「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で-   作:カービィ改二

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第13話です。
現れた久遠のポラリスとのバトル。

そして、夜闇からの急襲。


act.13「Sudden Attack(急襲)」

―――ミッドナイトローズ、鉄翁、シュワシュワストロング。

徐々にレベルアップしつつもある実力者たちを軒並み倒した最上。

そんな中でチューナーの元を訪れ、久遠のポラリスのマシンが置かれていたことに気が付く。

そのマシンを回収しに来た彼女と、最上。

2人の「首都環状で話題のドライバー」同士によるバトルが勃発しようとしていた…

 

 

 

推奨BGM:THE SHINING POLARIS(kors k mix)(from beatmaniaⅡDX16 EMPRESS)

チューナーの元を訪れていた最上、そして久遠のポラリス。

チューナー曰くポラリスはまたマシンをパワーアップしたという。

そんな彼女の実力が気になっていた最上は、勝負を仕掛けてみることにした。

マシンのシェイクダウンついでではあるが、知り合いという事もあって久遠のポラリス自身も承諾。

都心環状線内回り霞ヶ関入口からコースインしてバトルすることになった。

 

「(勝負は一本、いつも通りのバトルだ…)」

霞ヶ関からコースインしたRX-8とBCNR33。

2台は縦列状態で左車線を走り、赤坂ストレートまで走っている。

「好きなタイミングでバトルを仕掛けてきていい」、と最上は伝えていた。

 

「(さて、どこで仕掛けてくるか)」

環状線とはいえコーナー区間もあればストレート区間もある。

今走行しているのは赤坂ストレート、現状ではパワーのあるBCNR33が有利な場所だ。

だが勝負を仕掛けてこないのは、ポラリス自身がゴリ押しでの勝負を拒んでいるためだろうか。

そう思っていながらも谷町JCTを過ぎて、3号線からの合流をした箇所を通り過ぎようとした時だった。

 

「(ここで来たか…)」

バックミラーのヘッドライトがピカピカと光った。

どうやらこの先のテクニカルセクションで勝負をしたいようだ。

とはいえ谷町JCTから一ノ橋JCTまではアクセルを全開で踏める区間なのだが。

縦列状態の2台が左車線を走り抜ける。

 

「(ようし、あなたの走りを…見せてみて!)」

最上としてはどんな相手が来ても構わなかった。

それが自分の快楽を満たすのであれば…走ることが楽しいと思いつつある中で、その要求を満足できそうであるならば。

そう思ったところで、カーナビにカウントダウンが表示されようとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

GOサインと共にアクセルを踏み込む最上。

だが、後方のBCNR33はGOサインと共により素早く加速してきた。

谷町JCTから一ノ橋JCTまでは高速区間。

その高速区間において早々にBCNR33はそのスペックを発揮していた。

最上自身シフトアップからアクセルを全開に踏み込んでいるのだが…それでも加速の方は向こうの方が上。

重々しいボディのマシンが右車線に移ったかと思いきやそのままRX-8を追い抜きにかかっていた。

わずかながらサイドバイサイドになるものの、BCNR33はRX-8をオーバーテイクしてさらに加速していく。

 

「(わかってはいたけど、やっぱりパワーは向こうが上なんだね)」

最上は最初から直線勝負を捨てる気持ちでいた。

何せ相手はスカイラインGT-R。

速いというのは一応最上でも知っているからだ。

最初に出会った時、向こうのマシンの速さに関しては嫌でも実感していた。

280馬力のハイパワーマシン。

それをさらにあのチューナーがチューニングしたらどうなるか?

言うまでもないだろう…今の自分には手に負えないシロモノになりかねない。

だが一方で、以前ほどの苦戦するほどのものではなかったし焦りもなかった。

何故なら…

 

「(まっ、以前ほどじゃないね)」

以前のスイフトスポーツではパワー差がありすぎて直線区間では殆ど手も足も出なかった。

だが今乗っているのはRX-8だ。

あの時の倍以上のマシンスペック故に、そう易々とは振り切られることはない。

一瞬だけ引き離されたと思いきや、12~3m程離れたところでその車間の開きが縮まったように思える。

正確には車間が広がらなくなったというべきか。

こうなったらもう追い抜きのチャンスはある。

 

「(速すぎるという訳じゃない…ならばその腕を見せてもらおうか)」

最上のスタンスはここで、ライバルという対等関係から、「相手を見守る立場」という別の関係になった。

後方から追っかける中でポラリスの実力を判断したかったのだ。

一ツ橋JCTに向けて走る2台の前に、複数台の一般車両が迫ってくる。

方やクラウンタクシー、方やダイナ…つまりトラック。

左車線を走るクラウンタクシーと右車線を走るダイナの車間距離は車1台分タクシーがリードしているというところか。

最上としては同追い抜くかのイメージは出来ているが、右車線を走るポラリスはこの2台をどう調理するのか。

 

「(どれ…)」

首都環状という、既存の高速道路をサーキット化した場所において必要なのは、限界まで踏み込む度胸やコーナーを攻め込める勇気が必要だ。

しかしそれだけでは足りない。

突発的なアクシデントへの対応や、無関係なマシンを避けていくスキルも必要である。

果たして例のドライバーはどう示すか。

 

「っ…!」

こちらはポラリス。

200キロ以上のスピードで右車線を走っている以上、前方のトラックがぐんぐんと迫ってくる。

そんな中でポラリスは左にハンドルをくい、と一気に曲げて瞬時に車線移動。

右車線から左車線へと移動した…かと思いきや今度は目の前にクラウンタクシー。

左に曲げていたハンドルを今度は右に切り返し、再び左車線から右車線へ。

クラウンタクシーとダイナの間を通り抜けるようにBCNR33を操縦し、2台を追い抜いていく。

 

「……」

一方の最上。

こちらは左車線を200キロ以上のスピードで走っている。

だがこちらは冷静沈着。

前方のクラウンタクシーを避けるために、ハンドルを僅かにすっ…と右に曲げる。

その状態のままダイナを追い越したかと思いきや、クラウンタクシーとダイナの間の穴を縫うようにして車線変更。

車線変更と共にニュートラルにハンドルを戻し、再び右車線を走行していく。

車間距離はこの時点で10m未満にまで縮まろうとしていた。

 

「(確かに腕は上がっている)」

最上は後方から見ていて、一般車両を追い抜くテクニックが上がっているように判断した。

パワーが上がっても一般車両を追い抜くことに対して対処は出来ている。

だが一方でこうも思った。

 

「(でもおやっさんが言っていた通り、まだマシンを強引に振り回している…それじゃあダメなんだよね)」

一般車両を追い抜くことに対してマシン制御がオーバーであるように最上は思った。

追い抜くのに余裕を持ちすぎている、余計にマシンを振り回しすぎていると最上は思った。

必要以上のハンドルさばきがかえってロスを生み出す要因になっているのではないか…ポラリスの走りを見て最上はそう思った。

左車線にいる場合は必ず右車線に避け、右車線にいる場合は必ず左車線に避けている。

だがそれだけではなく、もっとハンドルを滑らかに曲げればいいものを咄嗟の反射神経に頼っているのか一気にハンドルをぐいぐいと曲げている。

一方で最上の場合は早め早めにハンドルをゆっくりと左右に曲げることで、グリップをある程度活かして一般車両を避けていく。

とはいえ瞬時にハンドルを曲げてもタイヤがヘタらないのは、やはりスカイラインGT-Rというマシン…4WDとアテーサE-TSを搭載しているマシンだからだろうか。

それでもとっさの判断でマシンを強引に避けていくという走りは、自然の名狩りに身を任せる最上の走りに比べると明らかにロスがあるものであった。

咄嗟の判断でキビキビと一般車両を避けていくBCNR33に対し、前もってハンドルをゆっくりと曲げつつ滑らかに一般車両を避けていくRX-8の車間距離は、僅かながら縮まった。10mないかレベルである。

 

「(何故ならここは…テクニックが要求される、都心環状線だから!)」

パワーよりもテクニックが求められる都心環状線エリア。

腕に自信がある最上にとっては、現状のポラリスの実力を鑑みるにカーブ1つあればいくらでも追いつけると思っていた。

2台は一ノ橋JCTの分岐手前を通過し、そのまま左直角コーナーへと飛び込んでいく。

 

「(さて、カーブはどうか…)」

問題のコーナー区間。

BCNR33はいくらパワーがあれど元より重いので、軽量なRX-8に分があることは最上でもわかっていた。

それでも以前よりかは速くなっているだろう…というのが算段だった。

左直角コーナーはクリアな状態であり、2車線をフルに活かしたドライビングが現状可能だ。

前方のBCNR33がブレーキングをして減速、そのままRX-8の目の前に迫ってくる。

かと思いきや左に旋回し、アウトインアウトのラインを描く。

だが…

 

「(…遅い遅い!余裕で食いつけるね)」

最上にとって、BCNR33のコーナーワークは「遅い」ものだった。

この直角コーナーであれば、アクセルオフで全然突破できるからだ。

向こうのマシンの重さがあるのか、それともビビったのかはわからない。

だがそれでも最上は左直角コーナーへアクセルオフ、そこからハンドルを左に曲げる。

アクセルオフの200キロ以上というスピードでも全然問題なく突破できることを最上は知っていたのだ。

ハンドルを左に曲げてコーナーの内側に攻め込み、そのままコーナー出口で天性のコーナーリングテクニック。

 

「(並ばれた…!?コーナー1つで…!?)」

動揺したポラリスは一瞬だけアクセルの踏み具合が収まってしまう。

べた踏みだったアクセルを僅かながら緩めてしまった。

だがそれはサイドバイサイドという状況においては致命傷になりかねないものだった。

加速が緩んだこともあり、RX-8は左サイドからBCNR33を追い抜く。

そしてそのまま芝公園方面へのストレート区間もあって、その車間距離はみるみるうちに開いていく。

パワーがいくらあっても、コーナーの立ち上がりの差で相殺されてしまっている状況だった。

 

「(速くはなっているけれど、コーナー1つで追い込まれるようじゃまだまだだね)」

サイドから悠々と追い抜いた以上、最上にとってはもう余裕だった。

BCNR33はコーナーにこそ突っ込んではいるものの、まだ最上でも余裕で追いつける速さ。

最上が見た限りでは、ブレーキングポイントが早すぎるのだ。

BCNR33という元より重いマシンという事もあるのだろうが、同時にポラリス自身の走りにはまだコーナーへの突っ込みにおいて迷いが生じている。

そんな状況となれば、コーナーへの突っ込み勝負が比較的得意な最上としてはいつでも追い抜ける状態だったのである。

 

「(脱出速度はこちらの方が上だった。やっぱりまだカーブは未熟だね)」

「(離される…スピードが、違う…!)」

アクセルを全開に踏み続ける両者。

一般車両を2台はそれぞれ避けていくが、それでもその対処の1つ1つで着実に車間距離は開いていく。

ハンドルを強引に曲げて避けていくポラリス、滑らかなハンドルさばきで適度に対処していく最上。

多少乱雑な走りとスムーズな走りでは、ここだけでも差を付ける大きな要因となっていた。

結果としてストレート区間においてそれぞれ205キロ、230キロと大きな速度差がついている。

車間距離は25mくらいは離されるが、ここで落ち着いた。

だがそれはポラリスが追い付いた…というわけではない。何故なら…

 

「(さて、実力がわかった以上ここまでだね。ここでお開きさ!)」

芝公園出口前の右コーナー、左コーナーが連続する複合コーナー地帯。

最上としてはもう勝負を付けるポイントはここだと決めていた。

右から左へと振り回されるコーナー区間は、車重が重いマシンにとっては明らかに不利。

現状パワーのゴリ押しだけでは追いつかれることがないと判断したため、ここで勝負を付けられると思ったのだろう。

前方の右コーナーへとRX-8は飛び込むが、その寸前にアクセルをリリースして一瞬だけブレーキをフラッシュさせる。

 

「(さあ、ついて来れるかな!)」

ブレーキをフラッシュさせた後はアクセルオフのままハンドルを右に曲げる。

200キロ台まで減速したRX-8だが、そこからアクセルオンでそのまま右車線をインベタで走り抜ける。

右コーナーをフルスロットルで立ち上がるRX-8だが、目の前には次の左コーナーが。

とはいえそれをわかっていた最上は、一瞬だけアクセルをリリースして今度はハンドルを左に切り返す。

左にハンドルを切り返されたRX-8は、右車線から左車線へと移りながらコーナーへ突っ込んでいく。

ハンドルを微調整し、200キロ以上のスピードを維持しながらRX-8は左コーナーをインベタからわずかにアウトに膨れるラインを描いて走り抜けていく。

 

「(離される…スピードが違う…!)」

一方のポラリス。こちらは最初の右コーナー突入直前に強くブレーキを踏み込んでいた。

コーナー区間ではBCNR33の重さがあまりにも足枷になっていたのである。

180キロ台まで減速したBCNR33はそのまま右コーナーを抜けるが、次の左コーナーに攻め込むにあたってもその動きは鈍足。

右から左へとターンインする際に、その車重が高速旋回を阻害する大きな原因となっている。

パワーがあって足回りもしっかりはしていたが、やはりその車重がコーナー区間では足枷になっていたのだ。

左へと旋回するのはいいが、最上のRX-8に比べるとスピードに全くもって乗っていない。

立ち上がりのスピードは180キロ台とRX-8に比べると明らかに遅く、コーナー立ち上がりで完全にもたついていた。

前方を走るRX-8がスイスイと次の複合コーナー地帯に飛び込んで逃げていく姿を、ポラリスはただただ涎を垂らして見届けることしかできなかった。

同じスピードでコーナーに突っ込めないという事実は、ポラリスにとってあまりにも屈辱的だった。

 

「(追いつけない…私が速くなればなるほど、あの人はさらに腕を磨いている…)」

コーナーや一般車両の追い抜きというテクニック面で差を付けられた以上、ポラリスとしてはもうどうしようもなかった。

前方のRX-8は既に次の複合コーナー、もはやこちらに完全に目もくれていなかった。

カーナビの体力ゲージはみるみるうちに減っていき…次の複合コーナー地帯のちょうど中間部において、BCNR33のカーナビには「LOSE」の文字が表示されるのだった。

その文字を認識したところで、ポラリスはアクセルを抜いてBCNR33を減速させる。

 

「(もっと、もっと強くなりたい…車を操れるように、なりたい…勝ちたい……)」

夜闇の先に消えていったRX-8。

テクニック面で敗北したことはポラリス自身にとってとても悔しい事だった。

そうである以上、最上に振り切られた久遠のポラリスは無意識ながらも「もっと強くなりたい」と願うのであった。

 

このバトルを切欠にポラリスのマシンのチューニングはさらにエスカレートするのだが、それはまた別のお話。

 

 

 


 

 

 

―――一方の最上。

久遠のポラリスを見事に振り切って勝利をし、その先の浜崎橋JCTを左方向に進んでいた。

浜崎橋のヘアピンコーナーを50キロで走り抜け、羽田線と合流する。

最上はRX-8を操縦する中でこう思っていた。

 

「(あの子の本気の走りを見たからか、熱くなって思い切り振り切っちゃった。勝負に本気になっちゃう、悪い癖が出ちゃったかなあ)」

久遠のポラリスの走りはどうやら最上にとっても熱くさせるものだったらしい。

それ故に普段以上の本気の力が出たように思える。

結果としてコーナー区間でぶっちぎってしまったのだが、最上自身はこれを悪い癖だと思っていた。

知り合いだからと言ってもう少し手心を加えるべきだったのかもしれない…そう思った。

だがそう思った次の瞬間だった。

 

推奨BGM:MODEL DD11(from GITADORA GuitarFreaks&DrumMania Tri-Boost)

「(って、あれ?)」

新交通システムの高架下を通ったところで、バックミラーが白く光った。

久遠のポラリスが追い付いてきたのか?

だが、マシンを見たところ彼女ではない。

一体何者か?

 

「(このマシンは一体…!?まるで勝負の後を見越していたかのように…)」

後方のマシンは、BCNR33とは異なるライト形状だった。

黒は黒でも、夜空のような黒色ではない。

真っ黒色のマシン…VAB型のWRXだった。

ボンネットには天狗のようなステッカー、そして「YAMITENGU」の文字ステッカー。

どうやら先ほどのバトル相手とは別人のようだ。

 

「(闇天狗…?このドライバーは一体?)」

カーナビには「闇天狗」と書かれている。

何者かはわからないが、間違えなく実力がある者だ。

カーナビの矢印も青色で、それまでのチームリーダーたちとは異なるもの。

おそらく例の「十三鬼将」または「Phantom9」のどちらか、あるいはそれ以外の実力者に違いあるまい。

 

「(ふ、ふふ…ついに見つけたぞ例のドライバー…バトル中に出会えるなんて、俺もラッキーだ!)」

一方のWRXのドライバー…闇天狗。

彼は噂のドライバーのどちらかとバトルをしたいと思っていた。

実は彼は芝公園からコースインしたのだが、全力疾走していくRX-8を目撃していた。

そして急いで追いつくべく加速していたのだが…浜崎橋を超えたところで追いついてきた。

先の走りを見る限りおそらくバトル中だったに違いあるまい。

どうやら彼にとっては、「消耗した相手を仕留めるチャンス」という意味ではかなりの好都合というべきだろう。

 

「(…まあ何だっていいや。勝負!)」

一方の最上自身は、バトルの後にバトルを追加で仕掛けられることも珍しくなかったが故に…いつも通りだった。

勝負を仕掛けられたというなら受け付けるまで…そんな暗黙の了解を最上も理解し始めている。

ここまでくれば最上も一端の走り屋というべきかもしれない。

汐留JCTを右方向に進み、汐留トンネルが迫る。

2台が左車線でテールトゥノーズの状態でカーナビがカウントダウンを始めようとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

GOサインと共にアクセルを踏み込む最上。

スタート直後の直線区間で早速アクセル全開。

まずはスピードを上げていく…のだが、汐留トンネルに飛び込もうとした瞬間だった。

 

「…!」

汐留トンネルに飛び込んだ瞬間、最上の右サイドに映ったのはその黒い巨体。

相手のWRXがスタートダッシュと共に追い抜きにかかってきた。

左車線から右車線へと移っていたWRXは、そのまま最上のRX-8をインコースから追い抜きにかかる。

トンネルに入り右高速コーナーとなったところで、WRXはあっという間にRX-8をパスしてしまった。

パスした直後もその加速差があるためか、車間距離はどんどんと開いていく。

 

「(加速が…速い!)」

パワー差を見せつけるかのようにWRXはみるみるうちに車間距離を引き離していく。

アクセルを全開に踏み込んでも車間距離は数メートルずつではあるが引き離される。

バトルは始まったばかりとは言えこの状況が続くのはまずいが、最上はアクセルを踏み続ける。

先行するWRXは汐留トンネルの左高速コーナーを駆け抜けていくが、RX-8もそれを追いかける。

 

「(ふ、ふふ…噂の奴もパワーは大したことがないな…)」

一方の闇天狗。

早々に追い抜くことが出来たために「舐めプ」状態になっている。

いくらここまで勝ち上がってきたとはいえ、RX-8という格下マシンである以上…彼が油断するのも無理もない話だった。

それでも追い抜かしたら後はパワーでぶっちぎるだけ。

いくら環状線というテクニカルコースとはいえ、銀座から新富町方面までは長い高速区間。

こちらの方がパワーは上である以上、追い抜かされるはずもない。

そう彼は思っていた。

 

「(離される…でも)」

一方、劣勢の最上。

これまでのパワー差の事を考えると最上にとって不利であることは間違えない。

だが以前よりはピンチだとは思わなかった。

不思議と諦めてはいなかった。

何故か、こんな状況でも「勝てる」という自信があった。

 

「(…まずは食らいつく。追い抜きはまだしばらく先だ!)」

車間距離がじりじりと開く中で、最上は勝負所に対して周到に用意していた。

汐留トンネルを抜け、銀座出口方面に向かうところでコーナーがある。

まずはコーナーで食らいつけるかどうか…そう判断したのである。

前方に迫るのは銀座出口付近の左から右への複合コーナー地帯。

前方のWRXはスピードが出ているためかブレーキランプが点灯した。

おそらく230キロは出ている。

そんな中でRX-8もコーナーに接近する。

 

「(カーブでまずは差を詰めるんだ)」

210キロ以上のスピードでコーナーに接近するRX-8。

だが突っ込もうとしたその瞬間にアクセルをリリース、ブレーキを踏み込む。

かと思いきやハンドルを左に曲げて再びアクセルオン、軽さを生かすかのように思いっきりアウトインアウト。

多少タイヤが滑るものの、すぐにアクセルをリリース。

今度はハンドルを左から右へと切り返して再びアクセルオン。

エンジンパワーをもろに後輪タイヤに受けたRX-8は、左向きから右を向いて複合コーナーの2つ目…右コーナーへと飛び込んでいく。

そしてそのままコーナーを抜け、新富町方面へのストレートへと勢いに乗ったまま加速していく。

200キロ以上のスピードでコーナーに突っ込んだかと思いきや、強行突破する…重さが軽いRX-8ならではの強引ながらもかなり攻め込んだ走り方だった。

だがそれでも、多少なりとも前方のWRXとは車間距離が縮まったくらい。

コーナー勝負だけでは決定打にはなりえない。

するとその時。

 

「(ようし、今だ!)」

最上自身はコーナーだけでは追いつけないかもしれない、と推測していた。

だからこそ…の手段がある。

RX-8ストレート区間に入ったところで、ハンドルに取り付けられていたスイッチを右手親指で押す。

 

「っ…!」

急加速を始めるRX-8。

もうわかるだろう…ニトロスイッチを押したのだ。

190キロ台だったRX-8はWRXを追いかけて猛追し、あっという間に230キロ以上まで加速する。

前方を走りながらも、コーナーで失速していたWRXへとRX-8は勢いを維持したまま猛追する。

20mは離れていた車間距離があっという間に縮まっていく。

一般車両をスイスイと避ける中でも、その車間距離は着実に縮まっている。

 

「(く、食らいついてきた…!ニトロ使いやがったな!?)」

一方、闇天狗としては後方からの猛追に動揺するしかなかった。

最初こそパワー差でぶち抜いたが、本来はそこからずっとこちらのターンであるはず。

だがRX-8はスタート直後にニトロを使わず、ストレート区間に飛び込んで使ってきた。

噂でマシンの性能自体はある程度聞いていたとはいえ、ニトロを搭載しているという話は全くもって聞いていなかった。

あの猛追は間違えなくニトロを使ったものである、と考えると計算外の事態と言っても過言ではないだろう。

新富町方面への道路下ストレート区間において、WRXのテールにRX-8が食いつく。

文字通りのテールトゥノーズの状態であるが、こんな状況すらも闇天狗にとっては計算外であった。

2台は互いに240キロ以上のスピードでストレート区間を駆け抜けていくが、RX-8はWRXの後ろにスッポンの如く食いついて離れない。

 

「(連戦を狙ったのは間違えないはずなのに、全くもってヘタれる気配がない……何故だ!!何なんだ、コイツ……!!?)」

「(直線区間でぶち抜くことだってできるけど、僕の本領はカーブに入ってからだ…)」

闇天狗にとってはとんでもない大誤算だった。

前のバトルに続いてバトルを挑めば相手は疲労状態でバトルすることになるので、アッサリと音を上げると思っていた。

しかし実際のところはどうか。

最上は久遠のポラリスとのバトルに勝利したことがきっかけでノリに乗っている…言ってしまえば戦意高揚状態だったのである。

そんなノリに乗った状態では、逆に戦闘力も上がっていると言っても過言ではないだろう。

追い詰めたはずが逆に追い詰められているも同然だった。

 

「(ノリに乗っている…!?何なんだよ、コイツは…!!)」

後方からのプレッシャーはますます大きくなっている。

向こうのテンションが異様なまでに高くなっている。

とことん影の存在である自分が、相手のマシンにすっかり押し出されそうになっている。

言ってしまえば陰キャが陽キャに制圧されてしまうような、そんな大胆ながら追い詰めていくような走り。

 

「(少しずつだけど向こうがぐらついてる。まだ僕は余裕あり、ってところかな…この相手くらいなら勝てる!)」

WRXの後方に食らいついたところでニトロをあえて切った最上。

それでも後方に食らいついていく中で、最上は勝負どころを探っていた。

最初こそ加速勝負で置いて行かれそうになっていたが、スピードでぃやコーナーワークやニトロを用いたことも相まってその差をしっかりと追い詰めていた。

 

「(仕掛けるなら、この先の橋脚だ!そこまでしっかりと追い詰める…!)」

WRXを猛追する中で、最上は勝負所を見定めていた。

環状線区間に存在する2つの橋脚地帯。

この2つ目…複合コーナーの先にあるその場所こそが勝負ポイントだと最上は読んでいた。

後方からずっとプレッシャーを与え続ければもしかしたら相手のぼろが出るかもしれない…そんな認識からである。

 

「(ぐううっ…このままじゃマズいが、この先のストレートで振り切ればいい…!!)」

一方の闇天狗は精神的にかなり押されていた。

勝負を仕掛けるとしたらこの先の2つ目の橋脚を抜けた先のストレート。

江戸橋JCTまでのロングストレートで全開走行にはいれば間違えなく向こうの車は振り切ることが出来る…そう思っていた。

焦りの感情が先行する中で、WRXとRX-8は1つ目の橋脚手前においてテールトゥノーズの状態で2台は右車線へ。

 

「(ぐっ…付いてくるか…!!)」

「(そう簡単には逃がさないよ)」

後ろからじっくりと追い詰める最上、それから逃げる闇天狗。

闇天狗自身逃げること自身に意識が集中してる。

1つ目の橋脚を抜け、京橋出口手前の上り坂。

京橋出口を抜けるとすぐに下り坂で、そこから2つ目の橋脚だ。

だが、2台がもつれ合う中でWRXが京橋出口手前を通過しようとした時だった。

 

「(おっといけない)」

「(離れた!?)」

京橋出口手前の上り坂で、最上はアクセルをリリースして一瞬だけブレーキを踏み込んだ。

RX-8が減速したことで、前方のWRXとの車間距離は一気に開く。

全速力のWRX、安全マージンを取ったRX-8。

この差がどう出るか。

WRXはハンドルを右に切り、橋脚を右方向から通過しようとする。

だがそう思われた次の瞬間…WRXが下り坂を下ろうとした時だった。

 

「しまっ…!?」

下り坂を下る寸前、WRXはラリーカーの如く一瞬だけ跳ねた。

路面の凹凸のショックを吸収できず、車体が跳ねる結果になってしまったのだ。

ハンドルを右に切りつつもアウトコースへと膨れるWRX。

先程跳ねたことによって着地した瞬間にグリップを失い、後輪がテールスライドを始めて外側に膨れる。

結果としてWRXは橋脚の左側へと吸い込まれるようにドリフトしていく。

テールスライドを誘発したことで失速したWRXだが、咄嗟の判断でハンドルを左に曲げてカウンターを当てたことで壁との接触は避けられた。

 

「(もらった、行けえ!)」

一方で、下り坂直前で減速したRX-8は下り坂からインコース…橋脚の右側目掛けて加速していく。

だがこちらは先程ブレーキを一瞬だけかけたことによりジャンプはしていない。

下り坂に入る寸前こそ道路の真ん中を走っていたが、そこからハンドルを右に切ったことで右車線へ移る。

そしてそのままのスピードで橋脚の右側を通過する。

計画通り、というべきだろうか。

全て最上の算段通りだった。

闇天狗は最上からのプレッシャーに押されてミスを起こしたのか、路面の凹凸のショックを受け止めきれなかったWRXを、そのまま左端の壁の方向へとアンダーステアを出してしまっていた。

一方で軽さを生かしたRX-8は多少跳ねつつも、ブレーキを踏み込んで減速したことでマシンをしっかりとコントロール。

橋脚を抜ける間に右車線から追い抜きをすることが出来た。

 

「(江戸橋までの直線で…もう追い抜かせるものか!)」

橋脚を抜ける寸前に再びニトロスイッチを押した最上。

最後のストレート区間で止めを刺す勢いだ。

残っていたニトロを再び噴射し、後方のWRXとの差をみるみると広げていく。

ロングストレート区間で一気に260キロ以上まで加速するRX-8は、思いっきり止めを刺そうとしていた。

 

「く、くそぅ…!」

一方の闇天狗。

タイヤのグリップを失った上に壁へ接触する寸前だったために慌ててブレーキを踏み込み、そこから立て直すためにハンドルを左右に曲げていた。

なんとかして橋脚区間を接触なしで突破するも…結果として速度が120キロまで落ちてしまった。

ここまでくると歴戦の<Phantom9>のドライバーであってももう立て直しは難しいというべきか。

いくら馬力があろうと、ハーフスピン同然の事をやらかしてそこからまた食らいつきに行くことは難しい。

それはいくらWRXのパワーがあることを踏まえても、相手が全速前進で江戸橋のストレートを駆け抜けてしまったのなら猶更。

体勢を立て直してストレート区間で加速していくも、もう時すでに遅し。

前方のRX-8は遥か彼方の江戸橋JCT寸前の上り坂を上っている。

程なくして闇天狗のマシンのカーナビには「LOSE」の文字が表示されるのだった。

 

1つの油断やミスが勝負を支配する、とはやはり言ったものだろう。

しっかりと食らいつき、相手のミスを誘導した最上の作戦勝ちとも言うべき結果だった。

 

 

 


 

 

 

―――箱崎PA。

先程の連戦を終えた最上はパーキングエリアで休憩を取っている。

やはり最上にとっても例の2人は強豪というべき相手だったのだろう。

休憩のために最上はペットボトルのお茶を飲んでいた。

すると、飲み終えたところで先ほどのWRXがたどたどしい動きで入ってきた。

 

推奨BGM

「あれは…」

例のWRXから降りてきたかと思いきや…俯き加減でPAを歩き回り、異様な雰囲気を放つ男。

言うまでもなく先ほどバトルしたドライバー、闇天狗だった。

闇天狗は停められている他人のマシンの周囲を不審な態度でうろついており、周囲の走り屋たちからは警戒されている様子だった。

闇天狗はふと顔を上げ、最上がいる方向を見る。

するとたちまち青ざめ、最上の方へとやってきたかと思いきや裏返った声でわめき始めた。

 

「あっ、おおお、お前っ!さっきはよくも、生意気にも、この俺を負かしたな。お前のせいで<Phantom9>を……く、く、クビになたら、どうしてくれるんだよぉっ!」

動揺する闇天狗。

しかし最上としてはやはり例の言葉が気になった。

 

「Phantom9?やっぱり、あなたもその一員なのかい?」

「そ、そうだよ。くそぅ…いくら奇襲を仕掛けたとはいえ、こんなことなら“舐めプ”なんかしなきゃよかった。お前ごとき、潰す手段なんていくらでもあるのに……」

「潰す手段?」

「へ、へ、ヘヘ。なんか文句があるのか?」

闇天狗は自分がPhantom9の一員であることを呟いた。

だが、そんなことを気にしないかのように最上はある言葉を言い放つ。

 

「いや、別に…まあ、単に気持ち悪いなって」

「うぐっ!!」

最上にとって相手が何者であろうと正直関係なかった。

それ故のどストレートな発言だったが、どうやらそれが闇天狗の心に突き刺さったようだ。

ガックリと頭を落として落ち込む闇天狗。

だが少しして頭を上げた彼は、不気味に口を開く。

 

「まあいい…お前にいいことを教えてやるよ」

「いいこと?」

最上が聞くと、闇天狗はどこか勝ち誇ったかのようにこう口にする。

 

「“勝つためのルールしか守らない”。走り屋はみんなそうさ、手段なんて選ばない。それが本質なんだ。スポーツマンシップにかぶれて、“正義”を気取ってる連中もいるが、俺に言わせればァ、滑稽な連中だよォ、本当にィ!」

闇天狗はどこか強がりながらそう言った。

だがその言葉のどれもが最上にとって無意味だった。

 

「ふうん…言いたいことはそれだけかい?」

「な、なんだよ…何か文句があるのか?」

最上は呆れつつそう言った。

かと思いきや更に口を開く。

 

「色々いうのはいいけどさあ…勝負に負けたあなたがいくら御託を並べても無様なだけだよね。バトル直後に乱入するって圧倒的な優勢の状況をひっくり返されてさあ、悔しくないのかい?そんな卑怯な手を使って返り討ちに遭うなんて…ねえ、今あなたはどんな気持ちだい?」

「うぐぐっ…!!」

最上はどこか闇天狗を煽るかのようにそう口にし、闇天狗は屈辱を感じながら下を向いた。

この時に限って最上は不思議な程に饒舌だった。

相手を見限ったのか、それとも格下だと思えたから調子に乗ったのかはわからなかったが。

だがその態度に、さすがの闇天狗も屈辱を感じるしかなかった。

すると顔を上げた闇天狗は、負け惜しみのようにこう口にする。

 

「へ、へ、へへ。まあいい…何が気に入らないんだか、俺の周りを嗅ぎまわってる奴もいるみたいだけどさ。どいつもこいつも、無様だな」

闇天狗は強がりつつも、どこか話を切り上げるかのようにそう口にした。

やはりこれ以上最上に対して言い返すことが出来ないという事なのかもしれない。

無理もないが涙声だった。

 

「お、お、お前も覚えていろよ…俺が倒されたからには、他の奴らも黙っちゃいられないから、な…!」

そう言って闇天狗は狼狽する様子を隠さずに愛車であるWRXに乗り込んだ…かと思いきやそのまま走り去ってしまった。

 

最上にとってはあまりにもあっさりとした勝利だった。

しかし一方で、闇天狗の言う通り、走り屋の本質は「勝利」を求めることだけなのだろうか?

それとも…違う「答え」があるのだろうか。

何故、走り屋たちがここを走り続けるのか…また曖昧になった気がする。

最上はふとそう疑問に思うのであった。

(第13話End)

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