せっかくなので私も温泉を楽しんで、浴衣で休んでいた。
正直な所、皆さんにはなんか申し訳ない気持ちになってきますがこれも必要な事……。
イガリマとシュルシャガナ……じゃなくて暁切歌と月読調もこっちを疑念の眼差しを向けながらも温泉を満喫したようで、久々の布団に早々に堕ちていた。ガキだな……!
「本当に何から何まで、罠というにはあまりにも」
「懐柔手段ですよマリアさん、それよりも皆さんお揃いで」
ウェル博士に処置の終わったナスターシャ教授、そしてマリアさん。
こっちは私と記録するエージェントの人だけ、完全に私が交渉窓口と化してますがこの際いいでしょう。
「まずは確認、二課とFISは停戦協定に合意。米国の動きは知りませんが介入してこようものならとっつかまえた特殊部隊の連中で揺さぶってやりますのでご安心ください」
「異議はないわ、そしてそちらは加えて私達の計画への協力の見返りに立花響への治療を求めると」
「その通り、そもそもなんでしょっぱなから喧嘩を売る様なやり方で始まったので説明いただいても?」
最初から協力できていれば、もっと穏当に出来ていればこれまでの無益な争いをスキップできたというのに……。
「これは私から説明しましょう、まず一つは米国の情報統制が崩壊し物理的な証拠の抹消が行われようとした。当然、研究員だけでなく被検者……レセプターチルドレン達も抹消されようとしていた。彼ら・彼女らを逃がす為の陽動として、我々が生き残る為の手立てとして手荒な真似になった。その点は申し訳ないと思うわ」
まず答えてくれたのはナスターシャ教授、なるほど証拠隠滅されない為……他の子達はどうなったか知りませんがまあ他の研究員も生き残る為に協力したのでしょう。
「僕がソロモンの杖を強奪したのはその計画に賛同したからです、そもそも岩国に持ち込んだソロモンの杖を強奪する任務を米国から受けていたのを予定変更してナスターシャ教授とフィーネ……いえマリアの計画に乗り換えただけですがね」
「しれっと語らないでくださいよ、まあその件はまた後の交渉材料にしましょう。であなた達のプラン、月の落下を阻止する為の手札とやらをそろそろ説明してもらいましょうか。フロンティアとかいいましたね、まさか自分達だけ逃げるって訳じゃないでしょう?」
「マム、ドクター……これは私が説明するわ。米国は以前からフロンティアと呼ばれる複合構造船体……いわば星間航行船についての情報を持っていたの、フィーネが知っていた先史文明の遺跡の一つとしてね。以前からこれを手にして各国より先に宇宙進出を目指していたのだけれど、ルナアタックによりこれを地球から脱出する方舟として利用する方針に転換。選ばれた人間だけが、政府の高官や一部の特権階級だけが生き残り……破滅の後の世界を支配する事をもくろんだ」
うお……超デカイ陰謀が出て来ちゃったぞ……しかしやっぱり考える事は脱出ですか……でも、そこには続きがあるようですね。
「前提として月の内部には巨大な遺跡構造物があるの、現在は破片で見えづらくなっているもののごく一部が露出しているわ。バラルの呪詛を放ち、月を衛星として機能させるソレをフロンティアに存在するであろう制御装置で復旧し、軌道修正を行う……それが計画の全容よ」
「僕から一つ、この計画には莫大なフォニックゲインが必要となる。フロンティアの動力炉兼制御装置としてのネフィリム……君達に危うく破壊されかけたけれど必要な部分は残っている。次にフロンティアの封印を解く為の神獣鏡の励起、加えて月遺跡の起動にもどれだけのエネルギーが必要となるか予想もつかない。だから僕らはマリアに歌手として活動させたんだ」
なるほど……筋は通ってる!これなら多分無理のない手段でしょう、ですが全体的にフォニックゲインがバカほど必要というのが問題です……そう簡単に事が運ぶ訳がない!!
はっきりいってFISの5人だけでこれをクリアするのは無理でしょう!
「ああ、だから第二段階で私達に喧嘩を売って来たのですね……戦闘になれば相応量のフォニックゲインが生まれる、それを蒐集していけばその辺りの問題は大分マシになる……」
「そうよ、けれど同時に二課は信用ならない組織でもあった。フィーネがカディンギルを完成させられたのも、実は最初から知っていて協力したんじゃないかと何度も疑った。どうやら……その疑いは間違いだったようだけれど」
世界の暗い場所に居た者の悲哀を感じますね、どちらも互いを信じるには中々難しい立場です。
ですがこれでやる事は決まった。米国より先にフロンティアを確保して月軌道の修正を行う……その後は……。
「起動したフロンティアはその後どうするんですか」
「まだ考えてないわ、けれど少なくとも人の手の届かない所へ持ち出すのは確定ね。ロクな事にはならない」
「僕としては専用の研究施設にして火星辺りに大脱出しようかと、どうせお尋ね者でしょうからね」
「まあさておき月の軌道さえなんとかできれば大英雄、救世主ですよ。誰もが得をします……で、です。次は立花さんですが……超いきなりなんですが明日一度来てもらう事にしました。一応教授と博士にどんな状態か見て貰う為に」
フロンティア起動に躍起になってるうちに取返しが付かない事になってたらたまったもんではありませんからね、まずは応急処置ぐらいでも出来ればいいんですが……。
「まあ科学者としては実際に見て見ないとわかりませんからね、僕としてもそれは賛成です」
「私も異議はない。けれど必ずしも上手く行くとは限らない。人体は我々が思っているよりも繊細なのだから」
「それはそうですけれど、それをいうなれば醤油ドバがけも控えてくださいよ!夕食の時、滅茶苦茶びっくりしたんですから!」
「そうよマム、もう歳なんだから」
互いに確認すべき事は終わった、後は信用と信頼を作り……実際に事を成すだけ。
夜風に当たっているといつもの様にテレパスが来た、アダムかぁ……。
『君がまさか対応を変えるとは思わなかったよ、したんだね支援するという形に』
『まさかとは思いますけれど米国の情報統制に穴を開けたのアダムさんちの仕業?』
『その通り、君の想像通りさ。世界の支配者を気取るが、結局のところ持ち得ていないのさ、支配者に必要な素質を』
『まああまりに器量の小さい事を連打されまくるとそう思いますね、さておきフロンティアと月遺跡の関係ってどうなんです?』
それとなくアダムにも確認を取っておく、知識のありそうな相手に聞いておくのは重要です。これでいざ動かしてどうにもならんと言われたらキレますよ。
『真実だよそれは、かつてカストディアンがこの地球にやってきて生命を作り出し、様々な実験を行う為に使われた、月もフロンティアもその設備の一つなのだから』
『よかった、それならなんとかなりそうですね。後はエネルギー源だけ……果たしてどれだけ必要なのか……』
『そこに関しては時が来れば提供するつもりだったさ、僕らの方から……けれど君達だけでやってくれた方が嬉しいけどね』
なるほどあまり期待するなって事ですか、そもそもフィーネに好き勝手させて月壊したのは人間なんだから人間が責任を取ってどうにかしろって感じですね。
『それでアダムさん、気を付けて欲しい事とかあります?』
『念の為バラルの呪詛を再起動しておいてほしい。あれは本来……封じる為に作られた存在なのさ、厄介な存在をね。そのことを知らなかったけれどね、フィーネは』
ヴィジョンが脳裏に浮かぶ、南極の底に沈む「聖なる柩」、そこに封じられるのはかつての神、アダムの恐れの感情が伝わる。
『うへ……マジで居るんですか?アレ』
『ああマジもマジだよ……万が一にも目覚められたら勝ち目はない、今でこそ無数に砕かれて人々の中に封じられてるが一瞬でも真の意味で繋がろうものなら……ならないね、どうにも』
名前を出す事すら避けた方がいいってなると、この脅威は伝えにくいでしょうね。
翌日、立花さんが小日向さん同伴でやってきた。付き添いは緒川さんだ、さすがに司令はこれなかったみたいです。
「凛音ちゃん!!」
「立花さん、お体は大丈夫ですか?」
「大丈夫、それよりもここにマリアさん達が居るって」
自分より他人の心配、まあいつもの立花さんですね……これには小日向さんもむっすり。
「本当よ、立花響」
「ようやくわかってくれたんですね!」
「それは……違うわ、あくまで今はお互いに利用する関係。だから必要以上に慣れ合う気はない、それよりも早く検査を済ませましょう」
「はい!!」
まあいつもの事です、立花さんのお人好しは……それよりもこっちをじっと見てる小日向さんと緒川さんの説得の方が骨が折れそうですよ。
「加賀美さん勝手な行動、本来なら叱らないといけないのですが……司令から聞いています、あの風鳴訃堂に目を付けられ、試されたと。かつて二課が設立される以前の事、護国の為なら身内すらも平気で切り捨てる真の防人と人は畏れました。イチイバル紛失の際の引責辞任により完全に隠居状態であった……それが再び動き出した」
「火を点けたのはまあ……私ですね、なんか変な奴に好かれるオーラでも発してると思って諦めました」
さすがに息のかかった者が多いこの場所でこれ以上言う事は避けた様ですが、緒川さんは訃堂の爺さんの事を「悪鬼」だと思っているようです、事実まあ……多分そうでしょうねぇ……。
「響が無茶をしてるのもだけれど、加賀美さんも無茶して……それに学校に来なくなって皆心配してたよ」
「そりゃ仕方ありませんよ、無茶やらないとどうにもならない現実もあるんです。ですがごめんなさい、心配ばっかかけて」
「でも、ありがとう。響の為に本気で、助ける手段を探してくれて」
「友達を助けるのは、当然の事ですから」
少なくとも感謝はこの無茶が報われた時にこそ受け取りたいものです。
結果としてまず言うと立花さんの完治にはとても届かない、というのがわかりました。
まず肉体に害がない程度の、最大限の、神獣鏡のエネルギー照射とアンチLinkerなる薬剤を併用する事でガングニールの侵食はそこそこ取り除けました、ですが既に活性化してしまっておりこれを続けても現状維持が限度。いずれは限界が来てしまう。
装置から取り外された神獣鏡は……シンフォギアのペンダントに加工された欠片。
本来の、完全状態のモノならばもっと効果があったかもしれない。けれどこんな中途半端な状態ではどうにもならない。
可能であれば適合者が欲しい、どうにかしてこの神獣鏡をギアとして纏い、そしてオペを行えるならば立花さんの症状はどうにかなる。そしてフロンティアの封印の解除も。
私がこのペンダントを握っても歌は浮かんでこない、残念な事にイレギュラーである私ですらそうどうにもできない事です。
ですがウェル博士はそうとは思っていない、小日向さんを見て何かを考えてる。悪だくみしてる人間の顔だ。
「マジでやるんですか?」
「お気づきになりましたかね」
「Linkerだけじゃ適合者は作れないって言ってましたよね?」
「そうですねLinkerだけで作れれば苦労しませんよ、でも彼女は必要な素質を持っていると僕は思います」
「それは」
「愛、ですよ!」
やっぱり結局そいつに行きつきますか!確かに立花さんの為なら絶対にやりかねない……やりかねないけれど巻き込むのはいいのか、緒川さんに顔を向ける。
「それは……大きなリスクを伴うと僕にもわかります、かつての奏さんがそうであったように」
「けれど今から探してって訳にもいかない、0か1かですよ」
「あの……私、やります!それが響の為になるならば」
最後に決めるのは本人だ、小日向さんがやるというのならば……私はそれに従いましょう。