萌え声クソザコ装者は憧れたんだ   作:青川トーン

35 / 39
星座を見上げるんだ

 9月の13日、奇しくも私の誕生日であり……立花さんの誕生日でもある。

 その日こそ天と地の門が重なり、神の力を作り出すにふさわしい日とティキの機能で知る事が出来た。

 

 これで残る不安要素はキャロルのみ、残る時間は2ヵ月。

 不気味な程に平和だ、バルベルデの件で訃堂の爺さんが持て囃されたり、逆に内政干渉だって日本へ抗議が来たりしながらも私は着々と小規模なライブを行っていた。

 ノーブルレッドの3人には……ちょっと負担がかかるがそれでも3曲ぐらいの強烈で短時間の強襲めいた演奏と歌唱で着々と信仰を稼ぎ、収益で各地に支援を送って、またその支援から生じる感謝などで信仰を稼ぐ。

 

 金には金が集まる、世の利権構造というのはこうやって生まれるというのを嫌という程理解させられながらも、その金を必要とする者へと分配する。思えば理想的な金持ちムーブが出来てるのかもしれませんとサンジェルマンさんと談笑したりした。

 

 生まれてから何度も苦労して、腐敗した権力と支配による暗黒の時代を幾度と見て来たサンジェルマンさんだからこそ今のこうした平和な未来へ向けての活動は嬉しいんだと何度も語っていた。

 けれども良い事ばかりではない、やはりというか私への嫉妬や逆恨み、正統な恨みも世界に募っていく。

 

 工作によって作られた人気だとか、偽善者だとか、世界を支配する為の事前準備だとかちょっと当たってる奴なんかと出くわすと少しばかり胸にチクりと刺さるものがありますが、そんなことよりも……そういった事を発言した人を徹底的に叩くような信者の人達の方が私にとっては辛い。

 

 別に私を嫌いな人が居てもいい、私のやることは正しくても危険だと認知している人がいてもいい、何が何でも気に入らなくてもいい。力で私をねじ伏せようとするものが現れたっていい。

 

 それと戦うのは私であり、あなた達ではない。

 そう伝えたいけれど、もしもその信仰が反転した時に向く悪意は計画の支障になる。

 

 人々を盲目にしなければならない、家畜として管理しなければならない、そう思った時私の中に暗い歓びが芽生えるの感じると同時に悔しさもまた生まれる。

 私は、私だけの力で正々堂々と愛して貰えてるとは思えない。

 信者の皆が見ているのは人気者である私であり、世界を狂わせる者である私、もしも私が土壇場で神の力で世界を滅ぼす事を選んだらどうするつもりなんだろう。

 

 アダムは強い、けれど神の力を得た私に勝てる策はあるのか?もしも暴走しようものならどうする?

 裏切られるとは考えていないのか?

 

 キャロルやフィーネ、ウェル博士といった暗躍した者達の計画の行き当たりばったりさを笑えはしない。

 もし神を私が倒せなかった時もそう、せめてもう一振りの力が欲しい。

 

 こうして神殺しと成れる力を探し始める、アダム側と風鳴機関にそれぞれ別でバルベルデから回収したドキュメントを解読して貰いながらもそれとなくS.O.N.G.にも神殺しの話題を振っておく。

 

「アダム、もし私が暴走した場合のリカバリー案はあるのですか」

「ティキに頼むさ、その時は。起きないとは思うけれどね僕としてはそんなこと」

「アンタなんかいなくてもアタシが神様やっつけちゃうもん!」

「ハハハ……危険なんだよティキ、神の力は相応の代償を背負いかねない。壊れたら悲しいさ」

「アダム~!」

 

 クソ~目の前でイチャつきやがって、まあアダムはそこそこ愛着はあるけれどって感じの一方通行なんですけれど、ちょっと哀れになって来たな……完全な存在だから愛する事を必要としないが故のアレっすね……。

 

 神の力でノブレ3人と一緒にちょっとイジッてやろうかな……。

 

「して、もう一つ……神殺しなんてどうでしょう。最悪私だけで倒せなかった時の策も練っておくべきであるとは思いますよ」

「……止すべきだと僕は言っておく。それは積層された呪いの果て、2000年前に神の子を貫いて返り血を浴びた男は死ぬ事すら許されず彷徨ったという逸話がある程に。それに使い手が君であればなおのこと……牙を剥くぞ、神殺しは容赦なく……そうか、ならば……」

「何がならば、なんです」

「神殺しは既にある、ガングニールは……かつて神の子を処刑する為に使われた槍の穂先だ、神に通用するだけの格を持った聖遺物としてね。だから気を付けなければならなかったな、立花響に」

 

 なんですと?理屈はわかります、確かにあの神の子に効くレベルの武器となればやはり神の武器となる、しかしそれが回りまわってよりにもよって立花さんに……?

 

「同じ日に生まれたんだったね、君と彼女は。ならば越したことはない、警戒する事は……」

 

 神妙な表情となったアダム、そこには計画の破綻への気づきともう一つ……別の考えがある。

 

「天使って、私以前にはどれくらい居たんですか」

「それこそ歴史の転換点には何度か現れたぐらいさ、もっとも本人が自覚してなかった場合もあったよ、人間と判別が困難だからね」

「……未来視が出来て布石を打った者がいるとは?」

「ありえ……なくはない、が僕どころか創造主ですら見えない未来だぞ。とても打って当たる布石ではない」

 

 そりゃそうですよね……世界とは限りない選択の交差の果てに今に至る、悪行・善行、悲劇と救済の果てにここまで来た。一手違うだけで今ここに私やアダムが居るとは限らず、敵同士であった可能性だってある。

 

「全てを見通せても、無理だよ……こうなるなんて予測するのは」

「ですよね、さすがに想像力を飛躍させすぎました。しかし……運命というのはあるのかもしれませんね、同じく神へと立ち向かう者として私と立花さんが同時に存在するとは……もし仮に私が倒れても託せる相手がいるというのは気が楽なものです」

「だとしても背負わせるのかい?君は友に」

「ならない様にしたいですね……」

 

 確かに神殺しなんて業を友に背負わせるほど私も鬼じゃない。

 とてもですが、立花さんにプレッシャーを与えるのも良くないのですから黙っているが吉でしょう。

 

「しかし、もう一つ……可能であればキャロルもこの戦いに巻き込みたい所ですね。煽ってやれば乗ってこないでしょうか」

「無茶だろう、君がああも手酷くやったのだから……そうでなければ乗って来たかもしれないけれどね」

「まあ……わかっていましたが逆に私達の邪魔をしてくる方が可能性としては高い……どうにかしたいものですね」

 

 大きいライブは後一回、小さめのならば5回。

 どこかで仕掛けてこないか不安はある、それこそ自棄になって八つ当たりされたらマジに困ると何度も考える程に……。

 

 さておき……今日の所はアダムから有用な情報をこれ以上は引き出せ無さそうだと帰るそぶりを見せた時、ふと引き留められる。

 

「未練を残しておかないようにね。成功にしても失敗にしても君が君でなくなってしまう危険性は付きまとう、それだけさ」

 

 

 ……はあ、今更です。

 普通に生きる事はもう諦めたのです、ファナティクスとして名が売れた時点で、装者として世界に身を晒した時に、それは叶わぬ夢になった。

 未練、未練など……もうありはしない。

 

 使命を果たす、役目を果たさなければ私は前に進めない。

 何度でも言うんです、背負った以上はもう逃げる事はできない。

 

 

 

「それでさーウチらは休暇欲しいんだぜ、クラスメイト達と遊びに行くのにさー」

「随分と学校に馴染んでるようですね、既に決まってるライブの予定以外ならいくらでも構いませんよ。これまで随分と頑張っていただきましたから」

「本当でありますか!それは嬉しいであります!」

「ただちゃんと日付は確認しておいてくださいよ、迎えに行くのもタダじゃないんですから」

「よっしゃ!ヴァネッサもついてこないか?」

「ミラアルクちゃんとエルザちゃんだけで楽しんできなさい、私にもやる事が出来たのだから」

 

 ノーブルレッドのうちエルザとミラアルクはリディアンに通う様になって変わった、間違いなく明るくはなっている。また人間らしい生活を取り戻せた、という実感があるのでしょう。

 ヴァネッサは年長故に落ち着いているのもあるが、三人で居る時間が少しばかり減った事に少しへこんでいるようです、自分が言い出した事であっても……やっぱり寂しいものでしょう。

 

 しかし前に比べれば3人とも私に多少は心を開いてくれる様になった。

 相変わらず過酷なパフォーマンスを強いているけれどそれも終わりが見えて来た。

 

「感謝……しているわ凛音『リーダー』、あなたのおかげで二人は少しでも失ったモノを取り戻せた」

「賢者の石の運用データが集まって行けば肉体の再生も、パナケイア流体なんかの除去も安易になっていきます。あなたも取り戻すんですよ、普通の人生を」

「私は元から結社の生まれよ、今更普通の人生なんて」

「私よりは簡単に取り戻せる立場なんですから……諦めて貰ったら困ります」

 

 私だって本気で諦めている訳ではない、けれど……けれど実行が近づくにつれて不安にならない訳が無い。

 無数の不確定要素と確実性のない未来に迷わない人間なんていない。

 

 背負った荷物こそが私を前に進ませてくれる、皆の、皆の生きる未来こそが全てなんです。

 私に意味を与えてくれた人達の明日……名も知らない誰かの希望。

 

 苦しくてもここまで来たのですから……中途半端に終わらせる訳には行かない。

 心配をさせてはいけないとそれを呑み込み、スケジュールを告げる。

 

 

 そして時は過ぎ、最後で最大のライブは何事もなく終わった。

 2日間、10曲の『審判の日』は過ぎ去ったのです。

 

 キャロルは結局何の手も出してこず、私はいつも通り……狂った熱に浮かされた観客を煽動し、信仰を高めた。

 もはや私自身の能力は頭打ち、これ以上どうにもならない。

 

 後は最後の仕上げとして、儀式の為の清めと刻印を行うだけ。

 レイラインに沿って天と地の門が重なる様に錬金術で私と座標のすり合わせを施し。

 

 集められたフォニックゲインを流し込む事で儀式の為のエネルギーラインを構築。

 それが8月の最後の日の話、後は時が来るのを待つだけでした。




次回、最終章突入
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。