萌え声クソザコ装者は憧れたんだ   作:青川トーン

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許せないんだ

 生まれて初めて八つ当たりというものをしました。

 ふざけるなって思いました、お前が、お前が選んだんだろって。

 

 シンフォギアには適合率というものが必要です、聖遺物が選んだ者だけがその力を使いこなせる。

 だというのに!

 

『過剰適合』

 

 櫻井先生が説明するに、私とイカロスは極めて相性がいい。それこそ呪いまでその身に宿してしまう程に。

 目の前で人が死んだあの時に私の感情が劇的に動いたその時、イカロスの出力が最大状態となってリミッターが外れた。シンフォギアには無数の機能とその組み合わせが存在しており、中には使用者のパニックを抑制する為のモノも存在するという。

 

 ネフシュタンとの戦闘中、やけに冴えていたのもそのおかげでした。これまでの訓練通りの動きを出来たのも全部。

 しかし調子のいい私とは逆にギア側にはどんどん負荷が掛かっていて、特に余剰エネルギーを放出する事も出来ずあのまま戦闘続行していれば自爆の危険性もあったそうで、現在オーバーホールとリミッターの再設定が行われてるそうです。

 

 あの戦闘は立花さんがデュランダルを起動させた事でどうにかネフシュタンを退けた、そうです。

 私は……私は何の役にも立てなかった、わかっていました。

 必要に駆られて戦う力を得た立花さん、覚悟を持って戦ってる翼さん……私は二人とは違う。

 

 出来るからやってる、一番考えの甘いのは私でした。

 思い出せば当たり前の様に他人に武器を向けて、引き金を引いていた。

 その一発一発が当然ながら普通の人間相手なら殺して余りある威力で、そこに罪悪感も無く、邪魔だから排除するという気持ちだけがあった。

 

 ネフシュタンを纏っていた彼女も私達と同じ様な年頃の少女でした。

 少し考えればわかる事です、利用されてるんだと。

 

 完全聖遺物を二つも持って、方やシンフォギア以上の鎧で、方やノイズを自在に操る杖、後ろに誰かが居るのは当然で、目的もさらなる完全聖遺物の奪取と立花さんの拉致……おまけに行方も簡単に眩ませて、潜伏先も未だ不明……それなりの組織力があると考えていい。

 

 少年兵、なんて言葉が浮かんできます。

 人は思想教育で簡単に操れる、縛り付けられるのですから。

 

 吐き気と頭痛が止まらない、ノイズとだけ戦っていればいいそんな仕事だったらよかったのに。

 今更抜け出す事は出来ない……決着はどちらかが倒れる時です。

 

 

「ひどい顔をしてるわね、凛音ちゃん」

「ええ、最悪の気分です。役に立たない自分にも、不条理な世界にも」

「その割には……逃げたいだとか辞めたいだとかって顔でもなさそうね」

「責任です、私は選びました。選んだ以上は果たさねばなりません」

 櫻井先生の表情が少し暗くなる、憐れみか、それとも呆れか。どちらでもいいです。

 

「私は無責任というものが許せないんです……そうです、私を作るだけ作って捨てていったアイツらの事が嫌いなんです、ああは成りたくないんです。だから果たすんです、決めた事を」

 

 やると決めたならやり遂げなければなりません。 

 

 

 思い出すだけで苛立ちが止まらない、私は……政治の為の副産物として生まれた。

 政略結婚、企業と企業の関係を、結びつきを強くする手段、その契約の証として作られた。

 愛なんてものが介在する訳もない、隙あらばその全ての権利を互いが総取りする機会を伺っていた。

 

 最終的に残るのはどちらか一方なのだから私に何かを継がせる理由もない。

 どうとでもなるがいい、お前は期限付きの契約書でしかないのだから。

 

 消えた両親の末路も聞いてはいる。

 逃げに逃げた先で捕まって海に沈んでいたそうですよ、あくまで私は「無関係」と見捨てられたから手出しされなかったと。

 

 皮肉なものです、愛されなかったが故に生き残った。

 愚かなものです、愛することがなかったから死んだ。

 

 

 

 翼さんが目を覚まし、動けるようになったと聞きました。

 いいニュースですがまだ万全ではないのですから無茶をして欲しくない……という周囲の想いとは裏腹に無茶なリハビリをして怒られたとか。

 

 立花さんと一緒に病室に面会に行ってみるとそこには地獄めいた光景が広がっていました。

「敵襲!?」

「たっ立花!?それに加賀美!?」

「部屋汚っ!」

 思わず本音が出てしまいました。花瓶の花はしおれてるし美容液横倒しでこぼれてるしカップ放置だし脱いだ下着まで!?!?ちょっと!?まずいですよ!!

 

「翼さん、片付けましょう。どうするんですかこの先テレビでお部屋公開みたいな企画に出会ったら」

「そういうのは断るわ」

「世の中何が起こるかわかりませんよ!とにかく片付けましょう!」

 

 恐ろしい事に昨日の時点で緒川さんが既に一回片付けた後にこの有様だそうで、すげえ……翼さんの新しい才能を見つけてしまいました。

 

「翼さん、洗濯物は籠に、液体はボトル以外ベッドの近くに置かない様に、あるものを有るべき場所に置きましょうそれが最初の一歩です……」

「はい……加賀美師匠」

「加賀美師匠すごい……あっという間に片づけちゃったし」

 誰が師匠ですか、そんな誇れるものじゃないですから!

 

「立花……そのすまなかった……と思ってるわ。キツく当たった事」

「いえ、私こそ無神経だったって……それに翼さんのすごさを再確認してますよ。私、その……デュランダルを手にした時、真っ黒な気持ちに染められて……怖かったんです。人を傷つけるのが」

 

 どうにもあの時、デュランダルを起動した時……立花さんも暴走状態に陥ったそうです。

 聖遺物の反発作用、というらしいです。それをシンフォギアの機能の一部が無理矢理に押さえつけようとしてそうなったとか。

 やっぱりこのシステムは欠陥だらけですね……マジでどうにかならんのです?

 

「でも、それでも翼さんや凛音ちゃんや師匠、それに未来の事を考えたら……迷ってばかりじゃいられないって。それにあの子ともお話したいって」

「あの子……?」

「ネフシュタンを纏った彼女の事?」

「はい……!話が、言葉が通じるなら、きっとなんとかなるって思ってるんです!騙されてたり脅されてあんなことをやってるのかもって!それなら!」

 

 なるほど……立花さんもその可能性に気付いた、みたいですね。

 しかし話でどうにかなるなら最初から戦いにはなってないのです……。

 

「話というのは、同じだけかそれ以上の力を持ってようやく通じるモノです。だから立花さんの意見を否定したくはありませんが、一撃ぶちかましてネフシュタンの鎧をぶち抜けてようやく会話のテーブルにつけると私は思います」

「だが加賀美。ネフシュタンを貫くのは容易ではないぞ。私の絶唱ですら一時的に退けるのが精一杯だった」

「あの時の翼さんは本調子じゃなかったじゃないですか。立花さんの事でブレブレだったと思いますけど?」

「ぐっ……それを言われると効くわ」

 少なくとも今は違う、翼さんの心は晴れつつある。

 私とは違って。

 

「ってことは全力、全開でぶつからなきゃって事?」

「そうですね、ですから頑張るんですよ立花さん。それがあなたのやりたい事ならば」

 

 私に出来るのは背を押す事だけ、悪いけれど今は私は……私自身をどうにかしなければならないのですから。

 

 

 翼さんの部屋を後にしてリディアンを歩いてると珍しい相手とすれ違う、小日向さんだ。

 ウワッ……視線がめっちゃ覚悟決まってる。

 

「あの加賀美さん、少し時間いいですか」

 

 果たし状と言わんばかりに屋上呼び出しの手紙を渡された。

 とりあえず事前に司令に連絡してどの程度なら話していいか確認を取る。

 できるだけはぐらかせとの事だった。ふざけんなよ……

 

 

「響は何をしてるんです?何に巻き込まれてるんですか!」

「あーーーうん、因縁って奴ですね。私も巻き込まれてる立場なんですけど……色々と守秘義務の課せられる奴で」

「それって危険な事なんですか!」

 

 嘘をついたら必ず殺すという目をしていらっしゃる、しかし甘いな。

 

「まあ多少は危険ですよ、でも彼女は逃げるつもりはありません。周囲には彼女を支える者も居ます、一人でやってる訳じゃないです」

「それって響にとって私は頼るに値しないって事?」

「巻き込みたくないって気持ちの方が強いと思いますよ。なんせ関わるだけ損な案件ですよ、といってもずっと黙り通しっての無理だからその内話してくれると思います、その内」

 

 まあ守秘義務があるとはいえ身近な人ぐらいにはね、と思ってるのは真実だし隠しきるのも多分距離的に無理でしょう。

 

「それっていつなんですか」

「そこまでは断定できません、無責任な事は言えませんから。ですがこうやって話す事を許可された時点で遠くないと思っています。だから信じてあげてください、立花さんの事を」

 

 立花さんは絶対に裏切るなんて事はしない、できない。

 短い付き合いですがそう思わせる人柄を感じさせます。

 それに今でこそ巻き込まれて戦っているけれど……本当なら平和な日常こそが彼女の居場所です。

 

「立花さんが帰るべき場所として待っていてあげてください、今だけは」

 

 その象徴が小日向さんだと、私は思っています。

 

 

 

『私の居場所ってなんですかね」

・ネットの闇

・ここ

・界隈

・ここにないとないですね

 

『やっぱりかぁ』

・ヘラ期かぁ

・おりんって結構そのメンヘラ気質がね……

・ヘラティブ

・かわいいよね

 

『おーもっと褒めろ』

・よっ美少女

・萌え声!

・登録者数25万人!

・クソゲーソムリエ!

・あっミームの人

 

『誰がミームじゃ。誰が!責任持ってもっとかわいいネタを流行らせろ』

・それは無理…

・我々の力を上回ってる

・もっとかわいい行為しろ

・歌でも歌え

 

『しょうがねえな!歌ってやりますよ!』

・出るか…おりん作曲の…

・というか作曲できるのもっと前に出せ

・クソゲーは誰でもできるんだから作曲しろ

 

『作曲には死ぬ程カロリー使うんですよ!そう簡単に出る技じゃないんです!』

・おりんの恋する乙女ソング待ってるよ…

・おりんの歌だけはもっと伸びて欲しい

・お前には歌がある…誇れ

 

 

 歌、歌かあ……そういえばここ最近、歌っているのに歌っていない気がする。

 シンフォギアを纏ってる時の歌、なんだか暗いんですよね。陰鬱すぎてこれが私の心象風景とか言われたら泣いちゃう。

 ……楽しむ為の歌……。

 

 私があの日見た劇しい光、翼さんの歌。

 ピピピとまたアラームが鳴る。

 

 仕事の時間ですね。

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