「やばいぜ、さすがにショッキングがすぎたぜ?」
「まさかその辺りの感性が普通の人とは思わなかったであります」
「いえ違うわ……これは……」
私は、私は今まで知らなかった、何も知らなかった!本当の苦しみも痛みも!不幸も悲しみも!
「私が、あなた達を救います……救ってみます」
「まずいぜ!!!ヤバイ方にアセンションした!」
ならば、ならばこそ!知るしかない!
イカロス展開!ダイレクトフィードバックシステム起動!
「さあ……被るのです、あなた達の痛みを……苦しみを私にも教えてください」
「う わ あ あ あ あ あ」
私は痛みを知らなければならない、けれど私は何も失いたくはない、奪わせはしたくない。
なので、まず他人の痛みを直接的に知ってみる事にしました。
その結果……なるほど、これは苦しいものです。
感性の違いを考慮しても物理的痛みの記憶、嫌な事をやらせ続けられる苦しみ、見捨てられる恐怖……その全てが段違い、おかげで私は一歩先に進む事が出来た。
同時に人として越えてはいけないラインである事も、私がおかしいという事も知れた。
「うう……あいつマジの怪物だぜ……」
「け……穢されたであります……ガッツリ変な語録を脳に植え付けられたであります……」
「嘘でしょ……こ、こんなことが許されていいの!?」
まるで私に乱暴されたかのようなノブレ3人組、まあ事実私が脳内を蹂躙したのは間違いないので……。
「マジでごめんなさい、やってみないと分からなかったので……でも私の事も多少わかっていただけたかと……」
「変なビデオとか変なマンガとかクソゲーを脳に直接流しこまれるのは拷問の一種だろ」
「忌憚のない意見でガンス」
「エルザちゃんも脳に猿しっかり植え付けられてるわ……」
ですがおかげで方向性が見えてきました、苦しみを知ればこそ幸せの尊さを知る事ができる……。
私のやるべき信仰の作り方も……。
「ですがおかげで次の方針が見えてきました……私は皆さんを救います、そしてこの世界も」
「ああ……(絶望)」
「ウチらはこれから何をやらされるんだぜ」
「終わりでありますよ……」
【ファナティクスは加速する、痛みさえも消し去る程の熱狂!支配は救済となる!新章『啓発』上演決定!】
元より結社の宣伝やスタジオ設営はサブリミナルをはじめとしたある種の洗脳なんかを取り入れた、よろしくないモノでした。ですがその程度では甘い、心に突き刺し、引き抜けない楔を作らないといけません。
目に見えるモノだけが音楽ではない、波長研究部を強襲して新型スピーカーを開発要請、私自身はどうにか『自力で』歌声を出力して重ねる方法を模索……結果として思考を発声する装置を二つイカロスに増設!
私一人で同時に3パートを歌う事を可能とした!
これこそ新たなる音楽の進化!歌詞ももっと心を抉り始原の興奮を思い起こさせる様な単純明快さを持たせ、ハイテンポに畳みかけて中毒性を増加!とはいえ視覚効果も大事です。
白と黒をケイオスを示すショッキングピンクの血飛沫で彩り、メイクもバッキバキに!
呪いのギターにもオシャレをさせる、私の血をガッツリ吸わせて真っ赤な塗装を赤黒く染め上げ悲鳴を上げさせる!
これにて私は加賀美凛音を越え『真・救世主ファナティクス・ユートピア』となる!
そして準備を完了して久々のリディアン通学!門前に張り付いたこざかしいマスコミ共はギターの1ビートで全員気絶させてやりました、ザコどもがよ。
「お……おはよー!おりん……う……うわあああ怖え!」
「なんですの加賀美さん!?その格好!?」
「次のライブの為のメイクですよ!もはや私は支配者を越えて救世主となるんです!」
「ロックだねぇ!私そういうの好き!」
「安藤さんは分かってくれるのですね!」
「まさに新しい世界を作るって意思を感じるんだ」
久々のズッコケ三人組は私の変貌に驚きこそしたけれど、中身が変わってない事を察してくれて嬉しかった。他の生徒達からもサインを強請られたので結社開発の血飛沫ペンでズバズバと切り捨てる様に「聖痕」を刻み込んでやります!
「うわーセーフ……!どうにかまにあ……うわ凛音ちゃん!?!?流石にそのカッコで学校来るのはまずいんじゃ!?」
「いいんですよ立花さん!もうライブが近いんで崩すに崩せないんですから!」
ひっさびさに生での立花さん達との対面、できれば素面で来たかったんですがね……まあ仕方ない。どの道来年になればさすがに落ち着いてるだろうし……。
「そういえば転入生の二人って今日だっけ!」
「そうですよミラアルクとエルザ、うちのメンバー二人……ちょっと辛い過去があって学校に通えてなかったそうなので」
その後は聞いた話ですが、あの二人にもファンがついてて転入早々人気者と化し質問攻めにあって苦労したとか、まあでも愛されるというのは良い事です!愛される事を知れば愛する事をより強く意識できる筈ですから!
「マジでお前さ……目立つなそれ!」
「そういうクリスも人気者らしいじゃないですか最近!」
「アタシは元から実力派よ、それよりも後輩二人の成績がなぁ」
「切歌ちゃんと調ちゃんかぁ……まあ慣れるでしょう。それよりも立花さんの成績のが気になりますよ」
「へぇっ私!?へっへっへそりゃ……ダメです」
「響は人助けもいいけれど勉強もね」
ああ……やっぱりリディアンは平和です、こういう景色を守るべく私達は戦ってきた。
そしてこれからも戦っていかなければならない。
……けれどキャロルの事は、まだやっぱり話せない。これを話すと錬金術師とは何ぞやみたいな話になるから。
「うーん……やっぱり悩み事あるんだね、今の凛音ちゃんにも」
「ありますよそりゃ、いかにして世界を支配するかとか……」
「フィーネの奴じゃねえんだから、それに支配ったって歌で熱狂させる事だろ?お前の場合はよ、今の音楽ブームを作り出しただけ十分やれてんじゃねえか」
「そうなんですけれど、そうじゃないんですよ!やっぱり歌で世界を平和にしたいじゃないですか!」
「凛音ちゃんの言ってる事、全然わかりません!」
全部話せれば、楽なんですがね……相談なんかが封じられてるのがマジで痛い!隠し事ってこんなに後ろめたいんですね。
「相談したいけれど守秘義務~~~!!クソ~!楽しみにしててくださいねお三方。これからの活動で私はさらにぶっこんでいきますから!」
「まあ程々にね、加賀美さん」
やっぱりこうある程度打ち解けて話せる相手は大事です、疲れが取れた気分ではあります。
そういえば明日からは……マリアさんと翼さんのライブか……さすがに録画になりますが、楽しみですね……。
『翼さん、マリアさん!明日から頑張ってください!応援してます!』
っとメールを送る、私も大概頑張らないといけないですが……やはり身内の応援はしておきたいですし。
そろそろ楽しいお時間も終わりが近づき、帰宅時間となろうとした時……ふと妙な気配を感じる。
……やはり監視されてる、あの時の自動人形の一体でしょう。
ここで事を起こされるとマジで許せんし……ここは一つ挑発してやりますか。
呪いのギターを手に一曲、刺激の弱い奴を奏でてやる!
この呪いのギター……観客なんかには無害ですがなんと無機物にダメージを与える事に関しては一流。
旋律でグラスや照明を破壊する事だって可能なんですよ!
なーんにも無い場所からピシピシとヒビの入る音が聞こえて私は満足、生徒達も希釈してあったとはいえ私の演奏の「お試し版」を体験できてwinwin。
「すごい!歌無しでもこんなに執念が伝わる!」
「ハァー……凛音様がわたくしたちの為に手加減してくださってる!」
「ダメよ!こんなんじゃ全然満足できないわ!はやく!はやく『啓発』を!」
既にリディアンにも私のファンが複数存在している、いつの間にやらパンクなメイクをして、シンボルマークのアクセサリーを付けた「狂信者」が!
「そういえば今の一年生は翼さんを目指してこのリディアンに来る新入生だったけれど、早くも凛音ちゃんを目指して来てる新入生もいるとか……」
「なんだっていい事です、夢があるというのは!望みこそが人を作るのですから!」
私も憧れられる立場となった、けれどまだだ……まだ足りない!
どうしても意識してしまうんです、ガチの実力だけで至った先人達のことを。
所詮は作り物の人気でしかない私のソレが……!
「うわあああ!二曲目だあああ!」
「ワッ(気絶)」
「出たあああ!手加減無しの洗礼だああ!!」
「心の弱い方は逃げた方がよろしくて!!」
あまりにも、あまりにも悔しくて情けなくて!!その無念と無力を私の嫉妬と逆恨みがギターの殺意となる!
コールレスポンスも不要!伴奏不要!ギターと私があればいい!これが加賀美凛音の苦悶と苦悩を轢き殺す為の叫び!無力さえも覆す甘き支配と幸福の押し付け!究極のお節介!
世界を救うのは!私の歌だ!!!誰よりも高く羽ばたくのは私だ!
傲慢に!優しさと甘さと堕落と腐敗!ああグズグズに溶けたチョコレートフォンデュとバニラアイスのミックスを固めた糖分過多の不健康スイーツ!破滅へと一直線に堕ちて来た人々をわたあめで救い上げる!
ああパティシエは私なのだ!あなた達はこの終末の甘味に酔いしれて幸福と私を信じればいいのです!
「う……うわぁ……聞いてるだけで胸焼けしそうな組み合わせ……」
「直で聞くとマジですげぇなアイツの演奏は……」
「甘ったるい声で脳を溶かすのは加賀美さんの得意分野だから」
やっぱり女の子には甘いものが有効なのです、恋とスイーツに染めた世界で甘く夢を見ながら今はそう溺れていきなさい!夢見心地な観客を作り出して、私の演奏は終わる。
どうやらオートスコアラーは既に撤退、そらそうでしょう。視覚と聴覚にチョコレートを詰められたような感覚に襲われてるでしょうからね。
私の音楽は、現実さえも塗り替えるのですから……!