神の目覚める日
『ファナティクス』
熱狂の生み出した信仰は、十分な力を生み出した。
神の器として完成した少女は今宵、神へと至る。
もう後戻りはできない。
秘密裏に行われる儀式であったが、人の動きまでは完全に隠しきる事はできない。
不穏な気配を感じ取ったS.O.N.G.は独自に行動、時を同じくしてキャロルもまたこの儀式を邪魔すべく動き出した。
意図せぬ遭遇戦、第三ラウンドが始まったと同時に儀式が始まる。
膨大な力を体に流し込まれれば当然ながら正常ではいられない、苦しみの中で背負った責任だけを支えとして。
加賀美凛音はその身に神の力を宿した。
「成功だ、神の力をついにこの世界に降ろす事が出来た!」
アダムは歓喜を顔に浮かべる、不満げであるティキであったがその膨大な力に自分が器であれば爆ぜていたかもしれないなと思うと貧乏くじを引いた少女に感謝をしていた。
「さあ、降りてくるんだ。加賀美凛音」
だが、イレギュラーはさらなるイレギュラーを呼ぶ。
アダムの知る所ではなかった、天使を、アヌンナキの眷属を作り出した者が誰なのか。
「降りる?何をバカげた事をほざく……頭が高いぞ、失敗作。我が名は加賀美凛音にあらず、唯一仰ぎ見る我が名はシェム・ハ」
皮肉な事だ、最初から計画は破綻していたのだ。
あの日、フロンティア事変で人の意思が一つとなった時……断片が一つとなり加賀美凛音の内に既にシェム・ハは再生していた。当然ながらその状態では何の力もなく、凛音の意思一つでねじ伏せれる存在にしか過ぎなかった。
故に表層に現れる事はなかった、期を見て心が弱った時にこそ乗っ取るつもりであった。
だが愚かにも……何も知らぬ者達は次々と器へと力を流し込んでいく、少女の心は試練と重責に耐え切れずに摩耗していく、加えて物理的なダメージによって作り変えられていく中でそこにシェム・ハとしての存在を浸透させていく。
大衆の信仰もまた悪手であった、本物の神が信仰を受ければどんどんと回復するのは当然の結果だ。
何もかもがシェム・ハの味方をした。こうも都合がいいとアダムが自らの復活を願ってるのではないか?と疑う程だった。
しかし対抗策を何重にも練ってるのを見てやはり恐れていると再認識した。
そして天使の正体について触れておこう、これは人間を管理しやすくする為の「指揮端末」として作られた存在だった、生体ネットワークシステムであったとしても、やはり何かしらの妨害でネットワークが切断された際の保険として作られたシェム・ハのリスク分担計画。
当然、それは歴史上何度も機能した。ジャンヌダルクしかり、優秀な指導者、人の心を動かす力となった。
フィーネもまた「巫女」としてアヌンナキの意思に沿って人を導く役目を持っていたが、肝心の彼女にとっての神……エンキが斃れた事で機能しなくなってしまっていた。
同じ役目を持つ存在、友人として最初から設計されていたのだ。
天使とフィーネは。
「どうした?畏れのあまり動けんか?ならば我が直々にお前を操作してやってもいいのだぞ?それぐらいの感謝の気持ちはある」
「許されていいのか……こんな、こんなことが」
「我を倒すつもりが、我を蘇らせる手伝いをしていた。あまりにも哀れすぎて今すぐ慈悲をくれてやりたくなるな!アッハハハハ」
あまりもの衝撃に力無く膝をつくアダム、それを介抱をするティキ。
そこにサンジェルマン達が異常を察知してやってきた。
同時に巨大な力の顕現に気付いてそれを見に来たキャロルとそれを追って来た響達。
3つの勢力が神と対峙する。
「ほう、勢ぞろいか。一々挨拶するのも面倒だ。皆の者よ、よく聞くがいい。我が名はシェム・ハ。お前達人類を作り出した神であるぞ」
凄まじい重圧と威光が周囲を支配する、既に心の折れたアダムが膝をついてるのを見て察しの良い者達はそれだけで気が付いた。
儀式は失敗だったと、そしてそこにいるのは加賀美凛音ではないことを。
「嘘、だよね。凛音ちゃん?」
それでも、それでも認めたくなかった。響が問いかける。
「嘘ではない、立花響。奴は既に取り込まれた、神とやらにな」
何度と打ち合ったからわかる、キャロルは即座にその次元の違う存在をどう「殺す」か考える。
オートスコアラー達は今日の所、連れてきていない……というのも計画の再開にもオーバーホールが必要だと判断したからだ、それは正解だった。自分だけなら最悪身を守る事ができるが、瞬く間に全滅しかねない。
「さすがは素晴らしき錬金術師、お前のおかげでもあるぞ?この器の心を削り続けてくれたおかげで乗っ取りやすくなった」
「くだらん、俺の手で殺してやりたかったというものを」
キャロルに戦意は満ちている、だが装者達は未だ戸惑ったまま、一方でサンジェルマン達は悔やんでいた。
自分達の願いが、望みが一人の少女を犠牲にして、無駄となった事を悟ったからだ。
だがチャンスでもある、この場でシェム・ハを討ち果たせばバラルの呪詛を解く事だけに集中できる。
結局夢を見ていただけなのだ、これまで積み重ねて来た屍の山、誰かを犠牲にする事でしか未来を描けないのだと思い知らされた。
覚悟を決める。
「キャロル・マールス・ディーンハイム、一時休戦だ。我々の目的は支配を打ち砕く事にある」
「ほう、まともな判断ができるようだな、サンジェルマン。……それでお前達はどうする、立花響」
響には何が何だかわからなかった、突然に友人が神に乗っ取られたといってついていけるほど彼女は胡乱でもない。おまけにそれを決める権限を持っているわけでもない。
「立花響……!そうだ鍵だ!君が!穿て!君の友人を救うならばその拳しかない!ガングニールは!」
装者の到着に気付いたアダムが叫ぶ、事実それは最善の手段だった。
確かに凛音を救う事は出来るだろう、神を殺すという目的は果たせるのだから。
しかし命を救う事はできない。それを隠してアダムは響に告げる。
マズいと思いシェム・ハは即座にアダムに向けてエネルギーの刃を振るい、横薙ぎに両断する。
カストディアンの技術で作られた機械の体が瞬く間にバラバラに分解されていく、だがヒトデナシ故に持ちこたえる事が出来た。
「ガングニールは神殺しだ!君が最後の希望だ!!」
「アダム!逃げるよ!!!」
ティキが切り離されたアダムの上半身を抱えて即座にテレポートジェムを割って逃げ出す、シェム・ハは後で必ず殺すリストにアダムを加えながら響に向き直る。
「厄介な事を……失敗作めが」
「キャロルちゃん……私、戦うよ」
「イグナイトの呪いを上乗せすればよく効くだろう」
叶ったとして凛音の命が失われる事をキャロルもまた隠した、そんな事を言えば手心を加えようとして失敗するのがオチだ。
「神と言えど、それは許されない!私の、私達の友を返してもらう!」
「ほう、お前が風鳴翼……翼さん……私……ああ、この無礼者、今は我が喋っているのだから大人しくしろ、ええい」
その執着がほんの一瞬、シェム・ハさえも押し退けて表に出かける。
加賀美凛音にとって、それだけの存在なのだ。
「完全に意識は失われていないってことね……!」
「ならば助けられるってコトデス!?」
それはかすかな希望、ならばただでさえ諦めの悪いシンフォギア装者達を奮い立たせるには十分だった。
「凛音さん、今度は私達があなたを助ける!」
「神だかなんだか知らねえが乗っ取られてんじゃねえ!」
「加賀美さん!戻ってきたら翼さんが抱きしめてくれますよ!」
少なくとも、誰もがここから逃げる理由はなくなった。
奇妙な共闘関係が今ここに構築されたのだ。
先陣を切ったのはキャロルだった、特に加賀美凛音を生かしておく理由のない彼女は出し惜しみもなくダウルダブラを纏い、アルカノイズをも容赦なく放出。
どの道、計画の障害となる事を理解しているのだから今出せるだけの手札でシェム・ハを排除しにかかる。それに対しての対応は一手だった。
「ほう、思い切りがいいのは嫌いではない。だが……我をその程度でどうにかできるという思い上がりは好かん」
たった一手、聖詠を奏でた。
イカロスのギアを纏うその一瞬のバリアフィールドの放出だけで全てのアルカノイズが吹き飛び、キャロルもまた衝撃に呑まれて大地に叩きつけられる。
「何だと……!?」
「何をしたかだと?歌っただけであるぞ」
神であるのだから当然という如く、最初からエクスドライブ状態で現れたイカロス。
「随分と神聖さだけは立派だが!それは加賀美凛音のモノだ!返してもらおう!」
「はっ錬金術師とあろうものが軽くあしらわれて無様なワケだ!」
「あーしもあなたよりも頑張っていたあの子の歌の方が好きなの!」
して、次鋒はサンジェルマン達だった。スペルキャスターと錬金術でそれぞれが攻撃を放つ、それを回避する事もなく全てを受ける、受けきる。
「それだけか?それだけで我が支配からの脱却などと……たわけた事をほざけたものだ!」
白翼が羽ばたく、それだけで天変地異の様な嵐が起きる、それは攻撃用のフェザービットが無数に含まれた致死性の大災害。あらゆる攻撃を無力とし、回避を選択させる、しかし全てを避け切る事など不可能。
「があああっ!!」
瞬く間にサンジェルマン達をズタボロにして吹き飛ばして地に伏せさせる。
かろうじて死は免れたがたったの一撃で賢者の石のファウストローブすらも容易く打ち砕かれて、希望を打ち砕かれる。
その一瞬にキャロルは自分達が思い違いをしていた事に気付き、戦術を変更。
分解ではなく錬成、この土壇場だが黄金錬成でなければ火力が足りないと即座に判断し、視線を装者達に映す。
「見ての通りだ!!生半可な力では蹴散らされる!貴様ら歌女どもは都合よく7人揃っている!7つの音階で調和を作れ!こちらも手は尽くす!」
力を合わせろ、心を合わせろ、そう受け取った装者達は歌を奏でる。
その中で月読調は内に何かを感じ取る、それが何なのか分からない……しかし確かに有効なひらめきであった。
「私が……私が調律するから、皆はそれぞれの動きをして!」
「月読!どういうことだ!」
「胸の歌を信じて、みんなのそれぞれのやりたいことを!」
何故、理由はわからない。けれど内側から溢れてくる力がギアの形状を変える。
瞬間脳裏に浮かんだのは知らない誰かと笑い合う誰かの記憶、誰かの思い出の歌。
「調、信じるデスよ!」
「そうね、前もしたことなのだから!」
マリアと切歌には調の突然の発言に心当たりがった、フィーネだ。
調の中にこそフィーネの魂が宿っていた、けれど何故か。何故かあの女は調を塗りつぶすような事をせず、我々に力を貸すという。
「皆!いくよ!」
「七つの音階による位相差障壁の調律!だが所詮は……!」
マリアのアガートラームの斬撃が飛ぶ、イカロスのプロテクターの一部が割れる。
「チッ……エンキの腕か!よりにもよってこんなめぐり合わせなど!」
「友を、恩人を返してもらいましょうか!!」
「返すも何ももとより我が物!」
「そんなことはないデス!」
次に飛んできたのはイガリマの裁断、羽根を引き裂き先程の攻撃を出させまいと加えて鎖が巻き付く。
「お前にはあのロックンロールは流れてねえよ!!」
そこにクリスのイチイバルによる集中砲火、それが止んだと思えば。
「あなたみたいな悪い奴を、私は神様だって思わない!」
神獣鏡によるホーミングレーザーの集中砲火、特にこれが効いた。
未来の認識がシェム・ハを神と認めない事、本来あるべき加賀美凛音を取り戻そうとする力が。
「なるほど、お前達の力は理解した。しかして、なおのこと!!」
受けたダメージが瞬く間に再生する、これこそ神の力の真髄。
超常の力が、埒外の摂理が何もかもを無へと回帰させる。
「引くわけにはいかない、この器の望みの通りにな!」