次回は恋愛覚醒恋人ルート、次々回は湿度爆発独占ルートを投稿する予定です。
友愛カンスト大親友ルート
「ふぁああ~…………」
寝起きの第一声は気の抜けたものとなった。
しょぼくれた眼を擦り、自室を出る。朝食の良い香りが鼻に抜けた。
「おはよう、母さん……」
「おはよ、招」
テレビを点ける。この時間帯は大抵ニュースをやっているため、その情報はすぐに入ってきた。
トウカイテイオー、奇跡の復活。そこに至るまでの苦難をなぞっている、そんな特集がやっていた。
「いつの間にか手の届かない所にまで行っちゃったね」
母さんは感慨深そうに呟く。小学生だった頃がつい昨日のことのように思えた。
「…………」
コーヒーを淹れる。
確かにテイオーちゃんは遠い世界のウマ娘になってしまった。それでも、あの日僕を親友と呼んでくれたことに変わりはない。
するとテレビでは例の大親友宣言が誰に対してのものだったか取り沙汰されていた。
「ねえ、これってもしかしなくても……」
「……僕だね」
自惚れだろうか。いや、彼女は間違いなく僕を見て言った。これは断言できる。
しかし僕以外にも親友と呼べるくらいに仲良くなった子はいる。現に彼女からそれは誰か、この前聞いた。
メジロマックイーンさん。必ず勝つと誓った相手。無二のライバルにして、仲間。
……羨ましい。
僕は一度でもテイオーちゃんに何かで勝ったことはない(お菓子を賭けたゲームは除く)。そうやって実力を高め合える関係となったことは無かった。
僕にもメジロマックイーンさんみたいに揺るがない強さがあったなら、もっと彼女に──
「招、招」
「……あぁ、ごめん。考え事してた」
「招は思慮深いね~」
気を遣ってそう言ってくれたのだろうが、僕の思考スピードは普通の人より低い。十分かけて解く問題をその倍近く考えてようやく解けるくらいなのだから。
『──ッ、ボクは招みたいに強くない!』
『……そういうとこだよ……!招のそういうとこ、ホントに嫌いだ……!』
以前彼女から受けた言葉を思い返す。
結局聞けずじまいだったが、僕の″強さ″とは何なのだろうか。それが今も痼りになって残っている。
──────────────────────
「次、越雲ー」
「はい」
答案用紙を受け取る。……点数は……
「……はぁ」
安堵と落胆が混じったため息をつく。結果は赤点ギリギリセーフラインだった。
高校に入って勉強は更に難しくなった。小学校時代から学業面で悩んでいたが、まさかここまでとは。
「招ー、どうだったよ」
「……なんとかOK」
「へー、よかったな」
「そっちは?」
「満点」
数少ない友人は成績優秀の優等生だった。……よく授業をサボっているが。
僕は授業を休んだことはないし、毎日復習をしている。彼と僕で一体何の違いがあるというのだろう。自分の不出来さには本当に辟易とする。
「……どうしたらそんな高得点を取られるの?」
ダメ元で聞く。勉強あるのみと言われたらそれまでだ。
「俺ァ天才だから。つっても、社会で成功するのは招みたいな人間だと思うぞ」
「…………」
「言っとくけど、世辞じゃねぇぞ」
僕の強みと言えばこの諦めの悪さしかない。それが社会生活でどのように活かされるのか、まるで想像がつかなかった。
──────────────────────
『もしもし』
「もしもし、テイオーちゃん?」
いつも通りの近況報告。誰と走っただとか、テストで取った点だとか、最近のトレンドだとか。そんな学生らしいことをつらつらと話す。
「……ねえ、テイオーちゃん」
『なに?』
「…………ごめん、やっぱりなんでもない」
この問いをぶつけてしまえば、この関係が終着してしまうかもしれない。そう思うと、言えなかった。
『?……そうだ、招。今度の休み空いてる?』
「空いてるよ。どうしたの?」
『また、昔みたいに遊び行かない?』
──────────────────────
「お待たせ。ふふっ、やっぱり早くからいた」
「これが僕の
待ち合わせ時刻の一時間前から招はいた。いくらなんでも早すぎる気がしなくもないけど、それでこそボクの親友だ。
目指す先は遊園地。高等部にもなって楽しめるか分からないけど、今日は思いっきり羽を伸ばすつもり。
足並みを揃えてボクたちは歩き出した。
──────────────────────
「あー、楽しかった!」
結果から言うと、これ以上ないくらいに超満喫した。やっぱり遊園地はいつになっても楽しい。
「招はどうだった?」
「久しぶりに楽しかったよ。心の底から」
そう言って微笑む。よかった。ボクだけが楽しんだら二人で来た意味が無い。
帰り道を歩いていて、気づいたことが一つ。
あの時は自分のことで精一杯で気を回す余裕が無かったけど……招、身長高くなってる?
「背、伸びたね」
「成長期だからね」
それにしても高身長だ。これじゃ兄妹だと思われちゃうくらいに。
何か言おうとして、口をつぐむ。招の横顔はどこか寂しそうだった。
「ん?どうしたの?」
「……なーんでもないよ!」
ボクの、一番の親友。ボクにとっての、一番の親友。
じゃあ、招にとっての一番は?
──────────────────────
「なんかいいことあったのか?」
学校で出くわすなり開口一番にそう言ってきた数少ない友人。
「……バレてる?」
「なんか私上機嫌ですよオーラがすごい出てる」
オーラと言われても分からない。そんなに浮かれていただろうか。……この友人は勘も鋭いから彼にしかバレてないと信じたい。
「で、何があったんだよ」
「……言わなきゃダメ?」
「話してくれ。そっちの方が面白そうだ」
「……生涯の友と遊園地に行った。それだけだよ」
「女か?」
「そんっ、……そんな、テイ……彼女とはそんな仲じゃないよ」
「女なんだな」
テイオーちゃんとはそういう仲ではない。これはお互いに思っているだろう。
「確かに彼女は女性だけど、恋人とかじゃないよ」
「……男女間の友情?存在したのか……」
あんぐりと口を開ける友人。その姿がなんだかおかしくて、少し笑った。
──────────────────────
「テイオーちゃんは将来どうするの?」
『とりあえず大学には行きたいかな。招は?』
「僕は大学行ける程頭良くないから。普通に就職かな」
高校生ともなると、嫌でも将来の設計を立てなければいけない。
テイオーちゃんは大学、僕は就職となると、今までのように頻繁に連絡を取り合うこともなくなるかもしれない。
……それは、嫌だ。
だとしても、僕はいつまで彼女の親友でいられるのだろう。いつか彼女が僕に愛想を尽かして──いや──
忘れたのか?あの日感じた暗い喜悦を。
あの日、僕の前で項垂れるテイオーちゃんに感じたもの。──やっと同じとこまで墜ちてくれた。
あんなことを思う僕に、彼女の親友でいる資格なんてあるのか?
「テイオーちゃん」
『なに?』
「……ごめん。やっぱりなんでもない」
『えー、またー?』
テイオーちゃんは笑っている。それはとてもいいことの筈だ。僕にとっても。
──────────────────────
「……招!?来てくれたの?」
「うん。今日休みだし」
春のファン大感謝祭。ウマ娘を応援するファンに向けてトレセン学園で行われる催し物。
地元から東京までは少し遠かったが、テイオーちゃんに会えるとなれば行かない理由がなかった。
「せっかく来たんなら、ボクのレース見てってよ!絶対一着獲ってみせるから!」
「分かった。楽しみにしてるよ」
──────────────────────
観客席で待機しているとその時間はすぐにやってきた。
レモネードを片手にコースを見やる。種目別競技大会とは違い、様々なギミックが用意されていた。
〈それでは……スタートです!〉
生徒らしき実況の掛け声と同時に数人のウマ娘が駆け出す。その中でもやっぱりテイオーちゃんは格別だった。
「……かっこいいなあ、テイオーちゃん」
いくつもの障壁を乗り越えて彼女は進んでいく。僕以外の観客もその姿に見惚れていた。
──やっと同じとこまで墜ちてくれた。
「……っ」
あの日感じた黒い感情が波のように襲ってくる。ささくれ立つ心は平常心を失い、煩くせき立てた。
……言わなければ。一着おめでとうと。かっこよかったと。そうしてしばらく瞑目していると──
「?」
ポケットに振動。メッセージでも来たのか?
《後で校舎裏来てくれる?》
一体何があると言うのだろう。やや心配に思いつつも、了承のスタンプを返した。
──────────────────────
「あ、来た来た。招ー、こっちだよー」
春のファン大感謝祭といえど流石にここまで入ってくる人はいない。校舎裏には僕たちを除いて誰もいなかった。
「おめでとうテイオーちゃん。さっきはすごかったよ」
「えへへ、ありがとう」
「……ところで、なんでここに呼んだの?」
「話すよ。その前に、ちょっと座ろうか」
促され、座る。辺りはとても静かだった。
「招、最近悩んでいることない?」
「……悩んでいること?」
オウム返しをするが──的中していた。動揺を悟られないよう隠すだけで必死だった。
「……どうして分かったの?」
「分かるよ。親友だからね」
痛み。
彼女が僕を親友と呼ぶ度、あの時の背徳的感情がぶり返す。
「僕、は……僕は……」
怖い。
これを言って、彼女に幻滅されるのではないか。絶交されるのではないかと、ひたすらに濃い恐怖がやってくる。
「言いたくないなら言わなくてもいいよ。ボクは大丈夫だから」
逃げ道を用意してもらった。なら、それに甘んじて閉口したいが……それはもっとダメだ。
こんな、後ろ暗い感情を隠し通したまま付き合う関係を友情とは呼ばない。真に彼女の親友になりたいなら、全て包み隠さず打ち明けるべきだ。
「僕は……ずっと、テイオーちゃんが羨ましかった。僕に無い輝きを持っていて、な、なんでも、できて」
彼女は僕にとって太陽だった。決して届かない、近づけば焼かれてしまう強すぎる光。
「だ、だから……だから、あの日、テイオーちゃんが泣いてるのを見て思っちゃったんだ。やっと、僕と同じとこまで墜ちてくれた、って。……それでこんな僕が、テイオーちゃんの親友でいいのかって、思って」
言い終わって、僕は目を伏せた。彼女を見ることができなかった。
静寂が痛い。罪の意識で潰れてしまいそうだった。
「話してくれてありがとね」
彼女の声色は穏やかだった。こんな、最低な告白を受けたばかりだというのに。
「招はさ、自分のすごさに気づいてる?」
「僕の……?」
分からない。僕の強さがどんなものなのか、自分を否定しているばかりの僕には分からない。
「ちっちゃい頃からそうだったけど、招、どんな目に遭っても絶対に諦めようとしなかったじゃん」
諦めの悪さ。それがどう強みに繋がっていくというのか。
「正直、キミのそういう所が、ボクにとっては眩しかったんだ」
「どうして……?僕は結局何もできなかったのに」
「そんなことないよ。だって現に、招はボクを引っ張り上げてくれたじゃん。本当にボクの堕落を望んでいたとしても。招がすぐに諦めて頑張ることをやめるような人間だったら、今ここにボクはいないし」
そう言われても素直に受け入れることはできなかった。たとえ彼女からそう言ってもらえても、僕は自分を認めてやれない。
「それにね、いくら不出来だったとしても、キミはボクの憧れだったんだ」
「……あこが、れ?」
テイオーちゃんは僕の憧れだった。絶対的で、確乎たる存在。その彼女が、僕に憧れていたというのか?
「招は自分を受け入れられないんだよね。だったらそれでもいいと思うよ。代わりにボクが招を肯定するから」
「なんで、そこまで」
「言ったじゃん。キミはボクの親友だからだよ。資格があるとかないとかじゃない。友達だから、今まで支えてもらったし支えたいって思ったんだよ」
言葉がストン、と腹の底へ入っていく。いいのか?こんな、僕でも。
「……嫌わないの?」
「嫌う理由が無いよ」
いつか封じた筈の涙がこぼれ落ちる。どこまでも溢れ出て、際限がなかった。
「…………っ、…………僕は」
そうだ、僕は。
「僕は、テイオーちゃんの幼馴染みに相応しい人間になりたかったんだ」
だからずっと努力をしてきた。隣に並んで立てるような、誇らしい人間になりたくて。
「ありがとね、招。もう大丈夫だから」
それから休憩時間が終わるまで、僕はテイオーちゃんの隣で泣き続けていた。
──────────────────────
「早かったなあ」
「だね」
高校三年間はあっという間だった。時には赤点を取りそうになった時もあったが、テイオーちゃんと友人の二人に教えてもらうことでなんとか危機を乗り越えてきた。
「じゃあな、招。頑張れよ」
「うん。今までありがとう」
友人は大学へ行くらしい。なんとなく思ったが、もう会うことはないのかもしれない。
手を振ってから、踵を返した。
──────────────────────
「ただいまー……」
「ん、お帰り招」
僕が声をかけた相手は父さんでも母さんでもない。
「どうだった?」
「やりがいはあるけど大変だった……。テイオーちゃんは?」
「サークルで優勝したけど、打ち上げの二次会行く前に帰ってきちゃった」
僕とテイオーちゃんは同棲していた。何故こうなったのか、事態は数ヶ月前に遡る。
『招は上京するの?』
『うん。仕事場がちょうど東京にあるし』
『じゃあさじゃあさ、ルームシェアしない?』
あっさりと段取りは終わり、僕たちはルームシェアをして過ごすことになった。もちろん双方の両親に連絡済み。
「今日は鍋にしたんだ。夕ごはん、まだでしょ?」
「じゃ、いただきます」
テイオーちゃんの万能ぶりは料理でも健在だった。手羽元の入ったスープを飲むと、体がポカポカと温まった。
「……おいしい」
「でしょでしょ!あ、はちみーも買ってあるんだ!」
僕は夜まで仕事。テイオーちゃんも大学に加えバイトに明け暮れる日々。小学校時代のようにいつまでも一緒にはいられない。
きっといつまでもこうはいかないだろう。お互いに恋人ができればこの生活には終わりが来る。僕たちが親友なことに変わりは無いが。それでも、今はただ目の前の幸せを享受していた。
「ねえ、テイオーちゃん」
「どしたの?」
二度。この質問を試みようとしてやめたのは二度だが、今なら言える。
「どうして僕の友達になってくれたの?」
「え?うーん……家が隣だったからっていうのもあるけど……」
問いているのはそのもっと奥深くの理由。愚図な僕と、何故友達に……しかも親友にまでなってくれたのか。
「覚えてるかな~……。招、幼稚園の頃すっごいフレンドリーだったじゃん」
「……そうだっけ」
「きっかけはその時だったけど……小学生くらいからかな。招、よそよそしくなる時はあってもずっとボクの傍にいてくれたじゃん。だからボクも自分を出していけるようになったって感じかな」
「そうなんだ」
胸の奥がじんわりと温かくなる。僕の努力は、きっと無駄じゃなかった。
「だからこれからもよろしくね!ボクのベストフレンド!」
差し出された手。その手を、しっかりと掴んだ。