貞操逆転世界でも俺の日常は変わらない。 作:YUUKI
ちょっと薄いけど......
身バレした時よりドキッとした。なぜなら、その日はXデー。貞操観念が逆転した日なのだ。目だけで膝の上にある頭を見るが、表情は見えない。
「な、なんで......?」
「お前、なんか変なメッセージ送ってきただろ。LINEで」
後から送信取消しようと思ったが、そう思った時には既に取消出来なくなっていた。なので忘れててくれと思っていたし、1ヶ月前に当弦くんが聞いてきてから2人から聞かれることは無かったから、忘れてくれたのかと......
「それが?」
「アレからずっとずぅっと考えてたんだよ。あの日だろ、MyTubeの視聴者が増え始めたの」
「......」
「んで、あの日から様子がおかしいって陽菜から聞いたんだよ。朝陽は知らないけどさ、陽菜結構1人で飲みに来たりすんだわ。1月22日を境に、朝陽の取り巻く環境が変わったんじゃねぇかなって」
......気付い、てる?
言うべきか? 俺以外の貞操観念が逆転してる事を......
「でも、さ」
「............」
「朝陽がなんも言わねぇなら、私はそれでいいと思ってる。」
え?
「確かに1月22日を境に朝陽は変わった。変わったけど、別に悪い変化じゃない。私の好きな朝陽はなんも変わってねぇ。」
「......」
「朝陽にとってデカイなんかがあったんだろ。私や当弦にも話せねぇ様な事が。それを無理に話してくれとは言わねぇ。気になる事っつーのも、その事なンだけど、まぁノリだわな。話してくれるならヨシ、話せない、話したくないならそれはそれでヨシ。私はお前に恩返ししたいんだ。朝陽がなんか抱えてるなら一緒に背負ってやりてぇし、苦しんでるなら分けて欲しい。でも、この1ヶ月でそうじゃない事はわかった。配信で見る朝陽はいつも楽しそうだし、陽菜から聞く限りバイトで苦しんでる様子もない。ウチに飲みに来てる時も特に変わった様子はない。なら、それでイイ」
「......ゆーちゃん」
「こンな事態にならねぇと話せない弱い私を許してくれ。でもな朝陽、世界がどうなろうと、私の気持ちは変わらねぇ......ずっと一緒に居ような。それだけ言いたかったんだ」
「その......気持ちって言うのは......」
「さっきも言ったろ。好きだ朝陽。7年前からずっと愛してる」
顔に血が集まるのが分かる。
こちらに顔を向けたゆーちゃんの顔は恍惚としてて俺の頬に添えられた手は酒の力もあり熱を帯びている。
「でも俺......ゆーちゃん......」
「分かってるよ。お前が私の事そういう目で見てないって事くらい。私は1年の時からずっと好きだけどな!」
その時のゆーちゃんの笑顔は、眩しくて。思わず泣きそうになってしまう。
「だから、今から絶対にお前を振り向かせてやる。伊達に7年片思いしてねぇんだ。今更数年待つくらい簡単だよ。心から惚れさせてやるからな」
身体を起こして、俺の頭を抱き締めるように抱えるゆーちゃん。その体温はとても高くて。心臓は張り裂けんばかりに鳴っていて。
「ハハッ。めちゃくちゃ緊張したわ」
「......俺もしてる」
「そっか。なら、まず第1歩だな」
『当弦ンンンンンンンンンンン!!!!!!!!』
「うるさァァァァいいいい!!!!!!」
ピチチと鳥の鳴く神奈川の郊外。俺はあっくんからの鬼電で否が応でも目を覚めさせられた。うるさ過ぎる。こんな鬼電今まで無かった。マナーモードにしておけば......!
しかも開幕大音量のカッスカス声で叫んだもんだから、怒りで怒鳴り返してしまった。
「なんだよなんなんだよ!! うるさい!」
『当弦、当弦。ヤバい。言っちゃった! 言っちゃった!!』
「何を! 誰に!?」
『好きって!!! 朝陽に!!!』
「おいマジか嘘だろ!?!? それでどうなった!?」
『お、おおおおお覚えてない!!』
「......え、は? 何?」
『い、あ、い、いや。その。マジで覚えてないんだ』
口振りからして本当らしい。片思い7年に終止符が打たれると思ったのに......!
「落ち着け、事のあらましを教えてくれ。まずなんで好きって言ったのだけ覚えてるんだ?」
『いいい、いや、実は好きって言った事も覚えてないんだ......』
ゆっくり語られた昨晩から今朝にかけてのあらましはこうだ。
「ん......寝てたか......」
昨日は客に付き合って浴びるように酒を飲んで、1時くらいに「こりゃダメだ」と早めの店仕舞いをしたんだ。その後も2階でビールを飲んでて......飲んで......どうしたんだったか......
眠気まなこを擦りながら起き上がると、隣で誰か寝ているのが分かる。それが朝陽な事を認識した途端、顔が猛烈に赤くなる。
慌てて自分と朝陽の衣服を確認。乱れた様子はない。ベッドも特に変わっていない。その事に少しの残念と大きな安堵が訪れた。処女を捨てる瞬間を覚えてないなんて最悪は免れた。ついでに朝陽との友人関係も守られた。
「朝陽、起きろ」
「ん......」
1ヶ月ぶりの朝陽の寝顔もそこそこに、朝陽を起こす。朝陽は身体を起こして、ここがどこだか把握した後、さっきの私ぐらい顔が赤くなった。
「お、おはようゆーちゃん」
「おう......なんだよ。余所余所しい......私なんか悪い事したか」
「え......あ、覚えてない?」
「覚えてない? なんの事......覚えてないが」
「その〜あの〜......ゆーちゃんが、俺の事......」
「......?」
「好きって......」
「!?」
「愛してるって......」
「!?!?」
「ずっと一緒に居ようなって......」
「!?!?!?」
「心から惚れさせてやるって......」
「!?!?!?!?」
「いや、ガチで覚えて無さそうだから俺も覚えてないフリすれば良かったんだけど、それはそれでゆーちゃんの気持ちを裏切る事になるし......」
「あ......え......え......」
「いや、俺も考えたんだよ。俺ゆーちゃんの事どう思ってるかって。でも、やっぱり俺の中でゆーちゃんは親友で。でも」
「わーーー!!!!! あーーー!!!! 悪い!!! 今日は帰ってくれ時間が欲しい!!!」
「わ、わかった。わかったから押さないで」
テキパキと帰る準備をする朝陽を後目に私の頭の中はエクスクラメーションマークとクエスチョンマークの嵐だった。本当に何も覚えてない。私は酒には強い方だ。二日酔いした事がない。しかし記憶を飛ばした事は何回かある。昨日は客と深酒をした後更に1人で飲んで......飲んで......ど、どうして?
朝陽に私の気持ちは気付かれてなかった筈。更に朝陽がこんなタチの悪い冗談を言うわけが無い。つまり私が私の口で私の意思で喋ったと言うこと。は???? マジで????
「じゃあ、今日は帰る......」
「......ま、またな」
「うん」
パタン、と扉が閉じられる。
「..................」
ダ、ダメだ。私の手に負えない。こういう時......そうだ!当弦!!
明らかにアルコール以外の理由で震える手でスマホをタップして数少ない友人に電話をかける。何回かけても出ないが、出るまでかける。今思うとこの時の私は頭が正常に機能してなかった。
『............もしもしィ!?』
「当弦ンンンンンンンンンンン!!!!!!!!」
『うるさァァァァいいいい!!!!!!』
『と、言う訳なんだが......』
「............」
コイツ......!
ホンマこいつ......!!
「なぁにやってんだお前!?」
『ご、ごごごめん!!』
「7年だぞ!? 7年!!!! お前が朝陽を好きになってから7年!! どんだけ持ち上げて舞台整えてやってもなぁぁぁんにも言えなかった拗らせ処女がついポロッと好きってぇ!? 愛してるって、ずっと一緒に居ようって、絶対に惚れさせてやるってぇ!?!? お前もうそれプロポーズじゃん!!!!」
『だ、だから困ってんじゃん!!! 私どうすればいいの!? 今後どうやって朝陽に接すれば良いの!?!?』
「知〜る〜かァァ〜〜!!!!! 知らん!!!!」
『冷たいな!! 応援しろよ!! 今後の身の振り方教えろよ!!』
「だから知らねぇよ!!! 俺だって別に彼女居ねぇし、居たこともねぇし!!! 当たり前だけどプロポーズもされた事ねぇ!!!」
『あ〜〜!!! それもそうかぁ〜〜!!!』
マジでコイツなにしてんねん!!!!
バックバクの心臓のまま部屋のドアを開け、椅子に座る。珈琲が飲みたいが、今熱いものを扱う作業をしたら火傷する気がする。今日はバイトもないし、ゆっくりしよう......
と、思ったが!
ゆっくり出来るわけねぇじゃん!
貞操観念逆転した時よりショックが......!
なんか世界並みの変化より、身内1人の変化の方がショックがデカいです......
誰かに相談したいけど......そうだ! 当弦くん!
そう思って当弦くんにLINEを入れたらブチギレられた。な、なんでですか......
「先輩、先輩」
「なんだ」
「なんかあったんですか。顔がずっと難しい感じですよ」
「悩み事があって......」
「なんでも聞きますよ。今お客様居ませんし」
「ん〜......」
翌日、俺はバイトに来ていたが本腰が入らなかった。必要最低限の仕事はこなすが、分かる人には分かるくらい眉間にシワが寄っていたらしい。
「......いや、なんでもない」
「本当ですか?」
「うん、大丈夫......じゃ、ないけど。陽菜に話す事じゃないんだよ......」
「そうですか......」
同じ異性の陽菜には話せないよなぁ〜。結局当弦くんもブチギレ返信しかしてくれなかったし。ワンチャンゆーちゃんから先に相談されてそっちで手一杯だったとか......?*1
シャーッと居酒屋の扉が開かれる。
「「いらっしゃいませー」」
俺と陽菜は笑顔でお客様を迎え入れる。
「よっ」
「よッ......よぉ」
3日後、俺はゆーちゃんのBARに来ていた。
時刻は深夜。午前3時過ぎ。店仕舞いの直後に来るようにした。やはり本人と話をするのが1番だ。少し所じゃなく気恥しいが、そんな事を言っていたら今後一切ゆーちゃんと関われなくなる。それは嫌だ。
「この前の事、話そうよ」
「......そう、だな」
ゆーちゃんの心做しか早く感じる〆作業を見て、2階に一緒に上がる。いつもここだし長くなるからどうせならゆーちゃんの家行こうよ、と言ったが、それは少しの間の後断られた。よくよく考えればそれもそうだ。告白した異性を答えを聞く前に自宅に上げる......しかも相手から提案されるなんて、何を考えているか分からないよな。顧みなければ......
ゆーちゃんはベッドに、俺はソファーに腰掛ける。ゆーちゃんは何も言わない。だから、俺から口を開く。
「俺、ゆーちゃんの事好きだよ」
「ッ」
「でも、恋かって言われると分からない」
ゆーちゃんと「そういうこと」をしたいか、と言われたら、そりゃまぁ、したい。逆転前の基準を唯一持っている俺は自分の童貞に価値を見出せないが、俺以外の人々から見たら童貞は守られるべきものなんだろう。それこそ逆転前で言う女性の処女と同じくらい。
それを伝えるのは簡単だ。己の性欲のままゆーちゃんを襲えば、ゆーちゃんはそれに喜んで答えるだろう。大好きな異性、しかも7年片思いした相手と望んだ形で性行為が出来ると聞けば、逆転関係なく喜ぶものだろう。だがそれは俺の望んだ形じゃない。
「......分かってるよ、朝陽。私も最初そうだった」
顔を上げて見たゆーちゃんの笑顔は、あの時を思い出す程眩しくて。
「私も最初、朝陽に恋してるって気付くのに時間かかった。今思えば、あの時は幼稚な反発精神だったな。お前と当弦と会うまで、私の世界に色は無かった。でもあの日、江ノ島の海に連れてってくれたお前は、太陽のように眩しかった。その太陽に瞳を焼かれて、私の世界に色が着いた。その恋心を、なんで7年も言えなかったのか......そして、なんでこの前言おうと思ったのか。それは私にも分からないけど。アレから考えて、なんとなく予想は出来る。私、1月22日の事、聞いたんだろ」
「......覚えてないって」
「うん、覚えてない。予測。ずっと気になってた「1月22日」の事を聞いて、そして1月22日を境に朝陽が変わったように、私も変わったんだと思う。その変化に呑まれたんじゃないかな。それが良い事なのか悪いことなのかは......今後次第かな。私から告白しといて都合良過ぎって思われるかもだけど、曖昧なまま返事は聞きたくない。覚えてないけど、本心だよ。ちゃんっと朝陽を私に惚れさせて、私のモノにしてからしっかり愛して欲しい。だから、今迄と同じくらい、でもちょっと恋愛寄りな付き合いをして行きたい」
「そうか......」
俺が言うべき事を、俺から出向いて相手に言わせてしまった。逆転後ならこれが正解というか、正道なのだろうが、逆転前の感性を持っている俺からしたら恥ずかしい事だ。幸いな事はそれを咎められる人がこの世に俺以外居ない事。情けない......!
「自信はあるぜ。伊達に7年片思いしてねぇんだ。朝陽の事は知り尽くしてる! だから、なぁ。そんな顔しないでくれ」
いつの間にかこちらに歩いてきていたゆーちゃんが、膝をついてソファーに腰掛ける俺の顔に手を当て視線を合わせる。
「私の好きな朝陽はそんな顔しねぇぞ」
「......ごめん」
「謝んな。お前は悪くない。なんか飲んでくか?」
「あぁ、そうするよ」
「答えは保留だけど、私の告白祝いだ! なんでも食って飲め!」
この後めちゃくちゃ飲み食いして、翌日のバイトに遅刻して怒られる松風朝陽と個人経営だから好きな時間まで寝た愛園美優であった。
時間経過で呼び方が変わったり色々......
朝陽、美優、当弦の過去編はいつかやります。
あ、全然終わらないですからね!?
まだまだ続きますからね!?
書きたいことまだまだあるからねぇ!?