世界を狂わせるんだ
会場が湧く、空気が震え悲鳴を上げる、破壊の旋律が聴く者の理性を破壊していく。
3人の出来損ないの怪物の演奏は「組織」の技術をふんだんに取り込み、人間を越えたパフォーマンスを発揮。
過激な衣装にジャラジャラとしたアクセサリー、持つ者を憑り殺してきた呪われしギターを手にするのは現世にて最強のロックンローラー「加賀美凛音」。
会場から楽器に、その演奏者まで全ては、加賀美凛音だけを強化する特注の外付けパーツ。
しかして常にスペックとパフォーマンスの向上を目指したコスト度外視。
風鳴機関とパヴァリア光明結社という二つの組織による宣伝工作の結果もあるがやれば出来る凛音の性質も合わさって瞬く間に熱狂を生み出して時の人となった。その計画の真意として一人の少女を神へとアセンションさせるという正気とはいえない戦略を皮肉り付けられたプロジェクト名は。
『ファナティクス』
秘密結社の全力はたったの1ヵ月にて数多くの信者を生み出す事に成功したのである。
「で、どうだい?君のチームメイト達は」
「あのですねプロデューサー、ただでさえ改造人間だったのが音楽特化に改造されて人としての尊厳を失って、おまけに私の引き立て役って訳で殺気と憎悪がすごいですよ」
「鬼気迫るものがあるよね、あの子達の演奏は」
「殺すならステージの上の演奏で殺してみやがれ、ってギターでぶん殴って言う事聞かせるの、どれだけ心が痛んだか……」
「ちょっとおかしいよね、君も」
アイドルになり、神の力を手に入れろという意味不明なオーダーを受け一ヵ月の内に起きた事を語りましょう。
まず音楽に関しては私はそこそこの技量があった、しかしそこそこ止まりですがここはダイレクトフィードバックを使った刷り込みで補う事にしました。起きてる時も寝てる時も演奏と歌唱を考えるモンスターの誕生です。
次に配信内でのデビュー予告と初ライブの緊急予告、これは皆にびっくりされた。司令もたまげて電話かけてきたもん「なんか訃堂のジジイがついにイカれて国防とはアイドルだ!」って言い出したので付き合ってあげてるって納得させた、いや多分納得してないだろうな……。
とはいえ私が納得してやりてえ、チャンスだぜ!ってスタンスなので一応理解はしてもらえた、なおチャンスとはいっても有名人になるというか現人神になるというか……。
やはり一人でも歌はやっていけるけれど引き立てる外付け装置はいくらあってもいい、せいぜいすげー音楽家でも連れてくるのかと思いきやここで来たのが改造人間共である。
パヴァリア光明結社はアダムが支配する錬金術師の組織で、まあ善悪問わず色々な事をやっていてそのうちの一つで失敗した改造人間計画があった……それにアダムは目を付けた、私ならこいつらを上手く使えると!
私を神にすると言い出した時から様子がおかしかったですが、その改造人間共……本人達はノーブルレッドと名乗ってる子達にですね……私同様にダイレクトフィードバックで音楽を徹底的に、徹底的に叩き込み地獄の様な苦しみを与えた上で連れて来たんですよ。
初対面で凄まじい憎悪の目で見られたのは初めてでした、哀れ過ぎてもう泣いちゃいそうだし、なんでこんなひどい事を……?ってアダムに対する信用が低下してしまいました。実際実行したアホ共は別らしいんですが、世界救うのに必要な人柱は私だけであってほしかった……。
で、地獄の道連れが増えた所でその日のうちに初ライブが始まる。
もう緊張とかは何もない、失敗すれば世界が終わるんですから、やらないだの、私を殺すだのうるさい吸血鬼ミラアルクをギターでぶん殴り即座に輸血パックを口に流し込む。
『お前は地獄音楽会のモンスターの一人なんです!私を殺したいなら上等、ステージの上でなら勝負を受けてやる!』
呪われしギターを手にした瞬間にこの世への絶望と反抗、そして栄光を手にしたいという妄執が襲ってくるがスルー、てめえは所詮道具よ!私を殺したいなら翼さんを連れてこい!とねじ伏せ演奏開始。
題名は『恋する支配欲求』で全4曲の1時間ライブ、この世の地獄みたいな不協和音と私の萌え声をマッチした音楽ドラッグ。バチバチにサブリミナルと脳への快楽信号をぶち込む照明、物見雄山と野次馬に、そして古参ファンの脳に「おりん」を植え付けてやる。
4曲目が終わりに差し掛かったその時、やはり耐えきれなくなったミラアルクが怒り狂いながら襲い掛かって来たのでシンフォギアを纏い応戦、マジに武器抜いてきたのに反応して残り二人、エルザとヴァネッサも参戦、アタッチメントとサイボーグの体を生かした連携で私を殺す気で来ていたが……ボルテージの上がり切った私とイカロスは弾けた。
一瞬にてフォニックゲインが臨界に達してギアが形成不全と化して炎が上がる。炎となったギアプロテクターをさらに固形化して赤い鎧へと変化させ……この夜、魔王が生まれた!
ギターアックスで3人の化け物をぶちのめし、独奏で締めると会場は大盛り上がり!
世間では「異端技術を使った初めての音楽ライブ」と話題になり、会場で発生した莫大なフォニックゲインは様々な聖遺物の起動などに使われる事にもなった。
さすがにやりすぎたかとノブレの3人に謝りに行ったが逆に更なる敵意を向けられる始末……いや、見世物にしたのは恨まれても仕方がない……と思いつつ今後の事を話す。
計画が成功すれば、それこそ世界の闇の中でグチャグチャにされた人間としての尊厳さえも取り戻せるんだと熱弁すれば、ようやく話しぐらいは聞いてくれるようになり……不承不承ながらも演奏はしてくれるそうで。
でも隙を見せたら今度こそ殺すという意思は曲がらなかったよ……。
セカンドライブは……なんとゲリラライブだ。機材一式を伴って都内に突如出現!『恋愛改造』をぶちかましながら一夜にして各地を転々、とんでもねえバケモンがいるぜ!ってイギリスからオファーがかかり「3日後に会場用意できるならやってやらあ!」と宣言、これはパヴァリアの仕込みだったんですが、予想外な事に向こうのプロが乗って来て一緒に歌わせろと。
アダムとジジイは有象無象が一体何をいってるんだって反応だったが私は許可、おまけに当日知らん奴らまでやってきて滅茶苦茶……誰も彼も好き勝手に演奏するという前代未聞の地獄絵図!
それを私のギターとノブレの連携で全員叩き伏せて、最後に立っていたのは私達だった。
全世界に放送されていたそれは各地のツワモノに火を点けた。
『俺こそが加賀美凛音を殺す!』
『あの魔王を殺せば最強のロックンローラーだ!』
『新たな歴史の始まりだァ!』
『私が奏でるのは美しき旋律だ!!』
『奴こそ燃えるジャンヌダルクよ』
これにて地球は空前のミュージックブームに包まれる。
それがこの一ヵ月の出来事である……怒涛の展開に私自身も正直次に何が来るかまるで予想がつかない。
酷使されてシナシナになったノーブルレッド三人組に輸血して飯食わせて……山ほど来るオファーやメールを風鳴機関やパヴァリアに選別させて「危険な奴」だけをあえて残す。
「火を点けたのさ、君が燃え燻っていた連中にね。おかげで使い切れないぐらい程に集まるんだよ、フォニックゲインが」
「もうフォニックゲインで世界中のエネルギー問題解決しませんか?」
「できるかもしれないねえ、技術がもう少し普及すれば。音楽文明の始まりだ」
『炎魔王』それが今の私の呼び名である、当然ながらイカロスのギアが燃え上がってる姿から取られているが……音楽家共に火を点けたのも由来でもある。
次のライブの準備中、ふとタブレットを見れば翼さんとマリアさんがチャリティーのライブもやるという……端末を見てる暇もなかったのでメール欄の確認をすると皆からの応援メールと無茶してないかの心配メールが半々。
翼さんとマリアさんからは歌手として負けてられないという宣戦布告まで……いやぁ、完全に自分の実力で勝負したかったんですがね……。
「う……ウチはもう疲れた……次のライブはもっとやさしくしてくれよ……」
「わ……わたくしめも、もう楽になりたいであります……」
「二人とも……耐えなさい、前よりは扱いはよくなってる筈よ……!すくなくともモルモットよりは……」
控室で瀕死になってる3人を見るとマジで申し訳なくなる、収益からちゃんと給金もだしてるし、3人に必要なモノは常に揃えてる……なんなら体への処置も極力良くなるモノになるように注文しまくってる。
けれどステージに立つと私に合わせる為に限界を超えたパフォーマンスが要求され、それこそ無理矢理にでも体を動かすという呪いがかけられてしまっている。
彼女らの意思を無視したパフォーマンス……それこそが弱点でしょう。
ノーブルレッドの三人からの心からの音楽を……私は引き出さなければならない、そうでないと世界を獲る事などできやしない。
「ミラアルクちゃん……それは血液パックじゃなくて楽器のメンテナンス道具よ」
「あー……アタシと楽器の境界線がなくなっていくぜ」
「エルザ……それはあなたのアタッチメントじゃなくて楽器のアタッチメントよ」
「そういうヴァネッサこそ……手が勝手にキーボードの動きになってるぜ」
編成はギターボーカルが私、ベースがエルザ、ドラムがミラアルク、キーボードがヴァネッサとなっているが変則的に私以外の役割が変わる事もある。エルザの尻尾型アタッチメントでドラムやキーボードを代行したり、ベースをヴァネッサがやったりもできる……この全楽器対応こそ、皆の負担の原因でもあり、我々の強みでもある……。
はっきりいってブームの火付けにはなったものの「人権とか尊厳とか」その辺りが問題になると一発で燃える、だって事実上の楽器扱いなんですから……。
私はこのイカれた計画の未来を案じる……早急に3人の待遇改善がなされなければ待っているのは破綻だけ。
「ウワ……バケモノが来たぜ……」
「わたくしめ達の倍以上動いてるのにどうして平気なんでありますかね……あの人」
「人じゃないわよアレは……多分」
ククク……ひどい言われようですね、まあ事実だからしょうがないですけど。