「わかりやすく、端的に説明しましょう。今、バラルの呪詛が無くなったとして……言葉を尽くさねば私達は分かり合う事はできない」
数千年という時間は人の心を、考え方を個として分断するには十分な時間だった。
もはやバラルの呪詛が失われても完全に恨みも因縁も消える事なんてない、それでいい。
「私は翼さんと歌いたいんです、それこそ本気の本気で……何もかもを出し尽くして……翼さんに勝ちたい」
「それならば……!簡単な話だ!いますぐ事態を終わらせて……」
「全てです、どちらかが死ぬ。ステージの上に最後まで立っていた者が勝者となるまで」
「馬鹿な事いわないでくれ!!歌で人が死ぬなんて正気じゃない!操られているんだと言ってくれ凛音!」
やはり……私の本心は、伝わらない。
『だから、我こそが……』
『黙っていてください』
「翼さん……これが私の本当にやりたい事なんです、ただ一つの願いなんです!!もしそれが叶えられないというのなら……私がこの世界を滅ぼすとします」
決してブラフでもなんでもない、それをやり遂げれる力は今の私にはある。
「凛音ちゃんの言ってる事全然わかんないよ!どうして!どうしてそんなことを望むの!凛音ちゃんは翼さんの事が!みんなの事が好きだって!」
「好きだからこそ!この手で殺したい!全てを手に入れたい!永遠にしたい!わかりませんか!」
「全然!何も!!おかしいよ!!」
「加賀美さん!愛してるから、愛してるならそれは抑えなきゃいけない気持ちだよ!!」
立花さんは、わかってくれなかったけれど……小日向さんはほんの少し理解してくれた様です。
「ええ、でしょうね!!許される事ではない!でも私の心に点いた火はもう止まらない!!全てを焼き尽くすか、私自身が燃え尽きないとこの恋心は!!」
恋焦がれる、ああ今こそこの言葉がふさわしい!!
大地を引き裂き、錬成するのは私達のステージ。
ライブカメラを作り出して、ネットワークをハッキング。
フロンティア事変の再現ですが……思いのほか簡単に行った。
「加賀美凛音……狂ったか」
「はじめから、ですよ。サンジェルマンさん……当然ながら挑む権利は等しくあります。ですが、舞台に立つなら命を懸けて貰いましょう」
さすがにあれだけ時間が経てばキャロル以外はもう回復しているというもの。なんなら私が癒してやってもいいですが……もう待ちきれない!
その時だった、S.O.N.G.のヘリコプターがやってきた。
乗っているのはウェル博士ですか!
「こんな!こんなことが……許されていいんですか」
どうやらマリアさん達にLinkerを届けに急いで来たという様子ですが、震えていますね……気持ちはわかりますよ。だってこんな舞台に……。
「世界の命運を歌できめるなんて!!こんな楽しそうな事に参加できないなんて!あまりにもひどすぎるっ!!」
「そっちかよ!!!とっととLinker置いて帰れ!」
クリスさんから罵声が飛ぶけれど、ウェル博士……わかるよ!ステージに立てないのはあんまりだよね、そればかりはごめんね。
「マリアさん、前に翼さんのライブをぶっ潰したの……まだ根に持ってますから。もし申し訳なさを感じてくれているなら、全力で歌ってくださいね」
「ええ、あなたを止めて見せるわ」
今のところ参加者はマリアさんとサンジェルマンさん御一行、そして強制参加の翼さんに……ようやく立花さんも覚悟を決めた様です、なら小日向さんもですね。
「わかったよ……凛音ちゃん」
「わかってくれましたか、立花さん……いえ響ちゃん」
「あなたがどうしようもないバカだって事が!だから歌でぶん殴ってでも止める!世界は壊させないし!凛音ちゃんに誰も殺させはしない!」
決戦の火蓋が切って落とされる、仕掛けて来たのは響ちゃん……ガングニールは神殺し、ならばこそ……ならばこそ私を最も殺しうる脅威であるが故に!
真正面から同じ様にナックル型のアームドギアを形成、打ち合う!
「うわッ!」
響ちゃんは勢いで押し負けて後ろに吹き飛ばされる、ですが打ち合った拳がズタズタに破壊された……なるほどこれが神殺しの威力、再生能力も働かない、ならば再錬成で作り変えればいい。
しかしその隙にマリアさんが蛇腹剣で私を囲っていた、随分とテクニカルですがそれだけです。
「圧倒的な力に小細工は通用しませんよ!」
逆に刃を掴んで引き寄せて、ぶん殴る……が空振り、なるほど手放したという訳で……。
本命は短刀!
「くっ!やはりそもそものスペックが桁違い……!」
私の腕に突き立てられたそれは傷一つ付ける事無く砕ける、当然でしょう。神なのですから!
ですが、私に間違いなく通ってはいるんですよ?七つの音階……調ちゃんの内に宿るフィーネが手助けしてるんでしょう。本来なら立花さんの腕の方が粉々になってる筈ですもの。
「退きな!」
放たれる一本の矢、先端には爆薬。へぇ、クリスは銃以外も使う様になったんですね!
それを掴み取って防御、爆発するよりも早く錬成して分解しーー…爆発!?
「なるほどサンジェルマンさん……」
スペルキャスターで爆薬部分を撃ち抜いたという事ですか、おかげで顔の半分が焦げ焦げになってしまいました。これは神殺しじゃないからすぐに元に戻るんですが……!
「私はお前を友と、仲間と思っていた!だから友が道を違えるというのならばそれを止めるのが私の使命だ!」
「ありがたい事です……まだ私を友と呼んでくれるとは……ですが手加減はしませんよ!」
私はギターアックスを構え、エネルギーを流し込む。
苦しめるのは嫌ですからね……確実に徹底的に破壊してあげましょう!
「そうはさせない!」
「ワケだ!」
ここで調ちゃんとプレラーティさん!?なるほど、前衛向きではない二人が即席でインターセプトしてくるとは!大した判断力です!おかげで少々揺さぶられましたが!
「まずはあなたから、消し飛ばして!」
振りかぶったギター、狙いはサンジェルマンさん……あなたが今一番愛おしく、恐ろしく邪魔なんです!
振り下ろそうとした時ガチりと何かが引っかかりギターの勢いが死に、技が不発と止まる。
「あーしも小細工ならば得意なの」
「技の勝ちです!」
あー!調ちゃんとプレラーティさんが仕掛けて来た時に何か仕組んでたのですか!柄に絡まった鎖を辿ってみればカリオストロさんと切歌ちゃんが引っ張っていた。
って熱ッあちちっ!!この光は!
「加賀美さん!私だって怒ってるんです!!好き勝手やって!一人で突っ走って!響みたいに!」
小日向さんは随分と仕上がってますね!せっかく貯めた呪いがどんどん祓われていく、さすがに1対10は次々と連携が飛んできてキツい!攻略しがいがある!!
して愛しの翼さんは何をしてくれるのかな!
……へぇ?
「剣を捨てるんですか、あなたの心であった剣を」
「私は……私はお前を斬りたくはない!だから、だから歌うんだ!マイクさえも必要はない!」
なるほどなるほど、そういう事を……するんですね。
なんてひどい人なんでしょうか!私がこんなにも!こんなにもアピールしてあげてるのに!!
「ならば私にだって考えはあります!!」
イカロスを燃やし、ステージを火の海とした上でライブカメラを手前に持ち出す。
『ああ!空を見上げてお気づきの方も既に居ると思います!今宵、バラルの呪詛から人は解き放たれた!』
私の得意なマイクパフォーマンス、演技めいたこの物言いこそ楽しいかな!
『しかして!私、加賀美凛音はある悩みを抱えています!それは恋焦がれているのです!何もかもを焼き尽くすか、己自身が燃え尽きるか!それでしか収める事の出来ない程に風鳴翼という歌手を愛してしまった!なんと身勝手な愛でしょう!して……皆さまには見届けて貰わなければなりません!』
あなたが歌で私に太刀打ちするというならば、いいでしょう。
なまっちょろい手加減も!後ずさりもできないように逃げ場を封じる!
『ルールは単純、私が勝てば世界は滅びる、翼さんが勝てば皆さまは生き残る事が出来る。当然逃げようものならその瞬間、世界を壊しにかからせていただきます。もちろん翼さんが死んでも、です』
これが、ファナティクスのラストライブ。
人類の未来を懸けた、最後の審判の日。
『では始めましょう、熱狂に浮かれて倒れるのは誰か!』
私の炎が形を変える、それは神の力によって作られた眷属達、炎の悪魔合奏団!
こいつらはただの賑やかしではありません、楽器の演奏もできれば人を殺す事も容易い!
潰しにかかるのは翼さん、もちろん容赦は一切ありませんから。
「てめぇ!!マジに狂ったか!!」
イチイバルの弾幕で制圧しようとするが甘い、その程度で止まる悪魔じゃあありません、響ちゃんのパンチでようやく爆散、まあ神の力の一部ですから神殺しはよく効きますが……他の皆さんじゃあ苦労しますよ?
「最初から狂ってると言ってるじゃないですか!さあもう舞台は始まっているのです!いつまでもウダウダと……よっぽど滅びたいと見える!!」
呪われた旋律が奏でられ、闇のビートが世界を震わせる。
それに合わせて合奏団が演奏を始める。
【破滅へのプレリュード】
私の演奏全てが終わる時、それは世界の崩壊を意味する。
文字通り世界を終わらせる最後の歌が始まる。
あまりもの悍ましい私の歌声に皆が苦しみ始める、賢者の石で守られたサンジェルマンさん達と響ちゃんには効果が薄いが関係ありません。止めたいのならば!ご自由に!
「託された歌がある、叶えたい夢がある、だから止まれないんだ!」
ようやく、ようやくです!響ちゃんが強い意思で歌い出す、それによって私の邪悪の旋律が押し返され始める。
私に向かって駆けだす、直球でぶん殴りに来たのでしょう!でもそれは通さない!無数の悪魔がその足を引っ張り勢いを殺していくが、光が降り注ぎ浄化される。
「ひだまり、太陽、私はずっと守られていたけれど!守られるだけではいたくない!」
つられて小日向さんがそれに合わせて歌う、やはり神獣鏡は……いえ愛の力は素晴らしい!響ちゃんが行くべき道を照らす……ああ、私にもあなたみたいな理解者が欲しかった!
「ずっと正義とはなんだと、貫き通すべきは何かと苦しんできた!だけど大事なものはずっとそばにあった!」
小日向さんを守るようにマリアさんが立ち回る、アガートラームの輝きもまた美しい!セレナさん、私の知らない彼女の輝きもまた見て見たかった!
そして響さんの拳が私へと打ち込まれるが、それは「加賀美凛音」にて受ける。
「!?」
「神なんてなまっちょろいものと思わないで貰いたい!私こそは加賀美凛音!」
「だとしたら!」
2000年の呪いだって大した事はありません、二撃目の拳、バカな事をしてる友を止める為の一撃。
「ぐふっ!?」
効きますね!こっちの方が!でもそれだけです!ギターブレードで反撃、キャロルですら無事でいられなかったこの一撃をどうする!?
「ここまで走って来た事、後悔だらけの過去を!無駄にはしたくはないと輝いて!」
「錬成して、錬成して、何度も高めて!」
「明日の自由の牙へと変えた!」
サンジェルマンさんにエネルギーを一転集中、ラピスのエネルギー弾をギターへと当ててくる!これでは呪いが浄化されて威力が出ない!よく考えられてます!皆、私へのメタをわかってるじゃないですか!
そして天が裂けた、ステージの上に現れたのは巨大機構。
あれはキャロルの記憶にあった……チフォージュ・シャトー!?
『よくもオレをここまでコケにしてくれた!!もうなんだっていい!お前の邪魔をしてやる!』
あはは!やっとらしくなってきた!この滅茶苦茶なカオスこそ!!
私の望んでいた展開なんです!