萌え声クソザコ装者は憧れたんだ   作:青川トーン

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フロンティア事変
災厄へのプロローグ


 ルナアタック事変、フィーネによる月の破壊は世界に巨大な衝撃をもたらした。

 各国の天文学者がその軌道を計算し、落下を予測するも民衆の混乱を防ぐ為にその事実は秘匿され……。

 今日もやがて訪れる極大災厄を知らない人々が変わらぬ日常を過ごす。

 

 だが、ある時……米国の持つ、エシュロンという地球規模の通信傍受システム、あらゆるネットワークからの情報を集積し、改竄を行い異端技術を巡る攻防や、不都合な事実の抹消に使われてきたそれが突如機能不全を起こし、その隙を狙った何者かによって各国の異端技術(ブラックアート)研究の情報がネット上にリークされ、情報統制も間に合わぬまま広がり、フィーネと結託して暗躍していた米国政府は混乱に陥る事となった。

 

 そして……無知なる人々は知る事となる、目を背けて来た闇の中に燻る火種に。

 

 

 

 インターネットを見れば今日もどこかで真実と嘘が混ざり合ったカオスが満ちている、ルナアタックより1ヵ月が過ぎようという頃、立花さんの行動制限が解除された喜びもつかの間に世界中に異端技術の存在がリークされた。

 当然、その中には日本政府の研究も一部含まれ……シンフォギアの存在もほのめかされる程度には明かされた。

 

 幸いというか、私達シンフォギア装者については個人情報をネットワーク化していなかった為に明かされる事はなかったが……聞きつけたマスコミが政府に押し寄せたり、なんであれば立ち入り禁止となった旧リディアン近辺……なんであればカディンギル跡地に忍び込もうとして逮捕される者も後を絶たず。

 インターネット記者や情報系配信者、陰謀論者までがリディアンを嗅ぎまわり、最終的にリディアンはルナアタック事変と無関係であると政府が公式会見をするにまで至った。

 まあ半分正解なんですけれど、生徒達からすればいい迷惑である。特に口の軽い女子生徒達は「あの時、正義の味方が必死に戦って月の破壊を防ぐべく戦ったんだ!」とか漏らして都市伝説「歌うヒーロー」が誕生してしまった。

 人の口には戸は立てられない、かつて翼さん達に助けられた市民の方々も「ヒーローは居た!」と黙秘義務を破って書き込んでしまうケースも多々あり、あくまで今はポジティブイメージなので黙認しているが……。

 それが翼さん個人を特定してしまうようになってしまえばそうとも行かなくなる。

 

 政府はいっその事、シンフォギアの存在を公表してしまおうかという意見とノイズ被害の犠牲者遺族などからの逆恨みなどが怖いという臆病な意見で分かれ、おまけに米国が特に滅茶苦茶になってる現実に頭を悩ませていた。

 

 

 世は大混沌時代、こんな時こそ人は心の寄る辺を求める。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴがデビューから瞬く間に全米チャート1位を取り、翼さんも復帰から好調、クリスも司令が事実上の保護者となり新居を手に入れて両親の為の仏壇を購入。

 立花さんは行動制限中の課題に追われ、小日向さんは枯渇していたヒビキニウムを吸引して満足。

 

 そして私は今、エラい事になっていた。

 

『あのですね~私の配信はお歌、ゲーム、雑談、大喜利がメインなのですよ~!』

・聖遺物研究者が何かいうとるで

・第三帝国すげぇ……まるでB級映画みたいな事してたし

・おりんてもしかして政府関係者?

・月の落下についてどう思います?

 

 発端といえば、やはり情報リークだったんですが私がついうっかりそのリークに関するコメントを拾ってしまった事でした。それは大戦期にドイツから日本に持ち込まれたいくつかの聖遺物の情報、うっかり「ああ、あれですか……」みたいな物知り顔をして、適当な事を言ってしまったのが最後。

 

 胡乱なネットニュースに取り上げられて登録者数が一瞬で100万を越えて世界中のちょっと危ない人を集めてしまった!おまけに私の出した曲のタイミングも悪かった!『月の友人』に関しては深読みに深読みを重ねられてルナアタック事変について書かれてるのではないか!と変な考察が!いや事実なんですが肯定する訳にはいかないんですよ!

 

 司令にも「まあ……機密漏洩しない限りは」と苦笑いされてしまったし!一応身の回りの警護に関しては心配してないんですがマジで有識者みたいな扱いされてしまい……頭を抱えている。

 

『いいですか、確かに!確かに私はそういう伝承なんかに詳しいですがあくまでサブカルです!サブカル!フィクション!事実とはおそらく違いますから!そんな転生だとか先史文明は宇宙人によって作られたとかマジだと思うんならあなた方が発掘してみせてください!』

・もうイラク方面行きの調査隊志願した

・さすがに00年代に米国が簒奪したから残ってないでしょ

・いや、掘れば出る

・うちの古い蔵にある遺物も鑑定したら聖遺物だったりしないかな

 

『うええーこの人ら聞いてないよ~!助けて古参!』

・草

・おりんのクソゲー発掘癖は……研究の一種だった!?

・つながったな……

・クソゲー発掘(紀元前)

・おりんどこ住み?聖遺物ある?

 

 

 トレンド一位がこの世の終わりみたいな雑談配信なんですよ!多分8割ぐらいは野次馬なんでしょうけれど、2割はきっとマジなんですよ!よりにもよって本当に私が一部真実を知ってるのがより最悪なんですよ!

 

 

 

「ははは、苦労してるな加賀美くんも」

「笑いごとじゃないですよ!せっかく歌手デビューしたというのに世界の真実系配信者ですよ!?落差がひどすぎる!というかいい加減二課の扱い決まらないんですか!?」

「八紘の兄貴が頑張ってるがな、やはりどこもかしこも大騒ぎで取り合ってもらえないそうだ。なんなら許可はくれてやるから好きにしろとの事だ」

「無責任なぁ……しかし、まったくどこの誰がこんな事を……フィーネというか櫻井先生ならこんな混沌とした状況は望まないでしょうし、米国もフィーネに金出してたの突かれたらもうそれどころじゃないのに」

「世界の裏で悪事を企んでる奴ならいくらでもいるだろう、この新しい本部の元の持ち主の様にな」

 

 二課本部、かつてリディアン地下にあったそれはあの事件で完全に放棄され……はて次はどこに設置すべきかと悩んでいた時にスッと出て来たのは潜水母艦。やたらと施設が充実していて長期間の滞在もへいきへっちゃら。

 実はちょっと横領とかアナーキストとの繋がりがある後ろ暗い奴が勝手に作っていたらしく、設計図ごと押収されてそのまま二課の仮設本部として再利用させて貰う事となった。

 

「それで、どうだ。久々の空は」

 

 今日、私がここに来た理由は一つ、シンフォギア「イカロス」の飛行試験。

 ダイレクトフィードバック機能を再構築、セキュリティロックを施して他人に権限を掌握されない様に改良。

 つまりはまた負担を減らして空を飛ぶようになれたと言う事です、シンフォギアそのものに搭載されていた「ログ」を分析して行った処置ですが……そもそも論、掌握できるフィーネがもういないじゃない。で不要なのでは?との疑問がありましたが……「対処を行ったという事実」がどうしても必要らしく、お仕事の大変さを知りました。

 

「確かに自由でした、が……やはり手綱を握ってくれる人がいないのは不安ですね」

 

 シンフォギアは櫻井先生が殆どの管理・調整・修理を行っていた。おまけに製造に関してはほぼ完全に先生ありきの存在だったので、壊れればそれで終わり、新しく作る事は不可能。

 唯一、立花さんの体に融合しているガングニールを除けば……。

 

 二課における現状最大の不安要素は組織としての立ち位置ではなく、シンフォギアの保全です。

 完全に技術者がいないのです、最低限度のデフラグなどによる負荷軽減は出来ても形あるもの、いつかは壊れるのです。その前に修繕、あるいは新造できるだけの研究をしなければならない。

 

 だからでしょう、私もまた異端技術へと興味を持つこととなった。

 ノイズとの戦いはいつまで続くかわからない、もし私達が戦いから退いたら誰が人々を守るのか。

 力を振るうだけでなく、力を託すことこそ、今一番考えなければならないのだと私は思います。

 

 イカロスのギアペンダントを掲げれば、その輝きの中にフィーネと、彼女の友の姿が見えたような気がした。

 

「……悩むのもいいが、学校生活は楽しめているか?」

「ええ、妙なファンクラブが出来てましたよ。いつの間にかウォッチする立場からウォッチされる立場になってました。メジャーデビュー効果はすごいですね」

「それは人気者の宿命だな!君がデビューした事は他の生徒達への刺激にもなっていると報告を受けている。加賀美くんは名実共に希望を守る者ということだ」

「そこまで言われるとちょっと恥ずかしいですね、ですが……希望があるのはいいことです……ああ、それと……各地の伝承の調査、上手く行ってますか?」

「ああ、旧風鳴機関の資料の閲覧許可が通ってな、研究員たちが日夜「それらしい」モノの情報を探しているが……今の所、了子くんが言っていた「極大災厄」から逃れる手段というものの手掛かりは見つかっていない。ノアの箱舟の様なごく少数が生き残るモノでなく……月軌道の修正、最悪は月の代替品となるものがあればいいが……」

 

 やはりその辺りは簡単には行かないようですね……現在の計算では5~10年でかなり近づいてきて20年以内には致命的な状態になる……と言われている月の落下ですが最悪またカディンギルの様なモノを作って衝撃で押し上げる、なんて案が出ています。

 しかしその為にはデュランダルのような大量のエネルギーを持った完全聖遺物が必要で、かのデュランダルはネフシュタンの鎧と対消滅……日本にはもうそれに並ぶ完全聖遺物はない、と思われている。

 

 深淵の竜宮なる保管施設へのアクセスはまだ許可されていませんが……いずれは手を付ける事になるでしょう。

 

「ままなりませんね」

「心配するな、いざとなったら俺が宇宙服を着て月を押し返してみせるさ」

「ハハハ、司令ならマジでやりかねませんね。じゃあ司令のパワーに耐えれる宇宙服を持ってきてくださいよ」

「これは一本取られたな、さすがの俺も無重力かつ真空となればキツいからな」

 

 

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