私の両親はある日突然逃亡した、借金があったとかは知らない。取り立てが来た事もなければ生活に不自由する事も無かった。
その後、私の後見人となった人物なのだが……どうやらこの二課に関わりの深い人物だという事実を知る事となりました。どうにも「適合者」候補を探してワケアリの子を集めていた、私もその中の一人だったが……何の因果か私は自分の意思でここへとやって来た。
非人道的、とまで行かないけれどまあ綺麗なだけじゃ世界は守れんよなと少し思いました。
それはさておき私に与えられた仕事、それは「FG式回天特機装束」通称「シンフォギア」を起動して様々なデータを取る事。
いずれはそのデータからより有効な対ノイズ用に特化した兵器を作り出したいそうですが。
まーちょっと変な所がありまして、何かというとこれ……戦うのに歌い続ける必要があるということ。
体力のない私にはちょっとキツいのです。
まあ歌うのはいいでしょう、リディアンに来てる以上それぐらいはできるんですよ。
動くのもまあいいでしょう、体育の成績はあんまりですがそれだけに専念できれば可能です。
両立するとなると極めて困難になるんですよ!おまけにそこに判断力を求められるともう滅茶苦茶になる。
『まずは飛んで見ましょうか凛音ちゃん』
「え、飛ぶんスか」
『SG-03イカロスはその名の通り、飛ぶ事に向いている筈よ』
さすがに地下の二課本部では出来ないと演習場を使っての飛行訓練、思考によって制御可能な武装が瞬く間に生成できると事前に受けた「基礎講習」に従って想像するのはフライトユニット。
最初のテストでは起動してスーツを纏っての最低限度の歩行と機材に繋いでのデータ取りだけだった。
二回目のテストである今回はアームドギアの形成、いわゆる特性の確認。作られたモノなら最初から設計とか仕様とかわかってるんじゃないのか?そんな疑問に対する答えはNO。
なんと古代の神器だとか伝説の武器の欠片が素材になってるが故に実際に動かしてみないとわからない事だらけなのだという、欠陥兵器ってレベルじゃないですよ!
『うーん……まずはホバリングからの方がいいかしら……防御機能があるとはいえ、いきなり高度出すと逸話の通り自壊したりしようものなら大惨事かもしれないわね』
「了解です、加賀美凛音……飛びます!」
アイハブコントロール、フライトユニットのジェット機構を起動……ほんの数センチ宙に浮かぶ。そのまま歩くような速度で前後左右上下と移動してみせる……案外簡単ですね、これならもうちょっといけそうです。
『上出来ね、出力も安定してるし……バイタルにも影響なし、やはりデータは大事ね……そう次は走るぐらいのスピードを出しましょうか』
通信越しでもわかる程に上機嫌な櫻井先生、どうにもこのシンフォギアの適合者はマジで居ないらしく……最悪薬で無理矢理適合率を上げて運用する……なんて事が過去に行われていた。それが天羽奏さんだったという。
もちろん滅茶苦茶体には有害、とはいえそれがないと血反吐吐くぐらいのダメージを受けるらしい。
この欠陥兵器がよ……!
ゲームでいうダッシュをイメージしてステップ、ブースト、ジャンプなどの動きを繰り返す。その度に体に馴染む気がする、気分が高揚してくる。
空を飛ぶというのは、あまりに自由だ。
もっと高く飛べるかもしれない。
『いよいよ、よ。翼ちゃんも準備は良い?』
「いつでも大丈夫です」
この試験にはいざという時に備えて翼さんも参加している、何かしらの理由で暴走したり……事故った時に私を救助する為に、です。まあ当然の処置でしょうが、暴走って何ですか……!欠陥抱えすぎでしょこのシステム!
「加賀美さん……あなたは怖くないんですか」
「凛音でも加賀美でも呼び捨てでお願いします!」
「それじゃあ……加賀美で……」
翼さんの呼び捨てして貰える権利を得たぞ!
しかもこんな私なんかを気遣ってくれるとはやはり翼さんは太陽だ……!
「まあ今の所怖いコトはないですよ、まああえて一つあげるならば……ハジかく事です」
「ハジ…?」
「オタク用語で推しの前で大失敗を意味する言葉です、すなわち死みたいなものですよ」
「ああ、それは……まあ、そうね。失敗はどうしても怖いものね」
翼さんに失望されたりとか、嫌われたりだとか……そういうものが今は怖い。
まあ恐れていても始まらない、だから飛ぶのです。
『この高さで恐れないのは、中々見込みがあるわね……』
初めての飛翔はそう、まあ大した事がなかった。
今回はあらかじめ決められていた高度まで、それ以上はよその国の人工衛星に察知される危険性がある……との事で機密を守る都合で雲より上はNG。
『イカロスの逸話は聞いた事があるかしら、太陽に近づきすぎて燃えて落ちた者の話よ。聖遺物、あなたの纏うそれはそういった逸話や概念、言葉の力が実際に影響する事があると言われているわ』
「急に怖い事いうのやめてください」
『手に入れた力に酔って破滅する者は今も昔も変わりはしないわ……あなたはそういった面では慎重、賢い子でよかったわ』
確かにこんな非現実的なパワー、手に入れたら誰でも調子に乗る。
けれど私は知っているのだ、他人から与えられるモノほど信用ならないモノはない。
無責任な他人から際限なく与えられる金で破滅したネットの有名人など数えきれない。
その力の理由と背景こそが力を確固たるモノとする!
「下だと翼さんが居たから言えませんでしたけれど、正直こんなモノ信用できませんよ。ノイズに通用するとはいえ死人も出してるしまともに運用できているとは思えません」
『いうわね、開発者に対して。でもそんな不確かな希望に頼らなければならないのもまた現実よ』
「けれどファンの皆ですら知らない秘密の翼さんを知れるからオッケーです」
『大した愛ね』
愛は人を動かす力として非常に便利な代物です。
愚かな人間でも賢い人間でも、これには逆らえませんからね。
弱者が強者に牙を剥く動力にもなれば、賢者の足枷にもなる……これ程恐ろしい力はないと言える。
とはいえこれがないと人はやっていけません、自己愛であろうとなんだろうと。
『そういえば、あなたの経歴を調べる為に配信を見ていたのだけれど……年頃の女の子がああいう事するのは関心しないわね。手遅れかもしれないけど』
まあ……見られてるでしょうね!……
『翼ちゃんもあなたを理解しようと過去の配信ログを見始めたのだけれど』
「アアアアアーッ!!!!!!!!!!!」
『バイタル異常!?ギア出力急上昇!?そんなに!?』
ヤメローッ!コロシテクレーッ!!!
『翼ちゃん!翼ちゃん!なんかなんとかいってあげて!』
『ええっ!?その……まあ普通だと思うけれど、まあ私の事が好きなのは伝わったから』
アッ
後から聞いた話だとブラックアウト後に墜落、滅茶苦茶に形成されたウィングユニットが切り離されて演習場の一画を吹っ飛ばしたらしい。私自身は翼さんによって救助されたから難を逃れたがとてもじゃないけれどこんな事でうろたえるのは想定外だと次のテストの延期が決定した。
誰か私を殺してくれ……。
『人ってマジでテンパると記憶なくなるんですね』
・草
・おりんがテンパるとかどんな事態だよ
・翼さんにバレたか?
『ある種の承認欲求満たされたけれど何か!なんか!恥ずかしい!恥しかない!明日からどんな顔して学校いけばいいのかわからない!』
・学校でやらかしたか……
・まあ……10万人でも身内にバレた奴なんていくらでもいるからね
・まあこの声でバレない方がおかしい
・この中におりんの同級生がいるのか…
『ええ、結構早くからバレてましたよ学校では……まさかレトロゲーが仇になるとは思わなかった、この時代に私ぐらいしか発掘しないだろ……ってゲームでバレました』
・ああ…ヒーロークロスか
・ヒーロークロスは古代遺物すぎてね……
・なんでアレが通ったのかと考えると感慨深い
・今だとあんなの出したら総叩きだろ
・昔でも総叩きだったぞ
『しかしクロスオーバー系のゲームなのにちゃんと権利関係クリアで配信OKになってたのはたまげましたね。ゲームアーカイブ系にも未収録じゃないですかアレ』
・おりんの使ってたあの機材は古代ゲーム文化保管の為に作られた奴だから…
・さすがにJKは知らんか…ゲーム文化遺失問題……
・新参者だから知らないけれどどこで手に入れたんだ現物
『あの機材にそんな秘密があったなんて……現物は近所のリサイクル屋の人から個人的にレンタルしたんですよ、最初の頃の配信環境手に入れる為に通ってたんですが配信やるなら……やりな!って貸してくれたんですよ、まあ内容に関しては地獄だったんですが……それでも学びはありましたし……当時の人の試行錯誤が見れました』
・出た謎のリサイクル屋……
・おりんの古代遺物シリーズ
・見た事のないゲームがどんどん出てくる奴
・というか国の文化保管庫でしか見た事のない奴出て来た時は笑った
『レトロゲーには感謝しかない、5万登録者ぐらい増えましたがそれ以上に私に先人に対する敬意というモノを教えてくれたのはレトロゲーです。彼らの攻略情報がなかったら私は倒れていたでしょう』
・もっとゲーム内容をリスペクトしろ
・まあクソゲーだから仕方ないけどなブヘヘ……
・当時の開発者のうち何人が生きてるんだろ
『ああそれと……まあちょっと学校から外れるんですが私生活の関わりでちょっと忙しくなるから配信頻度が落ちる事を先に宣言しておきますね。なんだかんだ手続きとかもあるし収入の問題もありますからね』
・おりんに世知辛き現在…
・悲しき過去…
・それなりの未来…
『勝手に人の未来をそれなりにするな!さておき私にとってメリットしかない案件ではあるので……受ける事にしたのですよ!』
・企業案件か……?
・私は企業だけどおりんに仕事任せたらコンプラ的に怖い
・おりん信者固有ネタが少ないからSNSですぐにおりんおりん言わないのだけマナーいいよね
・まあ全ての言動切り抜きまとめがあるんやけどな
・オタクはルール無用だろ
『ルールは守れ、持ち出しはやめろ。ルールを守れない者には死のペナルティですよ』
・なにっ
・なにっ
・おりんその語録好きだよね
・滅茶苦茶タフやし
・しっかり「猿」植え付けられとるやん
『私に幻魔を植え付けた者を絶対に許さない、日常的にタフを見出してしまうようになってしまったじゃないですか』
・仕方ないを越えた仕方ない
・ミーム感染するとマジで抜けないのはね……
・まあ古代ポルノ男優ミームが流行ってた頃よりはマシ
・例のあの男はNG
『一度生まれたミームはそう簡単には死なない……という奴でしょうね、例のあのミームに関しては先駆者がいるから……』
・界隈入りしてしまった哀れな女……
・ボイスドラマを汚染するな
・やめようね!
・素敵だ……
配信を終えてベッドに横たわる、今日も充足した一日だった。
……嘘、ずっと悩んでる。
翼さんとどの程度の距離を取ればいいのかわからない。
リディアンに来るまでまともな友人なんて私には居なかった、友人を自称するちょっと様子のおかしい近所のお兄さんぐらいしかまともな人付き合いはなかった。明らかに変質者だったし最近見かけなくなったし、多分死んだのかな。
思えば板場寺島安藤のずっこけトリオぐらいしか今もまともな人間関係がない。
連中は距離感バグってるからな、特に板場は悪いオタクだ……即私の正体見破って来たし、リスナーだし。
翼さんにガチでキモって思われたらさすがの私でも二度と立ち上がれんかもしれない。
かといってその……翼さんウォッチしてて思ったんだけれど翼さんも対等な友人が……その……。
超失礼かもしれねえ……でも本心として距離の近い友人居なくね……?
かつては奏さんがそうだったんだろうけれど、今はもういない。
わからない、どこで地雷を踏むかも……迷う。
ピピピと貸与された端末に着信があった、櫻井先生だ。
『ごめんねぇ、夜分遅くに。現場に出ないあなたには悪いけれど、一応規則だから通達するわね。今、ノイズが現れてて翼ちゃんが対処に向かったわ。これからもノイズ出現の度にあなたにも連絡が行くからそのつもりで』
「わかりました、私は寮で待機でいいんですよね」
『ええ、さすがにね。それと……もしも巻き込まれた時はシンフォギアの使用は「許可」されているわ、当然だけれど応戦も許可し……え…!?!?』
「どうしました!?」
『ガングニールですって……!?』
ガングニール、それはかつて失われたもう一つのシンフォギアの名。
失われた片翼の名に私は妙な胸騒ぎを覚えたのでした。