歌だ。そうだ、それでいい!走れ、走って……!
衝突音が聞こえる、ガングニールがネフシュタンと衝突した音だ。
「馬鹿、逃げろって言いましたよね……!」
「歌が……歌が聞こえるんです……!!」
「歌……?」
確かに、音響センサーを作動させれば聞こえてくる。
けれどこれは。
「リディアンの校歌」
小日向さんに板場さん、寺島さん、安藤さん……それに避難している生徒の皆……皆の歌声が生きているスピーカーから聞こえてくる。
「まだ……私は戦える、戦えます!皆が居るから!!」
その瞬間、立花さんを中心として光の柱が立ち上がる。それは一つではなく森の中から、カディンギルの残骸から、まさか!!!
「なんだそれは……!それは私が作り出したモノの筈!私の知らない機能なのか!聖遺物の力なのか!それとも!!なんなのだ!!」
「シンフォギアだああああああああ!!」
立花さんの叫びと輝きに圧倒されて私は思わず尻もちをつく。
そして空に浮かぶ三つの光を目にする。
ヒトは空を飛ぶようには出来ていない……けれどそれを覆す例外が目の前にいた。
ただそんなことよりも私は嬉しかった、翼さんが、クリスが生きていた事。
まだ私達は負けていない!