萌え声クソザコ装者は憧れたんだ   作:青川トーン

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全てに報いる時はまだなんだ

 小日向さんの「同意」を得たので神獣鏡の起動の為に……彼女自身にも処置を行う事となる、ここでくるのがダイレクトフィードバックシステム、元はフィーネと共同でウェル博士が開発したシステムだとか……。

 偶然にもここにもう一つ、ダイレクトフィードバックシステムを持ったギアがあります。

 

 私のイカロスです、これを使う事で小日向さんにかかる負荷を私がかなり肩代わりする事が可能になります。

 まずはFiSのごく低リスクなLinkerを投与しつつ医療ポッドで様々なダメージを軽減、その間にダイレクトフィードバックによってギアへの同調を行う。ですが絵面が結構ヤバげなので立花さんに見せたら不安になるだろって事で今は切歌と調の二人にどうにか時間稼ぎをしてもらっているとか。

 

 一応立花さんにはちゃんと「小日向さんがシンフォギアに適合できるかちょっとチャレンジしてる」って事だけは伝えています。

 

 嘘は言ってないんですが完全に裏切り者ムーブでちょっとドキドキしますね。

 

「あなたはこういう手段を嫌うと思っていたんですがね、僕の思い違いでしたか」

「問うていられるならば、手段は問いたい。けれどこれしか手がない、時間がないのですから」

 

 3時間もあれば調整は終わる、その後はまず立花さんの処置をして……次にLinkerの効いているうちにフロンティアの封印を解いてしまう。早ければ今晩中に事態を動かしてしまおうという目論見です。

 そうとなると私が懸念するのはフォニックゲインの調達ですが……。

 

「先んじて二課にはフロンティア周辺に向かって貰いましょう、事は早い方がいいです。あんまりのんびりしてると米国が周辺海域に艦隊を展開、とか面倒な事になりそうです」

「それはいいですね、連絡をお願いしていいでしょうか」

 

 正直言って、ナスターシャ教授やマリアさんよりもウェル博士の方が多少波長が合う、この人は割とどんどん事を起こして解決へと動いてくれる、そんな感じがします。

 その……皆やっぱり理想が高すぎるんですよね……それは悪い事じゃないけれど、そこで傷ついて足を止めると間に合わない事だってある。

 

 残酷ですが痛みに止まらない事こそ、必要なのかもしれません。

 

「もしもし司令、いい感じに立花さんの問題が解決しそうです」

『そうか!それはよかったが……それだけが連絡の目的ではないな?』

「その通り、今夜中にでも月の落下も纏めて解決しちまおうって魂胆です。なので後ほど送る指定座標に……できるだけ気取られない形で二課本部を動かしてもらいたいのです。結構なフォニックゲインが必要なので翼さんにもクリスにも手を貸してもらいんです」

『……それは本当に信じられる手段なのか?』

「私は信じています、ですが間違っていた時……その時は司令が私を叱ってくださいね」

 

 とりあえず事前連絡は入れておく、それから伝えておくべきは……

 

『おいおっさん!代われ!おい加賀美凛音!お前どういうつもりだ!!!』

 あー……面倒な事になるとは思っていましたが来ましたね……。

「どうもこうもありませんよクリス、これ以上どうにかなんない様に停戦協定を結んだんですよ!わかっています、翼さんのライブを台無しにしてくれたのも、ソロモンの杖で暴れてくれたのも、立花さんを不安定にしてくれたのもまだ全部流してませんって!」

『くっ……そうじゃねえよ!お前、上手く行ったからいいものの一人で先走って動くのは自殺行為だって言ったのは誰だよ!アタシらを信じてなかったのか!』

 

 ……あー……うん、これはどう伝えたものか。アダムや訃堂の様な裏の繋がりがあるのもだし……私は私の言った事をまさにやっている訳で……それにクリスはフィーネに裏切られてましたからね……。

 

「それに関してはごめんなさい、信じていない訳じゃないんです……全部終わったら、この報いは受けますから」

 

 私も大概、フィーネを笑えないような人間かもしれません。

 ため息をつく、こうなりゃ全方位に中指立てて誰にも文句を言えない存在になってやりましょうか。

 

「……」

 先のことを考えてぐったりとしていると調ちゃんがこっちを見ていた。

 

「……あの、ありがとう。私達を支援してくれて」

「目指す所が同じだから協力出来ただけです、私は打算しかありませんよ」

「でも、誰かの為にここまで出来る……私は貴方の事を勘違いしていた、もっと非情な人だと思っていた」

「情を捨てちゃ終わりですよ、結構終わりかけなんですがねブヘヘ」

「ブヘヘって……何」

「いかんいかん、調ちゃんはこんなだらしない奴になっちゃダメですよ……」

 

 対立していたあの時、敵としか見てなかった相手に感謝されるとなんだか胸が苦しくなる、私はそんな善良な人間じゃない。武器を向けた過去が私の中に浮かぶ……今もこの手が武器であるかのように思える。

 

「あなたがだらしなかったら、私達はもっとだらしないわよ。ねえ調」

「そうだねマリア、ドクターはお菓子ばっかり食べてるし、マムも醤油ドバドバだし、マリアもケータリングをタッパーに詰めて持って帰って来るけれど」

「仕方ないじゃない、ギリギリまで切り詰めないといけない理由があったのだから」

 そんな事してたんですか!?それくらい詰んでたんですか!?マジで間に合ってよかったですね……。

 

「私達が信ずるに値するだけの人間よ、あなたは。だからもっと胸を張りなさい。それに聞いていたけれど、電話の相手の友人にも胸を張って言ってやりなさい……これはやりたいからやったんだと」

「マリアさん……ありがとうございます、けれど翼さんのライブ滅茶苦茶にしたのまだ根に持ってますからね……」

「うっ……」

「だから次はちゃんと最後まで歌いきってください、この騒動を終わらせた後に。それが……私の望む結末です」

 

 そうです……ずっと恨んでいる訳にはいかない、許されない罪はあるけれど、償う機会はあるべきだ。

 だから私は、今は許さなければならない。

 

「私に関する事は、許します。だからちゃんとやり遂げて、人類皆を救った後に償ってくださいね。他の人にも許してもらえる様に」

「当然よ」

 

 今はまだ立てる、立つ理由がある。

 時間は稼いでくれた、後は私が背負う番なのです。

 

 

「調子はどうですか小日向さん」

「なんだか、自分を外から見てるみたいで……気分がいいものじゃないかな……鏡越しに操作してるみたいで」

「ダイレクトフィードバックシステムも人によってはそう映るんですね、私の見てるモノが見えますか?」

「うん、見えるよ」

 調整を終えて外付けのダイレクトフィードバック装置を二人して被って、最終確認。ウェル博士は余計な事をしてない、ヨシ。

 

「では行きましょうか、立花さんを救いに」

 このオペに麻酔は抜きです、ウェル博士曰く麻酔で衰弱してそのまま危険状態になるとの事もあるそうなので。

 

「うえぇ!?未来!?何その機械!?凛音ちゃんとお揃い!?」

「これから小日向さんには融合汚染の除去を手伝ってもらいます、このシンフォギアで」

「!未来がギアを!?それって奏さんみたいにLinkerを使った!?」

「うん……でも出来るだけリスクを抑えて開発したモノだって言ってたから多分大丈夫だよ、今の所私も苦しい所がないし。この頭の装置が慣れないけれど」

「まあさておきLinkerの有効時間もそう長くはないので小日向さんの負担も考慮してとっとと寝転がってくださいよ立花さん」

 

 立花さんを手術台に寝かす、そして私達は同時に聖詠を唱える。

 がここで来ましたか、私の方にひどい頭痛。多分これは脳に来る負担の肩代わり分でしょう、外からは見えてない。大丈夫です。

 

「麻酔無しですからね、熱かったら言ってくださいね」

 神獣鏡から照射鏡面を展開、センサーを利用して角度を調節、まずはゆっくりと慣らしの弱出力での処置。

 

「いくよ、響」

 

 うっすらとした光線が立花さんの患部に当てられ、燐光を放つ。汚染している聖遺物が消失する反応があり、これならいけそうです。段階的に神獣鏡の出力を上昇させていき、収束、狙うのは根本であるガングニールの欠片。

 すみません、奏さん……あなたの遺したギアを消させて貰います。

 

「小日向さん、立花さんを救いたいという気持ちをしっかり込めてくださいね。あなたの気持ちがギアの力になるんです」

「はい……!」

 

 やはりジリジリと焼かれる様な痛みはあるようで立花さんは黙って汗を流している、除去進捗は60%。

 心拍数・血圧・体温が上昇、しかしこれは人間の正常範囲内……意識レベルも問題ありません。

 

 ちらりとデータを計測してるナスターシャ教授とウェル博士の方を見る、教授は真面目な顔をしているが博士はなんというかガキかよってぐらいウキウキしてやがる!!あいつ!!楽しんでやがる!!こっちはクソほど苦しんどるのに!!

 

 私の方のバイタルが中々やべえ数値になってきてる、小日向さんの受ける負荷全部受け取ってるのもそうですがダイレクトフィードバック二連結は中々やべえ……!視界が二つある~!

 見えてくるのは響と私のイチャイチャ、あ、やべえ!記憶まで流れ込んでくる!いかんいかんクソ!このスケベ女め!お前澄ました顔しながらどんな重くグチョグチョした感情を立花さんに向けてるんだよ!!

 

「響はいつも私達を助けてくれて!傷ついて!でも、今日は私が助ける番なんだって!」

 

 そう闇は私が引き受ける!だからあなたは立花さんを想う心の輝きだけを放てばいいんです!

 

「おおっ!すんごい!適合率がバカ上がり!こりゃあ愛の大暴騰ですよ!投資して正解だぁっ!」

「やかましいぞ外野!愛の場面に水を差すんじゃあっありませんこと!」

 

 除去進捗90%、95%、100%!すごい、汚染されてた細胞までが完治していく!これは……癒しの光って奴でしょうか!

「はぁ……はぁ、よくやりましたよ小日向さん、治療は成功です」

「終わった……の!?」

 

 まだダイレクトフィードバックは切らない、ここで一気にリバウンドがドンと来たら怖いですからね。まずは小日向さんが先にギアを……ってあれ……?

 

「お見事です、小日向未来さん……あなたは僕が見込んだ通りの「正規」適合者だ」

「嘘つけドクターウェル、処置しないとまともに動かないって評価じゃなかったですか」

「この土壇場で適合したんですよ、彼女が!これこそ愛の力!奇跡など介在しない想いが起こした現象だ!」

 

 小日向さんがダイレクトフィードバック用のヘッドギアを取り外す、流れ込んでくる負担が途絶えて息苦しさが無くなる。しかし因果な事もあるもんです、立花さんの離脱による戦力低下は仕方ありませんが小日向さんが新たに装者となったのは……。

 

「未来……ありがとう、でも奏さんのガングニール……なくなっちゃったね」

「響が奏さんから受け取ったのはガングニールだけじゃない、でしょ」

「そうだね、歌を……命のバトンを受け取ったんだ。ガングニール、戦う力だけじゃない」

 

 何よりも二人が幸せそうならヨシとしましょう、とりあえずこれでまず一個問題は解決しました。

 次に行く前に少しだけ休憩を、挟みましょうか。

 

 ギアを解除してダイレクトフィードバックをオフに、ソファに倒れ込む。

 

「お疲れ様、あったかものどうぞ」

「あったかいものどうも……どうです、私はやってみせましたよマリアさん」

「そうね……でもあなた凄い顔してるわよ」

「そりゃあですね……ダイレクトに二人のイチャつきの記憶まで流しこまれたんですから……しかし凄いものですね愛の力というものは」

「私も正規の適合者には成れなかったというのに、少しばかり嫉妬の気持ちがあるわ」

「適合率だけが強さではありませんよ、私なんて過剰適合なのに戦力としてはイマイチで」

 

 とりあえずあの神獣鏡、事が終わったら二課に持って帰って使わせて貰えないでしょうかね。というか事が終わったらどうするつもりなんでしょうかFISの皆さんは。

 まずは完了報告は大事です。

 

「司令、オペは成功です。立花さんの症状は無くなりました、一方で戦力低下は考慮してくださいね」

『わかった、その分加賀美くんを鍛える事にしよう……しかしよくやってくれた、響くんが助かったのなら何よりだ』

「うへ……冗談はよしてください……ってこんな時に通信が横から……って秘匿じゃないっすね」

『こちら鎌倉、国内の米軍に動きあり。現在宿泊中の施設に向かって特殊部隊が向かってる模様。至急離脱されたし』

「まーーーだ懲りてなかったみたいですね、ちょっとお灸を据える必要が……」

『交戦は無用だ、早く離脱して合流といこう。加賀美くん、君の帰りを待っているぞ』

 

 はあ、どうやら休んでいる暇はないようで。

「みなさーん、お忙しの所悪いですがすぐに出る準備をしてください。おじゃま虫がやってくるようで」

「響、もう立てる?」

「うん、未来と凛音ちゃんのおかげで」

 よし、まず患者は大丈夫そうで。後はエージェントの人達、さすがに慣れてるといわんばかりに脱出口が用意されていた。まああの爺さんの息が掛かった宿ですからね、そりゃ用意されてるでしょうよ。従業員さんまで武装してるし……コワ~~~。

 

「切歌、調。楽しい休暇は終わりよ、私達の仕事を果たしましょう」

「了解デス!おっととお疲れさんをお一人発見、肩をかします!」

「ありがとうございます」

 

 必要なものはヘリに最初から積んである、残った機材ももう使わないモノはここに置いていく。

 さあもうひと踏ん張りです。

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