萌え声クソザコ装者は憧れたんだ   作:青川トーン

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本日二回目の更新です


守りたいんだ!

 ようやく翼さんも完全回復、もうすぐ歌手としても復帰できる。

 本当に大事が無くてよかったです。立花さんと小日向さんの問題も片付いて、はいこれでよし……とはいきません。

 

 フィーネの目的が相変わらずわからない事、雪音クリスの行方、まだ解決していない事はあります。

 ですが今ぐらいは皆、休息を取るべきでしょう。

 

「凛音ちゃん、何書いてるんですか?」

「楽譜ですよ、自作の」

「作曲もしてるんだ!それでずっと唸ってたんですね」

 私の作曲はあんまり上手く行ってない、綺麗な言葉が出てこないのです。

 いっそのこと、誰かにアドバイスを貰いに行く……というのも考えましたが……。

「さすがに立花さんに相談しても駄目そうですね」

「えへへ」

「加賀美さんはもう6曲も作ってるんだよ響」

「すごい!!今度聞かせてくださいよ!」

 あっこら小日向!さりげなく私の正体をバラそうとするんじゃない!ニコって笑っても騙されんぞ!

 

「作詞も作曲も全部私のオリジナル曲です、まあプロと比べれば大した事のない……それに今は全然浮かばないんです……」

「そんなことはないわ加賀美、あなたは凄いのよ」

 つ……翼さん!

 

「私だって作曲に関わるし作詞もするけれど、実際に演奏する訳ではないわ。あなたはその全部を一人で何度もやり遂げている。それは凄い事なのよ」

「そんなに!?聞きましたか凛音ちゃん!翼さんのお墨付きですよ!」

「歌は孤独じゃない……音楽は聞いてくれる人達が居てはじめてその輝きを放つ。自分を表現するのも大事だけれど、同時に誰かの心に届いてこそなの」

 

 誰かの心に届く歌……私が今届けたいのは、そう。

 リスナーの皆、なんだかんだずっとファンで居てくれる人達。

 愚かな私に気付きを与えてくれたり、自分の時間を共にしてくれる。

 バカな奴らです……こんな、こんなチヤホヤされたいだけの子供に構ってくれる。

 

「もう答えは見えた様ね」

「すごい勢いで譜面が書き込まれてるっ!?これが凛音ちゃんの真の力!?」

「そうだよ、なんたって加賀美さんは人気配信者「おりん」なんだから」

「ええ!?凛音ちゃんがおりん!?……もしかして未来!?」

「気づいてないの響だけだったよ、板場さん達も気づいてたし」

「そんな~早く言ってよ!ずっと楽しませて貰ったお礼とか……」

「多分加賀美さんはそういう事は求めてないよ、だから今まで通りにね」

 

 なんだこんな簡単な事だったんですね、ありがとうの5文字をどこまでも大袈裟に歌えばいい。

 ようやく……荷物が一つ減った感じです。

 

「私のお気に入りはやっぱ『すみっこアビリティ』これですコレ!翼さん」

「随分ポップな感じね、出だしの弱々しい歌詞からサビに向けてどんどんポジティブになっていく定番こそ技量が出るというけれどこれは……卒業するまでにどこまで進化してるのか想像すると先輩としても楽しみね」

「私はやっぱり『ブレイザー光』かな……重々しい鬱屈とした中から光が見えてくるのが好き」

「今度は随分と作風が変わったな、加賀美はこういうのもイケる口なのか」

 

 よ……よし、これだけ書けたなら後は曲として起こすだけ……って、このメロディは……!!

 オワーッ!?私の曲が翼さんに聞かれてるっ!!いつのまに鑑賞会が始まってたんです!?

 

「これが全部独学だというの!?」

「講座動画を見たり作曲参考サイトを見て作ったのです!書き方がわかりやすかったから……」

「それだけで作れてしまったら音楽院はいらないわ!あなたの将来が楽しみで仕方ない……それにもしよければ一曲歌わせてくれない?」

「エエエーッ!!!!?」

 

 翼さんが私の曲を歌う!?何ッ!?今日私死ぬんですか?命日なんですか!?

 

「お願い、歌わせてほしい」

「あ……わ、わかりました、オフボーカル音源持ってきます……放課後に……」

「ありがとう加賀美、私が歌わせてほしい曲は『天啓』よ」

 

『天啓』

 私が初めて翼さんと出会った日をモチーフとした曲、街頭テレビに映る歌姫に心を奪われて歩き始めたあの日の再現。

 それを翼さんが歌ってくれるなんて……生きていれば……良い事あるもんですね……。

 

「加賀美……加賀美?」

「気絶してるぅ!?」

「……これで二回目よ、私の前で加賀美が気絶したのは」

「尊み気絶って言うらしいよ、ファンの子とかがあんまりに嬉し過ぎたりして感情昂った時になるんだって」

「そういえば……加賀美はしきりに私のファンだって強調していたけれど……そんなにか小日向?」

「翼さんのファンの人ではあんまり聞かないけれど、海外のアーティストさんのファンだとよくあるんだって」

「あ!そうだ!せっかくならさ!翼さんが本格的に活動再開する前に皆でどこか遊びに行きましょう!」

 はっどうにか復活しました!

 

「あっ生き返りましたね凛音ちゃん、今度皆で一緒に遊びに行こうって話なんだけれど凛音ちゃんの都合は大丈夫?」

「え?お出かけですか?まあ私は特に予定はありませんよ、夜遅くさえなければ」

「なら大丈夫そうだね!いやー楽しみだなー!」

「私は、その……友人とそうやって遊びに行くというのは初めてで緊張するな」

「大丈夫ですよ翼さん!未来も凛音ちゃんもいるし!もっと気楽に気楽に!」

 

 しかし友人、ですか……そうですね。立花さんに小日向さん……翼さんの友人としてはこれ程ない人選です。

 秘密をも共有出来て、心の弱い所もさらけ出せて、羨ましいぐらいに。

 

「今、翼さんに友達が出来て私は嬉しい!って思ってましたね加賀美さん」

「なんですか小日向さん、いつの間に読心能力まで得たんですか」

「加賀美、あなたも私にとってはかけがえのない友人だって思ってる」

 

 え……

 私が友人……

 

「そうだよおりん、あなたにも友人が出来てるんだよ」

「そんなこと……でも、友人ってもっとこう……」

「友達はそんな難しい事じゃないよ凛音ちゃん」

 

 立花さんと小日向さんに手を握られて、退路が断たれる。

 でもいいんですか、私なんかが。

 

「私なんか、って顔をしてるけれどあなただから、あなただから友達になりたいと思えたの加賀美」

 

 あれ、おかしいな……こんなのアニメだとか映画でしか見ないようなきれいごとで……。

 夢じゃないのかな、それとも死に際の幻?だってこんなこと……考えた事なくて。

 

 うれしいなあ、胸が痛いなあ、涙が止まらないよ。

 これが愛されてるって事でいいんだよね……?

 

「お見苦しい所を、見せました。なにせ、詰まらない人生を送ってきた時間が長かったもので」

「私も思わずもらい泣きしちゃった……そうだよね一人は辛いもんね……!」

 

 もう孤独営業は、できませんね。

 

 

 

『アハハ……私は友人を手に入れましたよ、あなたは?』

・おりんのテンションがおかしい!

・様子の変な人です

・そうか……おりん……お前にも友人が出来た

・どうもこうもねえよ!一人ぼっちだよ!

 

『今日、私は本当の意味での友達を手に入れました』

・よかったじゃん

・羨ましい

・私にも分けて欲しい

・煽りか?

・俺達のことは……遊びだったのか!?

 

『ありがとうございます。今まで支えてくださって』

・引退かな?

・辞世の句か?

・どうかやめないで

・死亡フラグやめろ

 

『いや、普通にもう全てが報われた気がして解脱しそう』

・定期的に解脱しろ

・クソゲーから逃げるな

・パズル、しよう!

・この喜び方はマジだな、余程いい友達を手に入れたと思われる

 

『だってですよ、こんな私に。一緒に遊びに行こうって、歌を歌わせてほしいって友達が出来たんですよ』

・嘘だろ!?

・速報:おりん、はじめてのお出かけ

・お前!!!裏切ったのか!!!俺達を!!!!

・明日のトレンド乗ったぞテメー!

 

『全ての努力が報われたのです!!私には生まれて来た意味があった!!』

・おめでとう

・よくねーよ!俺達はどうなる!

・これはクソゲー教育やろなぁ

・もう遅い、お前のゲームリストにクソゲーを送り込んだ

 

『なんとでも言うがいい!私はそれでも手に入れた……手に入れたのです……愛を……』

・泣かないで

・泣かないで

・テンション乱高下すぎて草

・どうしてメンタルへ行かずに今まで配信してたの!?

 

 つい口を滑らせて翼さんの名を出しそうになるぐらい、私のテンションは滅茶苦茶だった。

《うるせーですわー!!》

 あまりにもウッキウッキでベッドを飛び跳ねてしまい横の部屋から苦情が来てしまった……いくら防音バッチリでもここまでやったらダメなんだ……まあそれはどうでもいいんですよ!

 問題は……翼さんに音源ディスクを渡した時の一言。

 

『楽しみにしてて』

 

 あの微笑みが私に、私だけに向けられていた!

 なんと幸福なのだろう、これまでの苦難も何もかもが、どこかに吹っ飛んでいっちまいました。

 

 そして日は過ぎ、お出かけ当日。

 翼さんのお忍びスタイルマジ良き、いつもと違う雰囲気のコーデがマジにイケメンで……夢女になっちまいそうでした。私も私でテンションがおかしくなって王子様ルックで来てしまった!

 

「やあやあお姫様方、ご機嫌麗しゅう」

「フフフフ……ちょっと加賀美さん笑わせないで!」

「ええ!?凛音ちゃんなの!?」

「加賀美、大丈夫!?もしかして楽しみ過ぎて眠れなかったタイプ!?」

「これはこれは、驚かせてしまいました。確かに今日があまりに楽しみで……僕はおかしくなりそうでしたよ」

「重症ですね!ですけれど似合ってますよ凛音ちゃん!」

「ありがとう立花さん、さあ今日は楽しみましょう!」

 

 キエーッ!と奇声を上げながらクレーンゲーム操作する女なんて初めて見ました!プリクラなんて初めて撮った!パンチングマシーンが折れるのは現実だったんだ!格闘ゲームでリアルファイト始める奴らなんて実在したんだ!立花さんお好み焼き食べ過ぎだし炭水化物に炭水化物いけるんですか!?

 

 それに何よりカラオケ!翼さんの生歌を!?無料で!?ってただでさえ楽しみだったのに。

 突然流れ出す聞き覚えのあるイントロ、それは間違いなく私の作曲したソレ。

「一番手は私がつとめよう、作曲作詞加賀美凛音……『天啓』」

 カラオケに来ることがなかったから、オフボーカルさえあれば曲を流せるシステムがあるなんて知らなかった。

 今日という日の為のサプライズとして翼さんはそれを調べて、練習して来たって。

 

 私が書いた歌を

 私が奏でた音を

 翼さんが歌ってくれた

 

 それはとても、言葉に出来ない程に嬉しい事だった。

 また泣いちゃって、それから私も翼さんの歌を歌わせて貰って……皆で過ごした時間はこれまで経験した事のないものだった。

 

「見てください翼さん!凛音ちゃん!ここが良く見えるんです!」

 最後に立花さんが連れて来てくれたのは街を見渡せる高台、そこからは人々の営みがよく見える。

 

 そっか……これが私達が守ってる景色なんだ、皆の幸せを守る為に私達は戦うんだ。

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