「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
最上に迫る「新世代の走り屋たち」。
第1章はこれで終了、次から第2章になります。
元…十三鬼将のドライバー、裏切りのジャックナイフ、そしてブラッドハウンド。
更に<Phantom9>のドライバー、金色般若と紅童子。
ものの数日で彼らを破ったドライバーの存在はますます話題になっていく。
そしてそれに呼応するかのように…新世代のドライバーたちも、最上に接近していく…
金色般若と紅童子を倒した翌日、また最上は首都環状へ。
来る日も来る日も彼女は飽きずに首都環状へと挑み続けていた。
それはやはり、様々な相手を倒していくことに対して快感を覚えていたからだろうか…
今回は新環状左回りの有明入口からのコースインである。
推奨BGM:FEEL IT(from beatmaniaⅡDX10thstyle)
「(さて、今日も今日とて…ってあれ?)」
コースインしてしばらく惰性で走行していると、後方から自分の車を追って1台のマシンがやってくる。
アメコミのヒーロー風のペイントが施された…スイフトスポーツだろうか。
カーナビには「キャプテン・インダストリアル」と書かれている。
「Roadnauts」というチームのリーダーである。やはりこのドライバーも仇討ちに来たようだ。
湾岸線から深川線方面へと2台は進み、辰巳PA直前で後方からパッシングを受けた。
勝負を仕掛けられたのは言うまでもないだろう。
「(やっぱり来たか…ならば僕も断る道理はないね)」
相手がチームのリーダーである以上自分に挑んでくる可能性があることは十分にわかっていた。
だったらこちらとしても勝負を受け付けるというのが道理。
バトルを受け付けたところで2台の速度が一定状態…オートパイロットになり、2台のバトルが始まろうとしていた。
2台が辰巳PA横の1車線区間に入ったところでカーナビにカウントダウンが表示される。
3
2
1
GO!
「(前に出させないぞ…)」
スタート直後からアクセルを全開に踏み込む最上。
一方で後方のスイフトスポーツも必死に食らいついてくる。
パワーとしてはほぼほぼ互角なのかもしれない。
だが、1車線区間から2車線区間になった後に迫るのは…左ヘアピンコーナー。
「(この先のカーブでぶっちぎっちゃえ!)」
最上としては勝負所は既に決まっていた。
辰巳PA出口直後、2車線になる区間で右車線へスイフトスポーツを移動させる。
同じマシンであるならばテクニックでねじ伏せる…それくらいの心意気である。
自分のマシンなら、曲がる。
スイフトスポーツに乗ってまだ2週間も経っていないが、最上はここ数日の徹底的な走り込み…それこそ数百キロレベルのそれをしたことで、この車の性能を完全に知り尽くしていた。
首都環状にも土地勘がある以上、同クラスのマシンになら負けるつもりはない。
そう思った以上、最上は前方のヘアピンコーナーにアクセル全開のまま突っ込んでいく。
「―――!」
コーナー直前、130キロ出ているスイフトスポーツ。
最上はアクセルを踏み続けたまま、ハンドルを思いっきり左に切り続ける。
130キロくらいならアクセル全開でも曲がるだろう…そんな算段である。
右車線から左車線、ゼブラゾーンへと思いっきり突っ込むスイフトスポーツ。
綺麗な弧を描くように最上はアクセルを踏み続けながらもハンドルを調整する。
車線が2車線から1車線になっても、スイフトスポーツはゼブラゾーンを走り続けながら加速する。
コーナー脱出と同時にハンドルを徐々にニュートラルに戻し、そのまま湾岸線からの合流を経て再び2車線へ。
そこからは下り坂であり、長い長いストレート区間である。
「(ようし…あとは前に意識を集中して…)」
前方を走るは一般車の数々。
後方はもう見ずに、前方の一般車を避けることに集中しよう…最上はそう認識した。
コーナーをフルスロットルで加速していく中で立ち上がった最上のスイフトスポーツは、そのまま下り坂区間をジェットコースターのような勢いで加速していく。
コーナー立ち上がりの加速も相まって、その加速は通常のスイフトスポーツ以上のものと言っても過言ではなかった。
タコメータが7千回転になってレブリミットアラームが鳴り響くのと同時にパドルを引いてシフトアップ。
柔軟に加速しつつも、後方との車間距離を引き離していく。
速度は下り坂の高架もあって、枝川出口付近で170キロ以上まで加速していた。
後方のスイフトスポーツはこの時点で完全にといってもいいほど振り切っていた。
「(もう自分と同じマシンと同等のレベルのドライバー達なら楽に勝てるかな)」
長い長いストレート区間でスイフトスポーツをアクセル全開で走らせ、一般車両を左に右に避けて走らせる中で最上はそう思った。
自分と同等のマシンレベルなら、勝てる見込みというのはかなり高いようだ。
これまでに彼女は負けたことはないが、それでも今の自分ならどんな相手だろうと負けるつもりはなかった。
一方で彼女はこうも思っていた。
「(でも、それはあくまで都心環状線とかの場合だけ…湾岸線や横羽線ならあの車の方がいいのかもしれない)」
新たなる挑戦のために購入したRX-8。
湾岸線や横羽線でバトルをする際は基本的にあの車を使用している。
もし今後その速さが都心環状線や新環状ルートを走るドライバーたちも同等のものになったら…このスイフトスポーツでは限界が来てしまうかもしれない…最上はそうも思った。
今後は都心環状線や新環状ルートでもあの車を使おう…最上はそうふと認識するのだった。
スイフトスポーツが力の差を見せるかのように走る中、大手スーパーが最上の視界に入ったところでカーナビには「WIN」の文字が表示されていた。
やはり勝者は最上であるのは言うまでもないだろう。
スイフトスポーツはそのまま都心環状線へと向かい、いくらかバトルを仕掛けるのであった。
―――翌日。
「(もうそろそろ、この直線区間でも名の知れてきた頃かな)」
この日、最上はRX-8で湾岸線を北上していた。
コースとしては丁度大井の入口からのコースインである。
こちら側に仕事で来る理由があったとはいえ、湾岸線自体はあまり最上のテリトリーという訳ではなく、比較的珍しいコースだった。
だがそれでも、「首都環状」の範囲に含まれている以上…多少なりともパワーを含んだマシンで来るべきだろうと思っていた。
その為に投入したマシンこそ…つい先日購入したばかりのRX-8である。
チューニング自体はあのオヤジの言った通りほぼチューニングはされていない。
だがそれでも性能は悪くはない。
これまでに何チームか倒して実力を示すことが出来ていたからである。
それくらいなまでに、マシン性能は悪くない。
あのスイフトスポーツに比べれば確実にパワーは出ている…素で250馬力オーバーのマシンスペック自体は伊達ではないのだ。
そんな中でとりあえずは北上してバトル相手を探そう…そう思っていた。
カーナビには1つの青い矢印が表示されている。
どうやら自分がまだ戦ったことのないドライバーがこの先にいるようだ。
大井ジャンクションを右方向に進んだところで、そのマシンが見えてきた。
推奨BGM:大正吸血鬼奇譚(from pop'n music 解明リドルズ)
「(これは…軽自動車?)」
青色に塗装されたダイハツ・コペン。
マシンの見た目こそ抑えめだが、どこか風格を感じられる。通り名は…「トランスドライブ」と書かれている。
どうやらチームには属さない実力者のようだ。
レベルもそこそこ、実力があるのは間違えない。
だがどこかたどたどしさも感じる。
「(まあ、誰だっていいんだけどね!)」
走り屋たちを倒すことに快感を覚えていた最上にとっては、正直相手が誰だって構わなかった。
実力があろうと実力がなかろうと関係ない。
バトルで勝てればいいのだ。
どんな相手だろうと挑みに行くまで…正直それが本音だった。
コペンの後方に付けたところで、最上はレバーを捻ってパッシングする。
カーナビにバトル申し込みの情報が表示され、向こうからもバトル許諾の情報が送られてきた。
2台がバトルするとなったところで2台の速度が一定となり、3車線の中央をテールトゥノーズの状態でバトルが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセルを全開踏み込む最上。
3速からくん、と加速していくRX-8のハンドルをしっかりと握り、スリップストリーム状態に。
レブリミットアラームが鳴る都度アクセルリリースから素早くクラッチペダルを踏み、シフトアップ。
滑らかな加速も相まって、あっという間にコペンの右サイドに。
その加速を生かしたまま、RX-8は真ん中車線を走るコペンを右サイドからオーバーテイクする。
速度は170キロ以上まで加速する。
「(誰だって遠慮しないぞ…全開勝負!)」
最上は相手が軽自動車であるコペンであっても容赦をするつもりはなかった。
ここを走る以上どんな相手だろうと走り屋なのだ。
そうである以上、バトルでは常に全力を尽くすことが最上にとってのルール。
そうでもしないと、油断して負けてしまう可能性だってあるのだ。
2台はほぼテールトゥノーズの車間距離を維持しながら、東京港トンネル手前の右高速コーナーへと飛び込んでいく。
「(スピードが乗っていく…)」
湾岸線の広くて長いストレート区間である以上、RX-8の加速が自然と伸びていくのは当然の帰結。
新幹線高架下の右高速コーナーを、ハンドルを僅かに右に曲げつつも車線を維持しながらアクセル全開で抜ける。
普段のタクシーはオートマだが、元々タクシー会社勤務時はクラッチペダル付きのマニュアル車にも乗っていたので問題ない。
8000回転から9000回転程度までエンジンを回し、都度クラッチを切ってシフトアップさせている。
流石にある程度慣れていることもあって、加速自体はスムーズだ。
速度は直線区間という事もあって200キロ以上まで加速する中で、東京港トンネルの下り坂もあってそれ以上に加速する。
だがそんな中でも後方のトランスドライブのマシン…コペンはRX-8に食らいついていた。
東京港トンネルで最上がバックミラーを確認すると、そこには車間数メートルの位置に例のコペンがいた。
その様子に関しては、当の最上も驚くしかなかった。
「(食いついてくる…こっちは200キロは出ているのに!)」
今の対戦相手は軽自動車である。
コーナー区間であるならばともかく、ストレート区間では明らかにパワー不足のはず。
それなのに、食らいついてくる。
軽自動車には軽自動車の戦い方があるという事はわかっていたからこそ、最上にとっても予想外だった。
似たようなマシンであるスイフトスポーツでもそうなのだが、パワーが少ないマシンであるならば普通ならコーナー勝負であるはずなのに…まさかストレートでこのRX-8に食らいついてくるとは。
だが、幸いにも追い抜かれるほどのスピードではない。
追い抜かれるほどではないとはいえ、このままストレート区間がどこまでも続く状況では一瞬のミスで負けてしまうに違いない。
そう思った以上、何とかしたいと最上は考えた。
「(正直舐めてたな…くっそお、どうしよう。このままじゃジリ貧だ)」
東京港トンネルの出口が迫る中、上り坂でほとんど速度が上がらなくなった。
メーターには215キロと表示されている。
レースはそんな中で膠着状態となっていた。
バックミラーにはちらちらと青いコペンが映り続けている。
向こうもスピードが乗っているとはいえ、追い越すほどの加速力と最高速度はないようだ。
一般車両をスイスイとよけていく2台だが、最上としては長期戦に持ち込みたくはなかった。
すると、トンネルを出てフジテレビ前において最上はあることに気が付く。
「(これは…!)」
分岐の案内板。
レインボーブリッジ方面か、湾岸線方面か。
最上としては左に行けばカーブがあることを知っていた。
これまでにも何度か左方向に行ったことはあるのだ。
だが、バトルでは基本的に湾岸線方面。
そっちに行くことが珍しいのか、それともバトルではあまり向かわないルートなのか。
何にせよこの膠着状態を解消するためには、それも一つかもしれない。
アクセルを全開で踏み続ける中で、最上はある行動に移る。
「(ストレート勝負ならともかく…これならどうだ!)」
「(っ…!?左に!?)」
スイフトスポーツは左にウインカーを出して、一番左の車線から更に左方向へ。
有明ジャンクションにおいて最上が選んだコースは、湾岸線ではなく台場線。
新環状ルートの右回り方面へと舵を切ったのだ。
普通であれば新環状左回りに行くべきところを、最上はあえてその概念をぶっ潰すかのように右回り方面へ。
普通ならいかないルートへとトランスドライブを誘い込む。
台場方面へと向かう2台は、そのまま合流方面に向けて上り坂を駆け上がっていく。
そしてその上り坂を駆け上がった先には…左直角コーナー。
コーナーには一般車もおらずクリアな状態であるので、攻め込むことは出来る。
だがコーナー勝負では軽自動車であるコペンに有利だと思われるが、どうなるのか。
2台は200キロ以上のスピードでコーナーへと飛び込んでいく。
そして、コーナーまで数十メートルまで2台が迫った時だった。
「っ…!」
「(ここだ!)」
トランスドライブがブレーキングをしてワンテンポ遅れて、最上もアクセルオフからブレーキング。
わずかながらも例とブレーキングとなり、そのままコーナーの内側を目掛けてハンドルを一気に左に切る。
大きなチューンが施されている、という訳ではない以上マシンは意外と素直に曲がっていく。
アウトインアウトのラインを描きながら走るRX-8は、文字通り必要最低限の加速でコーナーを颯爽と走り抜ける。
だが、当のトランスドライブのマシンはというと…ブレーキを強く踏み込みすぎたのかブレーキロック、後輪を滑らせた。
後輪が滑る中で例のドライバーは必死にハンドルを操作していた。
「(速度を落としすぎた…離される!?)」
トランスドライブのマシンはどうやら強いブレーキングだったためかタイヤが滑り出し、結果として過剰減速してしまったようだ。
必要以上に左を向いたこともあってあわててハンドルを右に切り返してカウンターを当てる。
間一髪2車線のほぼ真ん中をもたつきながらも走り抜けていくコペン。
一方のRX-8はコーナーを思いっきり攻め、必要最低限のブレーキングで僅かにタイヤを滑らせながら立ち上がっていく。
速度差としてはもう言うまでもないだろう。軽く20キロはついているのではないか。
前方を走るRX-8はそのまま台場線からレインボーブリッジ方面へと疾駆する。
「(まさか…こんなあっさりと?)」
加速差で明らかな差がある以上、もはやトランスドライブには追い付ける見込みはなかった。
アクセルを全開で踏み込んでも…緩いロング高速コーナー区間では、到底追いつけるものではないのだった。
カーナビの体力ゲージがどんどんと減っていき…しまいにカーナビには「LOSE」の文字が表示されたのは言うまでもないだろう。
その時点で最上のRX-8は既にはるか彼方にいた事も記述しておく。
「(ふう、何とかなった)」
勝利した最上だったが、ハッキリ言って間一髪だった。
アクセルを抜き、クーリング走行へ。
先のバトルで水温も油温もそれなりに跳ね上がっていたが、一定速度で巡行させることで温度を下げていく。
だがここであることにも気が付いた。
カーナビの逆方向…横羽線方面にいくらか青い矢印が見えたのだ。
どうやら自分がまだあまり戦っていないライバルがいるようだ。
そんなライバルがいる以上…最上としては興味があった。
「(このまま汐留に行って、Uターンして横羽線に行くか…)」
汐留出口からUターンして横羽方面へと行くことを決めた最上は、マシンのクールダウンをしながらも…60キロという一定速度で走行させていく。
―――数十分後。
羽田トンネル中間部。
「(環状線から横羽線、羽田方面まで来たか)」
トンネル内で右車線を走るRX-8。
RX-8は小休止を挟みながら環状線方面から横羽線を南下していた。
横羽線のドライバーたちもある程度は倒しているが、ここに来て1台だけ青い矢印…まだ倒していないライバルがいたことが気になっていたのだ。
先程環状線でバトルしている時、首都環状全体のマップを見た時にそれが見えたのだ。
チームの数々をそれなりに倒してきたから、噂を聞きつけてやってきたのだろうか?
だがともかく、気になった以上最上としてはバトルをしたいと思っていた。
「(そろそろ見える頃かな…)」
カーナビの矢印が自分の車に徐々に大きくなっていくのを最上は見ていた。
一般車の間を縫うように80キロで走っていたが、もう間もなく視界に入るだろう。
そしてそのまま、トンネルを抜けて空港西出口付近に差し掛かったところだった。
推奨BGM:0時20分のRoulette(from GITADORA GuitarFreaks&DrumMania)
「(見えた)」
空港西出口横を通り過ぎた黒色のマシン。
車種としては…マツダのアクセラである。
このマシンが矢印の正体だろう。
カーナビには「プレイフルジェントルマン」と書かれている。
どうやら先の「トランスドライブ」同様にチームには属さないドライバーのようだ。
「(この黒いマシンが…?)」
最上としてはどこか違和感があった。
ここまでシックに決めたマシンは珍しい。
ブラッドハウンドや金色般若といった他のドライバー達でも、ここまでシックに決めたマシンという訳ではなかった。
スタイリッシュ…と言うべきなのか、そんなマシンである。
不思議な雰囲気であるのは間違えないだろう。
「(まあ、いいか。戦うべき相手なら…勝負!)」
どちらにせよ、最上にとっては戦うべき相手。
バトルなら普通に受けてくれるに違いあるまい…そう思った以上最上はRX-8を、左車線を走っていたアクセラの後方に付けた上で、レバーを捻ってパッシング。
バトルを申し込んだところで自動走行に入る。
「(来ましたね…それでは、It's show time!!)」
相手のドライバー…プレイフルジェントルマンは勝負を受け付ける覚悟だった。
相手のドライバー…「定時の精密機械」と書かれている。
ここ数日首都環状を騒がせている噂のドライバーではないか。
そうである以上、彼としてもバトルをしたいのは言うまでもないだろう。
ハザードランプを出してバトルを受け付ける。
2台はテールトゥノーズのまま羽田出口手前の左直角コーナーが迫る中で、カーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
カーナビのサインと共にアクセルを全開で踏み込む最上。
3速から4速へ、クラッチペダルを蹴るように踏み込んでシフトアップ。
だがそれでも、目の前のアクセラとほぼ加速は互角である。
スリップストリームに入っている中でほぼほぼ互角と言えばいいのだから、向こうの方が加速がいい。
「(速い!でもたしかこの先に…)」
140キロ以上まで加速する中で、前方のアクセラは左車線から右車線に。
そしてブレーキランプが点灯したかと思いきやそのままコーナーの内側に突っ込んでいくようにドリフトしていく。
どうやらサイドブレーキを引いてFFマシンであるアクセラを強引にドリフトさせたようだ。
スピードがあまり乗っていないこともあって、
一方の最上もアクセルオフから軽くブレーキを踏んで、ハンドルを左に切る。
こちらは典型的なグリップ走行…アウトインアウトのラインを描いて直角コーナーを駆け抜ける。
「(上手い…!)」
流れるような…滑らかなドリフトを決めたアクセラはそのままの勢いで加速していく。
グリップで現実に走り抜けたRX-8に対し、エンターテイナー的な走りをしつつも…その立ち上がりはFFならではの素早いもの。
130キロ台でコーナーを駆け抜けたRX-8は、アクセラを必死に追いかける。
アクセル全開でスリップストリームにギリギリはいるレベル…車間距離としては15メートル歩かないかのところを維持している。
最高速勝負ならまだ自分が有利かもしれない…が、加速では明らかに上。
そのまま大師方面へとストレートを駆け抜けていく中で、アクセル全開…時にクラッチを切ってシフトアップをしつつ前方のアクセラを必死に追いかける。
「(スイフトスポーツでポラリスに挑んだ時と同じような感覚だ…何とか後方で食らいつけているけど、どうにかしないと)」
スリップストリームにギリギリ入っている範囲だったこともあり、何とかアクセラに食らいつくことが出来ている。
だがそれでも加速は若干ながら向こうの方が上…FFならではの加速の良さを生かしているのか、車間距離が徐々に開いていく。
長いストレート区間で、RX-8はアクセラのスリップストリームの範囲ギリギリから外れかけているところを維持しながら追いかける。
そんな状況を維持しつつも前方のアクセラは大師出口横を通過しようとしていた。
最上はアクセルを全開に踏みつつ、アクセルを必死に追いかける。
「(このまま振り切ってしまえば…ん?)」
一方、こちらはアクセラのドライバー。
このまま加速差を維持すれば勝てるであろう、とドライバー…プレイフルジェントルマンは思っていた。
だが、その時だった。
料金所跡を前に、もたもたと右往左往する一般車…ハチロクの姿が。
酒酔い運転なのか、それとも首都環状初心者なのかはわからないが…明らかに不穏な動きである。
その予測不能な動きの前に、経験豊富なプレイフルジェントルマンですら動揺するしかなかった。
そして次の瞬間。
「(っ…!?)」
突如として自分の目の前に障害物として表れるかのように移動してきたハチロク。
こうなった以上強引でもブレーキを踏んで減速しなくてはクラッシュしてしまう。
咄嗟にアクセルオフからフルブレーキングをかけ、クラッシュを回避する。
だが、予期できない事態だったのか…ハチロク通せんぼされる形でそのまま料金所跡を通過する。
するとその時だった。
「―――!!」
料金所跡を通過したアクセラの横を、颯爽とRX-8がフルスロットルで通過していく。
どうやらこちらは一般車両や料金所跡に躊躇することなくそのまま突破したようだ。
70キロまで失速したアクセラに対し、RX-8はストレートの甲斐もあって180キロは出ていた。
「(油断した…!)」
プレイフルジェントルマンにとってはこちらが減速した以上向こうも減速すると思っていた。
だが度胸としては向こうが上だったのか、あっさりとギミック1つで追い抜かされてしまった。
失速の効果は大きく、あっという間に70メートル以上は車間距離が引き離されてしまう。
「―――」
一方、こちらは料金所を抜けた後のストレート区間を駆け抜けるRX-8。
料金所で失速したアテンザに対し、ドライバーである最上は210キロ出していても涼しい顔。
ここでしか抜くタイミングがないと思ったからか、それとも最初から仕掛けようとしていたのかはわからない。
だがどちらにせよ、最上にとってはこれは運が手繰り寄せたといっても過言ではないだろう。
カーナビ上の相手の体力ゲージはみるみるうちに減っていくのは最上でもわかっていた。
一般車両を避けつつも右高速コーナーをアクセル全開で駆け抜け、相手を置き去りに。
勝負はついたといっても過言ではないだろう。
「(もっとパワーを。この車でももっとイジらないと、湾岸線や横羽線では勝てない…)」
最上はRX-8を購入したことを正解だと思う一方で、この車を更にチューンしたいと思うのだった。
先程の料金所の出来事は、あまりにも自分には好都合すぎた。
一言でいえば運がよかった。
そんな博打なやり方ばかりでは今後勝ち続けていくことは難しいと思ったのだろう。
現状ほぼノーマルのRX-8では、今後勝てなくなる。
だからこそ、この車をチューニングしてもらう必要がある。
例のチューナーもここまでやればチューニングしてくれるだろう…そう思うのだった。
そう思う中で、カーナビには「WIN」の文字が表示されるのだった。
―――大黒PA。
先程のバトルを終えてPAで休んでいると、どこかで聞いたことのある声で話しかけられた。
まるで洋画の吹き替えや、テレビのナレーションのような……美しく張りのある声だ。
振り向くと、品の良い衣服に身を包んだ紳士的な男が立っていた。
「こんばんは!ごきげんよう!また来週!アナタ、定時の精密機械さんですよね?先ほどはどうもどうも!いやまったく、あれほどの強さをお持ちとは!ワタクシ、感服いたしました!」
「は、はあ…あれ?もしかしてさっきの…」
恭しく一礼しながら、立て板に水とばかりまくしたてる男に最上が少々面食らっていると、その後ろから背の高い女がおずおずと姿を現した。
「あの、こんばんは。驚かせちゃってすみません。私、さっきバトルしたトランスドライブです……覚えてますか?」
「えっ…あなたが?あの車の?」
「はい…」
「そしてワタクシが、プレイフルジェントルマン……“アチョーギしげる”でございます!一目見たら忘れられない、ハイセンスなマシン!紳士的でリッパな出で立ち!親の声より聞いた声!以後、お見知りおきを」
背の高い女性が軽く会釈し、同時に紳士的な男が執事のような振舞いで軽く頭を下げた。
最上としては話しかけられること自体は悪くないことだったが、少しだけ気になった。
「は、はあ…どうも。でも、お2人はどうして僕に?」
「実はワタクシたち、あなたにちょ~っとお伺いしたいことがあって来ました」
「伺いたいこと?」
「とりあえずお茶などいかがでしょう?先程のバトルもありますし、オゴりますよ」
「お茶?いいよ。聞いてあげる」
「ではでは、こっちに自販機があるので…お飲み物は何にいたしましょう?」
「そうだねえ…せっかくだしオレンジジュースでいいよ」
「かしこまりました」
プレイフルジェントルマンとトランスドライブに連れられて最上は自販機へ。
プレイフルジェントルマンはコーヒー、トランスドライブは烏龍茶、最上はオレンジジュースを買った。
互いが一息ついたところで、最上が口に開く。
「それで、2人は僕に話があるって?」
「ええと…あなたは、久遠のポラリスさんともバトルしたんですよね?」
「久遠のポラリス?ああ、そういえばバトルしたね…それが何か?」
最上がそう言うと、トランスドライブが一息ついてこう口にする。
「私たち、彼女と話してみたいんです。その……すごく魅力的な走りをする人だから」
「そうなんだ…あれ?じゃあまだ会ったことはないの?」
「いえ、それが…PAで声をかけても何も話してくれなくって…多分、怖がらせちゃったんだと思うんですが……」
トランスドライブ、そしてプレイフルジェントルマンはどうやら久遠のポラリスと面識はあるようだ。
しかし残念ながら、最上と同様うまくコミュニケーションは取れなかったらしい。
「そうだったんだ。久遠のポラリスとなら、僕も会ったんだけど…その時もあなたと同じように、大して何も話してくれなかったんだよね。やっぱり、あまり人と話すことが慣れていないみたいだね」
「そうだったんですね…すいません、急に押しかけちゃって」
「ああ、いやいや。気にすることはないからね」
「うーん。それにしてもなぜでしょうね?こんなに紳士的なワタクシと、“クルマに乗っていなければ”たいへん奥ゆかしいトランスドライブさん。そして…定時の精密機械さん。怖がられるような要素は、全く、これっぽっちもないと思うのですが!ねえ?」
プレイフルジェントルマンとしてはやはり疑問だったようだ。
基本的に性格のいい2人と最上。
そんな彼や彼女たちからしても久遠のポラリスと話をする機会というのはなかった。
すると、トランスドライブがどこか悩むようにこう言った。
「や、やっぱり…私のせいなのかな…?その、私、ハンドルを握ると性格が変わっちゃうタイプで、バトルの間は無我夢中になって、自分で自分がわからないっていうか……」
トランスドライブのその言葉に最上が食いつく。
「へえ、そうなんだ。じゃあさっきのバトルも?」
「は、はい…」
「トランスドライブさんの走りはこれまでに何度か見ておりますが…都度鬼気迫る、という形容がピッタリですね!ええ、ええ、誉め言葉ですよ、勿論!」
「は、はは…」
プレイフルジェントルマン曰く、トランスドライブのように、「バトルとなると人が変わる」というドライバーは珍しくもないようだ。
そんなお調子者の言葉に対し、トランスドライブ自身苦笑いする。
すると彼はまた言葉を続ける。
「ですがワタクシの見立てでは、久遠のポラリスさんは、そんなヤワな女性じゃあありませんよ…意外と硬派なタイプなのかもしれません。“言葉ではなく、走りで語る”、って。うーん、しびれますねえ!どうですか?」
「走りで語る、かあ…」
プレイフルジェントルマンは久遠のポラリスに対して惚れ惚れとしていたが、最上自身もそれに関しては「なるほど」と一定の理解を示した。
プレイフルジェントルマンとトランスドライブも興味を持っている「久遠のポラリス」。
それは、最上があの日出会った少女。
ここ数日首都環状の噂となりつつある最上自身も一目置いた彼女の走りに惹かれる者は、少なくないようだ。
再び彼女と出会ったその時、最上は言葉を交わすことはできるだろうか。
―――その日の夕方。
最上の仕事は基本的に仕事は夜からであったため、その前に最上はある場所に向かった。
都内某所にある貸し倉庫、底に目的地を決めていたのである。
RX-8に乗った最上は、例の倉庫へと向かう。
倉庫のスライドドアを開けた最上は、中にいたチューナーと対峙する。
「やあ、おやっさん」
「よう…電話をかけてくれたから何だと思ったら、随分と目つきが変わったようだな」
「えっ、そう?」
「ああ。それなりの実力者を倒してきたかのような目だ」
最上の目を見た例のチューナーは、実力を認めるかのようにそう口にした。
最上にとってはよくわからなかったが、どうやら彼にとって最上の実力は十分であると認められたようだ。
チューナーは言葉を続ける。
「お前が言いたいことはもうわかる。そろそろ車の限界を感じ始めたんだろ?」
「うん。本格的にRX-8で攻めていくから…あの車を速くしたいんだ」
最上はRX-8に対して速さを求めていた。
車の中身に関して具体的なことはわからないが、どんなコースでもオールマイティな速さを求めていた。
そんな最上に対し、チューナーはある判断を下す。
「くくく…お前さんがそこそこ強い奴らを倒してきているという噂は聞いている。ここまでくればもうノルマはクリアだ」
「ノルマ?」
「ああ。スイフトスポーツやRX-8に何度も乗って、確実に実力が付いただろうと俺は判断した」
「そうなんだ」
スイフトスポーツやノーマルのRX-8に乗っていたことが、最上の腕を確実に磨く要因になっていた。
ここまで腕をしっかりと磨けば今後彼女は速くなっていくことが出来るに違いない…それがチューナーの判断だった。
そうである以上、チューナーは最上にこう告げる。
「次のステージに行く準備は整った。さあ、車を入れな…お前さんの要望を叶える時が来た」
最上自身が更なるステージへと挑戦していくための新たな力が、RX-8というマシンに備わろうとしていた。
首都高のそれなりの実力者たちを軒並み倒した最上。
RX-8という新たなるマシンを強化することで、そのステージを駆け上がろうとしていた…
(第9話End)