模擬戦、と言っているけれど翼さんの暴走は明白。
翼さんの心の内全てを知っているなんて事はいえない、けれど止めるべきは私だ。
今、立花さん相手に向いてる剣をこちらに向けさせる!
「随分と楽しそうですね!私も混ぜてくださいよ!」
完全に威力を落とすとさすがに気を引く事すら出来ない、両手の機関銃で翼さんを牽制。
「加賀美!あなた一体何を!」
「それはこちらのセリフです!翼さんとあろうものが!後輩いびりなんて!」
「なっ!それは……!」
「うらやましすぎる!私も翼さんにいじめられたい!」
「ええっ!?」
「狂ったか!加賀美!?」
狂人の真似をすれば実際狂人、しかし人とは自分より様子のおかしい奴が居れば冷静になるというものです。
完全に場の空気を終わらせて残ったのはドン引きする翼さんと顔を赤らめる立花さん……フッさらばだ私の青春……。
もう戦いだなんて空気じゃない、司令が駆けつけて来た。
モウドウニデモナーレ!
私達は本部に戻り事情聴取となった、被害者である立花さんは一足先に帰った。
「本来ならば……俺達がもっと気にかけてやるべきだった」
「そうですよ、メンタルケアなんて専門外なんですよ!でなんですかアレは」
「……こうなった経緯について、まず翼……いや風鳴について話す必要があるな」
司令から聞いたのは風鳴家は遥か昔から国を守る為に戦う一族であった事をはじめとした因縁。
翼さんは「剣」である事に「防人」である事に縛られているのだと。
「……守るべき相手である立花さんが、よりにもよってガングニールで同じ場所に立とうとして、それは本当なら奏さんが居た場所だって……心がどうしても拒絶してしまってるんですね?」
「おそらく、な……今どうにかしようとすると逆に強い意志が邪魔してしまう」
「難儀な事です……それで」
「そして加賀美くん、君もだ」
「私ィ?」
「とてもだが君も平気そうには見えん」
まあそうですね、翼さんが仲間に武器を向けた、ちょっとキツい気持ちはありますよ。
何よりもですが……向こうも私との距離の測り方に悩んでいるのも感じてます。
私もなんですがね。
「いやー……調子にのって近づきすぎた、そのツケですかね……私もまあその、まともじゃないので。それで司令……さすがにこのギスギスした空気のままってのもいかんですよ何かいい案無いんですか?」
「これからしばらくは翼も収録やレッスンが控えている……加えて俺達もお上に報告しなければならない事が多い、政治的には嫌われてるんでな……取り潰しにならないように立ち回る必要がある」
「ダメじゃないですか~!結局時間が解決してくれるのを待つって事ですか!」
「耳が痛い。俺も元は現場で動く立場だったんだが……司令という椅子に縛り付けれる人材もそうそう居なくてな。正直な所、俺も向いてないんじゃないかって不安になることもある」
世知辛い!世知辛すぎんだろこの組織!
「だが一つだけ俺からアドバイス出来る事はある」
「なんですか!」
「困ったら飯食って映画見て寝る、心を整える基本戦術だ」
大丈夫かよこの職場~~!!
『うげ~~~バイト先がダメ職場だったよ~同級生がいるから簡単にやめられないよ~』
・ご愁傷様
・おりんバイトする必要ある?
・ばっくれようぜ!
『先輩の紹介だから顔に泥塗る事になるし何より近所だから気まずい!新人が無自覚な先輩の地雷を踏む!店長がどっちかというと現場で働く寄りだから政治イマイチ!』
・あるある、トップに座れる奴いなくて消去法で座る奴!
・職場政治ってなんだよ
・ムフフ……人間3人いれば政治が始まるの
『最近もう現実逃避に飯食って映画見て寝てるけれどなんか安定しないよ~』
・何見てるの
・恋愛映画とか見て心を学べ
・推理モノ好きそう
『主にSFモノよく見てますね、あとはサイバーパンクとか……古い映画だから案外既に実現してる技術があったりとか面白いですよ』
・義肢義足は大分進歩したね…
・サイボーグ技術も多少は公開されてるけれどもっとヤバいのありそう
・携帯端末の進化はすごいぞ
あれから1ヵ月が経とうとしている、翼さんは仕事仕事仕事で気を紛らわせ、立花さんは上の空、私はそんな二人をウォッチして緒川さんや司令と情報共有、スパイ活動中!
いや空気が終わってる!なんで私がこんな仕事を……?何故?
立花さんがあんまりに上の空で隣の小日向さんも心配しっぱなし、耳を澄ませてみれば今度の流星を見たいとの事。これも一応予定として報告しておくか……とメモ。
「おりーん最近付き合い悪いじゃーん!」
「役所の手続きがね……」
「ごめん、マジごめん」
「後見人の人とのやり取りもありますから」
「どういう人なのさ、その後見人さん」
「ちょっとエリートな人らしいです、ほらやっぱどうしても世の中には身内が居ない子供が出る訳でそれ対策の政策とかやっててそこの人だとか……」
「でも家族というか病院の先生みたいな感じですわね」
「私としては距離が程々なのでありがたいんですけどね」
ちゃんとリディアンでの生活もこなせてる、筈。マジ本部が地下にあるし寮もあるしで学院から出ずに大体の事が済む!データ取りの仕事もしっかりやってるけれど……そういや立花さんとスケジュール被る事は少ない気がするなぁ。
「でどう見るよ?ビッキーのあの調子……何か隠し事がありそうだけど」
「実家関係だったらどうします」
「ごめん、マジそれ無敵の返しで申し訳なくなる」
板場さん……あまり秘密を詮索すると大変な事になりますよ……。
ある日お前は知り過ぎたと政府の人が来るかもしれませんから……。
そんなこんなでぎこちなくも平穏な日々が続くと、私はそう思っていたのです。
本部の休憩スペースで私は翼さんと二人、お茶をしていた。
「立花は、戦う事を甘く見ている」
「それは私も思いますね」
「あなたもだ加賀美」
「私もですか、まあそうですよね。シンフォギアという鎧があって、ノイズに簡単には殺されないし反撃だって出来る。けれどそれと戦う覚悟はまた別ですよね」
「骨を折られ、血を吐き、倒れる事だってある。それにも私達が倒れれば誰がノイズと戦う?剣を携えられるのは私達だけだというのに。一歩でも後ずされば、一歩でも遅れれば何人死ぬ?」
……そうですね、確かにノイズが現れるのが人の居ない場所だったなら。出て来た量が少ないならば、誰も犠牲にならずに済むかもしれませんが……現実は非情です、毎度毎度現れる度に多くの犠牲を出すのが災害なのです。
「泣いている子供がいた。その子の家族は炭素となって消えた、もう戻って来る事はない。もし私が、私達がもっと早くその場に駆け付けられればその子は泣かずに済んだのにと何度も思った」
「仕方ないで、片付けられないから。戦えるんですね、翼さんは」
「誰かが泣かないで済む様に戦う事こそが防人よ」
強い信念です、ですが。
「その優しさを立花さんに5%ぐらい向けて上げられません?」
「地獄を見せる優しさもあるわ」
「そんなスパルタ教師みたいな事をいわないでください。それにです」
翼さんと二人きりで話す機会、その時の為に緒川さんや司令、そして櫻井先生に話を聞いてきた。
「この2年間、ただ一人でノイズと戦って来た訳ではないでしょう。確かにシンフォギアを纏えるのは翼さんだけでした、けれどバックアップをしてくれてる二課の皆さんの力あってこそのもの。全部背負わなくていいんですよ、周囲にもっと頼ってみてはどうです。信用できる人にだけでも」
「今の私が独りよがりなのは……私が弱いのは……わかっているわ。でも、それでも」
重症ですね!しっかしカウンセラーぐらい居ないんですかこの組織!なんで私が!
いや待てよ、今なら。
「翼さんは頑張ってます」
合法的に翼さんを慰めるという形で!翼さんを抱擁可能!!!!
すげーいい匂いがする!気づいた私マジ天才だろ!!!
「周りから見た翼さんは本当にすごいんです、歌手として皆の心を光で照らして、学生としては皆の見本になって、それでいてノイズとも戦うなんて……容易い事じゃないんです」
「加賀美……」
「だからたまには心を休めたほうがいいんです」
「加賀美、鼻血が垂れてる」
「あ、ヤベ……すみません、中々その思想が漏れました」
「考えすぎて鼻血出る人間は初めて見た」
ヤバイヤバイ、興奮で鼻血出たってバレたらキモがられてしまう!
しかしいい匂いで暖かったな翼さん……。
鼻血を気合で止血、垂れた分をハンカチで拭き取りお話再開。
「……けれど加賀美が、私の為に色々としてくれたのは……嬉しかった。ありがとう」
「いえ、私は……まあどういたしまして。とにかく思い詰めない様にと」
「それは緒川さんからも言われてるわ。少しだけ勇気が出た、立花とも……話してみようと思う」
よし!一歩前進だ!!私が悶え苦しんだ意味はあったという事です!
報酬?まあ今の抱擁でヨシとしましょうやブヘヘ……
「ありがとう、加賀美」
ん?なんですかこの暖かさは……光に体が吸い込まれていくような……
「加賀美……?加賀美……??」
「き……気絶してる……幸せそうな顔で……」
起きたら医務室でした、翼さんに抱擁されて気絶したらしいです。
ザコかよ私、30分弱ぐらい気絶してたらしくて翼さんは仕事の打ち合わせに行ってしまった。
「よくやったわ、凛音ちゃん。あの凍り付いた心をどうにかできるなんて」
「いえ、皆さんが普段から翼さんを気にかけてあげてたおかげですよ、でなければどうにもなりませんでした」
「それは弦十郎くん達にいってあげて。それでどうだったかしら愛しの相手からの抱擁は」
「涅槃が見えました」
「そうねわかるわ、恋の先輩としては嬉しいわ。私の愛しの人も……ねぇ」
「櫻井先生にもそういう相手がいるんですね」
「ええ、今の所は私の片思いだけれど……」
「応援してます」
研究一筋、って雰囲気でしたけれど櫻井先生にも人並みにそういう感情があったんだ……まあでもそうですよね。ってまたアラート……ノイズ出現、なんとタイミングの悪い……。
「凛音ちゃんは、今日は出ない様に。しょうもない理由とはいえ気絶してたんだから」