てっきり仕掛けてくるなら私の舞台に合わせてアルカノイズでも送り込んでくると思って万全の対策をしていたのですが、どうやら先にS.O.N.G.側に仕掛けてクリスと翼さんのギアを破壊。立花さんを負傷させるだけで終わらせ、おまけに裏切り者のエルフナインなるホムンクルスが保護されたと日本政府越しに聞こえて来た。
どーーーー考えてもスパイなんですが多分本人に自覚が無いパターンでなおかつ、手土産にシンフォギアを強化する為の聖遺物まで持って来てますけどそれも罠っぽいんですが……アダムに極力動かない方がいいと釘を刺され、おまけにジジイにも釘を刺された。
それもそのハズ、シンフォギアをこっちで独自強化しているとはいえ国連に所属してないんだから情報開示して無駄に手札明かす必要がないって奴です。ンマー薄情な連中ですがそれも真実です、結社の裏社会での力は死ぬ程便利で現にそのおかげでノリにノレている。
逆に攻めて来た時に返り討ちにしてもいいかと聞けば「それはよし」との事……はたして正直に信用していいのやら。
してサンジェルマンさんたちリバティ組は外国メインで活動、転々と各地を回って情報収集もしながらついでに現地の結社構成員と合わせて布石を打っている。といっても音楽に耳を傾ける人を増やす為に現地に街頭テレビを増やしたりなんかです。
でも中々これがあの人にとっては「気が楽」な仕事らしく、連絡を取れば活き活きとしているのがはっきりわかる、そりゃ善行ですからね……。
ちょっと新聞を見てみれば音楽特需で景気上向き、火を点けたのは誰か!と私達の写真が載っている。
ただちょっと問題があってグッズの類がマジで激戦区、おまけに非公式グッズ・海賊版まで多発する始末。製造系の得意な錬金術師が金型なんかを作ってその辺の人間を片っ端から集めて工場回しても足りてない。
そろそろ買占めやめろと言いたいがでもこれで利益が滅茶苦茶でてて活動費にも関わって来てるから止めにくい……!ノブレ人形も人気で本人達から必ずセット売りする様にと念を押されてるから輸送とかに手間がかかるとか……。
もうちょっと余裕があったならチャリティで……なんなら僻地まで行って大暴れして観光需要も満たしたいが難しいとの事!それに人々の洗脳が解けない様にとにかく燃料を追加していくのも必要ですから……。
いやあ……裏社会の秘密結社が本気でブーム仕掛けたらこんな事になるなんてフィクションでも見た事ないですよ!
で、今日は『啓発』当日。アルカノイズが出てこれない様に錬金術師が総出で結界を貼って対策、テレポートも不可、さすがにミサイルでも打ち込まれたらヤバいですがそれなら私が撃ち落とせばいい。
「さあ!!地上に住まう彷徨える羊達よ!今宵世界は新たな一歩を踏み出す事となるのです!!」
仕上げて来た狂気の演説、背景モニターに映すのはファナティクスのシンボル、重ねられた3つの手を貫く一本の杭とリボン。
これこそが支配の象徴、絶対に途絶える事の無い絆。
いかにも怪しい白いフードに顔のない白い仮面を被った私達4人が舞台に立ち、それぞれに位置につく。
「信じるのです、救われる事を。この支配の先にこそ永遠なる理想郷があるという事を!」
「その先は地獄、魔界、冥府、あるいは終末だぜ!」
「人の在り方すらも失い、自由さえも許されない絶対の絶望でありますでしょう!」
「怪物さえも逃れられないこの絆という鎖に繋がれて!我々は導かれる!」
業火が白い外装を燃やし、マスクが落ちて、狂乱と狂喜に満ちた宴が始まる。
「パラダイス・サンクチュアリよりエデンよりも、アルカディアさえも置き去りにした、究極のユートピアへ!」
呪われたギターが振り上げられ、解放式のドームの空に赤い魔法陣が浮かび上がる。
錬金術で作った演出用の装飾、それを見て全ての観客が静まり返る。
逆さにひっくり返った天国の様な白い建造物群のホログラム、頭の無い天使と悪魔が互い違いに同じピンクのリボンに縛り付けられてぶら下げられ、まさに悪夢の様な光景が広がる。
観客席の中で担当者がガッツポーズをして、それに吊られる様に観客が湧き、あっヤベって顔をしていましたが赦しましょう。今の私は先導者であり煽動者……いわばカルト教祖なのですから!
ノーブルレッドの地獄めいた旋律と私の甘く蠱惑的な歌声に見合わない神聖ささえも感じる様な異界が交わり、『ファナティクス』が支配する。
理想郷はここにあるぞ!と叫び悶え、ギターが閃光を放つ。誰も彼もを魅了する魔力がここに宿り、私の命を吸い上げているがそれを上回るスピードで信仰が力となる!
この呪いのギターはどこまでも私を殺そうとする、否……純粋な殺意で以て私に応える最高の楽器!
それを慈愛で受け止めて、対消滅によって生まれる莫大なフォニックゲインが私のギアを更に燃やしていく!
皆の様な戦う為、絆を紡ぐ為のエクスドライブではなく、観客たちへ祝福を与える為のエクスドライブ!
私のギアを突き破る様にパイプオルガンの様な装飾が突き出し、プロテクターを白と黄金に染め上げて、仕上げに血糊が隙間から溢れ出して穢していく。
「これが私の絶唱!特殊歌唱形態『ユートピア』です!」
ここで練習して来た狂気のソロでコーラス!私の声が3つ重なって聞こえてくるという異常事態に誰もが面食らって、中には恐怖と感極まって泣きだす者まで見えますよ!
誰しもが見た事のない未知なるステージはついに危険な領域へと突入!
照明が点灯と消灯を繰り返し、ホログラムが崩壊を初めて、世界は終わりへと向かう!
そして暗黒が訪れたその時だった、バキンと結界が割れて私目掛けてエネルギーの塊が降り注いだ。
避ければ三人が危ない、弾けば観客が危ない、ならば選択肢は吸収!
さらりと処理してやりましたが中々のエネルギー、これを一瞬でぶっ放してくるとは厄介な奴ですよ……。
「キャロル・マールス・ディーンハイム!!」
「随分と悪趣味な催しをやっているな、何……そんな悍ましい姿で世界を救おうなどという思い上がり、このオレが撃ち砕いてやろう!」
観客は完全にこれをサプライズの演出だと思っている!カメラは止まらない!いや止める必要はない!
「良いです良いです……あなたも救われに来たのでしょう!共に歌を、奏でましょうか!」
「ああ、いいとも乗ってやる……お前の歌では誰も救えない、何も救えないと。このオレの歌でな!」
虚無から浮き上がってくるのはハープのような楽器、それに触れるや否や輝いてキャロルの姿が変わる。
なるほど、あれが彼女のファウストローブ……!
「世界を壊す歌がここにある!」
「ならばその破壊を私が再生する!」
ここに前代未聞、命のやり取りを含んだ錬金術とシンフォギアのバトルライブが開かれる!
恐ろしい事にキャロルが一節歌うだけで私がこれまで見た事のない程のフォニックゲインが生まれ、観客たちの
心が奪われ、美しく華麗なる「破滅」の歌が私へと向かってくる。
悔しいですが、観客を人質に取るよりもなお有効に使われてしまっている……!フォニックゲインは人一人だけでは大した量が生み出せませんが今の会場の収容人数2万人もいれば相当量に変化する!
「お前が集めた観客がオレの力となる!」
「しかし信じられるのは突然出て来たあなたじゃあない……!導くのは私です!」
ギターとパイプオルガンが牙を剥き、衝撃波がキャロルのファウストローブにダメージを与える!さすがにエクスドライブとまでなればただの演奏すらも武器になる!
「忌々しいイレギュラーが!お前の様な者が奇跡を見せるから人はいつまで経っても希望を抱いて変わらない!」
反撃と飛んできたのは鉄線、いえ……これは弦です!?ダイレクトにギアを切り裂かれて出力が落ちますが問題なし!当方に秘策あり!
破損したアームドギアを全パージ、私の飛ぶ姿を見せてやろうではありませんか!
「空中戦が望みなら応えてやろう!お前の全てを正面から叩き潰して殺す!奇跡などないのだと!」
同じくキャロルが飛翔して演奏・歌唱と共に私達が衝突する、呪われたギターが腹を切り裂き、錬成された土属性の結晶が私のギアに突き刺さる。
そして次の瞬間には距離を取り、会場を飛び回り何度も火花と血飛沫を散らし、砕けた羽根が観客に降り注ぐ。
「誰よりも高く飛ぶのは私です!あなたではない!!」
「イカロスでか!?バカなことを!その思い上がりがお前を殺す!」
「思い上がり?ハッ!挑戦こそが不可能を可能とする!人の可能性を見せてやりましょう!」
赤も黒もピンクも抜け落ちて、染まるのは純白、無垢、イノセント。
ここにあるのはただの意地と意地のぶつかり合い、キャロルは私を通して世界を見ている。不条理なモノ、非合理的なモノ、あるいは理不尽……なんでこんなものが存在するんだ?理解が及ばない、意味不明、そもそもバカじゃないのかこの計画を立てた奴らは!?しかもなんで上手く行っている!?こんな事が許されていいのか!?
そんな感情が流れ込んでくる、一方で私の感情も読み取られていく。復讐というのはいいでしょう、ですがそれはあくまであなたの父を奪った犯人にやるべきことでしょう!今となってはもう誰も当事者は残っていない!そして信用するにはちょっとアレだけどアダムという頼る先があったというのに!サンジェルマンさん達みたいな人と交流を持つ事だってあっただろうに!それに本心ではわかっている、理解している筈なのに!無駄な事をしようとしていることが!先が無いのですよ!その望みの向こうには!
「知った風な顔をするな!!!」
「あなたこそ!!それだけで世界をわかった気になるな!」
最後の激突、私の方が先に限界が来る。これ以上は持ちこたえられない、そんな時だった。
歌ではなく、演奏が聞こえて来た。
いつもの地獄の様な演奏じゃなく、戦えと、勝てという演奏が。
意識を向けなくてもわかる、ノーブルレッドの3人の演奏だ。
心を本気で開いてくれた訳じゃない、けれどこれは非常事態で、私が負ければこの場の全員が死んでもおかしくない。ならば少しでも助力になるものがあればと奏でてくれたのだ。
ならば私も答えよう!この戦いの後には明日が来るのだと!
イメージするのは翼さんの剣、ギターが形を変えて剣となる。
「馬鹿なデュオレリックだと!?その呪われたギターが!」
「呪いだって明日に繋がる道なんです!!」
キャロルに突き立てた刃がファウストローブを貫いた。
そのまま上空に羽ばたき観客から届かない場所で爆発が起きて、フォニックゲインの煌めきが降り注ぐ中で私が舞い降りて舞台は幕を閉じる。
とてつもない歓声がボロボロの私の体に染みわたり。どうにか観客たちが帰るまでは持ちこたえる事ができた。
さて、これで終わった……などとは思っていない。
キャロルはホムンクルスに記憶を転写し続けて生き続けて来たという情報なら既に持っている。
これもあくまでここで私を潰せれば儲けものという感じで差し向けた躯体の一つだろう、ようやく裏に戻って倒れる事が出来た。現に今も別働でキャロルのオートスコアラーが動いていたらしいという情報が入った。
しかし……手酷くやられたものです、体中が悲鳴を上げている……これは目を閉じたら死ぬな……と思いながら救護班が来るのを待った。