萌え声クソザコ装者は憧れたんだ   作:青川トーン

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明日への一手

 70億の絶唱により、月は正常なる軌道へと還り、フロンティアはネフィリムと共に失われた。

 そして人々の行いの報いを肩代わりして、一人の科学者が死んだ。

 

 米国は復旧したエシュロンを使い徹底した情報工作を行い、二度の反応兵器使用を隠蔽。

 だが二課によって確保されたFISの装者達への裁判ではそれが仇となり、罪を問う事が出来ず……米国の聖遺物研究機関が先走り世界を救ったとされ、賞賛こそされど批難されるモノではないという形になる。

 そしてドクターウェルは表向き、フロンティア制御の為に最後まで残り殉死したとし日本政府に秘密裏に保護され、表向き出る事のない深淵の竜宮職員として事実上の懲役刑となった。

 

 完全聖遺物「ソロモンの杖」はバビロニアの宝物庫に暴走したネフィリムを閉じ込め、ノイズと共にこの世から完全に焼失……同時に現在まで新たなノイズの発生は確認されておらず……人類の脅威が一つ、図らずも駆逐される事となった。

 

 その後、ナスターシャ教授の遺体と分離したフロンティアの一区画を回収した際に若干のトラブルはあったものの、こうしてフロンティア事変は幕を降ろす。

 

 そして……異端技術の存在が露わになった今、それらの脅威に対抗可能な組織として……

 特異災害対策機動部二課は正式に国連直轄下にて、超常災害対策機動部タスクフォースとして再編成される事となり。

 名を「Squad of Nexus Guardians」通称「S.O.N.G.」と改める。

 

 だがそこに加賀美凛音の名は無かった。

 

 

 

『どうやら国連さんからの印象が非常に悪いらしく……』

・おりんハブられてて草

・日本の恥

・絶対こんな奴コントロール不能なんだもん

・被告でもなんでもないのに裁判で名前出されまくったアホ

 

『しょうがないじゃないですか、やれるだけやったんですから』

・国交問題不可避なんだよなぁ

・米国ひえてるかー?

・せっかく国連公認でBLゲー配信できると思ったのになあ

・それが原因じゃねえかな……

 

 

 

 彼女は、あまりにも例外すぎた。

 その行動と後ろ盾にある風鳴機関の影響、それらを考慮した結果として国連に迎え入れられる事はなかった。

 既に7人の装者が居るのだから一人ぐらい日本に残せという働きかけがあったともされるが真相は不明。

 あらゆるものを敵に回しかねない精神性もまた、見送られた一因ともされている。

 

 また誰にも知られぬ事実として、ナスターシャ教授が逃がしたレセプターチルドレン達は無事にそれぞれの逃げた先で保護され……新たな人生を歩み始めていた。

 

 

 

 

 はぁ、と溜め息をつく。

 全ての後処理が終わり、無事に着陸できた……と言っていいのでしょう。

 それにしては失われたものは多く、フロンティアも残ってさえいれば重要な資料となったのでしょうが過ぎた事です。

 

 ナスターシャ教授の犠牲と献身によって救世は成された、ウェル博士も仕事はしてくれましたが事実上の軟禁に持っていけました。やった事の報いは受けなければならない。

 

 マリアさん達は国連のエージェントの活動を行う事でこれまでの罪を償っていくつもりで、それで私はというと……何もなく、ただ日々を新居で過ごしていた。

 これが罰というならば、受け入れましょう。

 

 そう思っていた。

 

『とてもマズい事になった、起きてしまったんだよ僕の恐れていた事態が』

 

 あの後、目を覚ました私への第一声はこの世の終わりみたいな感情を込めたアダムの一言だ。

 マリアさんが束ねた70億の絶唱が南極の封印に亀裂を入れてしまった。遠くないうちにそれが目覚める事が確定してしまった、今どうにかして対抗する手段を探しているんだとか。

 それこそ自分の組織の総力を使い潰してでも対抗手段足りえるか……そんな焦燥に私はまたかと疲れを感じた。

 

 脅威は次から次へと現れる、いつまで立っても平和がこないではありませんか。

 一応、協力してもらった例もありますから私だって手を貸したい、とはいえそういった知識はない。

 

 なので手段が決まったならその時は連絡しろとだけ伝えた。

 

 

 それで一つ悩みがあるのが最近、私だけ皆と距離がある事。

 この半年で直接会うやり取りをしたのも数える程、ようやくマスコミが落ち着いたとはいえリディアンに行くとやっぱり面倒なのに強襲されそうになってジジイがつけてくれたボディーガードが出てくる事3回、私の曲を出す時に収録の為のスタジオに行くのが一番安牌まである。

 

 国連所属と日本政府所属で壁がどうしてもあって、機密保持の為にメールもまともに出来ないのどうにかなんねーのかよ!ってジジイに圧をかけてみるも自力でどうにかせい!って一蹴されるし。

 司令経由でどうにか近況を知る事は出来ていたけれどそろそろマジで私自身が政治力を持たないといけないかもしれませんね……。

 

 そんなある日、ボイスチャット有りのFPSゲームを配信していた時だった。

 一瞬でルームが埋まり、名前なんかを確認せずによーし試合開始……と油断していた。

 

『凛音、元気か』

『はぁっ!?つば……翼さん!?』

・マ????

・翼さん本人キター!!!!

・嘘だろ!?

・会社おんなじだから不思議じゃなかったけれどやっぱり関係してたんだね

 

 慌ててメンバー名を見ると

・Tsubasa-SG01

・Hibiki-SG-03

・Chris-SG-02

・Miku-SG-04

 と当たり前の様に全員揃っていた

 

『凛音ちゃん久しぶりー!』

『おいバカ、ここではおりんだろ!』

『リスナーの皆、驚かせてごめんね。ほらおりん最近学校に来にくいからさ!』

・友凸で草

・そうかおりん……お前にも友達が出来た……

・暖かくて草……暖かくて……羨ましい

・おりんの友達みんな声良すぎでしょ、さすがリディアン生徒

 

 おまけに翼さんが居るって事でバカ程視聴者が爆増、エラい事になった。

 

『スコア差捲られてんぞ先輩!』

『むう射撃戦はままならん……やはり切り込むべきだ!』

『うわーっ!撃たれてる!撃たれてる!』

『落ち着いて、あ、やられた』

『うろたえるな初心者共!!裏道取られてるんですよ!!神獣鏡とガングニール!横道を塞げ!イチイバルとハバキリは正面抑えてろ!今から高台制圧して敵スナイパー潰すから!』

・おりんの指揮官適性よ

・いつもより騒がしくて草

・なんだその中二病コードネームは

 

『ガングニール了解!いくよ!』

『なるほどそういうコードネームはいいな、ならばハバキリ了解』

『イチイバル了解、弾幕を作るからしっかりサポートしてくれよ!』

『神獣鏡了解!掃除するね』

・翼さんがハバキリか……

・ガングニールは引く事を覚えろ

・イチイバルちゃんのイケイケな感じ好みだわ

 

 やっと平穏が、戻って来た気がした。

 月の落下に怯え、仲間の死に怯え、そんな日々が終わったと今だけは思えた。

 夜が明けるまで遊び倒し、夕方まで泥の様に眠る……こんな幸福な事はない、けれどよく考えたら今日月曜日だったな……卒業した翼さんはさておき他のメンバー大丈夫だろうか……。

 

 とはいえ遊び惚けているのもなと思いパソコンを開いて政府とのやり取り用のチャンネルを開く、ジジイが日本での装者の活動サポート……というか私を自由に使い倒せる様に護国災害派遣法なるものを進めていて当事者である私もこのやりとりを確認しておかないとならない。

 具体的にはS.O.N.G.に行った皆と私のどっちが日本国内において優先されるかだとか、指揮系統だとか……一応特異災害対策機動部事態は残っていてそこの繋がりで今まで通りやっていく事もできるけれど今度は国連からの介入でどこまでがどうなるかだとか……。

 

 これを一女学生に関わらせるのははっきり言って異常、今すぐこのチャンネルに入ってる連中は長期休暇取って常識を取り戻してくるべきである。

 

 そんな中、アダムからまたテレパスが来た。

 

『決まったよ、大体の方針は。そこで要請したいんだよね、風鳴訃堂との協力をさ』

『わかりました、ジジイにアポだけ取っておきます。いつ行きますか?どっちにしろ私抜きで変な事決められたら困るんでついていきますよ』

 

 どうやらやる事は決まったらしい、しかし問題はあのジジイがすんなり行くかというところ。ついにアダムと対面か……スカした格好してるからなと思いながら「協力者」という感じでメールを送って出る準備をする。

 いずれにせよ鎌倉から動く事などないからいつ押しかけても構うまい。

 

 そして始まった三者面談、ジジイの外国人嫌いは案の定アダムにも発揮されていたが無視。

 

「して、貴様が言うに。超古代よりの脅威が蘇ると」

「そうさ、なってしまえば終わりさ人の世は、だから対抗する為には必要なのさ……力が」

「問題はそれだけの力をどうやって手に入れるかですが……アテがあるのですよね?」

「あるさ、神に抗うには同じ神の力……今、僕の部下に探させてるんだ。その力を開く為の地図をね」

「神の力いずる門、古き伝承にて聞いた事がある。確かに神に対抗するには神というのは理に叶おう、だが……」

 あ訃堂のジジイの殺気が滅茶苦茶鋭くなりましたね。

 

「誰が、その力を手にするというのか?まさか貴様というまい、アダム・ヴァイスハウプト」

「まさか、もちろんそれならばするわけがないさ、協力要請など。力を持つべきは原罪を持たない清き者でなければならない……そうでなければ神の力は定着しない。当然、叶うはずもないよ並の人間には」

「ならば……そうか」

「そういうことだよ」

 

 二人してこっちを見る、いや私も別に罪がない訳では……いや原罪だからまた別なんだろうけれど。

 

「君だよ、加賀美凛音。神となりて人を救うのは」

「なるほど、ならば脅威を打ち倒した暁には」

「なるだろうね、新たな神としてこの大地に君臨する神として」

「護国神姫……素晴らしき響きよ」

 

 私に拒否権は無いといわんばかりに二人が納得している!なんで!?

 

「なんか当然の様に私が神になれる前提で話してるんですが、どうやって神になれっていうんですか!」

「当然、容易い事ではないさ。だがその前段階として君にはなって貰うんだ。偶像に」

「偶像、信仰を得ろということだろう。世を動かす象徴となれば確かにそれは神のごときもの。言霊か」

「いかにも呪いのようなものだ、言葉の力、哲学兵装などと呼ばれるそれは。だが変わりないのさ力には」

 

「加賀美凛音、君はアイドルになるんだ」

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