遥か彼方を目指す、例え他の誰にも望まれる事でなくとも。
止められないんだ、この思いは、私の憧れだけは。
答えは最初からわかってた筈だった。
だから後悔の無い様にやりたい事をやるのです。
私の心の奥から願う歌を、電子楽譜として刻み込む。
戦う為の歌じゃない、2年前のあの日からずっと続けて来た。
加賀美凛音を変えていく為の歌。
こうありたい、こうなりたいと綺麗ごとを書き綴る。
けれどまだこれじゃ足りない。
もう一歩前へ、もう一歩先に進まなければ。
……なのに何も思いつかない。
珍しく外に出る、正直一人で歩くと変な輩に絡まれる事が多いので多少外見を変えていく。
最近はノイズの出現頻度が高いからと外出を控える人が増えている。
実際それは正解でしょう、フィーネなるものが暗躍しているのだから外に出れば巻き込まれる可能性がある。
ほらこんな風に。
「小日向さん、その子は」
「えっ……誰ですかあなた……」
「ああ、そうか……ンン……この声ならわかりますよね」
「加賀美さん!?なんで男の子の格好なんてしてるんですか?」
「ナンパ避け」
「そんな特技があったの……それよりこの子路地裏で倒れてて……」
ボロボロになった雪音クリスを小日向さんが拾う、それは果たしてどんな確率か……さすがに小日向さんは雪音クリスの事を知らない。
手当は必要そうですが……本部に連絡するのも少し躊躇われる。
目の前の相手が立花さんと何度も戦った相手だって態々教えるのも、アレですしね。
「ところでその演技続けるんです……?」
「もちろん、声の練習もあるからさ」
「そんなんだ……王子様ボイスとか出すんですか?」
「悪くないね」
とりあえず小日向さんのお知り合いの家で手当てをする事となった。
こりゃ酷い、痣だらけだ。私がネグレクトならばこっちは物理的虐待ですね……。
もちろん火傷や擦り傷に切り傷とかあきらかに戦闘でついたような傷もある、私の予想通り捨てられましたか。
「よかった……目が覚めたのね!」
「……んあ……どこだ……ここは……!?なんだお前ら!?」
バッと立ち上がるクリス、しかし体操着一着だ。小日向が目を逸らした。
「なっなんて格好させやがる!?お前も目を逸らせよ!」
「ふっ乙女の裸体なんて見慣れてるからさ」
「おま……お前っ!?」
顔を真っ赤にして布団に包まった、よし効果ありだ。
「僕は加賀美リン、こっちは小日向未来さ。君が倒れてたからお節介を焼かせて貰った。まあ感謝するなら名前を名乗るだけでいいよ」
「……クリス、雪音クリスだ。そのお前はなんだそのスカした態度は」
「僕はいわゆる王子様ってのに憧れててね、その練習をしているのさ!まあお茶でも飲みたまえよ。何事も優雅たれってね」
小日向さんが笑いをこらえてるがこっちだって一応真面目にやってるんだぞ!こいつとはやりあった仲なんですよ!正体明かしたらメンドクサイを越えたメンドクサイが待ってるんです。
「よかった、お友達の目が覚めたのね。お洋服も洗濯しておいたからね」
「ありがとうおばさん!」
「……何も聞かないんだな、お前ら」
「私、そういうの苦手だから」
「余計な詮索は嫌われるからね、僕も余計な事はいわないのさ」
「ちがいねぇよ……」
しかし、今日は本当は授業があるというのに何故小日向さんは欠席を……?私は二課の仕事の代休を取ったわけなんですが……。
「私、友達と喧嘩したの」
ああ……そういう事ですか……。
「加賀美さんが色々とアドバイスしてくれたのに、結局友達の事をわかってあげられてなくて……」
「まあ僕のアドバイスだって絶対じゃないさ、クリスくんも喧嘩ぐらいしたことあるだろ?」
「ねえよ、私には友達なんていない……地球の裏側でパパとママを殺された時からずっと」
ウワッ!!!!いきなりストレート投げて来やがった!!!私は知ってるけれど小日向さんガチショック受けてる!クリスの口から語られるのは記すにも憚られる最悪な現実と過去。そして信じてた者の裏切り。
本人の口から出た言葉だとなおのこと、その苦しみと悲嘆に満ちた感情が伝わって来る。
「そりゃあ……済まない事を話させてしまったね」
「……ごめん」
「なんであんたらが謝るんだよ……悪いのは大人だ、クズみたいな奴らだ……。なあその喧嘩した相手ぶっとばしちまえよ、それで上下決めて仲直りだ」
「そういうことはできないよ、だってそれじゃ友達じゃなくなっちゃうでしょ」
「……それに強いからなあ、小日向さんの友達は。僕だってぶっとばされかねない」
「そうじゃないでしょ。それでクリスは……これからどうするの」
小日向さんも突っ込みづらい所ぶっこんでいくな……コミュ力オバケか?
「あたしは……あたしはひどいことをしたんだ、色んな人達に、だから責任を取らないといけない」
それは……きっと一連の事件の事、それと自分を利用したフィーネに報いを受けさせる事。
覚悟を決めた者、背負った者の目だ。
「なあ、加賀美凛音」
「バレてましたかー……」
「お前その変装で騙せるとでも思ったのかよ」
「……二人は知り合いだったの?」
「仕事上の付き合いですよ、クリスは」
その時だった、街に警報が鳴り渡り私の端末にも連絡が来たので外に出る。
『加賀美くん!ノイズだ、それも広範囲に出現すると予測されている。今響くんが出動したが翼はまだメディカルチェックが終わってない。出れるか』
「やります、やってみせます」
『無理はするなよ!』
端末の通信を切り二人を見る。
「小日向さんはおばさんと一緒に避難を……クリスは」
私が声をかけるよりも早くクリスが駆け出す。
責任を取る、ならば戦いに行くのでしょう。
「私は避難誘導に行きます、だからきっちり逃げてくださいね!」
路地裏を通って人目のつかない所でギアを纏い、空に舞い上がる。
きちんとリミッターは掛かっている。理性も働いているのだから大丈夫、大丈夫です。
送られてきたデータで一番遠いエリアへ向かう。
イカロスほど移動に向いたシンフォギアは無いのですから!
機関銃とミサイルで道中の敵を片付けながら逃げ遅れた人が居ないか探す、レーダー機能は便利です。こうやって人だけでなくノイズも簡単に見分けられるんですから!
どうやら建物の中で息をひそめている一団、逃げ遅れた人々の集まりがあるみたいで私はその屋上に降り立つ。
守るべきはこの場所だ、高所に陣取り次々と四方八方から這い出して来るノイズを片付けていく。
すると遠くから歌が聞こえて来た、それは……雪音クリスの歌だ。
おそらくあの商店街からずっと敵を殲滅しながらこちらまでやってきたのでしょう。
ならば返す様にこちらからも向こうまで届く様に歌い続ける。
飛行型ノイズの群が対空ミサイルによって消し飛び、地を這う奴らは機銃によって蜂の巣。
ですが私のこのような防衛戦は私の本領ではない、ドローンを飛ばしてマイクユニットをオン。
『雪音クリス、聞こえているならこちらを援護して欲しい。逃げ遅れがいる』
『お前は加賀美凛音か!どこだ、どこにいる!』
『屋上に上がってドローンの誘導にしたがってください、これはあなたにしか頼めない仕事です』
流石にそろそろマズい、リミッターが掛かってるとはいえギアの耐久度が上がっている訳ではない。
両腕の機銃の砲身が赤熱して来た。このままでは前と同じように形成不全を起こしてしまう。
敵の数が増えて来た、ミサイルのリロードも間に合わない。
そんな時、私以上の弾幕がノイズ共を吹き飛ばした。
「ありがとうございます、信じてくれて」
「お前の為じゃねえ、これはあたしの罪なんだ!」
プロテクターをパージして冷却再形成、これで戦闘続行可能です。
「なんだっていいです、それで人が守れるならば。私は遊撃・支援を行います。この建物には逃げ遅れた人達がいるので守ってください」
「一匹たりとも通さねえよ」
ようやくまともにフライトユニットを使って飛べる、地上から対空砲の様に飛び出して来たノイズ、ですがクリスのシンフォギアが放つ弾幕によって撃ち落とされる。なるほど射撃特化だから出来る仕事ですね……!
ならば私も私の仕事をしましょう!レーダードローンによって周囲のデータを観測、クリスに向けて送信。
『目か、便利だなお前』
『正面からの打ち合いは苦手なもので』
『それで、あなたを裏切ったフィーネへの報復、どうするつもりで』
『どうもこうもねえよ、一人でやる』
『そうはいいますがこっちもフィーネに嫌がらせを受けてるんですから共同戦線といきませんか』
こっちの地区はもう大丈夫そうだ、図体のデカい奴が一匹現れるも見掛け倒しだった。
『お前は……信じてもいい、小日向も。でも他の奴らはまた別だ、だから』
ロックオンアラートが鳴る、まさかこの状況で!?
『あたしは一人で行くよ、ごめん』
衝撃が走る、フライトユニットを狙撃された!クソッ!断るにしてももっと優しい断り方がありますでしょうが!!
『それとあの変装、似合ってたぞ。じゃあな』
緊急着陸してギアを解除、まんまと逃げられましたね……。
しかしクリスと私……連携の相性はよさそうなもので、できれば組んでやっていきたい所でしたが。
『もしもし、司令。こっちは片付きましたよ。立花さんの方は?』
『ああ、今しがた片付いたそうだ』
後から聞いた話ですが避難途中で小日向さんがノイズを引き付ける為に無茶をしたらしい、そこを立花さんが助けて……わだかまりも解けたそうな。さすがに肝が冷えましたが……とにかく無事でよかったです。
『色々と我儘を聞いてくれて。ありがとうございます、加賀美さん』
結局、私は大して役に立ててないのに、感謝されるとなんだかむずかゆいというものです。
立花さんも、翼さんも、小日向さんも、敵であったクリスも変わっていった。
私は……本当に変わっていけているのでしょうか。
あの日からどれだけ進めているのでしょうか。
譜面を描く私の手は、進まないままだった。