ルナアタックから100日あまり、まだ混乱が強く残る中でそれは起きた。
岩国の米軍基地にて共同研究が行われる予定だった完全聖遺物「ソロモンの杖」が何者かによって奪取された。
護送完了後、立花さん達が離れた後に事が起こった為におそらく内部犯と思われるが生存者がほぼ居らず研究主任とされていたウェル博士も行方が知れていない。ノイズによる被害の厄介な点は炭素分解によって個人特定が困難となり犠牲者の正式な数が出辛い事にある。
そんな不穏な空気を漂わせながらも私達は翼さんと「マリア・カデンツァヴナ・イヴ」の共演する「Queens of Music」を前にしていた。せめて今この時ぐらいは全ての面倒事を忘れ去ってライブを楽しみたかった。
前回はそう、タイミング悪く参加できなかったけれど今回は、今回こそはと取れたチケット。
しかし岩国の話を聞くと私もやはり向こうの作戦に参加しておくべきだったのかもしれないと後悔の念が湧き出る。
クリスと立花さんが気を利かせて送り出してくれたのに……。
ああ、でもやっぱり向こうに行かなくてよかったかもしれない。
二人が『不死鳥のフランメ』を歌い終えた時、それは起きた。
突然のノイズの出現、それもライブ会場の舞台と観客席を分断する様に。
私が脳裏によぎるはあの惨劇……だが。
「うろたえるなっ!!」
マリアの叫びが混乱する人々を呼び止め、群衆雪崩は防がれた。
ノイズたちは動かない、まるで誰かによって操られている様に……頭によぎるのは「ソロモンの杖」。
まさか岩国からここまで誰かが持ってきたというのか、そしてマリア・カデンツァヴナ・イヴは何者なのか。
静観と分析を行っていると彼女は口ずさんだ。
『Granzizel bilfen gungnir zizzl』
聖詠、その名を私達は知っていた。
「黒いガング……ニール……!?」
舞台の上の翼さんが驚きを隠せずにいる、私とて同じだ。
失われた奏さんのギアを含めれば5つ目の存在する筈のないシンフォギア。
ならば関与を疑うのはフィーネ、米国と手を結んでいたのならば……ありうるが何故今にして?何故ルナアタックの時にこの手札を持ち出してこなかったのか。
「私達はフィーネ、そう……終わりの名を持つ者よ!」
……なるほど、そう来ましたか。
フィーネの名を騙る者……それが翼さんのライブをぶち壊して……!!
情緒がはっきりいっておかしくなっていた、怒りのリミッターが外れたのでしょう。
私は席を立っていた。
「ならばこちらも名乗らねば無作法というものですね、マリア・カデンツァヴナ・イヴ!!!!」
「オーディエンスは、静かにしてもらいましょうか」
「いいえ静かにするのはあなたの方です」
翼さんがこちらを見て驚愕の表情を浮かべますが、もうこの怒りは止められない。
「あなたは……お前はツヴァイウイングのライブの惨劇を知っているのですか??」
「ええ、話には聞いているわ。ノイズと群衆雪崩で大勢の犠牲を出したと」
「隣にいるのを誰と思ってこんな事をした?お前には……お前には聞かなければなりません」
「そうね……だけどこれは世界を救う為に必要な事よ!月の落下という極大災厄を回避する為にね!」
へえ、そうでしょうか……ならば、ならば素直に協力しようとしない?
どうして私達を巻き込んだんです?
「加賀美……よせ」
ごめんなさい翼さん、私はもう止まれない。
マリアの視線を釘付けにしていたおかげで後ろの方では静かに避難が進んでおり、後もう少し、もう少し稼げればいい。
「私の名は加賀美凛音!!!特異災害対策機動部所属!!シンフォギア装者だ!!」
『Firiteas Ikaros Fill torn 《誰よりも高く飛ぶのは私だ》』
イカロスのギアを纏い、観客席からふわりと舞い上がる。今の私の精神は極めて昂っている、おかげでせっかくかけたイカロスのリミッターも機能していない。
『何を考えてる!加賀美!!』
司令からの怒号が飛んでくる、お叱りも処罰も後で全て受けましょう。今すべきは……惨劇を回避する事。
「マリア、お前がフィーネだというのならば……私はお前を止めなければならない、止める責任がある」
「何を言っているのかしら、誰にも私達は止められはしないわ。それによかったのかしら、せっかく日本政府が秘匿して来たシンフォギア、その姿を、その名を露見させても」
「ええ、後で罰は受けるでしょう……ですが構いません……私の目的は既に果たされた!!」
観客が全て脱出したのを見計らいホーミングレーザーでノイズの壁を焼き払う、そしてそのまま急降下してマリアに蹴りを入れるがそれは武器で受け止められる、なるほど立花さんと違い「槍」のアームドギアですか。
「大人しくしていれば観客は解放していたのに、早まったわね」
「お前のその大義なき行動を見て、私が信じるとでも?」
「大義……あるわ、例えこんな罪に手を染めてでもやり遂げなければいけない正義が。それこそ信用できないのはあなた達も同じよ、カディンギル建設は旧リディアン地下の二課本部のエレベーターシャフトに偽装して行われた。ルナアタックは日本の企みでしょう?それに米国政府も同じ、自分達だけが助かる為に手を回し始めているわ」
映像中継は既に切られてこの会話は乗ってない、けれど二課へは共有されている。
「なるほど、わかりましたよ。お前は……フィーネじゃないって事が!」
「!?」
気が変わりました、こいつはまずぶちのめす。
そうしなければ私の中の「何か」が収まらない!!
右手のプロテクターを機銃へ、ホーミングレーザーの照射をマントで防がれたのを見て即座にミサイルへ切り替えながら牽制。完全に情報が漏れる心配がなくなった今、翼さんがギアを纏う事もできる!
「話は……後で聞かせて貰おう!」
それは私か、それともマリア相手だったか、鋭い剣戟がマントの守りを破ってダメージを与える。
ですが同時に私のセンサーに敵影を検知、空から降り注ぐ丸鋸をホーミングレーザーで撃ち抜く。
「新手ですか!」
敵は二人、ピンクと緑。こいつらもやはりシンフォギア!
「あなたは……厄介!」
「黙らせるデス!」
なるほどこれでシンフォギアが3人、研究サンプルも3つ……もうなんでもいいです……。
「纏めて相手してやります!!!」
完全にリミッターの外れたイカロスが炎を上げ赤く染まる、両腕のプロテクターをプラズマキャノンへ変更。
光弾が乱入者に向けて放たれるが、外れてステージの一画を焼き尽くす。
飛んできた緑の刃をプラズマブレードで焼き切り防御、フライトユニットのジェットを火炎放射器へと変化、接近戦を仕掛けて来たピンクを追い払う。
「あちっち!随分情熱的な女デス!」
「そんなこと言ってないで攻め手を考えて」
「ならこれはどうデス!」
先程の3倍、合計6枚緑の刃が左右から襲ってくる。そして真上からは射出された丸鋸、正面からはピンクの方。
ならば活路は正面、フライトユニットのジェット噴射による突進、前から来た黒髪の装者を体当たりで突き飛ばす。
「調っ!!」
「へえ、その子……調ちゃんというのですかまあいいです……あなた達の望みが誰かを踏みにじるならば……私はあなた達を倒す……!!」
「マリア!さすがに分が悪いですよ!」
「ええ、事前情報よりは……やるようね!けど……そうねここは引きましょう!」
ヘリの音、なるほど立花さんとクリスさんの到着を察知しましたか……ですが。
「私から逃げられると思っているのですか!!地の果てまで追い詰めて!!ねじ伏せてやる!!」
「そうね、いずれ決着はつけましょう。いずれね」
突如会場に出現したノイズ、それをマリアが攻撃し……分裂させた…!?
なるほどエネルギーを吸収して増殖するタイプですか、厄介ですね。それも一度に消し飛ばさねば、会場から溢れ出しかねない。
これを消し飛ばすには……絶唱級の威力が必要でしょう。
「翼さん!凛音ちゃん!無事ですか」
「ああ、私は無事だ……だが加賀美は……」
「今はそれどころじゃなさそうだ、あのノイズ……今にも溢れ出しそうだぜ」
ならば歌えばいい、今の私の鬱憤をぶつけさせてもらう。
奏でるはこの心に燃える怒りの絶唱。
「なっ!?加賀美!!」
「凛音ちゃん!!?」
「バカ!独断先行が過ぎるぞ!!」
アームドギアが出力に耐え切れずエネルギーの塊へと分解していく、それをスフィアとして再形成。
極小サイズの太陽を作り出し、それをノイズに向けて放つ。
光の柱が天を貫くように輝き、ノイズは最微塵へと分解されて消えていく。
アームドギアを再形成するだけのエネルギーは尽きたが反動はそれほどでもなかった。
会場の残骸を見る、ああ……また楽しめなかったな。翼さんのライブ。
無念に膝をつく、勢いでやってまったけれどこの先どうしようかな。
「凛音ちゃん」
「私はバカです、自分の気持ちを抑えられない……愚か者です」
もう立ち上がるだけの元気もない、ぼんやりとしたまま回収に来た二課のヘリに乗って本部へ向かう。
出頭命令だ、道中みんなが何を言っていたのかすらも覚えていない。
「大変な事をしてくれたな、加賀美くん」
「人命救助ということで見逃してはくれませんかね」
司令が珍しく険しくも困った顔をしている、タブレットを操作して見せるのは……二課が使ってる情報収集プログラム、どうやら世間の反応は「今の所は」私に肯定的だ、けれどおりん、加賀美凛音、配信者、リディアン生徒といった個人情報が目に付く。
「今までならば、情報統制でどうにかなっていたが……こればかりはどうしようもない。政府の中でも異端技術研究秘匿派閥が頭を抱えている……問い合わせに防衛省も大忙しだ」
「すみません、初めての反抗期って事で許してくれませんかね。それに相応に情報も手に入れられましたし」
「とんでもないヤンチャで済むか、俺達が心配しているのは君の事だ。これから先どうなるかまだわからないが、今の君には冷静になるだけの時間が必要だ。よってこれより無期謹慎とし、保護プログラムの対象とする」
「わかりました」
ギアペンダントを司令に渡し、私は頭を下げた。