「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で-   作:カービィ改二

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Forza Horizonの日本からようやく帰還…滞ってしまい申し訳ありません。
第10話です。
ステップアップを続ける最上の前に「女帝」が立ちはだかることになります。


走りの真意を求める者編
act.10「Rose(薔薇の女帝)」


渦巻く混沌―――――

答えを求める者たちに浮かび上がる一つの言葉―――"最速"。

見え隠れするその言葉は、実体はなく霧の中。

今はただ走るだけ…今はただそれだけで、心は満たされていく。

 

 

 

―――プレイフルジェントルマンなどとのバトルから2日後。

最上は例のチューナーにパワーアップを依頼していたRX-8を引き取り、マシンのシェイクダウンついでに首都環状へと繰り出していた。

チューニング内容は主にボルトオンターボ装着と足回りの強化だ。

足回りとしてはサスペンションをスポーツ走行向けのものに変更して、ブレーキパッドも交換。

おまけにタイヤもハイグリップなものに履き替えた。

一方でパワーに関しても受け止められるようにボルトオンターボと冷却系の強化が施されている。

全体的に手は施されているが、目玉はその2つ。

 

「(さて、試しにバトルを挑んでみるかな)」

平和島入口からコースインしたRX-8は早速ライバルの物色を始める。

試しにアクセルオンで加速し、マシンの状態を確かめる。

速度は60キロから一気に130キロまで加速した。

 

「(数日前よりも加速が軽くなっている…)」

スイフトスポーツに乗っていてパワー不足に泣いていた頃に比べると段違いに速くなっている。

あのスイフトスポーツも確かに速かったが、それでもあの車ではこの先ついていけなくなるだろう…そう思った以上、最上は1ヶ月もしないうちにRX-8へと鞍替えをしていた。

それはやはり、ストレート勝負では完全に食らいつけなくなると思ったからか。

とはいえ今のスイフトスポーツもいい車なので一旦取ってはいるのだが。

平和島から勝島方面へと走るRX-8。

週末故の一般車の多さの中をスイスイと加速していく。

だがそんな中で目の前にあるマシンが迫る。

 

推奨BGM:Fly With Me(from GITADORA GuitarFreaks&DrumMania)

「(あれは?)」

勝島出口横を通過し、化粧品メーカーの看板前の右直角コーナー手前で現れた1台のマシン。

前方を走るのはスバルインプレッサ…丸目のインプレッサである。

カーナビには「The Pleiades」のメンバー…「バードアイ」と書かれている。

どうやらライバルのようだ。

 

「(見たところ格上のマシンだけど…どうなるかな)」

最上は見かけからして相手の車が書く上なのではないかと思っていた。

実際それは当たりである。

相手はターボ付きの280馬力マシン。

見かけはあまりチューニングされていないが、勝てるか?

だがこちらのマシンは少なくとも300馬力は出るようになっているらしい。

チューニングしたマシンと元から高出力のマシン…果たしてどちらが速いか?

そうである以上、最上としてはバトルを仕掛けたいと思った。

そして次の瞬間にはレバーを捻ってマシンのライトを点灯…パッシングをする。

 

「(バトル?ようし…)」

パッシングされた相手…インプレッサのドライバー「バードアイ」は最上とほぼ同年代の若者である。

先輩から譲り受けたインプレッサで大学での研究のために走り回っているのだが、首都高も嫌いではない。

だが経験はまだ疎い方であり、実力としてはそこそこ。

とはいえ首都環状という環境である以上、バトルを申し込まれたら受けて立つのが基本。

そうである以上バトルに応じるのだった。

ハザードランプを点けて一定速度で走行する中で、右車線を走る2台のカーナビにカウントダウンが表示される。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

右直角コーナーを抜けたところでGOサイン。

それと同時にアクセルを全開に踏み込む最上。

前方には僅かな高速コーナーと長いストレートが交互する区間。

そうである以上、ここは純粋なパワーとスピード勝負。

アクセルを全開に踏み込んでインプレッサに追従する…かと思われた。

 

「(これは…)」

手入れが施されたRX-8は、速い。

下手に後方に付いても追突するだけ…そう思った以上、ハンドルをさっと左に曲げて追い抜きにかかる。

左車線に移ったRX-8は、2速から3速にシフトアップしてそのままGDB-Aインプレッサの真横へ。

そして…

 

「(速い!?)」

バードアイとしては驚くしかなかった。

自分より格下のマシンだが、加速では明らかに向こうの方が上。

おそらくチューニングがされているのではあるのだろうが、それでもこちらだって280馬力級のマシン。

そう簡単に追い抜かれまい、と思っていた…のだが。

実際は相手のマシンもそれなりに手が施されているようだ。

そして次の瞬間には…左車線からRX-8はインプレッサをオーバーテイクしていた。

やはり加速勝負では向こうの方に分があるのだろう。

決して手を抜いているわけではない以上、こちらも必死になって踏み込む。

車間距離が徐々に引き離される中、2台はモノレール横の直線区間へ。

長い直線区間で加速し続けるRX-8に対し、インプレッサは後塵を拝していた。

 

「(1日置いただけでわかる、このマシンの違い…すごいね)」

一方、ストレート区間でガンガンアクセルを踏み続ける最上は多少なりとも感心していた。

チューニングを依頼したことで車がパワーアップしているという自覚はあった。

だがそれを抜きにしても、格上のマシンにも負けないくらいの戦闘力を持っている。

それは、アクセルを踏んでハンドルを左右に曲げたところで早々に自覚できた。

それくらいに、速い。

60キロから200キロまでの加速が、以前に比べると確実に速い。

ものの数秒で200キロに到達できる程のマシンは、あまり車の事を考えない最上にとっても「速い」と実感できるようなものになっていた。

 

「(おおっと…)」

交通量は少ないものの、前方の一般車を右に避ける。

ハンドルをゆっくりと曲げるだけでもRX-8はその反応が良くなっているように思えた。

ノーマルの時に比べると明らかにスムーズに曲がるようになっているし、加速も最高速も上がっている。

それはやはり、例のチューナーがマシンに手を加えてくれたから…であるというのは最上でもわかっていた。

大井Uターンの下を潜り抜け、京浜運河横を走り抜けるRX-8。

ノーマル同然のインプレッサをバックミラーから消し去ろうとしている程の速さ…220キロを持ちながら、相手の精神力を削り取っていた。

とはいえ、車間距離としては70m以上は引き離されていた以上…勝負はついているも同然。

ストレート区間で最上はインプレッサを圧倒するのだった。

長いストレート区間で、RX-8のカーナビには「WIN」の文字が表示されていた。

 

「(例のオヤジは『これから適度にオレの元に来い』、って車のパワーアップを約束してくれたけど…現状これなら、もしさらに手を加えられたらどうなるんだろう…)」

カーナビの文字を確認した最上は、220キロからアクセルオフでRX-8を80キロまで減速させる中でふとそう思った。

最上には「チューニング」という言葉が分からない。難しい言葉よりも「車のパワーアップ」の方が馴染みがあったからだろうか。

だがそれでも最上としては、RX-8に手が加えられることは楽しみでもあったのだが…同時にどこか不安でもあった。

それはやはり、スイフトスポーツとは感覚が違うと感づき始めていたからだろうか。

自分の実力は確かに上がっているが、速くなっていく中で本当に制御ができるのか?

現状パワーで押していたが、あのスイフトスポーツと同じような速さを得ることが出来るのか?

そんなことを最上はふと不安に思うのだった。

 

―――とはいえこの後、最上はしばらく複数のライバルを物色して勝利を重ねていったことを記載しておく。

 

 

 


 

 

 

―――数日後。

深川線塩浜付近。

バトルに勝利した青色のRX-8が、クールダウンのために減速していく。

ドライバーである最上はまたしても勝利を重ねていた。

240キロは出せるマシンは、あっという間に80キロまで速度を落としていた。

勝利こそ重ねている最上のマシンは、徐々にではあるがさらに速くなっていた。

ボディの軽量化、エアクリーナーとラジエーターの高性能化、LSDの交換。おまけに排気量アップにトランスミッションの高性能化。

少しずつではあるが確実にマシンはチューニングされている。

馬力自体も上がっていく中で、マシンが徐々に変わっていくこともドライバーである最上でも実感していた。

マシンが確実にパワーアップしていく中で、最上も順調に勝利を重ねていく。

 

「(ちょっと驚いたよ…あの人は只者じゃないって思ったけど、まさか新車に乗り換えてイジってもらったらこうも敵がいなくなるなんてね)」

数日間バトルを重ねていく中で、最上はふと思った。

何でもチューナー曰く、「お金は現状ツケでいい」らしい。

最上にはチューニング費用がよくわからない。

だが彼はどうやらそんな最上に対して好意で車をチューニングしているようだ。

そんな彼によってチューンされたマシンを操ることで、絶対無敵…という訳ではないが、ライバルの速さのインフレにも最上はついていくことが出来ている。

そう思うと、最上としては感謝しかなかった。

何故首都環状の走り屋たちがバトルに明け暮れるのか…その意味が、徐々に分かってきたような気もする。

だが、クーリング走行する中で最上はバックミラーを見てあることに気が付く。

 

推奨BGM:HAPPY☆ANGEL(from beatmaniaⅡDX12 HAPPY SKY)

「(おっと、後ろからパッシング…?)」

カーナビにバトル申し込み情報が表示される。

「CUPID ARROWS」の「幻惑の白き妖精」と書かれている。

バトルを挑んできた、ということはやはりこれまでの事を考えると敵討ちという事だろうか。

 

「(チームのリーダーかぁ…それにしてもキューピッド?じゃあ女?)」

最上はあまりバトル相手の事を考えたことはない。

それはやはり、男であろうと女であろうとバトル相手には変わりがないからという事だろうか。

だがそれでも…バトルを申し込まれた以上断る道理はなかった。

後方のマシン…白い三菱エクリプスが後方にピッタリと付ける中で、カーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

大型スーパーが見えている中でバトルスタート。

2台が右車線を走る中で、後方のエクリプスが加速して左車線へ。

スタート直後の加速を生かして一気に追い抜きに来ている。

前方はクリアな中で、最初から仕掛けに来ているようだ。

 

「(コーナーで来るか、それとも…)」

最上はこの先に右から左への複合コーナーがあることを知っていた。

そこまでに攻め込んでくるか、それともコーナーで追い抜きに来るか。

だがどちらにせよ最上もアクセルを踏み込まないと追い抜かれてしまう。

アクセルを全開に踏み込む中で、2台は並走状態になりかけ…ない。

RX-8がノーズの部分だけリードして、その状態を維持している。

 

「(やっぱり互角だ。これなら…)」

ノーズだけリードしている以上、右車線から左車線へと飛び込む形でブロックすれば何とかなるかもしれない。

そう思ったところで、前方には複合コーナーの最初のコーナー…右高速コーナーが迫る。

速度が220キロまで乗る中で、最上のマシンがわずかにリードしつつ突入する。

 

「―――」

最初の右コーナーは緩いコーナーであるので、ブレーキを掛ける程ではない。

アクセルを少しだけリリースしつつ、わずかにハンドルを右に曲げて右車線上をRX-8は走っている。

だが問題は次の左直角コーナー…ここはブレーキを掛けなければ曲がらない。

コーナー突入と共に左車線のエクリプスがRX-8に迫ってくる。

こちらはアクセル全開で飛び込んでいるようだ。

サイドバイサイドに近いチキンレース。

次の左直角コーナーにおいてどっちが先にブレーキを踏むか?

すると、コーナーが迫るその最中だった。

 

「(…今だ!)」

バックミラーのエクリプスのヘッドライトが少しだけ小さくなった。

ブレーキを踏み込んだという事なのだろう。

それを見た瞬間、最上もアクセルオフからブレーキを踏み込むのと同時にハンドルをニュートラルへ。

一気に急ブレーキをかけたことでタイヤロックしかける中で、速度が220キロから170キロまで急減速。

そしてそこからハンドルを左に曲げてアクセルオン。

グリップを失ったRX-8はエクリプスの進路を塞ぐかのように右車線から左車線へと後輪を滑らせつつ旋回していく。

外側から内側へとRX-8は飛び込んでドリフトしていく。

 

「っ―――」

RX-8がドリフトしていく中で最上は、ハンドルを曲げた上でアクセルを思いっきり踏み込むことによって後輪がわずかにスリップするような感覚に陥ることに気が付いていた。

一言でいえばパワースライド。

ターボ化による大きなパワーを得たことによって後輪へ伝わるパワーも大きくなる。

結果そのパワーを受け止めきれないタイヤが滑り出すという事も起きていた。

コーナー内側のクリッピングポイントへ、勢いを維持したまま旋回するRX-8。

左車線から右車線に膨れる中でハンドルを右にわずかに切り返してカウンターを当てつつもアクセルを踏み込み続ける。

ハンドルを右に曲げてカウンターを当てていたこともあり、ドリフトアングルは徐々に収まる。

滑らかにドリフトを抑え、右車線に移ったところでRX-8は加速していく。

最上はそんな中であることにも気が付いていた。

 

「(タイヤが滑り出したところでハンドルを僅かに逆に切ると、結構いい感じで滑ってくれるんだよね。タイヤを滑らせるというのは、下手したら普通に走った時よりも速いのかも?)」

パワースライドによるドリフトからのカウンター。

タクシー運転歴が長いからこそ、タイヤが滑った時の対処法が分かっていた。

雨や雪でスリップしかけた時には、冷静に減速しながら滑り出した方向と僅かにハンドルを右に切ってカウンターを当てる。

そんなやり方を最上は雨の日も雪の日もタクシーを転がす中で、自然と身につけていた。

常日頃から車を操っている以上、キャリアは同年代の走り屋に比べても明らかに長いのだ。

滑らかにドリフトを抑えたRX-8はS字コーナー区間の加速から上昇気流に乗るかのように加速していく。

後方のエクリプスはグリップ走行だったらしく、コーナー出口から車間距離が引き離されていく。

福住出口方面へと思いっきり加速する中で、相手の体力ゲージはみるみる減っていく。

どうやらコーナーに飛び込んだことで相手と一気に差を付けることが出来ているのだろう。

 

「(さっきのマシンはどうやらコーナーでビビっちゃったみたいだね。まあ僕は僕なりに走れているからいいけど)」

最上自身、コーナーに飛び込むこと自体は躊躇がない。

それはやはり、タクシードライバーとしての多くの経験もそうだが…ここ連日ずっと走り込んでいてコースを熟知したことも合わさっているのだろう。

ハンドルをまっすぐにした上でアクセルを全開に踏み込み、前方に現れた一般車は右へ左へと避けて確実に調理する。

重量級タクシーに比べたら明らかに軽量なこのRX-8は、車線変更で一般車両を除けていくことも容易かった。

コーナーをドリフトで駆けることだけでなく、軽やかにマシンを避けていくことにも最上は快感を覚えつつある。

そして福住出口が残り300mに迫ったところで、カーナビには「WIN」の文字が表示された。

どうやら相手のマシンはコーナーで差を付けられたことに加えて一般車に詰まったのかもしれない。

どちらにせよバトルが終わった以上、最上はアクセルを抜いてブレーキを踏み込むことで、福住出口寸前の右直角コーナーを120キロで悠々と突破していた。

 

「(ちょっと疲れたし、箱崎のPAにでも入るか…)」

バトルを終えてクーリング走行をする中で、最上はRX-8を目の前の箱崎PAへと移動させる。

ここ数日ずっとバトルをしていた以上、流石に疲労がたまっているのかもしれない…そう最上は思うのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

―――箱崎PA。

バトルを終えて休憩を取っている最上とRX-8。

するとエンジン音に気が付いてPAの入り口に目をやると、先ほどバトルしたマシンが入ってくるのが見えた。

 

「あれは…」

そのマシン…白色のエクリプスは、最上のRX-8の横に駐車した。

やがてマシンから降りてきたのは…夜の首都環状でもとびきり目立つ、真っ白なロリータファッションの女だった。

 

「こんばんは、定時の精密機械さん。先ほどは、面白いバトルでしたね」

「ああ、どうも。もしかしてさっきの?」

最上としてはロリータファッションのドライバーの容姿はあまり気にならなかった。

それはやはり、無頓着というよりは…同性だったからだろうか。

そしてそれと同時に、自分の通り名に関してもあまり気にしていなかった。

 

「はい。私は<CUPID ARROWS>のリーダー、 幻惑の白き妖精です」

「へえ…そうなんだ。よろしくね」

ロリータファッションの女性は「幻惑の白き妖精」と名乗った。

どうやらチームのリーダーのようだ。

すると、彼女はどこか自信なさげにぽつぽつとこう呟く。

 

「<CUPID ARROWS>って、 首都環状でも歴史の長いチームなんですよ。私も長い間ここを走ってきて、それなりの経験を積んできたつもりだったんですけどね……」

「そうだったんだ。まあ、僕は最近走り始めたばかりだからよくわからないけど…」

「あ、あはは…正直、自信をなくしちゃったかもしれません」

最上としては相手は確かに速かったが、自信を無くすほどのものか?…とふと思った。

だがそんな中で幻惑の白き妖精がそう口にした時だった。

 

「あら―――あなたらしくないセリフね。そんな弱気な子に<CUPID ARROWS>を預けた覚えはなくってよ」

「ん?」

「…え?」

2人が振り向くとそこに立っていたのは…豪奢なドレスを身にまとった、華やかでゴージャスで女。

一体何者かと最上が疑問を口にしようとしたところで、幻惑の白き妖精が驚いたかのようにこう叫ぶ。

 

推奨BGM

「…ミッドナイトローズ!!」

「え、知り合い?」

「<CUPID ARROWS>の前のリーダーです…」

「そんな人が?」

豪奢なドレスを身にまとった、華やかな女―――ミッドナイトローズは、優美な微笑みを浮かべてこちらを見る。

その表情とは裏腹に、瞳には闘争心の炎が激しく燃えていた。

だが一方で、最上が女性であることには気が付いていないようだ。

ミッドナイトローズが2人の元へとやってくる。

 

「そう……あなたが定時の精密機械なのね。妹分の仇を取りにきたわ。私の挑戦、受けていただけるわね?」

「今から?」

「もちろんよ。どうかしら?」

ミッドナイトローズはやはり前リーダーの意地というべきか、最上に勝負を挑もうとしていた。

チームリーダーを倒したらそのまま前リーダーとのバトルとなるとは。

だが最上としても彼女の実力は気になっていた。

自分と同じ女とバトルするなら…そう思った以上、最上はこう口にする。

 

「いいよ、是非とも」

こうして突発的ながらも、<CUPID ARROWS>の前リーダー「ミッドナイトローズ」と最上のバトルが始まろうとしていた。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM:Arabian Rave Night(from beatmaniaⅡDX16 EMPRESS)

―――vsミッドナイトローズ

コースは箱崎からスタートし、都心環状線を経由してレインボーブリッジへと渡る新環状左回り。

小松崎線との分岐を左に行ったヘアピン出口がスタート。

2台のマシン…前方のフェアレディZと後方のRX-8が縦列状態で分岐を左方向へと進む。

 

「(箱崎から都心環状線経由で辰巳方面かぁ…)」

前もって約束されたコースルートを最上はふと思い描いていた。

テクニカルセクションと高速セクションが両立するコースである。

スタート直後こそヘアピンコーナーだが、そこから銀座区間までは狭いながらも直線が続く。

求められるのはパワーと一般車を避けるテクニック、そしてコーナーに飛び込む度胸。

求められるものは多いが…ここではテクニックと度胸が必要かもしれない。

 

「(相手の車、たしかフェアレディZって言ったっけ?)」

相手の車は薄いピンクのZ34…フェアレディZ。

外観もそれなりに派手ながら、どこか貫禄も感じられる。

やはり実力はそれなりにあるのだろう…最上はそう思った。

そう思ったところでカーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。

場所としては箱崎JCTの1つめのヘアピンを抜けようとしている。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

カーナビのカウントと共にアクセルを全開に踏み込む最上。

一方で先行するZ34も同じく加速しているが…やはり性能差があるのか、追い抜けない。

加速では多少向こうの方に分があるようだ。

60キロから150キロまで加速していくが、それでも距離は付かず離れずの距離を維持している。

 

「(スタート直後に追い抜けなかったからには、最初のカーブでどうなるか…)」

小松崎線からの合流を経て都心環状線江戸橋方面。

分岐直前の右直角コーナーは3車線で幅も広いが…コーナーの先は多少見通しが悪い。

勝負は始まったばかりだが、あえて仕掛けるよりかは…と思った最上は、まずはZ34に食らいついていくことを優先する。

前方のZ34はその広い道幅を使ってコースの一番左の車線から一番右の車線へと飛び込んでいく。

アクセルを軽く抜いた上でのノーブレーキのアウトインアウト走法だが、やはりこれはコース幅が広いからこそできることだろう。

一方で後方のRX-8もZ34の走りをトレースするようにZ34の後方数メートルの位置を走っている。

こちらもアクセルを軽く抜いてZ34の後方を走るようにハンドルを右に曲げている。

 

「(ようし、食いつけてる。それでここから先は…)」

最初のコーナーを脱出する2台は、そのまま分岐を左方向に。

そんな中で最上はRX-8がZ34に食らいつけていることに気が付いていた。

ストレート区間では追い抜けなくても互角で行ける以上まだ勝機はある。

都心環状線外回り方面へと走る2台の前に、左ヘアピンコーナーが迫る。

 

「―――!」

前方のZ34のブレーキランプが点灯する。

最上にとっては一瞬それが熱く燃えるように感じたが、こちらもすぐにアクセルオフ…からのブレーキを踏み込んで減速。

速度は180キロ台から110キロ台まで減速。

ブレーキがワンテンポ遅れたことで一瞬Z34が迫るが、すぐに離れる。

そのままZ34は多少後輪を滑らせながら、110キロ台でコーナーを駆け抜けていく。

一方でRX-8もそれに食いつくように、Z34の左斜め後方に食らいつき続ける。

コーナー左脇のゼブラゾーンから追い抜こうとするも、コーナー通過速度がほとんど差がない以上追い抜くことは出来ない。

一瞬だけZ34の左サイドに食い込むこともあったが、すぐに引き離される。

 

「(コーナーではほとんど互角なんだ。だけど勝つためには…)」

コーナーに飛び込むのはいいのだが、それでも速度はほぼほぼ互角。

短いストレートでもヘアピンやちょ各コーナーでも互角。

なら、攻め込める場所は?

考えようとしたところで、Z34は前方の下り坂ストレート区間へと加速していく。

 

「(真っ直ぐの区間だ…いっけえ!)」

車間距離が引き離されそうになるところで最上もハンドルをまっすぐにしてZ34の後方に食らいつかんとアクセルを踏み続ける。

下り坂という事もあって110キロ台から一気に180キロ以上まで加速していく。

江戸橋JCTを抜けた先、銀座方面へと向かう中での下り坂ストレート区間でZ34が加速していく中で、その後ろをしっかりとトレースするかのようにRX-8もくっついていく。

RX-8がZ34のスリップストリームに入りつつも、2台は長いストレート区間に向けてアクセル全開で駆け抜ける。

一般車両をZ34はスイスイと避けるが、一方でRX-8もZ34の走行ラインをトレースするように走っている。

だがそれでも、最上のRX-8はじりじりと引き離される。

数メートルずつではあるが、距離は引き離されている。

とはいえそれも元はと言えば無理もない話。

素の馬力でもZ34は280馬力、RX-8は250馬力。

一応RX-8にはボルトオンターボが装着されてはいるものの…やはり素のスペックではZ34が明らかに格上。

チューニングがどんなに施されていても、やはり元のスペックでは敵いようがないのである。

だがそれでも…以前とは違うことがあった。

 

「(…速い!でも…勝てない相手ではないね)」

京橋JCTを左方向へと進む2台。

多少苦戦する中でも最上にとっては、スイフトスポーツで久遠のポラリスに挑んだ時とは違っていた。

あの時は明らかにパワー不足だったが、今の自分のマシンはそれなりに手が加えられている。

だから、愕然とするほどのものではない。

アクセルを踏み込み続ければ、まだいくらでもチャンスはある。

そんな余裕が最上の心の中にあった。

Z34の後方にRX-8を付け、スリップストリームの状態で走り抜けていく。

 

「(仕掛けるなら…この先かな)」

スリップストリームの中で最上は勝負どころを見極めていた。

この先の橋脚の先の高速コーナー。

ここを左に進めば、相手からもブロックはされまい。

向こうがもし仮に減速をすれば、この先のコーナーで追い抜けるかもしれない…直感で最上はそう感じ取った。

前方のZ34は右車線を走っている。

だが、それに付いていくだけでは勝てない。

そう思った以上、最上はハンドルをくい、と左に曲げる。

目の前に橋脚が迫る中で、RX-8は右車線から左車線へと移った。

 

「(…ここだ!)」

橋脚を抜けた先の上り坂の左高速コーナー。

最上は最初からここに狙いを定めていた。

アウトコースのZ34が攻めてくる可能性もあったが、ブレーキを軽く踏んで減速したミッドナイトローズに対して、最上はアクセルオフだけでコーナーを強引に突破しようとする。

2台が橋脚を抜けたところで、左車線のRX-8が頭を取ってコーナーへ。

アクセルオフのまま左車線から右車線に膨れるも…減速していたZ34の前へとそのまま飛び出る。

アンダーステアが出る中でアウトに若干膨れたRX-8だが、壁接触寸前で持ち直してそのままアクセルオン。

新富町方面へとアクセル全開のまま加速していく。

速度としては210キロは出ていた。

 

「(抜かれた…!?私よりコーナーへ突っ込む速度が速い…!?)」

ミッドナイトローズとしては愕然とするしかなかった。

多少の安全マージンを取ったつもりだったが、まさかここで勝負を仕掛けてくるとは思いもよらなかった。

いくら自分が歴戦の猛者であっても、引くべきところは引くべきだと考えていた以上…間違えてはいなかったのだが、逆にその隙をつかれてしまったのかもしれない。

コーナーでほぼ減速なしのまま脱出したRX-8を追いかけるべく、アクセルを全開にして踏み込む。

それでもRX-8は徐々に車間距離を離すに至っていた。

 

「(追い抜いたけど、何というか…スイフトスポーツとは違う感覚なんだよね…)」

新富町から銀座方面へとRX-8をアクセル全開のまま走らせる中で最上はふとそう思った。

2つ目の橋脚を抜け、そのまま道路下区間。

そこで最上は今の自分の車に違和感を感じていた。

それはやはり、以前乗っていたスイフトスポーツとは馬力も駆動形式も違うかもしれない。

道路下区間を抜け、左から右へのS字コーナー区間。

コーナー手前できっちりとブレーキを踏み込んで減速したかと思いきや、ハンドルを左に曲げてタイヤを多少滑らせる。

最上にとっては未だになれないブレーキングドリフトだったが、慣れないのはやはりFFからFRに本格的に乗り換えたことが影響しているのかもしれない。

それでもタイヤが滑り出したらカウンターを当てるという基本はなっていた以上…何も戸惑うものはなかった。

S字コーナーの最初のコーナー、左直角コーナー。

それを抜けた直後にアクセルオフ、そこからハンドルを右に曲げ続けてマシンを左から右へと振り回す。

今はまだパワースライドは抑えめだが、仮にさらにパワーアップしたらどうなるのやら。

そう最上は不安に思うのだった。

 

「(まあ速くなっている以上、今はこの車がいいな…)」

S字コーナーの2つ目のコーナー…右直角コーナーもアクセルオフのままハンドルの舵角を調整しつつコーナーをアウトインアウトのラインで走り抜けるように調整。

そのままコーナー脱出と共にアクセルを踏み込む。

最上は意識していなかったが、必要最低限のブレーキングからコーナーリングへ。

現状のRX-8の性能をフルに活かすドライビングとなっていた。

それはやはり、タクシードライバーとしてマシンと向き合う経験が多かったからか、はたまたタクシーと同じFR車だからか。

とはいえ彼女がマシンをフルに活かすという事は、相手と差を作るチャンスも多いという事。

実際ミッドナイトローズのZ34はRX-8が汐留トンネルに飛び込む時点で後方60メートル以上は離れていた。

ここまでくればもう勝負はついたといってもいいだろう。

 

「(あのドライバー、やるわね…でも同時に、車を乗り換えたばかりにも思える。まだ完全には手懐けていないというところかしら。前の車から今の車に乗り換えた時を思い出すわね)」

最初のS字コーナーを抜けたところで、ミッドナイトローズの視界からRX-8の存在は消え去った。

トンネルに飛び込んだRX-8はどうやらZ34を完全に振り切ったようだ。

Z34のドライバー…ミッドナイトローズは負けを認めるようにアクセルを抜きつつそう思うのだった。

 

そしてそこから数秒もしないうちに、Z34のカーナビには「LOSE」の文字が表示されていた。

定時の精密機械こと最上、そしてミッドナイトローズ。

2台の勝負はあまりにもあっさりと付くのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

―――辰巳第一PA

バトルを終えた2台、そして後ろから追いかけていた幻惑の白き妖精のエクリプスがそのまま辰巳第一PAに滑り込んできた。

車を降りた3人が対峙する。

 

「あら、うふふ!おかしいわね…ごめんなさい、幻惑の白き妖精。仇は取れなかったみたい」

「…意外と、さっぱりしてるんですね?」

最上としてはミッドナイトローズのような、竹を割ったような性格が意外だった。

負けても彼女はどこか満足げだったのだ。

するとミッドナイトローズはこう口にする。

 

「うふふ、私は一度負けたからって、あなたみたいに進退を考えたりはしなくってよ?だって…こんなに楽しいこと、やめられるわけがないじゃない!」

「楽しい、ですか…」

「ミッドナイトローズ…」

最上と幻惑の白き妖精が感心する中で、ミッドナイトローズはこう口にする。

 

「といっても、私だってチームを抜けて…立場や走り方は、その時々で自由気ままに変えてきたのだけれどね。今は、お弟子さんを取ろうかな…なんて考えてみたり」

「はあ」

ミッドナイトローズとしては弟子を取りたいそうだ。

同性のドライバーなら目の前にもいるのに…と軽く最上は思った。

だが一方でミッドナイトローズはこう言葉を続ける。

 

「この前は久遠のポラリスちゃんに声をかけたんだけど、断られちゃったわ」

「えっ、あの人に?」

「ええ。あまり人と話すことは慣れていないみたいでね…」

「私も、あの人の噂は聞いています。様々な人があの人に接触しているみたいですけど、なかなか会えないみたいで…」

「そうなんだ…」

首都高の噂のドライバー、最上と久遠のポラリス。

やはり2人に接触したいと願うドライバーは多い。

ミッドナイトローズもかくいうその一人だったそうだが、久遠のポラリスの性格からして断られてしまったらしい。

するとミッドナイトローズはこうも口にする。

 

「まあそんな風に弟子を取って、自分の名前を譲った人もいるようだけど…結局その人も走ることをやめられずに、新しい名前で首都環状を走り続けているみたいよ」

「弟子をとっても、走り続ける?それって、なんで?」

最上としては不思議な感覚だった。

引退したはずなのに走り続けるとはどういうことか。

するとその疑問に答えるかのようにミッドナイトローズはこう口にする。

 

「きっと私たち…どこまで行っても“走り屋”なのよ」

「走り屋、だから?」

「ええ。ここを走りたいから走る…そういうものよ」

「……」

最上としては不思議な感覚だった。

自分は「バトルすることでの快感」を求めている。

だが普通の走り屋は「走ること」を楽しんでいる。

「これが意識の違いなのか?」と思ったところで幻惑の白き妖精は納得したかのように笑みをこぼす。

 

「……ふふ、そうですね。本当に、やめられるわけがない。ありがとう…ミッドナイトローズ」

「うふふ、どうやら決心がついたようね」

「はい。私、走り続けます。“走り屋”として!」

幻惑の白き妖精は覚悟を固めたかのようにそう口にした。

そしてそう口にしたところで、最上の方に視線を移す。

 

「定時の精密機械さんも…またいつか、手合わせをお願いしますね」

幻惑の白き妖精は笑顔でそう言った。

どうやら彼女は彼女なりに自信を取り戻したのかもしれない。

その様子を見た最上も、答えるかのように軽く微笑んでこう口にした。

 

「そうだねえ…その時は僕もまた、受けて立つよ」

最上としては、勝負を挑まれること自体はあまり悪い気がしないのだった。

(第13話End)

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