私が到着した時には既に勝敗は決したようなものでした、ネフシュタンの鎧は弾け飛び、そこには赤いシンフォギアを纏った少女が居ました。
どうやら立花さんが一人で鎧を剥ぐまで行ったらしく……その成長と覚悟には驚くばかりです。
同じシンフォギアで三対一となればもう数的には不利、おまけに哀れかな。
味方であるだろう女に見捨てられ、ノイズを操る杖も鎧も回収されたのに置き去りで、なんならば諸本に処分されかけて立花さんに助けられる有様……もはや彼女は敵たりえない。
司令からの情報によれば彼女の名は雪音クリス、ニュースで見た事ありましたね……バルベルデの動乱で行方不明になってて国連によって保護された少女の話……それが彼女でまあ続報を聞かないと思えばこんな事になるとは。
フィーネなる人物を追って離脱したけれど、さてここで一つ。
あのシンフォギアはどこから手に入れたものなのでしょう?
今の所、シンフォギアを作れる人間は櫻井了子ただ一人との事で、でも一人で密造するには設備が足りない。ありうるのはもっと昔の時点でデータが漏れててどっかの国で作ったとか……。
まあその辺りを考えるのは私ではありませんが、この時点で申し訳ないけれど櫻井先生は警戒対象です。
シンフォギアにどんな爆弾が仕込まれてるかもわかったものではありません、なんならノイズを操れるのもマッチポンプが出来てしまう。最終目的はわかりませんが……ノイズを出してシンフォギア開発を進めれば金が関わってくる。
司令や緒川さんもあのシンフォギアを見た時点でそれくらいは気づいているでしょう。
一応確認だけは後で取るようにしよう、それとなく。
今はそう、下で何とも言えない空気になってる立花さんかぁ……。
せっかく勝ったのに締まらないですね。
「ごめんね、呼び出して」
「案外早くバレた事に驚いてますよ」
「加賀美さんが言ってた事、覚悟してたけれど……それでも私、響に酷い態度を取っちゃった」
「まあずっと正解を選べるなんて事もありませんよ、そう思うならすぐにでも会いに行って謝った方が早いです」
何故人は私に相談をするのか……あんまり役に立ててる自信無いんですがね……。
それはさておき放っておく事も出来ないので対応はする、残念な事に司令は野暮用で外し、緒川さんも翼さんの復帰を前に忙しいので結局やる事も無いのです。
「そう……だよね、でも……」
「大丈夫ですよ急かしたりはしません、聞いています。立花さんとは長い付き合いだって、私に経験はありませんがそういう関係だと一度喧嘩したりとかすると気まずくなって離れたい時もあると」
「……ありがとう加賀美さん、それで…ね。加賀美さんに聞きたい事が一つあって」
はて……何の事か、立花さんについて知ってる事はもう無いといってもいいのですが。
「加賀美さんは、大丈夫なの?」
「何がです」
「……最近配信でもちょっと元気がない様に見えて」
「待って待って」
お前もリスナーかよぉ!!!いや確かに板場のアホが私が配信者である事ややバラしてたけどさぁ!
「勘弁してください、マジでただのヘラ期なんです!」
「おりんのヘラって営業じゃない」
「ウワーッ!!お前いつから見てたんだよ!!!」
「それは2年前ぐらいから……響も時々見てたよ?でも加賀美さんがおりんって気づいてないんだ」
「初期も初期からいる奴じゃねーか!!!なんで身近に敵が潜んでるんですか!」
「照れ隠しに敵呼ばわりはひどくないですか?」
あ、ありえん……私なんぞの配信を見てる奴が二人……いや三人目もいるなんて……。
「あの頃、ずっと塞ぎ込んでた響に何か面白いものがないかって、楽しい事がないかって探しててそこからおりんの配信を見つけたの」
「はっきり言いますね、バカ。なんで私の配信でメンタルケアしてんですか!?もっと面白いもの山程あったでしょうに!」
「人気の配信者だって無責任にあの惨劇の生存者の事を語ってた中でおりんは……加賀美さんはそんな事はしなかった、寄り添ってくれる立場だった。そこには打算はなかったから」
ウワ……ウワアアア!過去が襲ってくる!助けてくれーっ!!!
「よしよしボイス……」
「ころしてくれっ私を今すぐ消してくれっお前支援者かよぉ!」
アガ……アガガガガ……全肯定女子中学生キャラがッ!やさしいママみ営業が襲ってくる!
「それで……大丈夫なの加賀美さんは」
「致命攻撃入れながら心配してくれるのやめて、そりゃ大丈夫じゃないですよ!私は今いるメンバーで最弱までありますから!それにいつまで戦う事になるのか!心配な事はありますよ!ですが!」
「やらなきゃ、背負わなきゃって顔してる」
「……根拠は」
「響とよく似てるから」
あのお人好しバカと同じですか、私が……そんな綺麗な者であるはずがない。
「何かをしなきゃ、自分がいる意味がないって。生き残ったあの日からずっと響は走り続けて来た。私はずっとそれを追いかけて追いかけてきた……あのライブには本当なら私も一緒に行くはずだった……それが当日に体調を崩して……響だけが巻き込まれて、謂れのない悪意を受けて、響のお父さんもどこかに行っちゃって……私のせいなのにずっと……」
「本物の悲しき過去ぶつけるのやめてください、マジで勘弁してください。わかりました白状しますから」
最初に相談に乗ったのは私なんだ、だから降りる訳には行かない。
「私はですね、胸を張れないんです。どこまで行ったら自分を認めれるのかわからないんです。他の人達は私を誉めてくれる、それは嬉しいんです……でもそれでも他人の評価でしかない。私の両親はマトモじゃなかった、名誉だとか権力だとかで目が潰れた愚かな奴らでした。私の事なんてあくまで外面を偽装する為だけの道具としてしか思っていなかった。私が周囲に馴染めてないって学校の先生が言った時なんて「この子は昔から内向きな性質なんです」ってさも当然かの様に言い張りましたからね。それでいて帰ったらただ一言「普通にしていなさい、面倒なのよ」ですよ」
「……酷い」
「だから、だからなんです。翼さんの姿を見た時、その歌で人々が心を動かされてるのを見て……私は憧れたんです。私も誰かに愛される者になりたい、変わりたいって……でもどこからが愛なのかわからないんです」
「……それは」
「ごめんなさい、さすがにこれはちょっとヘビーすぎたかな……愛の形は人それぞれ!私は……私の納得できる愛の形を探す。それだけなんです……逆に愚痴なんて聞いて貰ってありがとうございます」
……なんか申し訳ないな、よりにもよってリスナーにこんな事を語っちゃって……私の醜い所なんて見せたくない、弱い所なんて見せたくなかったんだけれどな……。
言葉にすれば少しだけ、軽くなった気はするけれど……それでも。
まだ私は胸を張って歩ける気がしないよ。
作曲をする為の機材が足りない事に気付いた。今は住んでないけれど登録上の住まいに置いてきたままだった、どうせなら新しいのを買おうと思って街に出て帰って来る頃には日が暮れていて……。
子供の泣き声が聞こえて来た、それだけなら何ら珍しい事じゃない。
見覚えのある顔が近くに居た。
雪音クリスだ。
今すぐ連絡しようと思った、が様子が変でした。
一先ず本部に発見メッセージだけ送り気づかれない様に尾行……迷子の兄妹を親探し……?
……無事に見つける事は出来た様でよかったよかった……で終わらせたいんですが。
雪音クリスが別れを告げて離れていって、声をかけるべきかと迷う。
「……見てんだろ、出て来いよ」
どうやらバレバレだったらしい。
「ここで事を構えるつもりはありません……ですが、どうしてあの子達は助けたのに私達には攻撃するんですか」
「……お前らは、信用できないからだ!」
「ならあなたを捨てたフィーネとやらは、信用できる人間だったんですか」
「あの地獄から私を救って!力を与えてくれた!居場所をくれた!何かの間違いだ、それを今から確かめに行くんだ」
バルベルデ、いまなお戦火の絶えない地だと聞いています。確か平和活動の為に両親と共についていった結果行方不明になって……まあ想像できる経緯です、両親の想いを踏みにじられ、大人に虐げられ……そんな者が縋るのがその力ですか。
「……わかりました、あなたを否定する事はしません。ただ一つだけ、私は……私達はあなたが騙されて利用されただけだと思ってます。もし本当に捨てられてた時はこの番号に連絡してください、例え愛した者でも……裏切りには相応の報いは必要でしょうから」
私としては十中八九フィーネとやらは雪音クリスを切り捨てると思っている、もう使えない者は用済みだと消されると思ってる、けれどそれで死ぬならその程度です。
ですが……私は何となくこの雪音クリスとの道はどこかで交わると思っています。
何故でしょう、確信はないのに……。
「すみません緒川さん、話しかけて足止めはしましたが逃げられましたね」
「構いません、それで何か聞き出せましたか?」
「フィーネに力と居場所を貰ったと、それで今からその居場所とやらに真意を尋ねに行くと。それとフィーネの正体は……まだ分からずですか?」
と緒川さんが途中で喋るなのジェスチャーをしたので話題を切り替える。
なるほど内通者警戒。
えーっと……要警戒:櫻井了子、ああやっぱり。
「終わりの名を持つ者、異端技術に対する深い理解に……加えて完全聖遺物が二つ、極めて恐ろしい相手です。組織だって動いてるならば更に厄介です。加賀美さんも気を付けてください、まだ立花さんを狙ってる可能性もありますが狙いが分からないのですから」
あー世の中、緒川さんや司令みたく優しい大人ばっかりだったらな……皆こんなに苦しんだりしなくて済んだんだろうかな。許せないよ、やるせないよ……。