萌え声クソザコ装者は憧れたんだ   作:青川トーン

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明日へと歩いていくんだ

 人はこれを奇跡と呼ぶのでしょう。

 莫大なフォニックゲインによるギアの限定解除。

 

 残念な事に私のイカロスはパワーアップする事ができませんでしたが、三人はすっかり復活。

 ネフシュタンに加えてソロモンの杖とデュランダルを取り込んだ状態で無数のノイズを出現させ、さらに呑み込んだ怪物の姿となった。

 

 完全聖遺物が3つ、パワーアップしたシンフォギアといえどその堅牢な防御を破る事は出来ず、さらにデュランダルのエネルギーによる一撃を防ぐ事は出来ず回避するばかり。

 

『伝承にある黙示録の赤き龍、そして緋色の女ベイバロン……それは滅びの力だぞ了子くん』

「ポエミーな事を、確かに世界を終わらせかねないけれど……勝機はあります!」

 

 そうデュランダルは完全に一体化している訳ではなく手に持っている……!それに気づいたクリスが防御シャッターの内側に潜り込み、爆炎で目をくらまし、翼さんの一撃が弾き飛ばす、それを手にするのは立花さん!

 

 しかしアレは……確か……!

 

「呑まれるな!立花!」

「踏ん張りどころだろうが!」

 

 やはりというか、あの暴走状態が再び表面化……この隙をフィーネが逃すはずがない!

 

「響!!」

 小日向さんが、皆が避難所を出てこの場に集まる。

 まさかとは思いますが……!いえ、フォニックゲインが想いの力なら有効なのかもしれません!

 

 ドローンをスピーカーとして皆の声援を伝わりやすくする。

 

「あんたのお節介を今日は私達が!」

「昨日までの自分を信じて!」

「明日なりたい自分を描いて!」

 

「負けないで!響!!」

 

 決定打はやはり小日向さんの叫びだった、闇を振り払い。

 束ね上げられた輝きが怪物を、フィーネを貫いた。

 

 爆炎が天を貫く、これが9回裏ツーアウト満塁ホームランって奴ですか。

 

 

 夕焼け空の下、街もリディアンももう滅茶苦茶です、これを復興するに果たしてどれだけの時間とコストがかかるやら……おまけに立花さんはフィーネ引っ張ってくるし……あれだけの威力でまだ生きてて原型とどめてるだけでも大したものですが……私が見るにもう長くはない。

 

「勝負ありですね」

「……確かに今回は私の負けだ。だがお前達は忘れていないか?」

 

 そうです、天を見上げれば現れた月が欠けていて、浮かび上がる欠片は段々と近づいているように見える。

 

「月の破片の落下予測……早ければ明日までには落ちてくると」

「ミサイルで撃ち落とすにもサイズがあまりに大きすぎる」

 友里さんと藤尭さんが算出した結果ではそうらしいですが。

 

「立花さん、翼さん、クリス……もうひと頑張りできますよね」

「もちろん!」

「当然だ」

「私達は平気だ、だが加賀美は……」

 

 やはり……気づかれていましたね、私は今もう立ってるのもやっと、どころかなんなら生きてるのもギリギリという所ですよ。多分ギアを解けば、生命維持機能が切れて私は死ぬ。

 

「そんな!」

「どうにかならねえのかよ!」

「どうもこうもありませんよ、ですが未練はありません。私はやれるだけやったそれだけです。後片付け、お願いします」

 

 私はそのまま地に座る、正直ここまでもつとも思ってませんでしたが……。

「行こう、立花……」

「うん……見てて、凛音ちゃん。未来、ちょっとだけ行ってくるよ」

「響、必ず帰って来てね」

 

 3人が空へ飛び立つのを見送る、叶うなら最後まで隣で飛びたかった。

 それだけが最後に出来た、未練という奴でしょうか。

 

「全く……お前という奴は……」

 座り込んでいたフィーネが立ち上がる、そこに敵意はない。

 

「了子くん、何をしようというのだ」

 フィーネが私の傷口に手を当てると青い燐光が発せられて、傷口がふさがる……心無しか体に力が戻って来る。

 

「バカにつける薬はないけれど、バカの手当ては……慣れているのよ」

 だが同時に完全に尽きる寸前だった力を使い果たしたのかフィーネが倒れ込んでくる、それを抱きとめた。

 

「響ちゃんが帰ってきたら伝えなさい、胸の歌を信じなさいって」

 

 ノイズによる炭化とはまた違う、全ての力を使い果たして塵へと還るフィーネ。

 ふと私の頭の中にヴィジョンが浮かぶ。

 

 遥か昔、人が統一言語を失ったばかりの頃、戦乱で失われていく旧文明の遺産と人の命。

 衰退と崩壊の時代に彼女は居た、フィーネが金色ならば彼女は灰色だった。

 

『羨ましいなフィーネは、何度も人生を繰り返せるんだから』

『そんなことはない……死んで新たに生まれれば、そこにはかつての友も家族もいない……別ればかりだ』

『別れだけが人生じゃないって言ったのは誰でしたっけ。それにずっと覚えていてるんでしょ?皆の事』

『……ああ、そうだな。まあしょうもない奴は忘れる事もあるさ』

 

 何度目の転生かはわからない、ただ出会った例外が齎した一時はフィーネの終わらぬ旅の休息となったのだろう。

 

『態々壊したりしなくても、飛んでいけば止めれるかもしれないよ』

『飛んでいく方が面倒よ……それなら地上から撃ち落とした方が早いわ』

『でも皆困るし、私は好きだよあの月』

『私は嫌いよ』

 

 なるほど、これが彼女が言っていた……友の事でしたか。

 

『何故だ、何故!!!』

 

 最後の場面は物言わぬ屍となった彼女だった、近隣国の王が空を飛べる少女の噂を知り、彼女の作った「翼」を奪い取った。奪われた翼は研究の為にバラバラにされ、恐るべき飛行兵団が生まれようとした。

 だがフィーネの復讐によりその国は滅び去り、かろうじて回収されたのは翼のごく一部。

 

 

 これを見せたのがフィーネなのか、それともこのイカロスなのかはわからない。

 けれど、知る事が出来てよかった。

 フィーネもただの悪人ではなく、友人が居て、愛する人が居た。

 そしてフィーネを愛する人が居た事……。

 

「加賀美くん、泣いているのか」

「ええ、嬉しいんです。今ここで生きている事が。明日が続くと言う事が」

 

 もしも、もしもまたフィーネと出会えたなら、今度は敵じゃなくて……今度は友として出会いたい。

 彼女が果たせなかった願いを共に叶えに行こうと。

 

 

 夜空に破砕された月の欠片が降り注ぐ。

 燃え尽きるそれは、まるで流星群の様だった。

 

 

 

 戦いは終わっても明日は来る、色々な手続きや工作が終わるまで立花さん達は一旦、行方不明という扱いとなる。小日向さんやご家族にはあんまり心配をかけるのもなんだから事前に話しておく様に司令に進言して叶えて貰った。

 

 悪いですが一足先に日常に戻らせて貰った私はいつも通り作曲していた。

 決戦前に上げた『君への祝福』が思いのほかバズって登録者数が30万人になったり、緒川さんから翼さんと同じ会社を通してCD・ダウンロード販売版を出さないかという打診を受けてOKして名実共にアーティストになったり。

 そのおかげで崩壊して移転が決定したリディアンからの生徒の転校が予定されていた60%から50%に下がったり……なんか変なファンクラブが出来たなんてこともありました。

 

 今は、新しい曲を作っていました。

 タイトルだけはもう決まっています。

 『月の友人』

 いつかどこかであったあの光景を、バッドエンドのまま終わらせたくなかった。

 だからこの曲を作ろうと思ったのです。

 

 

『こんばんわ、今日も月が綺麗ですね』

・綺麗じゃねーよ!

・月欠け欠けでワロタ

・もう二度と満月見れないねぇ

・愛してるってコト!?

 

『ふふ……ところで皆さんに友人は出来ましたか?』

・舐めてんのか

・このガキがよ……

・いるさ!ここにな!

・俺とは友達じゃないのか!?

 

『私は身近な人の意外な友達を知って驚きましたね』

・意外とマジで友達がいない奴は少ない

・マジの孤独は少ない

・俺の友達?ゲームで十分よ!

 

 私は今も平和に配信をしている。

 まだ月の落下だとか、これからの事だとか、色々な問題は残っているけれど……きっと手立てはあるのだと知っているから。今でこそ二課は再建途中で動けないけれど、時が来たならそれを探す事に注力する事になるでしょう。

 

 回収された「ソロモンの杖」の研究も進めば、ノイズによる被害も無くせるだろうし、未来は見えなくても苦しい事だけじゃない、そう信じられるだけの材料があった。

 

 目下の悩みは……「バラルの呪詛」の影響を受けないイレギュラーである事を意識してからか、何故か人の考えや感情が脳に直接流れてくる様になった事。読み取ろうとしなければ大丈夫なんですが、意図を測ろうとかそういう集中するとどんどん情報が流れて来て頭が痛くなる。

 

 いわば読心能力だとかそういうモノめいてきました、がこれは出来るだけ誰にも言わない様にするべきでしょう。と今は司令にも話せていない。

 

 まあ今は慣れてないだけで、いずれなんとかなる……でしょう。

 

 

 そんなわけで私は今日も生きています。

 

 きっと明日も、その先も。

 今は生きるという事がこんなにも嬉しく、楽しいのだから。

 

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