「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
最上に迫る新世代のアイツ。
そしてもう1人の「彼女」もまた…
元十三鬼将のミッドナイトローズ、更にはPhantom9の黒崎三兄弟を撃破した最上。
一戦一戦、確実に速くなる彼女の走りは、それと同時に首都環状の話題となっていく。
新世代の走り屋たちもまた、彼女に惹かれ…その矛を彼女のマシンへと向けるのだ。
名が広まれば広まるほど、矛を向ける相手は増えていく。
―――鉄翁を破った2日後、深夜10時、都心環状線内回り芝公園入口付近。
この日、最上は早上がりで首都環状にコースインしていた。
夜11時の時点である程度のライバルはいるのだが、同時に勝利していないドライバーもそれなりにいる。
そしてこの日もチームメンバーのマシンに勝負を仕掛けた最上は、また勝利を重ねていた。
「(以前はスイフトスポーツで攻め込んでいた環状線も、もう慣れてきたって感じかな)」
元々最上はスイフトスポーツで環状線を攻め込んでいた。
だがそれではパワー不足だと感じたため、環状線でもRX-8に乗るようになっていた。
パワーマシマシ、おまけに駆動方式が全く異なるマシンに乗っている以上…どこか四苦八苦していたところはあった。
だがそれでも様々なライバルとバトルをするようになってその実力が身についてきたかのようにも思う。
ここまでくれば、この車と互角のマシンなら負けない。
そう思えるようになっていた。
すると後方から1台のマシンが迫ってくるのが見えた。
どうやら先ほどのライバルが所属するチームのリーダーのようだ。
推奨BGM:Insist(from ノスタルジア Op.2)
「(またリーダーのお出ましだね…)」
どこからか後方にやってきた1台の車が、RX-8に向けてパッシングしてきた。
カーナビの情報曰く「Tornado '90」のリーダーである、「シルビアの黒豹」がお出ましになった。
相手の車は…黒のS14シルビアだ。
自分とほぼ同等のレベルのマシンであり、チームのリーダー。
多少なりとも実力はあるのだろう…と最上は思った。
「(ようし…勝負だ)」
最上としては正直バトルが出来るなら誰でもよかった。
今は首都環状を攻めて攻め込んで、とにかくバトルで勝ち星を上げたい。
それが自分の爽快感になっている。
その爽快感を求めて、今の自分は走っている。
それを求めている最上は傍から見ればジャンキーかもしれないが、同時に「走ることの意味」を見出すために走る。
今はただバトルを挑み、受けられたバトルは受けて立つ。
そう意識したところで、浜崎橋JCTの分岐手前…モノレールの高架下を潜ろうとしているところでカーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
GOサインと共にアクセルを踏み込む最上。
2台はテールトゥノーズの状態で浜崎橋JCTを左方向、都心環状線内回りへと進む。
2台の速度は速度は160キロ台まで上がる。
「(スタートで攻めてくるか…)」
最上としてはこの先のコースを把握している以上、全てが計算ずく。
まずは最初の勝負ポイントでどこまで攻めてこられるかを確かめたいという気持ちがあった。
「(この先は下り坂と急カーブ…)」
浜崎橋JCTを抜けた先には下り坂からのヘアピンカーブ。
RX-8がインコースを取っている以上、後方のマシンはそれに付いてくるか外側から大外刈りを仕掛けるしかない。
下り坂の先がどうなっているかはわからないが、よっぽどのヘマをしない限り追い抜かれることはないだろう。
そう最上は思っていた。
2台が分岐を左に進もうとしたところで、後方のS14シルビアが右車線へ。
そのまま2台は下り坂を下っていく。
「(やっぱりきたか…)」
最上としては既にある程度把握していた。
相手が勝負を仕掛けてきていて、外がガラ空きである以上…そこに付け込まれる隙はいくらだってある。
だが一方で最上にとっても、相手が攻め込んでくるであろうという事は予測は容易だった。
下り坂からヘアピンコーナーに飛び込みつつも、相手の進路を潰してインベタでコーナーを走り抜ける…それが最上にとっての定石だった。
「(甘いよ…内側を守った以上、追い抜かせない!)」
170キロで走る中、多少早めにアクセルリリースしてブレーキを踏み込む最上。
減速し始めた瞬間にRX-8の右サイドにS14シルビアが接近する。
RX-8のブレーキング中において、2台は完全にサイドバイサイドとなった。
RX-8が170キロから130キロまで減速したところで最上はある程度アクセルを踏み込んだうえでハンドルを左に曲げ、マシンを制御する。
一方でサイドバイサイド状態だったS14シルビアも遅れてブレーキを掛けるも、インコースにいるRX-8に邪魔されてアウトインアウトのラインは描けない。オーバースピードで外に膨れることになったS14シルビアは余計にブレーキを踏み込むしかなかった。
ブレーキを余計に踏み込んで失速したS14シルビアは完全に最上の罠にハマっていた。
「(ようし、今だ!)」
S14シルビアがオーバーテイクを仕掛けようとするも頭をひっこめたところで、RX-8は旋回体勢からコーナーを脱出しようとしている。
ハンドルを徐々にニュートラルに戻す中で、最上はアクセルを全開に踏み込んだ。
コーナーを脱出し、アクセル全開。羽田線からの合流も含め3車線区間へと飛び込んでいく。
だが、その速さに追いつかんと後方のS14シルビアも諦めずに追いかけてくる。
「(後方にまだいる…リーダーなだけはあるんだ)」
速度が130キロ台から160キロ台まで加速する中で、後方のS14シルビアの存在を確認する。
コーナーを脱出したところで、多少車間距離が離されていた。距離としては10mあるかないか。
だがしかし、完璧に振り切られるほどではない。
流石に相手もチームリーダーとしてのメンツがあるという事か、諦めずに追いすがってくる。
RX-8は一番左の車線、S14シルビアは真ん中の車線を走り抜けている。
そんな中で最上には別の思いもあった。
「(まっ、今の僕の相手じゃあないかな!)」
元十三鬼将やPhantom9のドライバーたちを倒してきたことは、最上にとっては確実な自信となっていた。
今の自分ならあのドライバーにも確実に勝てる、という確かな自信が最上にはあった。
1個のヘアピンで振り切れないなら、追い打ちを仕掛けて相手の息の根を止めるくらいの覚悟で。
そんな意識の中で、RX-8は前方の汐留S字コーナーの1つ目のコーナー…左高速コーナーへとノーブレーキで飛び込んでいく。
「(カーブの中央へ…)」
2つのコーナーの間を突き抜けるかのように…一本の線でつなぐかのように。
そう思った最上は、最初のコーナーを内側へと攻めて、そこから一気に右へ攻め込ませる。
頭の中で走行ラインをイメージし、その狙いを済ませるようにハンドルを左へと曲げる。
後方のS14シルビアはブレーキングで減速していたが、RX-8はノーブレーキ。
一番左の車線を走行するRX-8は、ハンドルを左に曲げることで…当然ながらマシンは左に旋回する。
だが、オーバースピードという事もあり…一番左の車線から右側…真ん中の車線へと膨らむ。
このままアンダーステアで右端の壁へと接近する…かと思われたその時だった。
「(…ここだ!)」
真ん中の車線へとRX-8が膨らんだところでアクセルオフと同時にフルブレーキを掛けたかと思いきや、左に曲げていたハンドルを右に回す。
速度が180キロ台から160キロ台まで落ちたところで、左を向いていたRX-8は一気に右方向へと向く。
フェイントを決めたかの走りで、RX-8は右コーナーを内側まで切り込んでいく。
真ん中の車線から右側車線へ。
S字コーナーの2つ目の右直角コーナー…その内側までRX-8は切り込む。
フェイントモーションのグリップバージョンと言えばいいだろうか。
タイヤを僅かにスライドさせつつも、RX-8は右車線から左車線へと膨らむ。
だがそれでもそれこそが理想的なアウトインアウトのライン。
右車線から真ん中の車線へと膨らみかけたところでハンドルを再び左へと軽く曲げてカウンター。
タイヤがまだグリップしていたのでほんの僅かではあるがカウンターを当て、前方の汐留JCTへと走らせる。
真っすぐを向いたRX-8はそのまま都心環状線内回り方面へと疾駆する。
「(ようし、いっけぇ!)」
汐留JCTから先はしばらくの間高速区間。
汐留トンネルのカーブこそあれど、最初の右直角コーナーを多少減速さえすればそれ以外は勢い任せだ。
汐留JCT分岐を160キロで突破したところで、最上はアクセル全開にして踏み込み続ける。
下り坂で勢いを増して加速していくRX-8。
だが汐留トンネルに飛び込む寸前で、アクセルオフから軽くブレーキング。
コーナーへの飛び込みとしては早めのブレーキングにより、速度は190キロ台から170キロ台へ。
そこからハンドルをくい、と右に曲げて安定したままRX-8を旋回させる。
早めに速度を落として旋回させることで、コーナーリングスピードを高いままコーナーを突破出来ていた。
そのまま汐留トンネル内の左高速コーナーを抜け、RX-8は銀座方面へ。
この時点でRX-8とS14シルビアの車間距離はかなりのものとなっており、RX-8のバックミラーからS14シルビアの存在は完全に消えていた。
そしてそのまま汐留トンネルを抜けた直線区間において、RX-8のカーナビには「WIN」の文字が表示されるのだった。
「(もうここまでくると余裕みたいだね)」
カーナビに表示された「WIN」の文字を見て、最上はそう思うしかなかった。
ここ数日で徹底的にチューンされたRX-8は、既に350馬力近くとかなりの性能になっていた。
下手をしたら400馬力にも届くレベルである。
おまけに足回りにも手が加えられ始めたことで、コーナーでも十分に速い。
度胸もあるので、コーナーへの突っ込み勝負でもだれにも負けないレベルにまで成長している事には…最上自身はあまり気が付かないのだった。
―――数十分後、湾岸線西行き。
東京港トンネル手前を例のRX-8が走行している。
都心環状線からレインボーブリッジを経由し、湾岸線へとやってきていた。
というのもやはり、実力を出していく中で彼女に挑もうとしている走り屋がまた一人現れたことを察知したからだ。
「(湾岸線にまたライバルが現れたみたいだけど…)」
先程一旦休憩した際、辰巳方面から湾岸線にコースインし、そのまま南下する青色の矢印の存在があった。
実力者を示すその矢印は、おそらくではあるが自分の事を探しに来たのだろう…そう最上は認識した。
そしてそれを認識した以上、最上はRX-8をレインボーブリッジ経由から湾岸線方面へと走らせた。
推奨BGM:Disco Killer Music Lover(from beatmaniaⅡDX33 Sparkle Shower)
「(あの車かな?)」
東京港トンネルに入ったところで前方に現れた、後方が黒塗りで前と左右サイドが赤く施されたマシン…一目でもわかるあまりにも奇抜なマツダ3。
ド派手なGTウィングを付けているだけあって、嫌でも目立つそんなマシンだ。
後方に接近した上でカーナビを見ると、名前は「シュワシュワストロング」と書かれている。
どうやらチームには属さない腕利きの走り屋のようだ。
久遠のポラリスと似た類のドライバーだろう。
「(ワゴン?いや、それにしても奇抜で派手な…なんだか速そうだ)」
最上にとっては相手の車がどのようなものなのかはわからない。
だが彼女でもわかるのは、マシンとしてはかなりいじってあるという事だ。
言い換えればそれほどなまでに速いということかもしれない。
それでも最上としてはバトルする気でいた。
実力のあるドライバーに自分がどこまで敵うか、それがやはり気になったからかもしれない。
「(まあ、いいや。勝負…!)」
相手が実力者であろうと最上にとっては関係なかった。
今はただバトルに打ち込む…そんな思いを持った最上はRX-8をマツダ3の後方に接近させたところで、パッシングするのだった。
相手がハザードを出し、バトルに応じたようだ。
やはり自分を待っていたに違いあるまい…そう最上が思ったところで、カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセルを踏み込む。
スタート地点としては東京港トンネルを抜けようとした寸前だった。
スタート直後の長い直線区間という事もありアクセル全開で踏み込むが、それ以上に向こうの加速の方が上。
トンネルを出て大井出口方面へと向かうが、それでも差はじりじりと離される。
「…速い!」
加速としては明らかに向こうの方が上。
何とか食いつけてはいるが、もし最高速度も向こうが上ならこちらは敵わない。
実力者であることは承知のうえでも、やはりパワー差での勝負はどうしようもないのかもしれない。
先行するマツダ3はそのままRX-8との車間距離を引き離しにかかっている。
RX-8はマツダ3の後方15m程を追従する。
「(わずかなコーナーに賭けるか?)」
大井出口から分岐の間の左高速コーナー。
インコース目いっぱいに攻めれば多少は差を詰められるかもしれない。
トンネルを抜け、2台が突入する。
真ん中の車線を走っていたマツダ3は一番左の車線へ。
だがRX-8は…
「っ…!」
一番左の車線の更に内側の路肩へ。
少しでもインコースを取ることで、最短距離を走る作戦へ出た。
ハンドルを切り続けて旋回させるが、インコースをとってもRX-8はマツダ3を追い抜けない。
それでも車間距離はわずかに縮まったが、そう簡単には追い抜けない。
コーナーを抜け、大井南分岐を右方向に進むマツダ3。
それを追うようにRX-8は必死に食らいつく。
速度は互いに230キロは出ている。
「(何とか食いつけてるけど、どこかで突破口を見出さないと追い抜けない…どうする?)」
分岐から大井南出口方面の直線区間。
先程コーナーでアタックしたこともあり、何とか食いつけてはいる。
だが、後方のスリップストリームについていたところで追い抜けなければ意味がない。
前方のマツダ3は250キロを出しているが、こちらも何とか同等の速度。
向こうよりも速く走らなければ追い抜けないというのは当然の事実だ。
大井分岐を過ぎ、3車線のストレート区間で最高速度が追い付いて均衡状態。
後方のスリップストリームには追い付きそうで追いつかない距離…車間距離としては10mと少しはあった。
体力ゲージは減っていないが、それでも追い抜けなければ意味がない。
だが2台がどちらも左車線を走る中で、大井南PA横を走行している時だった。
「(…2台の車が並走している!?)」
東海JCT近くにおいて、3車線の一番左の車線と一番右の車線にそれぞれ一般車両がいる。
左はハチロクレビン、右はタウンエース。
どちらも60キロ台で走っており、このままでは間違えなく追いついてしまう。
ここで現れるのは2つの選択肢。
前方のマシンはおそらく真ん中の車線へと進むだろう。
そうなった場合シュワシュワストロングのマシンの後方に付けてスピードを稼ぐことになる。
そしてもう一つは…あえて別の進路を取って確実に突破するというやり方。
左側の路肩を使ってインコースへ攻め込む…一般車両がまっすぐ進む可能性があるとはいえ、後方からのマシンに動揺して右車線に移る可能性もある。
だから早めに左端の路肩へ飛び込むか…またしてもギャンブルの瞬間だった。
「(わずかな隙間に賭けるか、それとも強引に割り込むか…)」
一番左の車線のさらに左側には車両が通れるほどの路肩がある。
そこに飛び込めば確実に一般車両をパスすることは可能だ。
しかしスリップから外れるので車間距離を引き離される可能性だってあり得る。
一方で右車線に移れば一般車両同士の間を通ることになり、動揺した一般車両にはさまれる可能性もある。
確実に食らいつくか、それとも安全策を取るか。
最上が選んだ選択肢は…
「(ええい、ままよ!)」
アクセルべた踏みの中でハンドルを僅かに左に切って、そのまま路肩方向へ。
安全策を取ることを最上は選んだ。
一番左端の路肩へRX-8を移すも、アクセルをべた踏みにしてマツダ3を追いかける。
「……」
一方のシュワシュワストロング。
後方のRX-8は自分の後方から離れた以上、もう追いつかれないだろう…そう思った。
このまま迫る2台も間を抜けてしまえばいいだろう…そう思って僅かにハンドルを右に切って左車線から真ん中の車線へ移動させる。
前方に迫る一般車両は普通に追い抜けるだろう…と思われた。
だが、次の瞬間。
「(…!?)」
右側のタウンエースの先には、ほんのわずかな車間距離は置いていたとはいえなんと追加で1台。
そのマシン…NAロードスターがウインカーを出してまさかの車線変更。
言わずもがなシュワシュワストロングのマシンの方向へとやってくる。
おそらく向こう側は気が付いていない。
「!!!」
突然の車線変更に動揺したシュワシュワストロングは、慌ててハンドルを左に曲げつつもブレーキを踏んでマツダ3を減速させる。
タウンエースの巨体に完璧に隠れていたNAロードスターの存在はとんでもない罠だった。
慌てて急ブレーキを踏みながらハンドルを左に曲げて左車線へ逸れたことで、ハチロクレビンとNAロードスターの間を通り抜けた。
結果として間一髪接触やクラッシュは免れた。
だが、このアクシデントでマツダ3は大幅なスピードロスを生じてしまった。
急ブレーキを踏んだことで速度は250キロ台から190キロまで落ちている。
しかし…左サイドには相手の車のヘッドライトが光る。
「っ…!?」
一方の最上。
こちらも左端の路肩からハチロクレビンを追い抜こうとしていた次の瞬間、左車線に逸れてきたマツダ3が最上の目の前に迫ってくる。
路肩を走っているために左は壁。おまけに右はハチロクレビン。
僅かにはみ出たマツダ3が最上の目の前に迫る。
このままでは接触しかねない。だが相手の車はぶち抜きたい。
そう思った瞬間、最上はどんな判断をしたか。
「―――!!」
ぶち抜きたいと思った次の瞬間には、最上はアクセルをリリースして一瞬だけブレーキを踏み込んでいた。
そしてそのまま左端の路肩を走り抜けるようにハンドルを微調整したかと思いきや瞬時にアクセルオン。
態勢を立て直したマツダ3が何とか路肩から車線に戻ったのを見て、最上はアクセルを全開に踏み込んでいた。
速度は230キロになったかと思いきやそのまま加速していく。
一般車両とシュワシュワストロングのマツダ3を追い抜いたRX-8は、そのまま彼らを置き去りにするべくアクセル全開。
あっという間に車間距離が離れていく。
「(路上のアクシデントに救われた…)」
最上にとってはあまりにもラッキーな出来事だった。
まさか前方を走っていた一般車両に救われるとは。
これまでにも何度か格上相手と戦った時はあったが、まさかここへきてボスクラスの相手でもこんなアクシデントに見舞われるとは思いもよらなかった。
だが得てしまったチャンスは最大限に有効活用したい。
みるみる離れる車間距離を生かし、RX-8は前方の東海JCTへと迫っていく。
「(このまま東海JCTを左に!)」
この先も延々とストレートが続く湾岸線ではなく、多少なりともコーナーが存在する横羽線へと最上は進路を取った。
分岐を通過する際もずっとアクセルを踏み続けて相手を引き離す。
後方のマツダ3のヘッドライトの光はかなり小さくなっていた。
「(どうだ…?どうなる?)」
東海JCTから横羽線方面へ。
250キロ以上を維持して、RX-8は延々と続く2車線のストレート区間を走り続ける。
横羽線方面へと向かう中でカーナビの体力ゲージ…シュワシュワストロングのそれはみるみる減っていく。
そして分岐線の40%を走ったところで…カーナビには「WIN」の文字が表示された。
どうやらバトルに勝てたようだ。
それを認識した最上は、アクセルをリリースしてRX-8をゆっくりと減速させていく。
クーリング走行に入る中で、RX-8は横羽線へと合流しようとしていた。
「(勝つには勝ったけどなんだか、なぁ…まあ、ここは首都環状。完全に封鎖されたサーキットとはちょっと違う、一般車両も走っている特別な場所だからね)」
横羽線に合流して60キロで走行するRX-8。
羽田トンネルに入ったところで、最上はふとそう思った。
いくら勝利したとはいえ、あまり満足のいく勝負とは思えないものだった。
相手はここが首都環状という特殊なサーキットであるという事を忘れていたのかもしれない。
だがあのハプニングがなければ間違えなく負けていただろう…そう認識した。
そうなるとやはり今の車にはパワーが足りない…こちらが速くなれば速くなるほど、相手も速くなる。いつまでたっても壁というものが現れるのだ。
環状線や新環状エリアならともかく、湾岸線や横羽線でも現状何とか超えられてはいるが、その壁というものがいずれ超えられなくなるのではないか…と最上はどこか危惧するのであった。
―――翌日夕方。
最上はまた、チューナーの元へと訪れていた。
ここ最近積極的にマシンチューンを施してもらっていた最上だが、ここに来てニトロ装着を依頼していたのだ。
この日、装置が手に入ることになったために最上はチューナーがいるガレージへとRX-8を入れていた。
「よう、来てくれたな」
「どうも、また来ちゃった」
「噂は聞いているぜ。どんどんと頭角を現してきているな」
「えへへ…まあね。今日もまた車を速くしてくれるんだよね?」
チューナーの言葉に対して嬉しげに最上はそう言った。
車が速くなることは、最上にとっても嬉しい出来事のようだ。
「ああ…今日はニトロの取り付けだ。あとはエアロも変えてみよう」
「ニトロはともかく、エアロ?」
「いいパーツがあるんだよ。見てみるか」
「はあ」
そう言ってチューナーが壁際へと向かい、エアロパーツに取り付けられていたカバーを剥がす。
そこにあったのは…RX-8の後方に装着するウィングだった。
「それは?」
「リアウィングだ。これを付ければ多少なりともコーナーリングや加速時に車が安定するようになる」
現在の最上のRX-8はほぼドノーマル。
その後方にまずはリアウィングを装着することからエアロパーツのチューニングにも入ろうとしていた。
「どうだ?多少割引価格だが…付けるならお金を取るぞ」
「全然いいよ、僕にとっちゃ車が速くなるなら」
最上は迷いなくそう言った。
走り屋なら金回りに苦労しそうではあるのだが、最上にとっては関係ない。
「ほう…迷いがないんだな」
「僕の場合お金なんて腐るほどあるからね。使わないのもどうかと思うけど、タクシードライバーってやろうと思えばいくらでも儲かるんだ」
「くくく…そうか。じゃあ少し手伝ってくれればさらにまげてやる。数十分もあれば終わるだろう」
「本当かい?僕も車の事が気になるんだ、手伝わせてよ!」
「いいだろう、頼むぞ」
日ごろからタクシードライバーとして金を稼ぎつつも、走り屋デビュー前も大してお金を使うことがない性格だった最上。
そんな彼女が仕事以外に熱中できるものが出来たのは大きかった。
そうである以上、最上としては車に徹底的に入れ込む要因になるのは言うまでもなかった。
◇ ◇ ◇
―――数十分後。
リアウィングの取り付け自体は2人がかりということもあり、比較的手早く終わった。
ニトロ装置自体も配線はシンプルだったのか、あっさりと終えることが出来た。
作業を手伝った最上に対し、チューナーが差し入れの缶コーヒーを差し出す。
「ほらよ、コーヒーだ」
「ありがとう」
「それを飲みながら、ちょっと俺と話でもしねえか?」
「話?まあ夜も早いしいいけど…」
そう言ってチューナーは椅子を持ってきた。
2つの椅子にそれぞれチューナーと最上が座る。
互いに缶コーヒーを一口飲んだところで、チューナーが口を開く。
「一旦お前さんの車のチューンも最初のうちにしてはそれなり、といったとこだな。ここまで乗ってみてどうだった?」
「素人の僕でもわかるくらい…見違えるくらい速くなったよね、やっぱり。僕自身、色んな相手を倒せるようにはなったと思っているんだ」
「ほーう」
最上は今のRX-8が着実に速くなっていることを実感していた。
それこそやはり、様々なドライバーたちを倒していくことが出来ているからだろうか。
だが一方で最上はこんなことも口にする。
「でも、まだまだ速い人っているんだね…絶対無敵ってわけじゃないんだよね」
「まあ、そうだろうな。首都環状なんてピンからキリまで様々だしな」
「それでも走り続ける中でさ、あの車はとってもいい車だって思うようにもなったんだよ。おやっさんが車をチューンしてくれたことで、結構速くなったし、おまけに曲がってくれるし。正直、楽しいんだよ」
「くくく…別に俺は大したことはしてねぇよ。俺はこの車を速くさせただけ…あとはお前さんのドライビングが全てなんだよ」
「僕のドライビング?」
「ああ…だが俺としても、お前さんの成長は想像以上といったところだ」
チューナーとしては最上の成長速度は想像以上だった。
実際ものの数週間で首都環状の名だたる中堅ドライバーたちを倒し、元十三鬼将やPhantom9といった実力級のドライバーたちもある程度打ちのめしている。
このスピードというのは一般的に見てもかなりのものだ。
ただそれだけではない。最上の異常性はそれだけに過ぎないのだ。
「そうなのかい?」
「首都環状デビューからたった1ヶ月で純粋に馬力を1.5倍に引き上げただけでも凄いことだが…以前のマシンからは駆動方式も真逆で2倍の馬力のあるマシンを軽々と乗りこなしている」
「それって、すごいこと?」
「傍から見りゃすごいことだが…どうやらお前さんはあまり自覚してないみたいだな」
「いやあ、実はそうなんだよね。まー僕は普段からタクシーを乗り回してるからその経験が生きてるのかもしれないけどさぁ」
そう、最上は首都高デビューで2台乗っているが、最初のマシン…スイフトスポーツの時から既に2倍の馬力のマシンを乗りこなせている。
これはいくら最上がタクシーを普段から乗りこなしていて、素のドライバーとしての経験値が高いという事を踏まえても…やはりとんでもないものであるのは言うまでもないだろう。
だが一方である懸念をも最上は示そうとしていた。
「でも…また僕の成長に、車が合わなくなってきているのかなって」
「ほう?そりゃまだどうして」
「壁ってわけじゃないけどさ、そういうものにぶつかっているような気がするんだ」
最上は今のRX-8との相性に疑問を感じ始めていた。
速くなれば速くなるほど、その疑問というのは大きいものになっている。
シュワシュワストロングのような圧倒的なパワー。
あの時は相手の油断に付け込んで勝利できたが、やはり「実力者たち」に挑むには自分のテクニック以上にマシンスペックが足りないのではないだろうか…そう思わざるを得なかった。
だが一方でこんな疑念もある。
「速くなるにつれてさ、僕としては…前のスイフトスポーツのような感覚でもっと速く走らせてみたいって…思ったんだ」
FFのスイフトスポーツとFRのRX-8。
2台を操縦して思ったのは、やはりパワーのあるFFに乗ってみたいという気持ちだった。
クイックな旋回、小柄なマシン。
現状スイフトスポーツに乗っていたら鉄翁とかには勝てなかったかもしれない。
だがそれでも、似たような車に乗ってみたい。
そう思った以上、僕に合う車を探すべきであるのかもしれないと思っていた。
「くくく…なるほどな。成長スピードに応じて車を乗り換えるというのはまあ分からなくもねえ。だが、スイフトスポーツの時と違うのは…あのRX-8に俺の手が加わっているという事だ」
「そうなんだよね…だからさ、あっさりと手放すのもそれはそれでどうかなって」
最上としては、以前のスイフトスポーツと違って手が加わっているRX-8をそうやすやすと手放すことに関しては抵抗を感じていた。
それはやはり、速くしてくれたことに関して多少なりとも感謝しているからだろうか。
彼女であっても多少の恩義は感じていたらしい。
するとその気持ちを理解したかのようにチューナーは言葉を続ける。
「お前さんが言うこともわからなくはねえ。そしてそのお前さんの考えって言うのは強ち間違えじゃねえな…首都環状にはお前の想像以上の相手ってのがゴロゴロいる。今のお前さんは、自分相応のライバルたちと戦っているも同然なんだ」
「やっぱり、まだ上には上がいるんだね…」
十三鬼将、Phantom9、そして新世代の走り屋たち。
今の首都高には間違えなく自分以上のドライバーたちがたくさんいる。
「ああ。だが何にせよ、焦る必要は何もねえよ。お前さんは少しペースを落とすことも大切かもしれねえな…今はきっちりとその車を速く走らせられるように腕を磨け。お前が走り続けている目的を忘れるな」
チューナー自身、最上の悩みを理解しつつもそう口にした。
今は車を自分の範囲内で乗りこなせるように腕を磨け…それがチューナーの助言だった。
「まあ、車を速くしてくれたおやっさんがそう言うならそう信じてみたいけど…実は僕には、またバトルしたい相手がいるんだ」
「ん?それって…」
「12時過ぎのシンデレラ…僕と同じ車に乗っているらしい人なんだよね」
「ああ、アイツか。アイツも首都環状歴は長いからな…今のお前さんともきっといい勝負になるだろう」
「…やっぱり、速い人なんだね」
「ああ。登竜門というべきだろうな」
12時過ぎのシンデレラ。
走り始めた頃、自分に声を掛けてくれた人物。
思い返せば彼女のマシンも今の最上と同じRX-8だったはずだ。
そんなドライバーとはいずれ戦う事になるに違いない、と最上は思ってやまなかった。
だが一方でこんな思いもある。
「でも今はさ、この車であの人に太刀打ちできるか試したいんだ」
「ほう?そりゃまたさっきと言ってることが違うようだが」
「いやさ、あの車もおやっさんが速くしてくれたじゃないか。だからさ、まずはあの車でちゃんと結果を残したいんだ。あとの事はそれからって」
「…なるほど、お前さんはそう言うことに対して素直なんだな」
「まあ、今はあの車で速くなりたいって思ったからね。マシンスペックはまた追いつかなくなってきてるけど、いい車だからさ」
最上としては、12時過ぎのシンデレラと同じマシンに乗っている以上…同じ車で勝負をすれば、更に実力を知らしめることが出来るかもしれない…そんな思いがあった。
そして結論付けたところで、最上はこう口にする。
「それでもし…なんだけどさ」
「ん?」
「きっと僕はこの先もまた車に乗り換えると思う。その時はさ、また新しい車のチューンをしてもらえるかな?」
「…それくらいお安い御用だが、そんな先のことを決めて大丈夫か?」
「大丈夫だって。僕はそう簡単には、あの車で諦めるつもりはないから」
「くくく…いいだろう。まあ、まずはそのRX-8で例のドライバーと戦うまで頑張るんだな」
12時過ぎのシンデレラへの勝利…それこそが次の最上の目標。
そしてそこから先、もし車を乗り換えることになった場合は…またチューニングをお願いしたい。
それが最上の要望であり、チューナーはそれを承諾した。
すると、話し終えたところでガレージの端に置かれていた1台のマシン…カバーが書けられていたそれに最上は気が付いた。
「そういえば、あの車のカバーって…」
「ああ、ヤツの車だよ」
縦長のボディ、どこかで見たことのある形状。
チューナーは「ヤツの車」と言ったが、最上はそれに多少なりともピンときた。
「ヤツって…まさか?」
「久遠のポラリス…アイツだよ」
「ああ、あの子の…ってことはおやっさん、もしかして例の子に手を貸していたりするの?」
「ああ、やっているな。あの後ヤツにも声を掛けることが出来て、アイツのR33もチューンしている」
「そっかぁ…なんか印象変わった?」
「カバーをかけてても気がついたのか?まあマシンの外装も結構変わってるはずだ」
久遠のポラリス。
最上があの日であった若い少女…BCNR33乗りのドライバー。
どうやらチューナーは彼女にも目星をつけて車のチューニングを行っていたようだ。
ノーマルとは多少なりとも異なる形状…どうやらエアロにも手を加えたらしい。
するとチューナーが最上に話しかける。
「お前さん、噂は聞いたか?」
「噂?」
「アイツも最近お前さんに呼応されたのか、メキメキと実力を伸ばしてきている」
「そうなの?」
「ああ。まるでお前さんと競争しているみたいだな」
あの日出会った少女は、最上を追いかけるように首都高を走り込んでいる。
だが時間帯が異なるのか、それとも単にニアミスしているのか…あの日以来最上は彼女に出会えていない。
それでもポラリスは、最上を追いかけるかのように必死に首都環状を走り込んでいる。
それは以前、ミッドナイトローズの口からも言われたように。
ミッドナイトローズがスカウトした、ということはやはり…ポラリス自身も実力を着実に付けているという事だろう。
すると、ポラリスを気にかけたかのように最上は口を開く。
「…僕さ、正直気になってるんだ。今のあの子がどれだけ速くなったのか、って」
「ほう…まあ俺も気になるわな。何なら今日ここにいればお前さんも会えるかもしれないぜ。走りに付き合ったらどうだ?」
「えっ?」
「あいつは今日、あの車をまた取りに来る。今ここにいれば確実に会えるぜ」
「そうなんだ…」
どうやら例のドライバーはそのマシンを今日取りに来るようだ。
そうである以上、最上としては「今の自分と彼女のどちらが速いのか…は気になった。
すると最上はこう大胆に質問する。
「ねえおやっさん、今の僕と例の彼女…どっちが現状速いと思う?」
「アイツとお前か?そうだなあ…どっちが勝つ、とは明言できないが…少なくとも今のお前さんなら、アイツといい勝負になるかもしれねえな」
「へえ、そうなんだ。やっぱり互角くらいなのかな」
「ああ…ま、純粋なテクニック勝負じゃお前さんの方が分があるだろう。アイツはまだパワー任せなところがあるが、勝負をしたらそこが分かれ目だろうな」
チューナー曰く、最上とポラリスはどうやら現状実力が拮抗しているようだ。
だが一方でポラリスはその愛車に乗らされているような節があるらしく、そこが勝負の分かれ目だと問うのだった。
するとチューナーがそう口にした時だった。
「…あれ?」
ガラガラと静かに横開き扉がスライドする音が聞こえた。
その方向を最上とチューナーが振り向くと…そこにいたのは、やはり例の彼女であることは言うまでもなかった。
「…どうやら例のヤツのお出ましのようだぜ」
「…!」
ゆっくりと動く扉を2人が見守る。
そしてそこにいたのは案の定…
「あっ…」
開いた横開き扉の先にいたのは、あの夜に出会った少女…「久遠のポラリス」本人だった。
やはり彼女もまた、首都環状の大きな渦の中心にいる。
最上とポラリス、この2人の因縁が加速を始めようとする瞬間だった。
(第12話End)
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