溜め息をつく、リディアンの文化祭。
本来ならば私もそこに居るはずだったのに、世に身を晒し、注目の的となってとても出れる状態ではなく、おまけに鎌倉から日本の国防のお偉いさんとやらに呼び出される……トホホですね。
風鳴機関、まあその名の通り翼さんの実家が前の大戦の頃に作った組織で色々やってて二課に繋がるんですが、その頃のトップ、風鳴訃堂という100歳越えの爺さんがどうにも私に会いたいらしい。
司令が滅茶苦茶渋ってたものの上からの命でどうしても断れんとの事、前線を退いたものの政治的な影響力はヤバいらしく、マジであの司令が困ってたんだからびっくりだ。
曰く、「政治の怪物」でありくれぐれも気を付けろとの事で、果たして何が出てくるやら。
門を開けば感じるのは闇の気配、怒気、殺気、怨恨……そして悔恨……そういったものが入り混じった空気が溢れ出して来た。通された道を私は堂々と歩く、こういうのは怖気づいた者が負けるのですから。
超やべーオーラが障子越しに感じられるがまあこんなものは大した事ないんですよ、なんか滅茶苦茶な事を言われたら中指立てて出てってやろう。
「……そこに座るがいい」
「どうも、こんなしょうもない小娘になんの用で」
超上から目線、こんなのに礼儀を尽くす必要は無いんです。
「加賀美凛音、旧財閥の亡者が鬼子を産んだか」
「いきなり人を鬼子呼ばわりですか、まあ親が亡者だったのは否定しませんがね」
「儂は血の繋がりこそが人間を作ると思っていた、だが我が子らの不甲斐ない事よ……風鳴の、防人の血は枯れた……そう思うてアレを作った、風鳴翼を。だがアレもまた鬼とはならず」
はあ、古い……思想があまりに古い!マジのジジイじゃん!
「人を作るのは環境であり、必要です。血ではなくそういう思想の元で暮らして来たからそういう人間に育っただけのことでしょう」
「いかにも、故に諦めた。風鳴の者に真の防人を、護国を託すことは」
……よくこんなのから司令とか翼さんが生まれましたね、もしかして護国に専念しすぎて放任主義だったんですか?まあどうでもいいでしょう、この爺さんは私にバトンを渡そうとしている。それが重要なのです。
「加賀美凛音、貴様は人の命をどう見る?」
「そりゃ替えの効かないモノですよ、失われたならば戻ってくる事はない、だから大事にしなければならない」
「それは建前であろう、貴様が世に馴染もうと得た擬態でしかない」
「擬態なんてヒデーこといいますね、いいですか!誰しも学ばなければ人を大事にしない、しようとは思わないんです!いくら死んでも替えが居るなんて簡単に使い捨てる!そんなことはない、社会の歯車は消耗品ではありますが簡単に代替できるものではないんです!歯車が脱落すれば機能不全に陥る、そして何もかもが崩壊していくんです」
不敵に爺さんが笑う、何が面白いのですか。こんなことを聞いて改心する程度なら周りからそんなに恐れられてないでしょう!
「貴様には人を上手く消費する才能がある」
「罵倒やめてください」
「人間を管理し、良き方向に導くといった方が耳ざわりは良いだろう。貴様の本音はこの庭と同じよ」
視線の先にあるのは古き良き日本庭園という奴、先人たちが考え抜いて、試行錯誤の果てに作り出した調和。
不要な枝は剪定され、大岩は苔むす様に手を加えられ、不要な草花は根付く事すら許されない。
「随分と狭い心ですね、てっきり奥にあるあの里山こそがあなたの心の先だと思いましたが」
「……くだらぬ」
「図星の様ですね、あなたは諦めるといった。それは私という妙な例外を見て心が折れた、折れて妥協した。私に託せば己のやり方が少しぐらいは残るだろうと……」
見えなかった、いつ剣を抜いたのか振るったのか、まるでわからなかった。
ですが私の首には刀が当てられていた。
「果敢無き哉……」
言葉の意味はよくわからんですが、それは自嘲、自罰的な感情が込められていた。
「儂としたことが……このような小娘ごときに魂に等しき群蜘蛛を振るう程に……老いとは、衰えとは恐ろしいものよ」
「耄碌して斬られる側としてはたまったもんではありませんよ」
剣を収めてくれたのはいい、が思い出しました。
今の日本には愛国心のある人間が極めて少ない、逆にアメリカは国を心の依り代とする人がそこそこ居る。
しかし国を愛するにも色々あり、人こそが国だ、文化こそが国だ、その土地こそが国だと派閥が別れ、小さなコミュニティとなっていき、それらは簡単に煮詰まり、過激になっていく。ネット上でも他国にあーだこーだ言う連中もいますしけれどあくまで不満の向け先でしかないおままごと、ガチの過激な愛国者……それがこの爺さんの正体ですか。
「それでまだやります?まだまだチクチク言葉なら出ると思うですけれど」
「よい、それよりも貴様は……装者でありながらその有様はなんだ?儂の今の一撃をまるで察せてはいなかったではないか!」
「いいんですよ!!私の本領は打ち合いに持ち込まない事なんです」
にしてもよせばいいのにこの爺さんに火を点けちまったな……さっきまでしなしなだった野心が物凄く感じられる。
「……あるいはそう……貴様らが動きやすい様に整えてやろう、くれぐれも失望させてくれるな」
そういえば政治の怪物とか言ってましたね、二課の立場のめんどくささが改善するならまあここに来た意味はあったか……にしても勝手に期待して勝手に失望はしないでいただきたいものである……。
ひーこら言ってその日帰りで二課に戻って来たんですが、なんとリディアンにイガリマとシュルシャガナの装者……暁切歌と月読調とやらがやってきてシンフォギアのペンダントを賭けて決闘を挑んできたらしい、しかも歌のコンテストにまで出て来たらしい。意味不明すぎる……その場に居なかったのもあってどうしてそうなったのかわからない……変なクスリでもキメて出て来たんですか?
「凛音!無事だったか!」
「無事ですよ、途中チクチク言葉で煽ってやったらちょっと斬られそうになりましたが」
「なんだと…………いやなんだと!?煽った!?」
「老い衰えてなんか勝手に諦めムードで私に防人になれとか言って来たんで知るかボケって返しました」
「何!?一体何があったんだ!?」
「私もその切歌と調とやらがリディアンに来た方が何があったんだって案件なんですけれど……」
一度本部に戻って来た翼さん達と合流してとりあえずあった事を話した、なんかしらんが爺さんが二課をバックアップしてくれるぐらいしか実りある話はありませんでしたが……。
司令は眉間を抑えていた、まあ超エライ人に無礼をした私もですがリディアンに来た連中が申し込んだ決闘にも。でも行くしかねえよなぁ!放っておいたら何やられるかわからないし。
それで居て決闘の場はカディンギル跡地、9割9分ぐらいの確率で罠があるとの推測で行く。
しかし夜まで時間がある、こういう隙間時間で休むのが大事なんですよ。
「彼女ら、FISの装者達はフィーネの魂の器、レセプターチルドレンという存在として集められたそうだ。フィーネが自らの転生先をあらかじめ決めて研究の引継ぎをしやすくするのが目的だと彼女らは言っていた」
「……調ちゃんが言うには、マリアさんにはフィーネの……了子さんの魂が宿ってるらしくて……これ以上活性化させたらマリアさんの人格が無くなるかもしれないって」
翼さんと立花さんがあの二人から聞いた話を私の中で考察すると、まあ確かに筋が通ってるなと思った。
あのフィーネが自分の転生のコントロールをしない訳が無い。効率よく、失敗しても次の手を取れるように布石を打っておくのもわかる。そしてマリアがイレギュラーを、かつての友を知らないのも納得がいった、そもそも記憶が覚醒してないのだと。
けれど逆にフィーネが今は表に出る気がないから抑えられている、という可能性もある。
あんなに清々しい感じに別れてすぐ再会というのもなんか情緒がない、私がフィーネなら恥ずかしくてしばらく出てこない。
それに……
「だとしたら月の落下だけどうにかしたいという意思だけがちょっと漏れてるだけとかありません?」
「……確かに、完全に覚醒してないってワケなら今の立ち回りもわからなくはねえ……けどフィーネがそんな生易しい事をやると思うか?」
「いえ、普通に余裕で塗りつぶして好き勝手やるでしょうね、今ですら多少好き勝手やってますが」
私はふとアダムとかいう不審者の事を思い出す、そういえば話すタイミング逃したけれどこれどうやって説明しよう……テレパシーって信じてもらえるかな……っていうか明かしたら私の信頼・信用ガタ落ちしない?
セキュリティホールになっちまうよ~~!
「また凛音が難しい顔をしているな……」
「最近変な事が多くて……テレパシーとか言ったらどうしますか?」
「幻聴じゃないか……本当に疲れてるんだな凛音」
「やべぇな……お前休んだ方がいいよ」
「私も凛音ちゃんは最近頑張りすぎだと思います!今日は休んだほうがいいと思うよ、うん!」
ですよね……ウーン……色々知りすぎるというのも、こう大変ですね……。
休んでもいいって言われてそう休んでいられたらいいんですが……これで何かあったら悔やみきれない。
「わかりました、いつもより後ろに下がってバックアップ重視で行きましょう。それでこれを凌いだら休みます!それでいいですか!」
「いや、ダメだろうな……司令に伝えてくる。凛音は不調で出れないと」
「マジで休みたいは休みたいんですが!後悔はしたくないんでいかせてくれませんか?」
「……わかった、しかし本当に大丈夫なのか……」
へーきへーき、とにかく連中がバカ正直に来ない想定で反撃仕掛けれる様に控える事にした。
そして約束の時間、約束の場所……案の定いなかったし、出て来たのはウェル博士である。
「いや……あの二人にも本当に困ったものです、勝手な約束をして……独断行動は重罪だというのに」
「本音です?」
「こればかりは本当ですよ、しかし……潔癖気味な彼女達がいないからこそやれることもあるというもの」
ソロモンの杖によって呼び出されるいつも通りのノイズ軍団、もう見飽きた顔です。
うんざりした顔でギアを纏って後ろに下がる、もう敵じゃないんですよこの程度は!
想定するのはあのバケモノ、ネフィリムという奴。地面にセンサーを打ち込んで探知、あのステルスヘリを想定してソナーによる警戒も行うけれど果たしてどの程度効くのか……。
にしても妙です、あのバケモノの気配もない?
まさかソロモンの杖だけで立ち回るつもり……??
そんな時だった、真下からの衝撃によって私は空中に投げ出される、まさかあのステルスで隠していたのか…意識が薄れゆく中で失策を悟った。