貞操逆転世界でも俺の日常は変わらない。   作:YUUKI

6 / 9
第6話 イッツ......?

 自慢じゃないが俺は多趣味だ。ゲームに配信、読書や料理、音楽まで手広くやっている。あくまでも趣味の範囲内なので、それを極めている人には勿論勝てないが、その中の1つに「ライブ」がある。勿論する側ではなく見る側だが。

 しかしこれと言った推しバンドはなく、推しライブハウスもない。下北沢や新宿、池袋等に行ってふらりと夕食の場所探しながらライブハウスを探して、17時過ぎにチケットを売り始めるライブハウスを見付けて適当にライブの当日券を買って見る、というのが趣味だ。

 

「そーいえば逆転してからは行ってないなぁ......」

 

 世界の貞操観念が逆転して1ヶ月。段々とこの世界にも慣れてきた。まだ2月なので外は寒く、出るならジャケットを着ていくのがいいだろう。

 最近はバイトと飲み以外家から出ていない。ゆーちゃんのBARに飲みに行ったのも片手で数えられる程だ。理由は、飲みに行くと陽菜がセットで付いてくる事が多くゆーちゃんのBARに行き辛いのと、1人飲みする機会が減ったからだ。配信業が忙しいのもある。

 実は最近、チャンネル登録者が100万人を超えた。まさか自分のチャンネルがここまで伸びるとは思わず、日々伸びるチャンネル登録者にビックリしたものだ。それ関連でコラボ依頼やゲームの紹介依頼、周辺機器紹介依頼等も増え始めている。完全個人の個人勢にはそれを捌くだけでも一苦労だ。ちなみに収益化はまだ通っていない。一応条件はクリアしていて、申請しているのだが......

 まぁ今日やる事は終えているし、配信関連のメッセージのやり取りもない。バイトは休みだし......久しぶりにライブハウス探しするかぁ。

 

 今日は池袋でも行こうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車で揺られる事1時間、周りの奇異の目がチクチク刺さる。逆転してから電車に乗るのは初めてだが、異性にこんなに見られるのは初めての経験だ。身長が高いので威圧感があるのも理由として挙げられるだろう。

 プシューと閉まるドアを背に頭をポリポリかく。斜めがけのバックを背中に回して歩き出す。改札を通り人通りの多い道に出る。

 

「おぉ〜」

 

 流石に大都会と言った所か......見渡す限り人だらけ。そして電車程では無いが奇異の目が多い。まぁ逆転前で言うならば超高身長女子だから、目立つのは仕方ない。俺の住む江ノ島は全国から人が来る観光地な上、外国人観光客も多く高身長な人は割といるから紛れ込めてたが、こう日本人ばかりの場所だと俺は浮いてしまう。

 逆転前から身長のせいで奇異の目を向けられなかったか? と聞かれたら向けられましたと答えるが、明らかに貞操観念逆転現象のせいでその目が増えている。だが、この1ヶ月で気付いた事もある。頭の中で情報を整理しながらブラブラ目的地もなく歩く。

 前にも言ったが、少し歴史上の英雄の性別が変わったりしているくらいで、男女比に偏りはない。ファッションも違いはなく、男がスカートを履いたりはしていない。さっき乗った電車に「男性専用車両」というものがあったが、アレは前の女性専用車両の逆転版という感じだろう。

 

「そこのお兄さん」

「ん?」

 

 色々考えて歩いていたら、目の前に地雷系メイクの女子が2人立っていた。

 

「この後ひま?」

「私達と遊ばない?」

 

 逆ナンだ......! い、いや違う。普通のナンパか。ここは逆転世界なのだから。

 とはいえ身長が高いだけのフツメンでもナンパされるのか。見たところチャラい系のチャラ......女? なのか? 地雷系は元々チャラいかミーハーかに分かれるが、逆転後の地雷系って逆転前で言うなんなんだ......? さっきも言ったが逆転現象でファッションに違いは生まれていないので、いつも通り男性より女性の方がファッション豊かだ。何故かは分からんが......まぁそこはそもそも何故貞操観念が逆転したのかという理由に繋がるので考えないでおく。

 

「ごめん。今日はちょっと......その〜......」

「え〜? じゃあLINE交換しようよ」

「私達ここら辺詳しいから暇な時案内するよ?」

「う〜ん......」

 

 ナンパ女子にタジタジになっていると、スルリと間にベースケースを背負った女子が入ってきた。

 

「ゴメン。この人ウチのツレなんだわ。解散してくれる?」

「......はぁ〜?」

 

 誰......? 帽子を深めに被った身長170cmくらいのベース女子。身長150〜160cmくらいのナンパ女子より少し高く、俺と比べたら低い。勿論だが知り合いにこんな子はいない。

 

「誰アンタ」

「この人のツレ。この後予定あンだよね。あんましつこいとこっちも出すもん出すよ」

「......フンッ。お高くとまって......」

 

 地雷系女子2人組は踵を返し、雑踏の中に消えていく。完全に姿が見えなくなったのを見計らって、ベース女子がこちらを振り向く。

 

「いや〜危なかったッスね〜。大丈夫スか? おにーさん」

「うん......大丈夫です。ありがとうございます」

「別に大丈夫ッスよ。おにーさんカッコイイから目ェ付けられちゃいましたね!」

「あはは......そうですかね?」

「そうッスよ! じゃ、私は予定あるんでもう行くッスね!」

 

 サヨナラー! と手を振りながらどこかへ行くベース女子の背中を見る。

 

「......アレが本物のイケメン......というかイケ女という奴か......」

 

 名乗る程の者では無い......という奴だろうか。サラッとナンパから異性を助けサラッと褒めて最後は後腐れなく去っていく。イッケ女〜!

 

「さて」

 

 一悶着あったがそれはそれこれはこれとして、夕飯を何にするか考える。ライブハウスに入るとしてもまだ16時頃だし、当日券もまだ売ってないだろう。人気度合いにもよるが......探すにしてもまだ早い。またブラブラ歩いていると、良さげなカフェを見付ける。どうやら新店舗のようで、開店祝いの花が沢山置かれている。

 

「いらっしゃいませー」

 

 中に入ると、1人の客から老年カップルまで多種多様な人が食事を楽しんでいた。案内された席に座って、メニュー表を開く。

 どれも美味しそうだが......このメニューの1番上にあったドライカレー(1300円)とアイスコーヒー(500円)にしよう。

 

「すみません」

「は〜い」

 

 パタパタと女性店員が小走りで走ってくる。

 

「このドライカレーと、アイスコーヒーください」

「ドライカレーとアイスコーヒーですね。辛さは如何がよろしいでしょうか?」

「辛さ?」

 

 よく見ると、5段階の辛さがあるらしい。俺は辛い物は苦手だが好きなんだ......ここは3にしよう!

 

「3でお願いします」

「かしこまりました。アイスコーヒーは食前と食後如何しますか?」

「食前でお願いします」

「かしこまりました! 只今お持ちしますね」

 

 その後すぐにアイスコーヒーが来て、それを飲みながら待ってたらドライカレーが運ばれてきた。

 食べた感想だが、3は少し俺には辛過ぎた。次ァ2を買うといい......

 腹も膨れたし、ライブハウス探ししますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ。ここいいねぇ。」

 

 17時半頃、池袋の路地裏にあるアングラ系のライブハウスを見付ける。入った事のないライブハウスだ。ここまで入った事のあるライブハウスをいくつか見てきたが、今日はライブをやっていなかった。ここはやっているだろうか。

 地下に続く階段を降りて、「OPEN」の文字が書かれたドアを開く。

 

「......いらっしゃいませ」

「どうも。今日ライブやってますか?」

「はい、やってますよ。当日券のお客様ですか?」

「はい」

 

 その後いくつかやり取りをして、チケット当日券(1500円)を買ってライブハウスに入る。

 中はMAX300人程の中規模ライブハウス。見た目より広かった。客も多い......なんて考えていると、トントンと背中を叩かれる。振り向くと、つい2時間程前にナンパから助けてくれたベース女子が立っていた。ベースは持ってないが。

 

「おにーさんさっきぶりッスね。もしかして私の事()けてきたんスか?」

 

 ニヤニヤと、答えが分かりきっている質問をする。

 

「そんな訳ないじゃないですか」

「あら、やっぱり? てかタメ語でいいッスよ〜多分私の方が年下スし」

「そう? てか本当に尾けてきたって言ったらどうしてたの?」

「えぇ......? いや、別になんにもしないッスけど......」

 

 少し目が泳いだのを見逃さないぞ! しかし、それを口に出す程野暮ではない。

 

「前はベースケース背負ってたけど、もしかしてライブするの?」

「するッス! 大トリなんで楽しみにしててくださいよ〜!」

「へぇ〜いいなぁ。ジャンルは?」

「プログレッシブ・ロックッス!」

「珍っ!いま幾つ?」

「16ッス! おにーさんは?」

「22歳だよ」

「へぇ〜6つ上かぁ」

 

 そんな他愛ない話をしてると、ライブハウスの電気が暗くなる。そろそろ始まるようだ。

 

「おにーさん1人ッスか?」

 

 小声でベース女子が話しかけてくる。

 

「そうだよ。君は大丈夫なの? 合わせとかしなくて」

「もう終わってるんでバッチリッスよ。おにーさんさえ良ければギリギリまでお付き合いしますけども」

「是非是非。ライブは色々行ってるけどこのライブハウスは初めてだから色々教えてよ」

 

 順繰りに出てくるバンドを紹介してくれるベース女子。暗くてあまり見えないが、改めて見ると整った顔立ちをしている。ゆーちゃん程じゃないが中々ボーイッシュな感じだ。

 

「どうしました?」

 

 俺がバンドじゃなくてベース女子ばかり見ていたから不審がられたようだ。

 

「あぁごめん。君知り合いに似てて」

「私がッスか? こ〜んな美少女の知り合いがいるとはおにーさん良い人脈をお持ちで〜」

 

 明らかに機嫌が良くなった様子を見て安堵する。変な顔されなくてよかった......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そろそろ出番みたいッス。見ててくださいッス!」

 

 staff onlyの扉からこちらに手招きする恐らくベース女子と同い年くらいの女子を見て、ベース女子がこちらに手を振りながらその扉に向かって歩いていく。

 楽しみだなぁ。

 

 

 

 

「澪、あの男の人知り合い!? 超イケメンじゃない!?」

「イケメンなのは否定しないッスけど......知り合いというか、夕方ナンパから助けたんスよ。ライブハウスに来たのは偶然らしいッス」

「本当に〜? 澪可愛いから心配だよ」

「ふふん。まぁそれ程でもあるッスね」

「なぁに話してんだ。澪、来たならさっさとベース持て」

「はいはい......」

 

 相棒の清くんを担いで、チューニングして舞台に上がる。

 

「どうもーWater horse(ウォーターホース)です!」

 

 ワーワーと声が上がる。少ないが私達目当ての客も居るらしい。先程のおにーさんは身長がめちゃ高いので直ぐに見つけられた。というか場所を移動していないので分かった。

 

「今日はここ池袋knowで7回目のライブでーす! 学生ガールズバンドとして活動し始めてそろそろ1年経ちますが、皆さんそろそろ私達の事覚えてくれましたか〜!?」

 

 ギター兼ライブMCの灯火秋(ともしびしゅう)がマイクを観客に向ける。多くは無いが少なくは無い歓声が帰って来て秋も満足しただろう。

 

「それじゃー私達が盛り上げて行くんで、楽しんで行きましょー! 1曲目【雨のち晴れ】!」

 

 みんなで顔を合わせ、ドラムのカッカッカッカッと小気味いいカウントが始まる。




Water horseは誤字じゃないです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。