『リバティ・リベリオンズ』支配をテーマとする私達『ファナティクス』に対抗馬としてパヴァリア光明結社によって用意された『支配への叛逆、勝ち取る自由』をテーマにした姉妹ユニットである、アダムは当て馬として用意したつもりですが本人達のやる気が強すぎて、いつか人気逆転されそうな危機感を抱いている。
「あなたが加賀美凛音、話は聞いている……人柱であると」
「そういうあなたはサンジェルマンさんですね、まさか歴史上の人物に会う日が来るとは思いませんでしたよ。確かに人柱ですが必要な事なので」
「必要だからといって自分の自由を捨てて、人である事を捨てる覚悟。本当にあなたにはあるのか?」
「皆の自由を守る為に己の自由を捨てる、その覚悟はあります」
たかだか十数年しか生きてない小娘である私と違ってサンジェルマンさんはガチのガチで何百年と錬金術師と生きて来て、かのジャンヌダルクとも関係があったとかで……ガチで背負ってるモノの重さが尋常ではない。
アダムはアダムで元から超越者というか上位者めいた態度なんで適当にあしらえるんですが、こっちは地獄を見続けてなお歩き続ける人です……油断するとかなり気圧されそうになる、そうやってこちらの本気を測ろうとしてる。
「私にも譲れないものがあります、友人がいるんです、憧れている人がいるんです、そして……守りたい人がいる、だから選んだんです。あなたはどうですかサンジェルマンさん」
「……支配からの解放、バラルの呪詛によって生まれた人同士の不和の時代を終わらせる事が私達の命題、犠牲になっていった者達に報いなければならない」
なるほど……これは。
「ちょっと似た者同士ですね私達は」
「ああ、しかしまだあなたは戻れる所に居る。己の手を血で染めてはいない、罪を背負ってはいない、だからこそ」
「血で染めなくても背負う罪は既にありますよ、世界を欺いている。今の人気は私だけのモノではない……結社の工作ありきです、おまけにうちのメンバー3人は私に心を開いてはくれてませんしね」
別にこの人に会う必要はなかった、アダムの言う通り当て馬にする為に徹底的に叩き潰す様なスタイルで活動すればよかった。けれど違う、相手を知る事でこそ最も効率的な使い方を知れる。
絆こそが人を限界を超えて活用できる手段。
こう考えている時点で私もヒトデナシのロクデナシになりつつあるのを自覚します。
だからこそ人間性を取り戻さないとならない、悪魔にならない為に。
「して今日呼んだのは……うちのメンバー3人の状態についてよく聞いておきたいからです。パヴァリア光明結社の中でも最上位の錬金術師のあなたならばこそ、と思いまして」
「はっきり言おう、不純が過ぎる。錬金術は完全・純潔といった状態を目指すモノだというのにあの3人は不完全を押し付けられていた……そこに加えて雑多な能力を増設されたせいで負担も増えている……いずれ破綻が訪れる」
やっぱりかぁ……人を越えたサイボーグっぽいヴァネッサですらぶっ倒れるってことは能力に体が追い付いてないのはわかっていたけれど、破綻って事は死ぬって事ですよねぇ……。
「でしょうね、音楽スキルを後付けで叩き込まれてるんですから……で、どうにかできませんかね……」
「ハッキリ言う、現状では無理だ。血中のパナケイア流体を取り除けば破綻は先延ばしにできるが体力も技能も能力も失われる、それではいけないのだろう?」
「まあ……でもあの子らが死ぬよりはマシですよ。メンバーに死人なんて醜聞どころじゃありませんから」
「存外甘いのだな、それこそ完全に怪物にすれば破綻は回避できるだろう」
「ああそれもパスで、当人らは人に戻りたいとのことなので」
それを言うとサンジェルマンさんはフッと笑った、確かに甘い事を言ってるのは分かりますが……。
「いいだろう、できるだけマシになるようにはしよう。あなたの人となりがなんとなくわかったのと、何より結社総力を挙げての計画なのもあるからな……だが、舞台では手加減無しだ」
「それこそ望むところですよ、せいぜい私のギターに吹っ飛ばされないでくださいよ」
どうにか交渉は成立したみたいです、これで朝練をボイコットする連中を説き伏せる材料が一つ増えました……。
「それと局長、アダムから聞いては居るだろうか?キャロル・マールス・ディーンハイムの事を?」
「あーなんか最近組織抜けたとか……そもそも名前だけ所属だったらしいまでは」
「彼女は世界を恨んでいる、近々事を起こすだろう。まあ手は打っているが……今回も我々は手を出さない方向で行く。新たに再編されたS.O.N.G.に対応してもらう事になるだろう」
「あの世界の危機増やすの辞めてもらえませんか?」
「大丈夫だ、どの道彼女の計画を果たす為の機構にはバックドアを山ほど仕込んである」
「それ絶対バレて対応されてると思うんですけれど」
なんでこの世界で暗躍する人達ってこうも計画がガバガバなんですか……!?
見積もりが甘いんですよ!フィーネしかりナスターシャ教授とウェル博士しかり!アダムしかり!
「まあこれは彼女らに対するある種の信頼があるからだ、フィーネの遺産であればどうかするだろうと。かつて嫌という程煮え湯を飲まされたからな……おかげで神の力への鍵であるティキが今も行方知らずだ、ようやく局長がその気になって大まかな場所こそはどうにか絞れたが……今は慎重に奪還計画を練っている最中だ」
「あーティキね、オートスコアラー……自動人形の、アダムから聞いてますよ。ただ起こすと私に対してなんか面倒な嫉妬向けそうだからどうしたものかと頭を悩ましてました」
「いい気味だ、あの人でなしが悩んでいるというのは」
まあ嫌われそうな人ですもんねアダム、でもあの人もそこそこ友人と呼べる存在が居たらしいというのは驚きでしたね。
あ……!
「キャロル、確かアダムの友人だったイザークって人の娘さんだ!」
「局長に友人!?……ああそうか、だからああやってキャロルを自由な立場に置いていたのか……納得がいった……しかし、あなたは……随分とアダムから信用されているんだな、あの秘密主義の塊みたいな存在がそこまで語るとは」
「あーーー……なんていうか……ほら私イレギュラーですから……バラルの呪詛の効いてないタイプの」
めっちゃ訝し気に見られてしまったが仕方ない、マジで。つーかアダムの私に対する妙な信用も結構謎なんですけれどね、イザークって人の事も詳しくは知らないんですが……きっと私みたくちょっと変わった人だったんでしょう。
「……そういうものか?だが……だとしたなら……バラルの呪詛がなければ、人でなしとすら分かり合えるのなら……」
「まあ無いに越したことはないんですが、その前に来る特大災厄がなんとかならないとバラルの呪詛解いてる場合じゃないですから……」
「わかっている、蘇るカストディアンを打ち倒してから、であろう。順番はわかっている」
そうです、バラルの呪詛は無限復活するあのカストディアンを封じる為でもある、順番を間違えてはいけない。
「まだ正直信じられない、バラルの呪詛が我々を守る為のものだったと」
「悪法も元は人を守る為だった、ただ時代がそれをもう望んでいない。そんな感じです」
よし、ちゃんとここは伝わってる。情報共有はできていますね!
マジでこれをアダムがちゃんと身内に伝えているかで後々がマジで変わりますからね……。
それからいくつかのやり取りをして帰って来た私を待っていたのは明らかに招かれざる客だった。
カラカラと音を鳴らしながら動く人形、どうみても人間じゃないし、友好的でもない!
その隣には金髪の少女、私よりも背は低いけれど圧が尋常じゃない。
一目見て感じ取れるのは……そう、錬金術師の波長。
「ああ、あなたがキャロルですか」
「継接ぎ共の飼い主をしている割には目が利くな、確かにオレこそがキャロル・マールス・ディーンハイム。今日は加賀美凛音、お前に用があって来た」
気配は、3つ……いえ見えないだけで大きいのがもう一つ。
残念ながら護衛は全滅でしょうねこりゃあ……パヴァリアの錬金術師も混じってたと思うんですが……!
「イレギュラーは計画には不要だ。光栄に思え、全力を以てオレはお前という奇跡を殺してやる!」
「そういう訳で一名様ご退場~」
四方から氷、風、炎、コインが飛んでくる。が慌てる事はない、今の私には「強化された」イカロスがある。
ギアを纏う際のバリアフィールドが全ての攻撃を防ぐ。
「歌う事なく、ギアを纏ったか」
「ファウストローブ、あなた達錬金術師の技術を取り込んだんですよ。それだけじゃありません、あなたの手札たるアルカノイズも、一足先に対策させて貰いました」
アダムから事前に錬金術で作られたアルカノイズの存在は聞いていた、当然ながら何かの理由でそれと戦う事になった時の対抗策も施されている……と言っても超力技でギアの防御機能をバカ程強化しただけなんですが。
「なるほどな、奴が見込むだけの事はあったという訳か。だが一発凌いだだけで……」
「十分さ、時間稼ぎには」
「チッもう来たか」
このギアにはもう一つ、特筆した効果がある。
それは非常時にアダムのテレポート先として機能し、起動された時は即座に知らせる効果があるのだ。
「復讐なんて望んでいない筈だろうけれどね、イザークも」
「アダム・ヴァイスハウプト!何故お前はこいつを守る!俺のパパの時は手出しすらしなかったくせに!」
「……イザークの事は、言っただろう知った時には手遅れだったと。それに必要なんだよ、対抗する為に加賀美凛音は」
「くそ……興が削がれた。出直すぞガリィ」
「はーい、ざーんねんですが今日はここまで」
アダムがやってきた事でキャロルはお供のオートスコアラー、ガリィと共にテレポートで帰って行った。
しかし錬金術師達はこんなハイリスクなテレポートをよく使いますね……事故ったら即死なのに。
「やれやれ、しておいて正解だったね。対策は」
「マジで助かりましたよ、あそこで戦っても2分凌げるか怪しかったです」
「そりゃそうさ、多分この世で最も恐ろしい錬金術師さ。彼女はね」
今回は凌いだ、けれどキャロルは私を完全にロックしている。どこかでまた仕掛けてくるだろう……人気のない所ならばいいんですがライブ会場でやられようものなら最悪です。
「キャロルをどうにかするまでこりゃ休業ですか?」
「そうも言ってられないよ。事は進めているが、ないんだよ思ったより時間は」
「タイムリミットは?」
「冬までが限界だろうね、封印の維持も」
1年以内に世界の運命を決する事態が起きる、まあフィーネがルナアタックしでかしてから大忙しですね……。
それまでに私は神の力を手に入れなければならない、その為のアイドル活動。
今、世間のイメージは私を「魔王」と見ている、けれど魔王じゃ足りない。
ギアを解きペンダントみやる、赤黒く変色したそれは禍々しく輝く。
まだ第一段階、といった所でしょう。賢者の石の見立てた私の「大いなる業」は。
黒化……個性化、浄化、不純物の燃焼、次の段階は白。
間に合わせて見せる、私の黄金錬成を。